ラ=ボエーム
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第四幕その二
第四幕その二
「元気そうだな」
「朝に会ったばかりじゃないか」
「そっちこそな」
ロドルフォとマルチェッロは二人に笑ってこう返す。
「一体どうしたんだよ」
「今日は大収穫だ」
「謝肉祭だ」
「それじゃあ」
「ああ、見てくれ」
見ればコルリーネはその腕の中に紙包みを持っていた。それを開くとにしんの塩漬けが入っていた。
「どうだ」
「これはいい」
二人はそれを見て満足そうに頷く。
「そして僕はこれだ」
ショナールはパンとワインを持っていた。
「どうだ、ワインなんて暫くぶりだろう」
「ああ」
「最近安いビールばっかりだったからな。奮発したんだ」
「それは何よりだ」
「さあ飲めさあ食え」
コルリーネは他の三人に対して言う。
「そして英気を養おう」
「ああ」
四人はテーブルに着く。そして乾杯をし食事に入った。
「ところでロドルフォ」
「何だい?」
ロドルフォはコルリーネの言葉に顔を向けた。
「最近何かギゾーが元気みたいだね」
「彼か」
ロドルフォはその名を聞いて顔を暗くさせた。
「政治家としての彼はね。好きになれない」
「頭が固いからか」
「ああ。まるで岩石みたいだろ」
保守派である彼をそう酷評した。
「文化とかの論文はともかく。政治家としてはね」
「金持ちになり給え、そうすれば政治家になれる、か」
「そうそう」
「あの考えには賛同出来ないと」
「何かね、時代に合っていないだろ」
彼はパンを食べながら言った。硬いが白パンである。
「今はもっと多くの人が政治に参加しないと」
「話題のプロレタリアートかい?」
ショナールが口を挟んできた。
「いや、あれは」
だがコルリーネはそれを聞いて口を尖らせた。
「止めた方がいいね」
「どうしてだい?」
「マルクスだろ?」
「ああ」
「彼の言うことは。どうにも胡散臭い」
顔を顰めさせての言葉だった。
「そうなのか」
「僕がそう思っているだけだけれど。何か引っ掛かる」
「ふん」
「気を着けた方がいいよ。何かをどうしたらユートピアになるとかいう考えは」
「そうかね」
「下手したらあちこちに死体が転がることになるからね」
「このパリでも」
「勿論」
コルリーネは言い切った。
「十年前みたいにね」
「それは勘弁願いたいな」
「だろ?まあ穏健にいきたいものだ」
「成程」
「ただ、飲み食いはそうはいきたくないね」
マルチェッロはワインを飲み干して言った。
「もっとこう派手に」
「お金持ちになって」
「贅沢にね」
「いいパトロンでもいればね」
「ムゼッタみたいに」
「あいつのことはよしてくれよ」
マルチェッロはムゼッタの名を聞いて顔を顰めさせた。
「あいつはもういないんだし」
「そうか」
「それじゃあ」
だが噂をすれば何とやら、部屋の扉が急に開きそこからそのムゼッタが飛び込んで来た。相変わらず赤い派手で高そうな服を着ていた。
「なっ!?」
「おい、何でここに」
ロドルフォ達はいきなりやって来たその姿を見て一斉に立ち上がった。
「私のことはいいから」
「いいからって」
「いきなり言われても」
汗をかき、肩で息をしているムゼッタを見て驚きを収めることは容易ではなかった。彼女のこんな姿は今まで誰も見たことがなかったからだ。
「それよりもミミを」
「ミミを!?」
「ええ、何とかここまで連れて来たけれど」
「待ってくれムゼッタ」
ミミの名を聞いてロドルフォが最初に落ち着きを取り戻した。
「今。ミミって言ったよね」
「ええ」
「ミミが。どうしたんだい?」
「彼女は子爵の息子と別れたのよ」
「どうしてだい?」
「決まってるわ、貴方と会う為よ」
こうロドルフォに告げた。
「僕と」
「ミミの身体のこと・・・・・・知ってるわよね」
「うん」
その為に別れることを決意したのだ。知らない筈がなかった。
「そのせいよ」
「子爵の息子に捨てられたのかい?」
「違うわ。自分から離れたのよ」
「どうしてそんなことを」
「馬鹿っ」
ムゼッタはロドルフォの鈍さに切れた。
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