万華鏡
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第二十話 蚊帳その九
「それも広めに、かつ」
「尚且つ?」
「あまり上に吊り上げないの」
このことも注意しないとならないというのだ。
「吊り上げ過ぎたら隙間が出来てそこから蚊が入るから」
「だから駄目なのね」
「そうなの、それで低過ぎると」
それはそれでだというのだ。
「狭くなるからね」
「何かお話聞いたら難しくない?」
琴乃は横から景子の話を聞いて首を傾げさせて言った。
「どうもね」
「だから。コツだから」
「コツなの」
「そうなの、バランス感覚っていうかね」
高過ぎず低過ぎずだというのだ。
「それが大事だから」
「それがコツなの」
「そうなの。蚊が入らない様にかつ快適に」
それこそがだった。
「バランスよ」
「何か本当に難しそうだけれど」
「簡単よ。それに私一人で出来るから」
「景子ちゃん一人で吊るせるの」
「出来るから」
四人が手伝うことはないというのだ。
「安心してね」
「ええ、じゃあ」
「それじゃあ」
四人も景子の言葉に頷く、実際に景子は自分の部屋の蚊帳を何でもないといった調子で一人で吊るした、そのうえで言うのだった。
「はい、これで終わりよ」
「ううん、本当にあっという間ね」
彩夏は景子が一人で吊るした蚊帳を見て言う。
「出来たわね」
「この通りね。簡単でしょ」
「簡単っていうか慣れじゃないのか?」
美優は四隅から吊るされているテントの様な蚊帳を見て言った。
「これってな」
「それかしら」
「というか景子ちゃんテント張るの得意とか」
「あっ、そっちは人手がいるけれど」
それでもだというのだ。
「天理教の教会で夏はキャンプするけれど」
「宗教違うけれど」
「仲いいからね」
琴乃に普通に参加していると話す、ごく普通に。
「子供の頃から参加してるし」
「それでテントも得意なんだな」
美優もそれで納得した。
「成程な」
「そうなの。テントもね」
それもだった。
「コツなのよね」
「だから慣れだよ」
それになるというのだ。
「そういうのってな」
「ううん、コツだと思うけれど」
「まあ神社の娘が天理教のキャンプに参加するのってどうかって思うけれどさ」
「キリスト教の教会とかお寺の人も参加するわよ」
「天理教のキャンプにかよ」
「お互いに参加し合って作業を手伝ってるの」
「本当に仲いいな」
美優もある意味感心するが景子はさらに言う。
「うちの神社の盆踊りとかお寺のお化け屋敷とかクリスマスとかも」
「何でもあり?」
「というか宗教の垣根がないけれど」
「日本だからね」
それでないというのだ。
「この町だとお寺のお坊さんとか私達もクリスマスのミサに参加してるし」
「喧嘩しないの?」
「全然」
にこにことして里香に答える。
「お父さんもお母さんも普通に住職さんや教会長や神父さんと車座で飲むことがいつもだし」
「教会長?」
「神道で言う神主さんよ」
天理教の教会の責任者だというのだ。
「で、その人達とね」
「仲良くいつも一緒に飲んでる」
「そうなのね」
「そうなの」
実際にそうだというのだ。
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