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子を喰う親

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第三章

「それでもね」
「自分で淹れたものがいいのかしら」
「食べるものと飲むものはね」
 そうだというのだ。
「昔からそうなのよ」
「それで今も」
「キリマンジャロよ、飲んで」
 シンディアはモデルの整った笑みでリエ達に言う。
「飲みながらお話しましょう」
「それじゃあお言葉に甘えてね」
 ヘンリーが応える、そしてだった。
 三人でコーヒーを飲みながら話になる、リビングは明るく白い日差しが心地よかったがその話は暗いものだった。
 シンディアは深刻な顔になって二人に話した。
「向かいの家なのよ」
「向かいの家で」
「僕達の仕事が起こったんだね」
「そうなの、向かいの家は脚本家のジョン=デヴィットだけれど」
「キヨハラット?確か」
「「売れっ子だった」
「そう、過去形よね」
 シンディアは二人に対して言った。
「売れっ子だった、ね」
「最近あまり見ないけれど」
「あの人もここに住んでいるんだ」
「そうよ。最近仕事はないけれど昔は凄い売れっ子で小説も飛ぶ様に売れて映画にもなったし」
 だから金はある、だが今は仕事がない。
 その脚本家がというのだ。
「去年離婚してね」
「よくある話ね」
「子供の真剣は自分が、よね」
「そう、小さな女の子よ」 
 二人は話を聞いて事情を大体察した、二人にとってはいつもの話だ。
「離婚して暫くしてから」
「その子への虐待をはじめた」
「そういうことだね」
「そう、それでなのよ」
 まさにそれだった。
「向こうの家の中から怒鳴り声と泣き叫ぶ声が聞こえてきて」
「真夜中に外に放り出したりとか?」
「服も汚いとか」
「生傷も増えていって」
 こうした話での嫌な条件がこれまた嫌のいなるまで揃ってきた。
「暫くどうしたものかって見ていたけれど」
「あまりにも酷くてなのね」
「僕達に通報してくれたんだね」
「もっと早く通報した方がよかったかしら」 
 シンディアは難しい顔でこうも言った。
「やっぱり」
「まあそのことはそうだとは言えないわね」
「タイミングは難しいからね」
 二人はシンディアの後悔にはこう返した。
「一概には言えないわ」
「だから気にしないで」
「手遅れになるまでに通報してくれてよかったわ」
「そう思ってくれてね」
「有り難う、そう言ってくれて」
 シンディアは二人の言葉によしと頷いた、そしてだった。
 二人に彼女が見て聞いた事情を詳しく話した、聞けば虐待は毎日の様にありデヴィットは毎日飲みに出ていて夜になるとだというのだ。
「虐待がはじまるのね」
「夜に」
「そうなのよ、夜ね」
 虐待が行われるというのだ。
「その娘は昼は学校で親は朝から店に出て真夜中まで飲んでてね」
「真夜中に帰って来て」
「そうした事情なんだ」
「そう、夜よ」
 シンディアはその時間を強く言った。
「その時ね」
「ええ、それじゃあね」
「夜に」
 二人はシンディアの言葉に確かな顔で頷いた、そのうえでだった。
 シンディアの協力を得て彼女の家に入って張り込んだ、夜までは暇だった。
 向かいの家に注意をしながらも三人で談笑なりをして時を過ごした、そして。
 暗くなって随分経ったところでシンディアは壁の大きな時計を見て言った。 
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