ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第29話 ロマリア王の陰謀
俺は、かつて冒険者だった。
短い期間ではあったが、様々な国を回った。
しかし、自分が王になることは想像もつかなかった。
王になってから、10日が経過した。
いろいろなことがあった。
戴冠式は省略したので、国民は新しい王が誰かあまり知らない。
それでも、前の王の息子では無いことが知れ渡ると、国民からは半分の不安と半分の安心があったようだ。
前の王の息子が、何も遠慮をすることなく毎日闘技場に通い続けているからでもある。
この息子は、「これも壮大な計画の一環である」と俺に答えるが、彼の表情を見る限り、とても信じることはできない。
本当に計画の一部であれば、この男に喜んで王位を譲ってやるつもりだ。
計画の一部でなくても王位を譲るつもりだが。
ロマリア王は引退して、王宮の一室で生活を続けている。
王の政務を引き継ぐため、俺のところにほとんど毎日通っている。
王の引き継ぎはしっかりしていて、誰にでも引き継ぎが出来るようになっていた。
まあ、当初は息子に引き継ぐことを想定していたからだろう。
そう考えた俺はにやりと笑い、前の王は苦笑した。
まあ、親バカなのだろう。
ジンクは、新王の即位を各国に知らせるために旅立った。
キメラの翼を使うので、敵に出会うこと無かったようだ。
魔法使いの経歴を隠すため、ルーラは使わないとのこと。
俺よりも、しっかりしていると感心するが、
「おちょうしものですから、役になりきるのは得意です」
と、ジンクから納得できるような納得できないような返事を返されると、俺は苦笑するしかなかった。
ジンクは、アリアハン王に報告するとすぐに戻ってきた。
一緒に冒険していた、セレンとテルル、そして母親であるソフィアを連れて。
「ご即位、おめでとうございます」
「・・・息子への挨拶として、どうかとおもうが」
母ソフィアは、正装して王宮に登場し、俺の前に跪き挨拶をする。
「ここには、アリアハンの使者として参上しましたから」
ソフィアは平然と答えた。
「どういうことなの、アーベル!」
テルルは机をたたきつけ、俺を問いつめる。
「・・・」
セレンは黙ったままだが、俺を強く睨んでいる。
セレンからここまで強く睨まれたのは初めてだ。
そして、母ソフィアが優しい口調で俺に問いかける。
「説明しなさい、アーベル」
母ソフィアの表情は、しかし有無をいわせない強い意志がしめされていた。
「・・・。はい、かあさん」
即位後に俺とジンク、ロマリア王とその息子との4人で会話した円卓のテーブルが置いてある一室。
防諜機能が完備されていることから、ロマリア王が密談を行うために使用する部屋である。
俺は、再びこの席についていた。
他に席についているのは、母ソフィアとセレン、テルルである。
ジンクは部屋の入り口で護衛をしている。
ちなみに、ジンクと母ソフィアとは知り合いで、同じ師匠の下で修行をしていたらしい。
母親に対して「師匠から、イオナズンを何種類伝授されたのか」を質問したかったが、何かが終わりそうな気がして、恐ろしくて聞くことが出来なかった。
俺は、ロマリア王に招待されてからの出来事を話す。
前の王から急に譲位され、辞退する事が不可能だったこと。
1年間は王位に就かなければならないこと。
1年後には、前の王の息子に王位を譲ること。
それまでは、冒険を続けることが出来ないことを説明した。
「・・・。すべては、ロマリア王の陰謀だったのだよ!」
俺は、最後にこういって締めくくる。
「すごいですね。アーベル」
「そうだったの」
「わかったわ。アーベル」
とりあえず、3人は納得してくれたようだ。
部屋の入り口で、ジンクが「な、なんだってー!!」と叫んでいるが、俺たちはまったく気にしてはいなかった。
母は一言、「師匠のまねかしら?」と首をかしげていた。
「私は構わないけど、2人はどうするのよ、アーベル?」
ソフィアはセレンとテルルに視線を移しながら俺に問いただす。
「それは、聞いてみるしかないな」
俺もセレンとテルルに視線を移す。
「それは、・・・」
「急にいわれても」
「そうだよな。まあ、時間はあるのでゆっくり考えて欲しい」
俺にとっても、急な話だが、2人にとっても急な話だ。
だが俺と違って、計画をもって冒険をしていたわけでもない。
「1年したら退位するので、そのときは再び一緒に旅をして欲しい」
「はい」
「・・・、仕方ないわね。わかったわよ」
セレンは素直に頷き、テルルはすねた顔をしてうなずいた。
2人とも、少し顔を赤くしているが、それほど怒っていないようなので少し安心する。
「セレン、テルル。せっかくだから、この王宮で生活してみたら?」
ソフィアは急に2人に提案する。
「ですが、私たちアリアハンの国のものですが」
テルルが反論し、セレンが頷く。
「そうね。でも、アーベルと結婚すれば王妃になれるから問題ないわよ」
確かに俺も即位したから、ロマリア国民になった。
その理屈からすれば問題ない。
いや、大問題だ。
俺たち3人は反論する。
「・・・、急にそんな」
「け、結婚なんて!」
「母さん。2人同時に結婚をすすめるのはおかしいでしょう」
「あら、そうかしら。側室という手もあるわよ」
ソフィアはにこにこしながら、俺の反論に新しい爆弾発言を投げつけた。
「側室ですか、・・・」
「アーベル!何考えているの!」
「おい、テルル。提案したのは母さんだ。俺じゃない」
セレンは何か真剣に考えている様子だし、テルルは逆に、俺に文句を言い出す。
俺は悪くない。
悪いのは、変な提案をした母さんだ。
「変な提案とは失礼ね。ロマリアの法律ではちゃんと認められているわよ」
「ああ、そうですか、そうですか」
俺の王としての仕事が一つ増えたようだ。
俺が王位にいる間は、側室制度を廃止しよう。
「とりあえず、話がややこしくなるから、俺が王位にいる間は結婚しないよ」
「あらそう、残念」
ソフィアは心底残念がった。
「結婚すればいいのに。国王の結婚式ならさぞかし、盛大だったでしょうに」
ソフィアは昔のことを思い出したのか、ため息をつく。
ソフィアにつられて、セレンとテルルも想像して顔が赤くなる。
セレンもテルルもまだ16歳だ。
面会したときに会った前王妃の姿を見れば、結婚式に心をときめかすのも無理はない。
「それに、費用は全部ロマリア王家の財産から捻出されるので、我が家の家計は痛まないし」
ソフィアは、急に現実的な話を振ってくる。
「いや、そんなことで王家の財産を浪費するつもりはないよ」
俺は、ため息をついて母に反論する。
ロマリア王国の財政の危機に、余計な支出は避けるべきなのだ。
結婚特需で、一時的な税収の増加も期待できるかもしれないが、優先すべき問題が別にある。
「アーベル!結婚式を「そんなこと」とか「浪費」とか言うなんて失礼よ」
「えっ」
「アーベル。2人に謝りなさい」
ソフィアは笑顔で俺をにらみつける。
「・・・。ごめんなさい」
論点がずれているとおもいながらも、俺は素直に謝った。
ソフィアのことだ。絶対にわざと論点をずらしているはずだ。
だったら、下手に逆らっても無意味だ。
「ですが、2人が望むかどうかは別問題です」
「2人とも結婚したいでしょう」
セレンとテルルは思わず俯く。
俺は2人を援護する。
「結婚はしたいでしょう。でも、俺と結婚したいはかぎりませんよ」
「そうかしら?」
ソフィアは俺に疑問を呈する。
「それに、結婚してもそこが終わりではないのです。あたらしい、始まりなのです。そこまで考えないと、不幸になりますよ」
結婚が、終わりの始まりとか言われたら悲しいではないか。
今の両親をみれば問題はないが、前世の事を思い出すと、無計画なのは問題があるだろう。
まあ、俺もまだ16歳だ。年齢的にも結婚はまだ先になっても問題ないはずだ。
こんな事を真面目に言えば、夢も希望もない子どもにしか見えないだろうが。
「アーベル。すごいです」
「セレン。そこは感心しなくていいところよ」
「アーベル。そんなことを言ったら一生結婚できないわよ。勢いよ、勢い」
ソフィアは一目惚れで結婚した。
そして、幸せに暮らしている。
俺がいくら説明しても、経験者の一言にはかなわない。
残念ながら、俺はこの世界での離婚率のデータを持ち合わせていなかったし。
「とにかく、冒険が終わるまで結婚はしません。ちなみに、この状態は冒険が終わったわけではありませんから」
ソフィアに反論されないよう、あらかじめ釘をさす。
「それは残念。せっかく可愛い娘ができると思ったのに」
どうやら、ソフィアの目的は俺が結婚することよりも、可愛い娘が欲しかったようだ。
「まあ、たまには顔を出してくれ」
俺は、2人にお願いした。
公務は忙しくなると思うが、用事が済めば、冒険者として旅をつづけるのだ。
たまには顔をあわせて、今後の計画を相談する必要があるだろう。
「はい」
「わかったわ」
「私も久しぶりに旅にでようかしら」
「・・・母さんは、自重してください」
ソフィアはアリアハンの宮廷魔術師だ。
しかも、歴代で最強の。
冒険者に戻るといわれると、アリアハン王国が全力で引き留めにかかるだろう。
なんとか、ソフィアを納得させることはできた。
とはいえ、別の旅を提案したことになるのだが。
後書き
にじファン掲載時点では、二話に分かれていました。
ちなみに、後半部分のタイトルは、
「結婚してくれ」と言われた。親からだった。
でした。
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