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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第39話 そして、タンタル視点での話へ・・・

 
前書き
これまでは、主人公の一人称視点の物語でしたが、最後まで続けるとは限りません。 

 
はあ、カウンセリングですか。
セレンさん、その言葉は初めて聞きました。
はあ、セレンさんもですか。
俺みたいに、精神的なダメージを受けた場合、相談しやすい人に話をすることで、症状が改善されるということですか。

・・・なるほど、効果はあるかもしれませんが、あまり、あのときの話はしたくはありません。
そうですか、無理に昔の話はしなくてもよいのですか。
セレンさん、優しいですね。

えっ、アーベルさんの提案?
あの、魔法使いの人ですね。
妙に丁寧な話し方をされていましたね。
ええ、彼には助けてもらいました。
ありがとうございます。

え、あの人がリーダーですか。
俺はてっきり、商人のお嬢さんの方がリーダーだと思っていました。
抜け目がなさそうな感じにみえましたから。

へぇ、アーベルさんが、「きれもの」ですか。
そうですか、ふつうの人に思いましたが。
あっ、すいません。すいません。
性格の話は、二度としませんから。

・・・では、どのような話をしたらいいのでしょうか。
そうですか、最近の話をすればいいのですね。
わかりました。

俺が、助けてもらった日の事は決して忘れません。
命以外のことであれば、何でも皆さんのお役に立ちたいと思っています。
ええ、前衛に立つ人が欲しかったのですね。
それでしたら、お任せ下さい。
セレンさんの盾になりますよ。

それにしても、助けていただいた翌日に、各国をまわって武器を調達してもらったことは、感謝しています。

それにしても、あれだけの金を大盤振る舞いして大丈夫ですか。
ええ、承知していますよ、あの装備はあくまで借り物であることは。
それにしても、これらの装備品の豪華さはどうですか。

サマンオサという初めていった町では、パワーナックルにくろずきんを購入してもらいました。
さらには、ポルトガでは黒装束まで購入してもらいました。
全部あわせた金額は、10,000ゴールドを超えますよ。
出会って二日目のひとに、それだけの装備を貸しますか、普通。
それだけのお金があれば、俺のふるさとであるロマリアの宿屋に9年以上泊まれますよ。

それに、なんですかこの盾は。
ロマリア王家に伝わる、風神の盾ではないですか。
たしかに、武闘家が装備できる唯一の盾ですが(注1)、そんな大事な盾を何故持っているのですか。

えっ、アーベルさんが前の王様で、退位した記念に今の王様から譲ってもらった。
セレンさん、冗談ですよね。それ、・・・


・・・、すいません、セレンさん。
わかりましたので、ええ、よくわかりました。
魔王を倒したのも信じますから、本当に信じていますから。
ですから、続きを話してもいいですか。

ええ、アーベルさんがすごい人であることは、よくわかりましたから。
たしかに、先ほどイシスの女王と、すぐに面会できた理由もそれならば納得できます。

イシスの女王ですか、確かに美しいと思いますよ。
でも、セレンさんと比べたら、たいしたことはないですよ。
本当に、このパーティと一緒にいられることは、幸運以外のなにものでもありません。
あの、3姉妹の仕打ちですらですら、感謝でき・・・、いや、あれだけは許せません!

・・・ああ、すいません。
どうも、熱く語ってしまったようです。
どうしたのですか、セレンさん。
顔が赤いようですが、大丈夫ですか。

はい、わかりました。
続きを話しますね。

しかし、先ほどアーベルさんにお礼を言ったとき、
「大丈夫、明日になれば元手は帰ってくるから」
と言われたのはびっくりしました。
そんな、上手い儲け話があるのでしょうか。

ええ、そうです。
アーベルさんからは、
「タンタル。お前の働きにかかっている」
と言われました。
レベル1の俺に、そんな働きが出来るのでしょうか。
とても心配です。

すいません。
何か、変なことを言いましたか。
えっ、「私はそんなこと、一度も言われたことがない」ですか。
そんな、こんなにすてきな僧侶を頼らないなんておかしいですよ。
自分なら、自分で怪我をしてでも、セレンさんに回復をお願いしますよ。
・・・。いや、しませんけどね。
きっと、アーベルさんも口には出さなくても、心の中では思っているはずですよ。
ええ、心配いりませんよ、セレンさん。

ほかに、何を言われたかですか。
「安心していいよ。口を動かすだけの簡単なお仕事ですから」
と言われました。

え、セレンさん、どうしたのですか。
アーベルさんに問いつめるって、なんですか。
は、今夜はこれで終わりですか。
はい、ありがとうございました。



セレンさん、今夜もよろしくお願いします。
昨夜は、慌てて部屋を出られましたが、大丈夫でしたか?
勘違いで助かったですか。
まあ、問題なければいいのですが、顔色が非常に悪かったものですから、とても心配していました。

「今後アーベルさんから、変なことを言われたら話をして欲しい」ですか。
ええ、かまいませんよ。
もっとも、昨日の言葉通り、今日は口だけ動かせばよかったのですから。

どうしたのですか、そんなあきらめたような顔をして。
俺の何処が悪かったのでしょうか。

わかりました。
今日の事を、話しますね。

今日は、イシスの北にあるピラミッドに行きました。
昨日、イシスの女王と面会したのはこのためだったのですね。
たしかに、あそこは大昔のイシス王家の王様達が眠っているという、言い伝えがありますからね。
勝手に入ってはまずいでしょう。
アーベルさんの手際の良さには感心しました。

他にも、皆さんの準備にも感心しましたよ。
セレンさんが、普段と違ってみかわしの服を着られたので、どうしたのかなと思ったのですが、砂漠を歩くため金属製の鎧を脱いだのですね。
俺は、黒装束でしたので、少し暑かったですが、死ぬことに比べたらたいしたことではありません。

ええ、よくお似合いでしたよ。
普段着のセレンさんを見ることができましたから。
ええ、恥ずかしがる必要はありませんよ。
自信を持ってください。
アーベルさんもきっと、・・・

えっ、えっ、セレンさん、泣かないでくださいよ。
大丈夫ですよ、大丈夫ですよ。
アーベルさんは、きっと恥ずかしくて口に出さないだけですから。
そうですよ、そうですよ。
だから、涙をふいてくださいよ。


ピラミッドに入ってしばらく進むと、急に涼しくなりましたね。
さすがに、このまま探索に入るのは無謀でしたので、しばらく休憩をとりましたね。
しかし、さすがセレンさん達です。
全滅する可能性を極力排除するやりかたは、他の冒険者の皆さんにも見習ってほしいものです。

ようやくここで、俺の今日の仕事を教えてもらいました。
というよりも、ようやく理解したと言うべきでしょうか。

俺は、遊び人のときの経験から、モンスターを呼び寄せる「くちぶえ」という呪文を覚えています。
あらかじめ、俺達が準備をして、モンスターを迎え撃つということでした。
一本道ですから、よほどのことがない限り先制攻撃を受けることはありませんしね。
あまり、神経をすり減らすことがないのは助かります。

それに、俺への戦闘中の指示は、「おとなしく自分の身を守ってください」でした。
比べてはいけないと思いますが、3姉妹の仕打ちを受けた俺にとって、涙が出るほど嬉しかったです。

俺は最初から戦いたかったのですが、俺の涙が止まるまで攻撃はあたらないと思っていました。
そのため、今の自分にできること、おとなしく自分の身を守っていました。

ようやく、涙がかれてきたこと、レベルも上がったことから、自分も攻撃に参加しようと思いました。
ですが、勝手に戦闘に参加することで連携が乱れることを恐れていました。
そのため、事前にアーベルさんに戦闘に参加したいと話をしました。

「・・・、そうか。タンタル、ステータスシートを確認したい」
俺は、アーベルさんにステータスシートを手渡すと、内容を確認するアーベルさんを眺めていた。
アーベルさんの表情は、満足した様子でした。
今から思えば、俺が事前に作戦の変更を提案したことを評価したからだと思っています。
でなければ、さきほど正式にパーティへの参加を認めなかったでしょうから。

はい、ありがとうございます。
これからもがんばります。

ああ、すいません。
話が飛びましたね。
アーベルさんからの新しい指示は、二つありました。
一つめは、パーティの先頭にたつこと
二つめは、戦闘中は魔法を使用しないこと
でした。

一つめの理由は、俺にも理解できました。
レベルが上がり、防御力も最大HPも高くなりましたので、パーティの壁役を任せても問題ないと判断したのだと思います。

二つめの理由については、俺には理解できませんでした。
黙ったまま、従うことも考えましたが、思い切ってアーベルさんに質問をしました。

アーベルさんは微笑みながら質問に答えてくれました。
そういえば、アーベルさんは17歳でしたね。
俺なんか、もうすぐ30になりますが、俺なんかよりしっかりしていて、時々俺よりも年上ではないかと思ったりします。
最初にロマリアで出会ったときは、既に結婚して子どももいると思っていましたよ。

いえいえ、冗談ですよ冗談。
テルルさんと結婚しているなんて、全く思っていませんから。
本当です、本当です。
だから、ザキは勘弁してください。
え、冗談ですか。
そうですよね、レベル20で転職した私だって覚えていませんから。

セレンさん。
え、どうして、そんな悲しい顔をするのですか。
は、はい、俺もルカナンはレベル19で覚えましたから、安心してくださいよ。

話を戻しますね。
アーベルさんは、
「魔法と物理攻撃の併用は、パーティの連携がしっかりしてからの方が良いですから」
と答えてくれました。
もう少し説明して欲しいと、アーベルさんにお願いしたら
「失礼しました、タンタルさん。もともとの職業は戦士でしたね」
と、きまりが悪い表情をしていました。
まあ、アーベルさんのほうが、10歳以上若いときづいたこともあったかもしれませんが。

大まかに説明しますと、攻撃魔法は物理攻撃より先に目標を設定するため、先に物理攻撃でモンスターを倒すと、攻撃相手のいないところに無駄打ちしてしまうということでした。
一緒に冒険されていたセレンさんでしたら、この話は、最初に・・・
え、教えてもらっていない。
そんなことは、な・・・

いえ、すいません。すいません。
そうです、きっと、回復役に専念して欲しかったのでしょう。
ま、間違いありません。
セレンさんの回復呪文は、本当に癒されますから。

結局、私のレベルは11まで上がりました。
ここまで安心して冒険をしたのは、はじめてです。
出来たら、最後まで冒険したいですね。

え、勇者と一緒に冒険ですか。
セレンさん達でしたら、魔王なんか逃げ出してしまうでしょう。
ああ、既に一度逃げ出したそうですね。
となると、俺は不要になりますね。

いいですよ、気にしないでください。
セレンさんをはじめみなさんには、十分に助けてもらいましたから。

それ以上に驚いたのは、本当に1日で10,000ゴールド以上稼いだ事でした。
俺の「くちぶえ」が、こんなに役に立つとは思いませんでした。
たしか、「わらいぶくろ」でしたか。
特にあのモンスターは、たくさんゴールドを持っていましたね。
時々、テルルさんが多めに発見したのも要因のひとつですね。
それにしても、アーベルさんはすごいです。
ピラミッドに行くことを想定してお二人に、不死系モンスターに効果の高いゾンビキラーをあらかじめ用意するとか、「わらいぶくろ」が持っているスタミナの種を集める事も考えていたとか。

本当に、明日からの冒険が楽しみです。
セレンさん、これからもよろしくお願いします。
いえいえ、こちらこそ、セレンさんの役に立てることでしたら。
はあ、アーベルさんの好みのタイプですか。

そういえば、今日は魔法を使われませんでしたね。
アーベルさんは
「呪文を封じられた時を想定して、今日は訓練する」
と言われていましたから。
こんど、聞いてみますね。
イメージではヒャド系が好きそうですが、・・・

え、そのタイプではない?
ああ、すいません勘違いしていました。
これから聞いてみますので。食べ物の好みですよね?
もう聞かなくてもいい?
はあ、わかりました。
では、今夜もありがとうございました。

(注:武闘家は「おなべのフタ」も装備可能です)



「・・・、さて、どこから突っ込みをいれようか」
俺は、カウンセリングの報告書を読み終えると、大きくため息をついた。
「アーベル。どこに、突っ込みを入れるのかしら?」
「・・・」
目の前には、テルルとセレンがいた。

「・・・。何もありません」
俺は質問に答えると、報告書を片づけた。 
 

 
後書き
前書きで、「主人公一人称視点での物語で最後まで続くとは限らないと」書きましたが、主人公一人称視点を続けていきます。 
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