八条学園怪異譚
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第二十一話 ランナーその七
「ええとね、引退した時にその時体育科のラグビー部のコーチだったご主人と知り合って」
「大学に入った時になのね」
「そう、落ち込んでいた時にその人柄を知って」
そうしてだというのだ。
「惹かれてあの人の方からプロポーズしたらしいわ」
「ご主人ひょっとして工業科出身?」
「みたいね」
そうしたことはブログに書いてあった。愛実はウィキペディアとブログを交互に見る形になっている。
「どうやらね」
「そうなのね。じゃあ愛しているご主人の場所で走ってるのね」
その未練をだというのだ。
「何か複雑なことだけれど」
「ええと、つまり?」
愛実は聖花の話を聞いて顔を顰めさせて首を捻った。どうにもわからないことだが熟考して答えているといった顔である。
「あれなの?ご主人への愛情とマラソンへの未練が一緒にあって」
「そう、それで工業科で走ってるのよ」
「そういうことなの」
「かなり複雑よね」
「大学のグラウンドが思い出の場所よね」
いつも練習していた場所だというのだ。
「それか高校の」
「ええ、普通はそこで走る筈だけれど」
「ご主人への愛情が強くて」
「それでここで走られてるんだと思うわ」
聖花も考える顔で愛実に話す。
「つまりはね」
「何か下手にお話に入ったら」
「まずい感じよね」
「本当にね。あっ、走り終わったわ」
二人で話をしているうちに助教授はランニングを終えた、まずは走ることを止めた場所で整理体操をしてだった。
その足で工業科のすぐ傍の大学に向かう、それを見てだった。
口裂け女はすぐに二人にこう言った。
「泉かも知れないよ」
「えっ、泉って!?」
「何処が!?」
「だから。あの人が出入りする場所がだよ」
そこがだと二人に言う。
「泉かも知れないじゃないか」
「あっ、そうね。そういえばね」
「その場合も考えられるわね」
妖怪や幽霊が出入りする場所が泉だからだ、そうなっても不思議ではなかった。
「それだと」
「じゃあ」
「早く追いかけるんだね」
口裂け女は言葉で二人の背を押した。
「思い立ったら、だよ」
「そうね。じゃあちょっと行って来るわね」
「あの人の後ろを追いかけて」
二人も口裂け女のその言葉に頷く、そうしてだった。
助教授の生霊の後を追い掛けた、助教授は二人がすぐ後ろにいるというのに気付かない、それが何故かは花子さんが言った。彼女と口裂け女は二人に同行しているのだ。
「生霊っていうのは死霊とまた違ってね」
「念が強いのね」
「ええ、そうよ」
その通りだと愛実に答える。
「だからね」
「私達にも気付かないのね」
「走ることばかり考えてて」
「生きているのに魂が出るっていうのはそれだけの念があるから」
「周りのことには」
「ほら、実際に一つのことばかり考えてたら周りが見えなくなるじゃない」
花子さんは現実でわかりやすい例えを出した。
「そういうことよ」
「霊は人間の身体がないだけの存在」
「それでそうなるのね」
「そう、まあ生霊の話は置いておいて」
きりのいいところで終わらせてだった。
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