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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第40話 そして、師匠と呼ばれる男へ・・・

世界最強の魔法使いは誰か?
この世界で、この質問をしても、多くの人は「わからない」と答えるだろう。
何故か?

多くの魔法使いは、呪文を覚えると、他の職業に転職してしまうからだ。
回復系呪文を極めるため、僧侶になる人。
戦闘力を高めるために、戦士や武闘家になる人。
汎用性の高い賢者や、盗賊を目指す人。

一方で、世界で最も有名な魔法使いといえば、俺の母親であるソフィアだったりする。
彼女が作成した解説書「魔法解析学」により、魔法の仕組みが解明され、新しい呪文が生まれるきっかけとなった。
とはいえ、これまでの呪文も汎用性が高いため、あまり革新的な開発が進んではいないのであるが、土木工事等、今後の平和利用の為の基礎理論は確立しつつある。

それだけ重要な「魔法解析学」であるが、実はソフィアの発見した内容ではない。
「魔法解析学」は、ソフィアとジンクの師匠が体系化したものを、ソフィアが本にまとめたのである。
彼は、108種類のイオナズンを使いこなし、左右別々の呪文を放つことが出来るなど、その洗練した詠唱法を知る魔法使い達にとって、彼のもとで修行することを望まぬものはいなかった。

だが、彼の弟子になるための条件は非常に厳しかった。
その条件とは「巨乳で美人」であった。
ソフィアの場合は、ソフィアが買い物をしていたところ、師匠に呼び止められ、師匠が土下座をして弟子になってくれと頼んだという。

ジンクの場合は、モシャスで知り合いの女の子に変身してから、弟子入りを認めてもらったらしい。
師匠からはあとで、「お前が男だったら即座に殺していたぞ」と言われたそうだ。


今回俺は、師匠と呼ばれるひとに会いに行こうと考えていた。
俺は、別に弟子入りをするつもりで来たわけではない。
確認したいことがあるからだ。

ジンクに師匠の居場所を尋ねたら、ジンクはしばらく考えたあと、
「私からは、教えることはできません。ソフィアさんに尋ねてください」
と言われた。
「着ぐるみでここまで来るのは、恥ずかしかったのだぞ」
と文句を言っても、
「だったら、レムオルを覚えてから来てください」
と笑って答えるだけだった。

王妃自ら、透明になって侵入してこいと言うのは問題があるぞ。
王様からも、何か言ってくれ。
「アーベル、久しぶりに王様にならないか?」
と言われた。
「勘弁してくれ」
俺は、すぐに退散した。


「どうしたの、急に?」
「確認したいことがあってね」
「わかったわ、アーベル」
ソフィアは、簡単に許してくれた。
「ただし、セレンとは一緒に会いに行かないこと」
「・・・。わかったよ、かあさん」
テルルは大丈夫なのか。
テルルもそれなりに、・・・。
俺の考えを読み取ったのか、ソフィアは答えた。
「ふたりには、この話は内緒よ」
「・・・。わかったよ、かあさん」


俺は、とある家の前に立っていた。
ソフィアから聞いていた師匠の家である。
「こんな、離れたところにあるとは」
北方にある離れ小島に立っていた。
家の周りには、強力な結界が張り巡らされており、魔物は一切近づくことができないようだ。

「失礼します」
「どなたですか?」
ドアを叩くと、中から若い女性の声がする。
「ソフィアの息子の、アーベルといいます。母親がお世話になった、師匠にお話を聞きたくて会いに来ました」
「そうですか、しばらくお待ち下さい」
ドアが開くと、メイド服を身につけた女性が俺の前に現れた。

「はじめまして、アーベルさんですね?」
「はい、そうです」
この人は、師匠と呼ばれた人の弟子だろうか。
すくなくとも容姿は、ジンクから聞いた弟子の条件に合致している。
「お呼びしますので、しばらくお待ち下さい」
「かしこまりました」

目の前に、少し小太りしたおじさんが現れた。
「またせたかの」
「いえ、こちらが勝手に尋ねたものですから」
30分ほど待たされたが、文句は言わない。
「電話でもあれば、事前に都合を確認することもできたのですが」
「でんわ?」
男は俺に問い返す。
「なんでもありません」
俺は平然と答えると、質問を始める。
「この世界について、教えていただけたらとおもいまして」
「この世界じゃと?」
「船をお持ちなら、ご存じだと思いますが」
俺は、持ってきた世界地図を広げる。
「東の端からそのまま進むと、西の端にでます。一方で、北の端からそのまま進むと、南の端にでます」
「・・・」
「ある人は、この世界が丸いからと言って、世界の果てに追放されたそうです」

「俺の考えでは、この世界は球形だとはおもいません」
「・・・」
「おそらく、このような形になるでしょう」
俺は、手に持った世界地図の表を上向きにしながら、右端と左端をつなげて、円筒状にする。
これで、東の端から西の端につながった。
俺は次に、円筒状にした地図を折り曲げて、上端と下端とをあわせる。
紙の地図なので、しわができるが、イメージとしてはドーナツの形状となった。
「いかがですか?」
「・・・。理屈の上では正しそうだが、なんともいえん」
男は、一言だけつぶやいた。
「俺も、そう思いますよ。なにしろ、神が作った世界ですから」
「そうだな」

とりあえず、今日の目的は果たした。
「それでは、これで失礼します」
「そうか、ちょっと待ってくれ」

男は、奥の部屋にはいると、しばらくしてから再び姿を現した。
「ソフィアによろしく伝えてくれ」
「お伝えします」
「あとは、おぬしに忠告しておこう」
「なんですか」
「万一、おぬしの旅が失敗に終わったとしても、一つだけ手段がのこっている」
「?」
「ただのじじいのたわごとだと、おもってくれればいい」
男は、にやにやしながら答えた。
「ご忠告ありがとうございます」
俺は、家を出て行った。

「俺とは違うようだな」
どうやら予想は外れたようだ。
師匠と呼ばれた男は、ジンクから伝え聞いた言動から、俺と同じく転生した人間だと思っていた。

俺は、そのことを確認するため、会話の中に「電話」や「この世界」と言う言葉を用いたが、男は一切反応しなかった。
少なくとも俺が前にいた世界の知識は持っていないようだった。 
 

 
後書き
師匠の言動が面白くないのは理由があります。
第8部で明らかになります。 
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