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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―修学旅行 最終日―

 最近……特にセブンスターズの件があってから……なんだか意識を失ってしまうことが多い気がするが、今回のバーチャル空間からの強制ログアウトはなんとか意識を保つ。

 ……いや、精神がバーチャル空間から自分の身体の中に戻るようなものなので、意識を失ってしまうのがおかしいのか……というか一応、これは遊園地のアトラクションなのだ、そんな危険はないと信じたい。

 バーチャル空間に行くための端末なのだろうか、なんだかカプセルのような物に寝っ転がっていた俺の身体を起こし、とりあえず伸びをした後に辺りの状況を探る。

 ……辺りはただの暗い部屋であり、俺が今し方起きたカプセルの他にも、いくつかのバーチャル空間に行くためのカプセルがあるだけで、この部屋にあるのは二つのドアだけだ。

「三沢、エド、十代!」

 はぐれてしまった友人らの名前を叫んでみるが、この部屋から返答はないため、とりあえずここから出てみようとドアのノブに手を伸ばす。

 そこで、ようやく俺は近くのカプセルの違和感に気づいた。
ここにあるカプセルに閉まっているものがある……人が入っていないカプセルは、そのまま空いているというのに。

 そのカプセルは四人分で丁度人数も合う……ということは、俺以外の四人はまだバーチャル空間へと入ったままなのか……!?

 美寿知は強制ログアウトと言っていたのに妙な話だが、そうとしか考えられない……つまり、何者かが俺のみをログアウトさせたのだ。

「その通りです……黒崎遊矢くん」

 この部屋に来て始めて聞いた人間の声に振り向くと……オベリスク・ブルーの制服を着た男子生徒が一人立っていた。

 オベリスク・ブルーが光の結社に吸収されたような今の状態のために、この制服を着ている人物は俺と三沢、そして吹雪さんの三人だけのはずだ。

 だが、俺は見たことは無いが、光の結社の中でも白く染めた制服を着ていない人物が存在するのだ。
俺は実際に会ったことがなかったものの、俺の目の前に立っている人物の心当たりは一人しかいない……!

「お前が……斎王か……!」

「荒事をしてしまって申し訳ありません。お身体は平気ですか?」

 俺の憎しみが入った視線をサラリと受け流しつつ、斎王は何故だか俺の身体の調子を確認する。

「ずいぶん余裕だな。お前がデュエル・アカデミアの皆に何をしたか教えてもらう!」

 美寿知から斎王について聞き出せなかったことは残念だったが、本人が目の前にいるのならばそんな必要はない。

「何をしたかと言われましても……彼らは、自らの意思で私に従っているだけですよ」

 今にも飛びかかりそうな俺と対比するように、いけしゃあしゃあと斉王は返答してくる……このままではアイツのペースだ、一旦落ち着こう。
 斎王が何の目的でここに来て、何故俺だけをバーチャル空間から強制ログアウトさせたのかは、斎王の腕にあるデュエルディスクを見れば何となくだが予想は出来る。

「何か聞き出したいのなら……これで聞き出すのが我々のルールでしょう?」

 これで、とは、今準備しているデュエルディスクを言っているのだろう……確かにそれは同感だ。

 意見が別れたなら、デュエルで決着するのが俺たちデュエリストのルールなのだから。

「俺が勝ったら、お前が何をしたのかを教えてもらう!」

「当然、あなたが負ければ光の結社に入ってもらいましょう」

 デュエルディスクを構えた対面の相手は、光の結社の首領……つまり、万丈目や光の結社構成員のように、倒した相手を光の結社の一員にする能力があるのだろう。

 明日香の為にも万丈目の為にも俺自身の為にも、絶対に負けるわけにはいかない……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
斉王LP4000

「私のターンから。ドロー」

 俺のデュエルディスクには『後攻』と表示され、先攻はまず斎王からとなる……本来ならば歓迎しないことだが、斉王のデッキを見極める為には必要経費もしれない。

「私は魔法カード《幻視》を発動。カードを一枚引き、相手に見せます……今から私が引くカード、それはあなたの分身とも言える運命のカードなのです……ドロー」

 怪しい占い師のような文句を言いながら、斎王がデッキから引き抜いた一枚のカード、その名は《アルカナフォース0-THE FOOL》という天使族のカードだった。

「そのカードが俺の分身だと?」

 《アルカナフォース》というカテゴリーのカードは、その名の通り大アルカナという、占いに用いるカードをモチーフにデザインされているカード群だ。
《アルカナフォース》というカード群にも大アルカナにも詳しくはない自分だが、THE FOOLの意味は……『愚者』だ。

「フフ……その引いたカードをデッキに戻してシャッフルします。そして、《アルカナフォースIII-THE EMPRESS》を守備表示で召喚します」

アルカナフォースIII-THE EMPRESS
ATK1300
DEF1300

 女帝を意味するのだろうジ・エンプレスの召喚により、斎王のデッキは【アルカナフォース】であることが確定する。
ザ・フールは他の天使族デッキにも入っているのだが、ジ・エンプレスは見たことがないからだ。

「アルカナフォースがあらゆる召喚に成功した時、運命のルーレットが回転します……さあ、あなたの手で運命を決めてください」

 エドといいこいつといい美寿知といい、最近やたら運命という言葉にこだわる人間に関わる……光の結社構成員がそう言うのも、何かしら関係があるのだろう。

「ストップだ!」

 斎王のフィールドで回っていた、ジ・エンプレスのカードが俺のかけ声で止まり、示したカードの位置は……正位置。

「これによりジ・エンプレスは正位置の効果を得ます。このままターンエンド」

「明日香たちのことを答えてもらう! 俺のターン、ドロー!」

 斎王に対して今なお腸が煮え繰り返そうだが、それではデュエルには勝てない、と頭は冷静に物事を捉えようとしている。
熱くなりすぎて焦っても何の得もない、いつも通りのデュエルをするためにも、もっとも信頼するアタッカーを召喚する。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアーATK1800
DEF800

 三つ叉の機械戦士が飛びだした瞬間、予期せぬタイミングで斎王が行動を起こした。

「この瞬間、《アルカナフォースIII-THE EMPRESS》の効果を発動します。『女帝』の正位置は豊穣を意味する――相手モンスターが通常召喚に成功した時、手札からモンスターを特殊召喚出来ます。《アルカナフォースXVIII-THE MOON》を特殊召喚」

アルカナフォースXVIII-THE MOON
ATK2800
DEF2800

 想定外の最上級モンスターの登場に驚く間もなく、アルカナフォース特有のルーレットが回転し始める。

「……ストップだ」

「運命が示したのは逆位置。よって、《アルカナフォースXVIII-THE MOON》は逆位置の効果を得ます」

 アルカナフォースは確か逆位置がデメリット効果だったはずだと思いだし、不幸中の幸いだと胸をなで下ろす。

「バトル! マックス・ウォリアーの攻撃力は400ポイントアップし、ジ・エンプレスに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 最上級モンスターであるザ・ムーンが召喚されようとも、俺がこのターンにやるべき行動はこれ以外にはない。
むしろ厄介な効果を持つジ・エンプレスだからこそ、早々にマックス・ウォリアーは戦闘破壊した。

斎王LP4000→3100

「マックス・ウォリアーはモンスターを戦闘破壊した時、攻撃力と守備力が半分になる。ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー」

 最上級モンスターがいる余裕だろう、ジ・エンプレスが破壊されてダメージを受けようとも、斎王は涼しい顔でカードを引いた。

「私は《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を召喚」

アルカナフォースVII-THE CHARIOT
ATK1700
DEF1700

 いくつもの触手が飛び出た戦車型の、アタッカークラスの攻撃力を持ったモンスターの登場に、内心で少し残念に思う。

「バトル。ザ・チャリオットでマックス・ウォリアーに攻撃。フィーラー・キャノン!」

 その身体から飛び出ている触手から放たれたビームに直撃し、マックス・ウォリアーは身体を貫かれた……後、ビームを発射した触手が伸びてマックス・ウォリアーを捕らえ、そのまま斎王のフィールドに操り人形のようにして引き寄せた。

遊矢LP4000→3100

「『戦車』のカードの暗示は『征服』。つまり、勝利して支配するというシンプルな思考を表すように、ザ・チャリオットが破壊したモンスターは私のフィールドに特殊召喚されます。マックス・ウォリアーでダイレクトアタック! スイフト・ラッシュ!」

 身体をビームに貫かれボロボロとなったマックス・ウォリアーが、その槍を俺の下へ突き刺してくる。
……コントロール奪取はどこぞの恋する乙女のおかげで慣れちゃいるが、あんなギャグのような演出じゃない限りは嫌いな方だ……仲間と戦わなくてはならないのだから。

「俺は《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了する!」

 手札から巨大となったかかしが飛び出し、マックス・ウォリアーの槍の連撃を防ぎきってバトルフェイズを終了させ、ザ・ムーンの追撃をも防ぐこととなった。

「ほう……ならエンドフェイズ。ザ・ムーンの逆位置の効果を発動。このカードのコントロールをあなたに譲渡します」

 斎王がそう宣言した途端、マックス・ウォリアーの代わりと言っては何だが俺の傍らにザ・ムーンが現れる。
俺のデュエルディスクに表示されたザ・ムーンの逆位置の効果を発動すると、エンドフェイズ時に相手にモンスター一体のコントロールを移す効果らしい。

「『月』のカードの逆位置の暗示は『徐々に好転』……あなたにその意味を贈りましょう。ターンエンド」

「そうかい……俺のターン、ドロー!」

 最上級モンスターを送りつけたあげく、多少不利でも徐々に好転するというメッセージを贈ってくるとは恐れ入る。

 シンクロ召喚を使う俺に下級モンスターを送るのは愚策であるし、俺のフィールドにいるというのはもしかすると最高の防衛策かもしれない。

「なら遠慮なく使わせてもらう! バトル! ザ・ムーンでザ・チャリオットに攻撃!」

 斎王のモンスターではあるが、今コントロールを得ているのは自分だ。
攻撃力はマックス・ウォリアーより低いものの、優秀な効果となにうえ《アルカナフォース》と名の付いたモンスターであるザ・チャリオットに狙いを定め、巨大な手のひらでビンタして破壊いた。

「フ……」

斎王LP3100→2000

「更にメインフェイズ2、ザ・ムーンをリリースして《ドドドウォリアー》をアドバンス召喚!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

 確かに機械戦士には上級モンスターは少ないが、無論いないわけでもない……かなり久々にアドバンス召喚した気がする、斧を持った機械戦士によってザ・ムーンが斎王の元へ帰るのを封じ込めた。

「俺はこれでターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 自分のフィールドには、アルカナフォースと何のシナジーもないモンスターである、マックス・ウォリアーだけだというのに妙に余裕そうに斎王はカードを引く。

「あなたはザ・ムーンを乗り越えモンスターを召喚する……その運命はやはり変わりません。私はマックス・ウォリアーをリリースし、《アルカナフォースXII-THE HANGED MAN》をアドバンス召喚」

アルカナフォースXII-THE HANGED MAN
ATK2200
DEF2200


 木に吊らされたアルカナフォース……ザ・ハングドマンの名の通りの姿をしたカードが現れ、アルカナフォース特有の効果によって回転が始まった。

「ストップだ」

「逆位置……よって、ザ・ハングドマンは逆位置の効果を得ます」

 アルカナフォースというカテゴリーは、ザ・ムーンを見る限り逆位置が出た時のデメリットが凄いようなので、よし、と内心で一息ついた。

「ハングドマンの逆位置は『自暴自棄』……自暴自棄となった修行者は狂い始めました。ザ・ハングドマンの効果発動。一ターンに一度相手モンスターを選択し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えます」

「なっ……!?」

 どうやら逆位置の効果を聞く限り、逆位置の方がメリット効果であったようだ。

 それにしても、ザ・ムーンをこちらに送りつけてリリースさせて上級モンスターを召喚させ、ザ・チャリオットの効果で奪ったマックス・ウォリアーを使ってアドバンス召喚したザ・ハングドマンでバーンダメージを与えるという、斎王の一連のコンボ。
鮮やかに決まってしまった自分が情けないが、《アルカナフォース》三体のルーレットが一体でも外れていれば、コンボが瓦解するどころか俺が斎王を倒していてもおかしくはない。

 そんなコンボが狙って出来るなんて、未来でも見えない限り――と、思った後、一つの単語が頭の中で閃いた。

 『運命』、と。

「私は、ザ・ハングドマンの効果で《ドドドウォリアー》を選択。2300ポイントのダメージを受けてもらいましょう」

 効果ダメージを与えた後のザ・ハングドマンのダイレクトアタックにより、俺のライフは0になる……いや、もしも斎王に自分と自分のカードの運命が見えているのだとしても。

「俺は手札の《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! ザ・ハングドマンの効果を無効にする!」

 運命だろうが何だろうが、俺の手札まで見れるわけがない。

 ラッキーカードが斎王のフィールドの吊された男――ザ・ハングドマンを包み込み、ドドドウォリアーを守り抜いた。
「なるほど……カードを一枚伏せ、ターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 今引いたカードをチラリと確認すると、そのままデュエルディスクにセットした。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー! そして、墓地に捨てた《リミッター・ブレイク》の効果発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 俺のいつもお決まりのコンボが決まり、マイフェイバリットカードがデッキから特殊召喚される……もちろん、これだけじゃない。

「さらに《ドリル・シンクロン》を召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 ドリル・シンクロンの通常召喚により、フィールドにチューナーモンスターと非チューナーモンスターを揃えた……やることは一つ。

「レベル2の《スピード・ウォリアー》と、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 ドリル・シンクロンの身体についているドリルが高速で回転し始め、そのまま三つの光の輪となりスピード・ウォリアーを包み込む……合計レベルは、5。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 傷だらけの機械戦士、スカー・ウォリアーが短剣を構えながらシンクロ召喚される。

「バトル! ドドドウォリアーでザ・ハングドマンを攻撃! ドドドアックス!」

 ドドドウォリアーからしてみれば久々の単独での出番だが、その斧による一撃は変わらずザ・ハングドマンを切り裂いた。

斎王LP2000→1900

「更に、スカー・ウォリアーで斎王にダイレクトアタック! ブレイブ・ダガー!」

「リバースカード《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローします」

 スカー・ウォリアーの肉迫してからの短剣による攻撃は、斎王の前に現れたカード達に阻まれてしまったが、厄介なザ・ハングドマンを倒せただけでも良しとしよう。

「カードを一枚伏せ、俺はターンエンド」

「私のターン。ドロー……《カップ・オブ・エース》を発動します」

 アルカナフォースではない魔法カードまでも斎王の前で回り始めだが、これは俺がストップと告げるものではなかったようで、自動で正位置に止まっていた。

「《カップ・オブ・エース》の正位置の効果、二枚ドローします。更に《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》を通常召喚」

アルカナフォースI-THE MAGICIAN
ATK1100
DEF1100

 攻撃力はスカー・ウォリアーにもドドドウォリアーにも適わないにも関わらず、攻撃表示での召喚。
なんとかルーレットでデメリット効果を出してやりたいところだが、俺がストップと告げてザ・マジシャンが止まったのは、おそらくはメリット効果である正位置だった。

「そして魔法カード《スート・オブ・ソード・X》を発動」

 そのカードの発動と共に斎王と俺の間に無数の刀が突き刺さっかと思えば、スート・オブ・ソード・Xのカードがまたもや回転を始める。

「運命が示すのは正位置。スート・オブ・ソード・Xの正位置の効果は、あなたのフィールドのモンスターを全て破壊します」

「なに!?」

 スート・オブ・ソード・Xの発動時に大地に突き刺さった刀が動きだし、俺のフィールドのスカー・ウォリアーとドドドウォリアーを滅多差しにして破壊する……今正位置になるのも、それは運命だというのか。

「そしてザ・マジシャンの効果。魔法カードを使ったターン、このカードの攻撃力は倍になります」

 ……ザ・マジシャンの元々の攻撃力は1100という大したことが無い数値だが、その倍の2200となれば話は別だ。
しかも俺のフィールドにモンスターはおらず、《速攻のかかし》は既に使ってしまっている。

「バトル。ザ・マジシャンで君にダイレクトアタック。アルカナ・マジック!」

「ぐあああっ!」

遊矢LP3100→900

 ザ・マジシャンの魔法のような一撃でライフは大きく削られ、900というデッドラインまで迫ってしまう。

「私はカードを一枚伏せてターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 斎王のフィールドには、攻撃力が戻ったアルカナフォースI-THE MAGICIANが一体に、伏せてあるリバースカードが一枚。
対する俺のフィールドだが、《速攻のかかし》は使用済みでリバースカードが一枚だけと、どうにも頼りない。

「《貪欲な壺》を発動! 墓地からモンスターを五枚デッキに戻し、二枚ドロー!」

 起死回生を賭けてのドローソースで引いたカードを確認すると、またもやドローソースではあったものの、充分展開の足がかりとなるものであった。

「更に《ブラスティング・ヴェイン》を発動! 俺のフィールドのセットカードを破壊して更に二枚ドロー!」

 永続罠を破壊して二枚ドローする、《マジック・プランター》の相互互換とも言えるこのカードであるが、こちらはセットカードを破壊するという点が大きく違っている。

「破壊したセットカードは《リミッター・ブレイク》! 効果はさっきと同じだ、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアアッ!』

 《貪欲な壺》の効果で墓地に送られていたカードの一つであったが、再びデッキからフィールドに特殊召喚される……そして、手札の特殊召喚がトリガーのカードが起動する。

「スピード・ウォリアーが特殊召喚に成功したため、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキから更にスピード・ウォリアーを特殊召喚する!」

「ならば私も、ザ・マジシャンを二体守備表示で特殊召喚しましょう」

 デッキから特殊召喚されたマイフェイバリットカード三体と、アルカナフォースの魔術師三体がフィールドで睨み合っている。

 だが、俺はまだ通常召喚をしちゃいない。

「チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚し、チューニング!」

 《スピード・ウォリアー》と同じように、《貪欲な壺》の効果で墓地からデッキに送っていたラッキーカードを召喚し、即座にシンクロ召喚へと移行する。

 そしてラッキーカードとマイフェイバリットカードのこの組み合わせは、俺が始めてシンクロ召喚をした時に使った組み合わせと同じだった――シンクロ召喚するモンスターまでも。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色のアーマーを付けた機械竜の登場に、攻撃力という点においてはフィールドを完全に制圧する……更に効果によって、まだ上がることも確定済みである。

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! さあ、お前が言う運命のカードとやらを選ぶんだな!」

「……左のカードにしましょう」

 アルカナフォースのルーレットにより正位置か逆位置か、つまり運命を相手に選ばせる効果の意趣返しの意味も込めて発動したパワー・サーチにより、目当ての装備魔法を手札に加えることに成功する。

「装備魔法《団結の力》をパワーツール・ドラゴンに装備し、バトル! パワーツール・ドラゴンで攻撃表示のザ・マジシャンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「く……」

斎王LP1900→1000

 ザ・マジシャンの正位置の効果がなければ、斎王のライフポイントを削りきることが出来ていたものの、どうやらザ・マジシャンの効果は俺の……つまり相手ターンにも発動するようで、俺のライフとほぼ並ばせるだけに留まった。

 《地獄の暴走召喚》で特殊召喚されたザ・マジシャン二体が懸念材料ではあるが、それはまあ良しとしよう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー。伏せてあった《ペンタクル・オブ・エース》を発動。正位置の効果のため、500ポイントのライフを回復し、一枚のカードをドローします」

 伏せてあったのは、どうやらブラフだったらしい魔法カード《ペンタクル・オブ・エース》。
当然のように正位置を当てた斎王は一枚ドローし、新たな魔法カードをディスクへとセットした。

「魔法カード《運命の選択》を発動。相手は私の手札からカードを一枚選び、そのカードがモンスターであった場合、私のフィールドに特殊召喚される……さあ、運命の選択の時間です」

 十代が多用する《ヒーロー見参!》の、魔法カード版の相互互換カードの登場に、斎王のデッキには運命を相手に選ばせる効果ばかりなのか、と辟易する。

「一番右のカードにする」

「これがあなた自身が選んだ運命のカード、《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》を特殊召喚」

アルカナフォースIV-THE EMPEROR
ATK1400
DEF1400

 皇帝を意味するアルカナフォース、ジ・エンペラーの登場に、最上級モンスターの特殊召喚というもっとも恐れた事態にならなかったことに安堵し、回り始めたジ・エンペラーに対して「ストップ」と宣言した。

「位置は正位置。ジ・エンペラーの正位置の効果は、フィールドのアルカナフォースの攻撃力を500ポイントアップさせます」

 皇帝のくせに、ザ・チャリオットやザ・エンプレスに比べると随分地味な効果であったし、《団結の力》などを使わない限りは俺のパワーツール・ドラゴンへは届かない。

 だが、斎王のフィールドにモンスターは三体おり、未だに通常召喚の権利は残していて【アルカナフォース】は上級モンスターで攻めるデッキ。

 ここまで不安要素がある状況も、むしろ珍しい……!

「私はザ・マジシャン二体をリリースし、最強のアルカナフォース、《アルカナフォースXXI-THE WORLD》をアドバンス召喚します」

アルカナフォースXXI-THE WORLD
ATK3100
DEF3100

 最強のアルカナフォース……大アルカナの終わりを告げる『世界』の暗示のカードに相応しいステータスであり、ジ・エンペラーの正位置の効果によって、更に500ポイントアップして《団結の力》を装備したパワーツール・ドラゴンの攻撃力を超える。

「ストップだ!」

 俺のせめてもの抵抗もあざ笑うかのように、斎王が言う運命とやらでザ・ワールドも正位置となって止まった。

「フフ……バトル。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンに攻撃します。オーバー・カタストロフ!」

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! このカードに装備された魔法カードを墓地に送ることで、破壊を免れる! アーマード・イクイップ!」

遊矢LP900→600

 当然破壊を免れても戦闘ダメージは受けるが、今パワーツール・ドラゴンが破壊されれば、俺はジ・エンペラーにダイレクトアタックをくらってしまう。

 パワーツール・ドラゴンがいるのならば、次の自分のターンに攻撃力をアップさせる装備魔法か《魔界の足枷》のような装備魔法を手札に加えられれば、斎王に対抗策がなければ俺は勝利出来る。

「ジ・エンペラーは攻撃出来ませんね、メインフェイズ2に移行し、墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動します。ザ・ワールドのレベルを二つ下げ、レベル・スティーラーを二体、墓地から特殊召喚」

 俺の《手札断殺》の時に墓地へ送っていたのだろう、墓地からザ・ワールドの身体を突き破って、レベルを一つ奪って特殊召喚される昆虫の姿は、斎王のデッキで始めて見るアルカナフォースではないモンスターだった。
ほぼノーコストで下級モンスターを並べることが出来る、その効果は特筆に値するが、通常召喚権を無くしているこのタイミングで、それに何の意味があるのだろうか。

「そしてエンドフェイズにザ・ワールドの正位置の効果を発動。私のフィールドのモンスターを二体墓地に送ることで、あなたの次のターンをスキップします」

「な……何だと!?」

 ターンのスキップ。
その行動によって起きる恩恵は説明不要な程にあるだろうが、まさかそんな効果があるとは夢にも思っていなかった。

「《レベル・スティーラー》二体をリリースし、時よ止まれ、ザ・ワールド!」

 機械造りの昆虫二体をリリースするという代償によって起動したザ・ワールドの効果により、ドローフェイズを示すはずの俺のデュエルディスクは、まさに時が止まったように動かない。

「これにより、もう一度私のターン。ドロー」

 ターン自体が飛ばされてしまっては、パワーツール・ドラゴンの効果を発動するとかしないとかそういう話ではない。
確か《レベル・スティーラー》の効果は、指定したモンスターのレベルが4になれば発動不能だったはずなので、それまで他に上級モンスターが現れないことを祈って耐え抜くしかない。

「私はザ・ワールドのレベルを下げ、墓地から《レベル・スティーラー》二体を特殊召喚し、更に《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を通常召喚します」

アルカナフォースVI-THE LOVERS
ATK1600
DEF1600

 後はザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンを攻撃すれば良いだけだろうに、念には念を入れてだろうか、斎王は『恋人』を暗示するカードとレベル・スティーラーを大量展開した。

「ストップだ」

 ザ・ラバーズを示すルーレットは正位置で止まったが、斎王はさして興味も無さそうに次のフェイズへと移行した。

「バトル。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンに攻撃。オーバー・カタストロフ!」

「リバースカード、《リミット・リバース》を発動! 墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 ラッキーカードが墓地から特殊召喚されたことにより、斎王のバトルフェイズに巻き戻しの処理が入る。
斎王は少し考えるポーズをとったものの、数秒後には元の行動をそのまま実行した。

「私の運命は変わりません。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンを攻撃。オーバー・カタストロフ!」

「もう一枚のリバースカード《緊急同調を発動! レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 バトルフェイズ中にシンクロ召喚出来る罠カード《緊急同調》により、ラッキーカード同士がシンクロ召喚の体勢に入る。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2500

 エフェクト・ヴェーラーがパワーツール・ドラゴンを包み込み、その身体が紅い炎に包まれていき、装甲板が外れていった。
機械の装甲を外し、パワーツール・ドラゴンは神話の龍のような姿へと進化する。

 ライフ・ストリーム・ドラゴンは守備表示でシンクロ召喚されたため、攻撃力がザ・ワールドに劣っていてもダメージなどはない。
更に、曲がりなりにもシンクロ召喚に成功したため、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果が発動する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

 出来るだけ高く飛び上がったライフ・ストリーム・ドラゴンが光を発し、その光に触れるとみるみるうちにデッドラインだったライフが初期値まで回復していく。

「なるほど……これがライフ・ストリーム・ドラゴンですか……それでも、私の運命は変わりません。ザ・ワールドでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! オーバー・カタストロフ!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果発動! 墓地の装備魔法を除外することで、破壊を無効にする! 俺は《団結の力》を除外!」

 シンクロ素材であるパワーツール・ドラゴンともシナジーがある第二の効果だが、今回のデュエルはあまり装備魔法を使わなかったせいで、墓地にある装備魔法は今の《団結の力》で打ち止めだ。

「私のエンドフェイズ、《レベル・スティーラー》二体をリリースし、ザ・ワールド! まだ私だけの時間です」

「チッ……!」

 俺のデュエルディスクはまたもや反応せず、次なるターンは斎王に移るが、もうザ・ワールドのレベルは4の為にもう《レベル・スティーラー》は墓地から特殊召喚されない。
しかし、斎王のフィールドにはザ・ラバーズとジ・エンペラーがいるため、最低でも後一回は俺のターンは飛ばされてしまう。

「私のターン。ドロー。このままバトルに入ります」

 ドローしたカードの確認もそこそこに斎王はバトルに入ると、ザ・ワールドにライフ・ストリーム・ドラゴンへの攻撃を命じた。

「ザ・ワールドでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! オーバー・カタストロフ!」

 もう墓地に装備魔法は無いためにライフ・ストリーム・ドラゴンは発動出来ず、本来はただ破壊されるだけであるが、ザ・ワールドの攻撃とライフ・ストリーム・ドラゴンの間に盾の機械戦士が飛びだした。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、戦闘破壊を無効にする!」

 ザ・ワールドの攻撃をライフ・ストリーム・ドラゴンの代わりに墓地から現れたシールド・ウォリアーが受け、ライフ・ストリーム・ドラゴンは破壊を免れた……たかが一ターン程度の気休めに過ぎないことは解っているが、やらないよりは遥かにマシである。

「……まだ策があるとは、流石。エンドフェイズにザ・ラバーズとジ・エンペラーをリリースし、時よ止まれ! ザ・ワールド!」

 これで三回目のターンスキップであるが、斎王はこのターン通常召喚を行わなかったことにより、《死者蘇生》によってモンスターを蘇生でもしない限りは二体のモンスターを出すことは出来ない。

「私のターン、ドロー。《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を召喚」

 二回目の登場となる『恋人』の暗示となるザ・ラバーズの登場だが、たかだか攻撃力1600のモンスターであったことにひとまずは安堵する。

「……ストップだ」

「正位置の効果。そして念には念を入れ、通常魔法《魔術師の天秤》を発動。フィールドのアルカナフォースをリリースすることで、デッキから魔法カードを手札に加える……私が手札に加えるのは、当然《スート・オブ・ソード・X》!」

 先のターンで《スカー・ウォリアー》と《ドドドウォリアー》を破壊した、二分の一で禁止カードの《サンダー・ボルト》と同様の効果を得る魔法カード、《スート・オブ・ソード・X》。
もはや破壊を免れる効果はなく、正位置の効果が出れば最後、ザ・ワールドのダイレクトアタックをその身で受けることとなってしまう。

「《スート・オブ・ソード・X》を発動! 位置は……当然正位置! 君の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を破壊する」

 ……俺の願いは虚しく斎王の運命とやらに敗れ去り、スート・オブ・ソード・Xの剣は、抵抗もさせずにライフ・ストリーム・ドラゴンを刺し貫く。

「バトル。ザ・ワールドでダイレクトアタックします。オーバー・カタストロフ!」

「ぐあッ!」

遊矢LP4000→900

 最強のアルカナフォースの攻撃の直撃を受け、ほぼ一気にライフ・ストリーム・ドラゴンの効果で回復したライフの分を無意味にされる。

 もう斎王のフィールドにはザ・ワールド以外のモンスターはいないため、俺のターンを止めることはもう出来ない。
だが、俺のフィールドにはザ・ワールドの効果によるラッシュのせいで何もなく、斎王のフィールドには最強のアルカナフォース、ザ・ワールドがいる。

「私のターンはこれで終了。さあ、あなたのターンです」

「俺のターン、ドロー!」

 ザ・ワールドの効果によって飛ばされ続け、待ちに待った俺のターンがやってくる。
そして、デッキからドローしたカードも俺の意志に応えてくれる……!

「俺は《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 マイフェイバリットカードとライフ・ストリーム・ドラゴンが融合し、俺のフィールドに降り立つ槍を持った竜騎士。
その攻撃力は3200という数値であり、たかが100だけだろうとザ・ワールドよりは上を行っている。

「このターンで終わらせるぞ斎王! 通常魔法《フォース》を発動! ザ・ワールドの攻撃力を半分にし、俺のドラゴエクィテスの攻撃力にその数値を加える!」

 ザ・ワールドからエネルギーが吸い取られていき、それらは全てドラゴエクィテスに吸収される。
斎王のライフポイントは残り1500ポイントだが、これで充分にザ・ワールドを倒しながら斎王のライフを0にすることが出来る。

「バトル! ドラゴエクィテスでザ・ワールドに攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 力を失ったザ・ワールドに対して充分以上に力を付けたドラゴエクィテスが槍を投げ、ザ・ワールドの身体の中心を貫いた。
だが、俺が墓地で発動した《シールド・ウォリアー》のようにザ・ワールドの前に新たなアルカナフォースが出現した。

「手札の《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》を墓地に捨てることで、私は戦闘ダメージを0にすることが出来ます」

 ここで『節制』を意味する暗示のカードである、あの《クリボー》の相互互換カードの登場と、それを予測していなかった自分の未熟さに舌を巻く。

「くっ……だが、最強のアルカナフォースのザ・ワールドは倒してやった。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。二枚目の《カップ・オブ・エース》を発動し、ルーレットが回転します……正位置。よって二枚ドロー」

 ルーレットがあるとはいえ、斎王が言うように運命が決まっているということが本当ならば、アレはただ《強欲な壷》と何ら変わることはない。


「フフ、確かに私のデッキの切り札は、今はザ・ワールドです。しかし、このデュエルはあなたの分身の手で決着がつく運命です」

 ……俺の分身? というと、まさか一ターン目で言っていたアルカナフォースのこと、か……?

「私は《アルカナフォース0-THE FOOL》を召喚」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 一番最初の斎王のターンで魔法カード《幻視》によってデッキからドローされ、そしてその幻視でデッキに戻された、斎王が俺の分身だと語る『愚者』の暗示のカードである。

 攻撃力・守備力ともにゼロだが、完璧な戦闘破壊耐性があるため【アルカナフォース】だけでなくただの【天使族】にも入る優秀なカードだ。

 だが、いくら壁モンスターとして優秀なカードであろうとそれを活かせない攻撃表示での召喚で、そもそも壁モンスターではドラゴエクィテスには適うまい。

「魔法カード《幻視》の効果発動。このカードの効果でドローしたカードがプレイされた時、あなたに1000ポイントのダメージを与えます!」

 ザ・フールの元へエネルギーが集まっていき、収束して一本のビームのようになって俺の元へ向かってくる。

 なるほど、斎王が言う俺は分身といえるカードで負ける運命、というのはそういうことかと納得する……だが、その運命は間違っているらしい。

「ドラゴエクィテスの効果発動! 効果ダメージを受けるとき、そのダメージは相手プレイヤーが代わりに受ける!」

「……なっ!」

 ザ・フールから放たれたエネルギー波はドラゴエクィテスの槍に集まっていき、ドラゴエクィテスが斎王に槍をかざすとエネルギー波は斎王へと向かっていった。

斎王LP1500→500

 魔法カード《ペンタクル・オブ・エース》の効果で500ポイント回復しただけ斎王のフィールドは残ったのが、少々残念ではあったが、恐らく《幻視》の効果を使用するために攻撃表示にしたザ・フールを攻撃すれば俺の勝ちだ。
ザ・フールを表側守備表示で召喚しなかったのは、命取りのプレイミスだったようだ。

 しかし、斎王の表情には何ら絶望した様子は感じられす、未だに不敵な笑みを見せたままだ……本当に言うように、ザ・フールが俺を倒すことが運命なのだろうか。

「……ザ・フールが召喚に成功したため、運命のルーレットが回転します」

「ストップだ」

 忘れていたが《アルカナフォース》の召喚時に発動するルーレットが回転し、ザ・フールが逆位置でストップする。

「少々の誤差はあれど言った通り、あなたの運命はあなたの分身によってここで費えることになる……バトル!」

「バトルだと!?」

 斎王が言葉に出した予想外の言葉に驚愕するが、《アルカナフォース》の属性を鑑みればもはや斎王の手札から来る可能性は一つしかない。

「私は手札から《オネスト》を発動。ザ・フールの攻撃力をドラゴエクィテスの攻撃力分アップさせます」

 成人男性に翼が生えたような天使が一瞬現れた後、そのままザ・フールの中に入ってその翼をザ・フールに移した。
ザ・フールの攻撃力は0のため、《オネスト》を使用しても攻撃力は戦闘しているドラゴエクィテスと同等だが、ザ・フールには戦闘破壊耐性がある。

 ドラゴエクィテスがその槍をザ・フールに突き刺すことに成功するものの、ザ・フールにはまるで堪える様子がなく、突き刺されたことを利用したゼロ距離からのエネルギー波によってドラゴエクィテスは破壊されてしまう。

「ドラゴエクィテス……!」

 竜騎士は破壊されてしまったものの、ザ・フールは次の俺のターンには攻撃力は0に戻る。
今俺の手札にモンスターはいないが、俺が攻撃力500以上のモンスター、もしくはそれを用意するカードを引いて攻撃出来れば、俺はこのデュエルに勝利出来る。

「これなら……!」

「いいえ、言った筈です。あなたの分身によって費えるのがあなたの運命だと。通常魔法《アルカナティック・デスサイス》!」

 斎王が魔法カードを発動すると、俺の首の前に巨大な死神の鎌が出現してその場に静止する。
名前から察するに『死神』を暗示するカードであり、嫌な予感をひしひしと感じさせて死神の鎌を前にして一歩も動けない。
「『終末』を意味する死神の鎌……フフ、『愚者』にはもったいない暗示ですね。アルカナティック・デスサイスの効果は、《アルカナフォース》と名の付くモンスター一枚をデッキから墓地に送ることで、このターン戦闘破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 このターン戦闘破壊されたモンスターはもちろんドラゴエクィテスであり、俺のライフポイントは僅か900で効果ダメージを反射する効果を持ったドラゴエクィテスは前述の通り破壊されたのだ。

「さようなら、愚者。そしてようこそ、光の結社へ……!」

「うわあああああッ!」

 俺の前で静止していた死神の鎌が動き出し、そのまま勢いをつけて俺の首を狩り取った――

遊矢LP900→0
 
 

 
後書き
「『世界』ッ! 時よ止まれ!」
「『THE WORLD』 オレだけの時間だぜ」

……別に声優ネタをする気ではなかったのですが。
解らない方はそのままスルーしてください。

では、感想・アドバイスをお待ちしています。 
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