ラ=ボエーム
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第二幕その二
第二幕その二
「本当に凄いかどうかなんてわかりゃしないさ」
「僕にはわかるんだよ」
「大哲学者にはかい?」
「そうさ、他に何があるんだ」
「やれやれ。まあそろそろモニュスに行こう」
「ああ、もうそんな時間か」
「そうだね。それじゃ」
カフェに入った。そこはもう人でごったがえしていた。見れば彼等の予約した席には既にショナールが座っていた。
「よお」
「おう、席を取ってくれていたのか」
「買い物が済んだんでね」
「で、ロドルフォは?」
「新しい彼女と一緒なんじゃないかな」
ショナールはあまり思うところなくこう返した。
「あのミミって娘と帽子屋にいたよ」
「大詩人殿は春ってことか」
「雪も降る季節に」
「暖かいことで」
三人は笑いながら言った。彼等は野外の席に陣取っていた。目の前を様々な人達が通り過ぎて行く。そこにロドルフォがミミを連れてやって来た。
「ここなのね」
「ああ」
ロドルフォはにこやかな顔で答える。
「さっき紹介した仲間達がいるよ」
「もう来ているかしら」
「来てるんじゃないかな。あの店に随分いたし」
「ねえロドルフォ」
ミミは彼に顔を向けて言った。
「何だい?」
「このボンネット似合うかしら」
見れば彼女は薔薇色のボンネットを被っていた。鮮やかな薔薇の色が彼女を映えさせていた。
「うん、よく似合うよ」
ロドルフォはニコリと笑って答えた。
「君の髪は黒だから。赤と黒はよく合うんだ」
「そうなの」
「そうさ。だからそれにしたんだ」
「私の為なのね」
「そうさ、僕は君の為なら何でもするよ」
声が強くなった。
「命をかけてもね」
「有り難う」
そんな話をしながらマルチェッロ達を探す。そして彼等を見つけた。
「おうい」
「よお」
三人の方でも気付いた。お互いに手を振る。
「そこか」
「ああ、それじゃあ楽しくやろうぜ」
「席は二つ取っておいてくれたかな」
「安心してくれ、三つでも四つでもあるぞ」
「そんなにいらないよ。僕はミミだけでいいんだから」
「他に女の子がいたら呼ぶよ」
ショナールは笑いながら言った。
「僕の趣味でね」
「またかい」
ロドルフォはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「君も。相変わらずだね」
「君にあてられたのさ」
ミミを側に寄せているロドルフォを見て少しシニカルな声で言った。
「これでも焼き餅焼きでね」
「おやおや」
ロドルフォはテーブルにやって来た。そしてミミと隣同士で座った。
「友達に彼女が出来ると自分も欲しくなるものさ」
「それを音楽にすると」
「そういうこと。どうやらいい曲が作れそうだ」
「楽しみにしてるよ」
「また名曲になるぞ」
笑って言う。
「迷曲じゃなければいいね」
「天才に駄作なし」
「さてさて」
「それじゃあ注文するか」
マルチェッロはここで他の者に対して言った。
「皆何を頼む」
「とりあえず美味そうなものはありったけ頼もうぜ」
「今は機嫌がいいしね」
コルリーネはまだ上機嫌を続けていた。
「お金もあるし」
「じゃあこれを見てくれ」
マルチェッロはそのコルリーネにメニューを渡した。
「ルーン文字よりもまずこっちだ」
「有り難う。そうだな」
メニューを少し見てから言った。
「サラミを」
「僕は鹿のステーキを」
それを横から覗いていたショナールが言った。
「サラミに鹿のステーキ」
マルチェッロはメニューにそう書いていく。
「ラインのワインを」
「テーブルワイン」
ショナールとコルリーネはそれぞれ飲み物を頼んだ。
「じゃあ僕はマルサラ、そして七面鳥の丸焼きを」
「七面鳥はいいとしてマルサラかい?」
「そうだよ。それが何か?」
「今はクリスマスだよ」
ショナールは言った。
「うん」
「白ワインはないだろ」
マルサラは西シチリア原産の甘い白ワインである。
「そうかな」
「クリスマスといえば赤じゃないか。キリストの生誕の日なんだし」
つまりキリストの血、というわけである。だから赤なのだ。ショナールはそう言っていた。
「じゃあランブルスコを」
「よし」
北イタリアモデナの発泡性の赤ワインである。かなり甘い。注文する側で母親達が自分の子供達の相手をしている。
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