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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第六章 贖罪の炎赤石
  エピローグ 兆し

 
前書き
 これで……これで……贖罪の炎赤石が終了……次はついに……

  

 
「……随分と遅かったな」
「君は……」

 食堂の中に入ったコルベールに声をかけてきたのは、入口の近くに立って部下に指示を出していたアニエスだった。
 アニエスの声は小さかったが、その言葉に入っていた名前に、食堂にいる者たちの視線が集まる。

「メンヌヴィルを殺ったそうだな」
「……はい……」
「……奴は……お前の部下だったそうだな……」
「……そうです」

 傭兵たちとの戦いで荒れ果てた食堂には、学生の姿はなく、生き残った傭兵の拘束と、食堂の後片付けのため残った銃士隊と教師だけだった。
 食堂にいる者たちは、手を止め、アニエスたちの会話に耳を澄ませている。

「お前が……魔法研究所実験小隊の隊長だったか」
「……その通りです」
「王軍資料庫の名簿を破ったのは」
「私です」

 沈黙が満ち、時間だけが過ぎていく。

「……私はダングルテールの生き残りだ」
「ッ……そう……ですか」
「何故……私の故郷を滅ぼした……理由は何だ……平和な……平凡なあの村を……何故……滅ぼした」

 歯を食いしばり、俯くコルベールに、ぽつりぽつりと呟くように問いかけるアニエス。

「……答えろ……ッ」
「命令でした」

 視線は合わない。
 アニエスの視線はコルベールと合わさることはない。
 ただ、声だけが向けられる。
 アニエスの喉の奥から出された言葉に、コルベールは端的に答えた。

「命令?」
「……疫病が発生し、その拡大防止のため、村を焼き払えと命令されたのです」
「違う……ッ……そんなのは嘘だッ! あれは――」
「そう、嘘でした。疫病など発生してはいなかった。あれは只の『新教徒狩り』でした……」

 思わず声を荒げてしまうアニエスの言葉を、コルベールが続ける。

「私がそれに気付いた時は……もう、遅すぎました……その時には何もかも終わっていた。女も子供も……皆……焼き尽くしたあとだった……」
「…………」
「許されないこと……忘れられない……忘れてはならないことです……それからすぐでした……私が軍をやめたのは」

 再度食堂に沈黙が満ちる。
 沈黙を破ったのは、最初と同じ、アニエスだった。

「……貴様は……教師になって何かをしようとしているそうだが……それで罪が償えると思っているのか……」
「償える理由がない。償えることなど出来はしない……私は死ぬまで、罪を背負い続けなければならない」

 躊躇いなく言い切ったコルベールに、食堂にいる者たちの視線に哀れみが混じる。
 しかし、アニエスの目には何の感情も浮かんではいない。

「私は貴様を許さない……永遠にだ」
「当然です」
「……今すぐここで貴様を殺してしまいたいが」
「「「ッッ!!?」」」

 小さいが、煮詰まった地獄の釜のような声で呟かれた、その物騒な内容に、食堂にいる者たちが一斉に息を呑む。
 体に溜まったものを吐き出すように、アニエスは小さく一度息を吐くと、そこでやっとコルベールに顔を向けた。

「……見届けてやる」
「え?」

 視線で人を殺せるとしたならば、優に十は殺せる程の殺気を込められたものを向けられたコルベールは、しかし、予想外の言葉に戸惑いの声を漏らした。
 殺気混じりの鋭い視線と、戸惑いを含んだ震える視線が絡まる中、アニエスが口を開く。

「ダングルテールのただ一人の生き残りである私が見届けてやる。貴様が何を残せるのかを……決してそれを忘れるな……」
「あっ……」

 食堂から去っていくアニエスの背中を見つめながら、コルベールは呆然と立ち尽くしていた。
 アニエスの姿が見えなくなり、残された銃士隊や教師たちが動き始めても、コルベールは動かなかったが。

「……ありがとう……ございます」

 小さくなっていくアニエスの背に向かって深く頭を下げ謝ったコルベールは、忙しく動き回る教師たちを手伝うため歩き出した。










































「……ん?」
「シロウ? どうかした?」 

 作戦は無事成功し、士郎たちはトリステイン艦隊との合流点へと向かっていた。
 その途中、とある森の上を飛行中、士郎が不意に訝しげな声を上げると、それに気付いたルイズが顔を上げる。

「いや……気のせいだろう」
「? 何よもう」

 頬を膨らませながら顔を前に戻すルイズに苦笑を浮かべた士郎は、窓越しに見える眼下の森を見下ろした。

「……そう……気のせい……その筈だ……」

 何処か懐かしい何かを感じた気がしたが、ありえないなと首を振って顔を前に向けた士郎だが、一瞬だけだが、その視線は自身の左手に向けられた。







 左手の甲。







 ガンダールヴのルーンとは違う。







 もう一つの契約の印に。






 
 

 
後書き
 ……次の章は『銀の降臨祭』ですが……自分が思うにゼロの使い魔で一番の盛り上がりだと思います。
 そして……わたしが良く想像……否さ妄想するシーンです。
 ……私の妄想をこれでもかとつぎ込もうと思っていますが……己の文章力の低さが恨めしい……あのシーンを自分の想像通りに書けるかどうか……。
 頑張ってみます。

 感想ご指摘お待ちしております。 
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