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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第30話 これからのロマリアの話をしよう

 
前書き
今回のお話は、ロマリア王立大学での最多履修者数を誇る名講義(嘘)です。 

 
俺がいつも使用する、王宮の会議室。
円卓の机には俺と前王、近衛兵総統デキウス、そしてこの国の冒険者ギルドの長がいた。

デキウスはあいもかわらず、おもしろくなさそうな顔をしている。
早く終わって、訓練に励みたいようだ。
ならば、黙って聞いていて欲しい。
そして、冒険者ギルドの長は値踏みをするような目つきで俺を眺めている。
当然彼は、俺の能力を知っている。
「血縁でもないのに、なんでこんな奴が王様に」
恐らく、そんなことでもかんがえているのだろう。
まあ、口には出さないので本当のところはわからないが。

口を開いたのは、デキウスだった。
「今日はいったい、なんの話だ」
予想通り早く話を終わらせろという口調だった。
俺は、デキウスの希望に応えることにした。

「これから行う、領土解放計画についてです」
「領土解放?」
「!」
デキウスは「何のことだ?」という顔をして、ギルドの長は驚愕を隠せないでいる。
それもそのはず、これまでモンスターの侵攻を食い止めたという話はあっても、領土を復活させたという話は聞いたことがない。
訓練やモンスター退治に明け暮れるデキウスですら「それは無理」と考え、提案すらしたことがなかったのだ。
それを、他国から来たばかりの口先だけの王様が、言い出すこととは信じられない。
それが、疑問符や驚愕の答えになったのだ。

「口先だけなら、何でも言えるということか」
デキウスは殺気を込めて俺を睨む。
俺は内心ひるみそうになったが、耐えることができた。
復活可能とはいえ、この世界で命のやりとりをした経験が、生きている。

俺は、冷静に答える。
「そうですね、あなたがたの力を借りなければ口先だけになるでしょう」
「近衛兵の力があれば、可能だと?」
デキウスは俺を見下すような顔をする。
「解放計画は建国以来、何度も行われてきた。だが誰も成功していない」
「どうしてでしょうね」
俺はデキウスに問いかける。

「決まったことだ、モンスターどもが集団で襲ってくるからだ!」
デキウスは机を叩きながら答える。
俺は無視して質問を続ける。
「どの程度の数で、モンスターは集まりますか?」
前王が口を挟む。
「四代前の王の時が最後だったが、二千以上と聞いている」
デキウスは補足する。
「さらに、同時にロマリアも同じ規模で襲ってきたのだ!」
「モンスターはどの程度の強さですか」
「ここらへんにいる奴らと同じだ」

「だが、数が違いすぎる」
デキウスは指摘する。
「同数であれば対応可能だが、そこまでの戦力はこちらにはない」

ロマリアが持つ兵力は約三千。
確かに現在の兵力では、城と開放する地区の両方は守りきれないだろう。
だが、俺には計画があった。

「兵士の、個々の能力を引き上げます」
「それは俺が既にやっている」
デキウスは反論する。
「近衛兵としての能力は高いかもしれません」

「俺が目指すのは、二千以上のモンスターを殲滅するだけの力を与えることです」
俺は断言する。
「兵を三ヶ月預けてください。ここら辺のモンスターを雑魚扱いさせます」

俺の計画を話す。
兵士を特訓させ、個々の能力を底上げする。
その上で、モンスターを呼び寄せ殲滅する。
最後に、指定した領土を回復させる。
デキウスは懐疑的に話を聞いていたが、最後にはこういった。
「確かに、口先は上手いようだな」
「兵を預けてもらえたら、口先だけではないとお見せできますが」
「わかった、後はまかせた」
デキウスは立ち上がると、準備のため部屋を出て行った。

俺は、ギルド長に話しかける。
「そして、あなたの力をお借りしたい」
俺は、ギルド長に依頼をする。
「私にできることであれば」
ギルド長は、少し身構えて話を聞いていた。
いまだ俺の話を信用していないようだ。
まあ、俺の依頼は、信用とは無関係の話だが。

「あそびにんを傭兵として雇いたいのですが」
ギルド長は俺の言葉に不信感を抱く。
「・・・。あそびにんですか?」
「そうです」

この国には、闘技場がある。
そのため、多くの遊び人がこの国に集まっている。
当然、その中には金に困っている奴らも多いだろう。
そんな奴らに、ぴったりな仕事がある。

「いかがですかな」
「・・・。わかった」
ギルド長は、最終的には了承した。


夜になって、俺は、王宮のバルコニーにいた。
これから使用する魔法の訓練の為だ。

国王に就任してから、1ヶ月が過ぎようとしていた。
俺は、昼間は政務をこなし、夜は魔法の研究と訓練に明け暮れていた。
冒険に出ないので、MPを消費することがない。
もったいないので、寝る前に魔法の実験に使おうということで、俺の日課になっていた。


俺が実験、訓練しているのは、トベルーラと呼ばれる飛行呪文である。
俺はこの呪文を、都市奪回計画の切り札の一つとして訓練していた。
MPの消費効率が悪いので、最初は十分程度しか飛行出来なかったが、詠唱方法の改良により、今では一時間程度飛べるようになった。

「まあ、今日はこの辺にしておくか」
明日は大事な会議がある。
早めに切り上げて休むことにした。


今日は1ヶ月ぶりに四大貴族がそろう会議だ。
参加する貴族達の様子は、前回の会議とは異なっている。
近衛兵総統のデキウスは、前回とは異なり、やる気に充ち満ちていた。
彼は今日の議題を知っており、早く実現することを願っているのだ。
前回の会議のあと、複数の参謀と協議を重ね「実現可能な計画」とわかった日から、毎日
のように「いつから始めるのだ」と俺に催促してきた。

この会議で確認しないと駄目だと言ったら、「俺にまかせろ」と言い出す始末。
だが、こいつに任せるわけにはいかない。
他の準備もあるからと、なだめすかすのに苦労した。

財務大臣のガイウスは冷ややかな様子で俺を見つめていた。
前回提案した、兵の削減案と徴税員の強化にどれだけ手を打つことができるのか、試すような目つきだ。
もちろん、自分の意見に反対するようであれば、別の手段をとるよう算段している様子も見える。

内務大臣のマニウスは、落ち着きのない様子だ。
自分が手塩にかけた部下達がガイウスに奪われないか心配しているのだ。

最後に外務大臣のレグルスは、つまらなそうな様子で俺を見ていた。
今日の議題は、自分には関係ないと思っているのだろう。

あとは、前王が顧問役として顔を出している。
ジンクは入り口で護衛だ。
とジンクを眺めると、お茶を運び終わった侍女と、たわいもない話をしていた。

「また、新しいイオナズンを覚えたよ」
「まあ、そうですか」
侍女は楽しそうな様子でジンクの話につきあっている。
「こんど、私の部屋で一緒に試してみないか」
「まあ」
侍女は真っ赤な顔で俯きながらかすかに頷いた。
まんざらでも無い様子だ。
この国では、イオナズン(室内用?)の使い手がもてるのか?
俺がイオナズンを使えるようになったら・・・。
・・・、どうでもいい話だな。


「さて、そろったようだな」
俺は会議の始まりを宣言する。

俺は、さっそく解放計画を提案する。
「俺は1ヶ月政務に携わった。
そして、皆の指摘のとおり、この国の財政は危うい状況にあることを知った」
皆が頷く。
いや、デキウスは早く話を進めろとせかしている。

「そこでだ、俺はモンスターに蹂躙された都市を奪回する計画を立案した」
俺が合図をすると、俺の直属の秘書官が計画案を皆に手渡した。
俺の字は汚いので、代筆は全て秘書官に任せている。
「都市を開放することで、人口や生産性が向上し、税収が増加するだろう」

「何を考えている!」
財務大臣であるガイウスは声を荒だてる。
「財務が逼迫しているおりに、軍事行動だと。ばかばかしい!」
手にした資料を叩きつける。

一瞬で会議室は静まりかえったが、俺が口を開く。
「確かに、普通はそうでしょうね」
俺は、ガイウスをみながら言った。
「だが今回は皆さんの、特に財務大臣の協力をいただけますから」
「認めないぞ、そんなことは」
「そうですか、残念ですね」
俺は、平然と答えた。


財務大臣が今回の解放計画を認めなかった。
そして、俺が「そうですか、残念ですね」と答えた。

周囲はその様子を見て、計画は失敗したと思われた。
計画に賛成していた、近衛兵総統のデキウスは「話が違う」という様子で俺を睨んでいる。

財務大臣のガイウスは「しょせん、どこの馬の骨ともわからん小僧が」と侮蔑している。
このまま、会議の主導権を握り、兵の削減や、税の増額などを提案するつもりだろう。

内務大臣のマニウスは、疲れた様子だ。
ひととおり資料を見て、計画の概要自体は納得したようだが、協力は得られない計画は無理だと考えているようだ。
「できるだけ早く、会議が終わって欲しい」
そう思っているのだろう。

外務大臣のレグルスは、ニヤニヤしながら俺を眺める。
まるで「いい気味だ」とでも言わんばかりに。

「財務大臣がご協力頂けないのであれば、計画に必要な資金はまかなうことができません。
本当に残念です」
俺は悲しそうなまなざしで、財務大臣ガイウスを見つめる。
「計画が中止となれば、俺は暇になります」
ガイウスは、俺を睨む。
知ったことではないといいたげだ。
「暇な間に俺は、裁判の勉強を始めようと思っています」
「だから、どうした」
ガイウスは耐えきれずに俺に意見した。
「ちょうど目の前に、ちょうどいい学習材料がありましてね」
俺は、別の資料をガイウスに手渡す。

ガイウスは訝しみながらも、資料を手にすると、すぐに驚愕の表情に変化する。
「勉強の途中ですが、これだけの材料があれば死罪及び財産の没収は免れないと思っています」
俺は澄まして答える。
「それは、それは・・・」
俺は困惑するガイウスを助けるように話しかける。
「計画が承認されれば、忙しくて裁判どころではなかったのですが、ちょうどいい機会です。徹底的に勉強しようと思っています」

俺がガイウスに手渡した資料は、ガイウスが手を染めた癒着資料と王国の乗っ取り計画案の写しだ。
ガイウスも秘密が漏れないよう、厳重に保管していたのだろうが、ジンクは鍵開け呪文と姿が透明になる呪文を持っている。秘密を隠すことなど出来はしない。

もっとも、この資料は前王がジンクに依頼したものだ。
本来は四大貴族を滅ぼすために集められた資料だ。


ガイウスの様子が変わったあたりから、デキウス以外の貴族達も俺が何をしたのか理解したようだ。
皆、恐怖で顔をゆがめている。
ただ、デキウスは1人だけ、「計画が失敗したなら、早く会議終わらないかな」とぼやいている。


ガイウスは絞るような声で俺に話しかける。
「なにが望みだ」
「今回の計画が実行されれば、裁判どころでは無くなりますね」
「・・・、わかった。認めよう」

「近衛兵総帥デキウス」
俺に呼ばれた、デキウスは姿勢を正す。
「なんでしょうか」
「そなたは、計画に賛成か」
「当然、賛成です」
早く会議を終わらせて、行動したいようだ。
やれやれだ。


「内務大臣マニウスよ」
「わ、私も賛成します」
マニウスは、何も言わずに賛成してくれた。
彼だけは、しっかり資料を読んでおり、貴族への課税に対して反対するかと思っていたのだ。
おそらく、マニウスの家臣団を正式に国費で賄うことが認められたため、結果的にはスコーピオ家の財政的には良くなることを計算して、賛成したのだろう。
彼の声にはどことなく安堵の声があった。
当然デキウスにも課税などの話はしている。
「そんなことより、都市奪還で得られる名誉の方が大事だ」
と一言で切り捨て、家の者達が驚愕したのだが。


こうなれば、最後の1人だ。
「外務大臣レグルスよ」
「・・・」
レグルスは黙ったままだ。
俺の計画を他の全員が賛成するとは思われなかったようだ。
レグルスは、計画に対して特に意見は持っていなかった。
計画の内容よりも、自分よりも年下の意見に耳をかさないという思いが沈黙に繋がっているようだ。
「今回の計画は、他の国との連携が欠かせない。外交の切り札としての活躍を期待している。頼んだぞ」
俺は頭を下げ、レグルスに依頼した。
レグルスは、プライドを刺激された様子で
「まかせろ」
と安請け合いした。

ようやくこれで、計画が承認された。
忙しくなりそうだ。 
 

 
後書き
ちなみに、ジンクが新たに覚えたイオナズンは、イオナズン(観賞用)です。
どうでもいい話ですが。 
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