戦国異伝
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第百十七話 鬼左近その五
「それでも虎之助や市松達はそうはいくまい」
「だからですな」
「あの者のそうしたところは」
「厄介じゃ。下手に敵を作ってしまう」
信長が懸念しているのはこのことだった。
「そしてそれが家の亀裂になってしまうからのう」
「ではどうされますか」
信広はじっとした顔で兄に問うた。
「ここは」
「うむ、亀裂はあってはならぬ」
信長はこの考えから述べた。
「決してな」
「注意すべきあれですな」
丹羽は決意を見せた信長にこう述べた。
「時をかけても確実に」
「ことを収めることじゃな」
「それが大事ですな」
「その通りじゃ。しかし時はかけぬ」
信長はそれは大丈夫だというのだ。
「既にな」
「左様ですか」
「うむ、わしの考え通りいけばな」
「してそれはどういったものでしょうか」
「まずは兵を集める」
ここからだった。
「そして兵達を鍛錬させる」
「そうされるのですか」
「うむ、それにじゃ」
まだあった。
「政でじゃが」
「政においてもですか」
「考えておる。手はな」
「ではそうされて」
「ひびは消す」
何としてもだというのだ。そうした話をしてだった。
信長は家臣達、石田と加藤達の亀裂を収めることにした。このこともまた織田家にとっては重要なことだった。
織田家の家臣の数は多くなりそこでも充実していた、だが信長はこのことにも決して満足してはいなかったのだ。
だからこそこうも言うのだった。
「まだまだじゃな」
「人が足りませぬか」
「うむ、数が足りぬ」
信広に話す。
「まだな」
「織田家は他家に比べて遥かに大きくなってもですな」
「天下を治めるのじゃ」
信長が見ているのはやはりこのことだった。
「だからこそじゃ」
「まだですか」
「うむ、まだ人が欲しいのう」
こう言うのだった。
「とはいっても焦りはせぬがな」
「それはありませぬか」
「焦りは」
「焦っても何もならぬ」
このこともまたよくわかっている信長だった。
「だが。他の家の者達じゃが」
「武田や上杉といったですか」
「あの家の者達ですか」
「うむ、ああした家の者達もやがては加える」
織田家に組み入れるというのだ。
「武田二十四将も上杉に十五将もな」
「そのどちらもですか」
「織田家に加えられますか」
「天下を統一するなら当然のことじゃ」
「まさか殿、それは」
丹羽は信長の話を聞いてからあることに気付いた。
そしてその気付いたことを信長自身に問うた。
「武田家を家ごとですか」
「そうじゃ、組み入れる」
まさにそうするというのだ。信長自身もこう答える。
「家ごとな」
「また大きいですな」
「わしは武田も上杉も滅ぼすつもりはない」
天下を統一してもそれは他家を滅ぼすことではないというのだ。むしろその逆だというのである。
「どの家も家臣に加えて天下を治める力になってもらう」
「北条や毛利もですか」
「その通りじゃ」
この両家もだった。
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