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第十話 騎士姫の受難
前書き
約一週間ぶりです。
今回はアスナに視点を置いた話です。
このデスゲームが始まってもうすぐ一年が経とうとしていた。
ゲームもようやく半分を過ぎようとしているころ、私は一人夜のクエストに出かけていた。
私がこのゲームをプレイしたきっかけと言うのは、両親によるエリート教育の気晴らしという意味が強かった。
父は大手電気機器メーカーのCEO。母は大学教授という、世間一般で言う良家である。
私は両親の求めるままの道を進んできた。
だが両親に従うままに進む一方で、自分の世界が狭くなってきた気がしたのだ。
私はそんな現実に恐怖心を抱き現実から逃げ出したくなった。
そんな時、ナーヴギアを用いた初のフルダイブVRMMO「ソードアート・オンライン」が発表された。
私には現実を一瞬でも忘れさせてくれるであろうそのゲームにこの上ない魅力を感じた。
当然親はそんなものくだらないと一蹴するであろう。
だがそんな折、SAOを購入していた兄に急な出張が入った。
私は兄に頼んでナーヴギアとSAOを貸して貰い、このゲームをプレイさせてほしいと頼み込みこのゲームに足を踏み入れた。
だがこの事で私の運命は一転することとなった。
命を賭けたデスゲーム。
それはこの世界で死ぬことは現実世界の私も死ぬことを意味していた。
しかも一年が経とうとしているのに、まだ半分も攻略されていない。
つまりこのゲームをクリアするには最低で二年の歳月が必要だということだ。
それは私が今まで親に望まれて歩んできた道から脱落することを意味していた。
だから私はがむしゃらに戦い続けた。
ただ自分の中の恐怖心をかなぐり捨てるかのように攻略にすべてを捧げた。
結果、私は「血盟騎士団」の副団長に就任することができ、「閃光」という称号も手に入れた。
だが私が必要としているのは名誉でも称号でもない。
それは攻略のための足掛かりでしかないのだから。
私はそんなことを考えながら目の前に出現するモンスターをただひたすら狩り続ける。
私が今挑んでいるクエストは、そこまで難易度が高くなく容易にクリアでき、その上かなりの報酬が手に入るというものであった。
過去にも何人かこのクエストには挑んでおり、大多数のプレイヤーがこのクエストを成功させ資金の調達をしている。
私もそのプレイヤー達に習い、時間が空いておりプレイヤーの少ない夜にこのクエストに挑んでいた。
いくら攻略に専念しているとはいえ、人間というのは普通に生活するだけでもお金がかかる。
だから私は寝る時間を惜しんでこのクエストを攻略しようと考えたのだ。
「ふう…さすがに数が多いわね」
私は次から次に出てくるモンスターに思わずぼやく。
今出てきているモンスターは“サーベルヴォルフ”という狼のようなモンスターである。大きさは現実の虎と同じぐらい。
だが口からは明らかに獰猛そうな鋭い牙が覗いていた。
それでもモンスターとしてはあまり強い方ではなく、むしろ経験値稼ぎに使われるようなモンスターである。
なので、私も次々と湧いてくる“サーベルヴォルフ”を倒し闘い続けた。
全てはゲームクリアのために。
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クエスト開始から一時間。
私は違和感を感じ始めていた。
今回のクエストはこの“サーベルヴォルフ”を五十体倒せばクリアというものなのだが、私は既に少なく見積もっても百体は倒していると思う。
なのに“サーベルヴォルフ”の数はいっこうに減らず、むしろ増えてるように見える。
私もそろそろ疲労がたまり始めていた。
実際の体は現実世界にあり、もちろん疲れるはずは無いのだが脳は働き続けているので疲労も感じる。
「なんでこんなに出てくるのよ…」
私もさすがに弱音を吐いてしまう。ここまで数が多いとは想定外だ。
私はここまで苦戦することは予想しておらず、転移結晶は用意していない。
なので、このクエストを攻略するしか私には道がない。
二百体は倒したであろうか。
出てくる“サーベルヴォルフ”も徐々に減ってきた。
持ってきていた回復ポーションも底をつき、私はすでに二時間は戦い続けていた。
体力的、精神的にもそろそろ限界だ。
すると、モンスターのポップが止まり、私の周りを囲んでいたオオカミたちも脱兎の如くその場を去って行った。
「え…、どういうこ……!!」
私は何が起こったか分からずしばし呆然としていたが、その意味がすぐに分かった。
圧倒的威圧感を放つ何かが私の前に躍り出た。真っ黒な“サーベルヴォルフ”。
だが大きさは通常よりも四倍近くある。
そしてHPバーは四本ありその隣には“カオスヴォルフ”と表記されていた。
「クエストボス……」
私は震える声でそう呟いた。
このクエストはボスが出てくるほど難しいクエストとは聞いていなかった。
このクエストをクリアしたプレイヤーは皆、昼間に何人かのパーティを組んでこのクエストに挑んでいた。
このクエストを夜間に行ったというプレイヤーは聞いていない。
つまり、このクエストは昼と夜で難易度が大幅に変わってくるということだ。
私は茫然と見上げていると“カオスヴォルフ”は悠然と私を見下げている。
そして、
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
お腹の底に響くような遠吠えを発した。
そして“カオスヴォルフ”は僅かに屈むと目にも止まらぬ速さで私に突進してきた。
「グォラァァァァァァァァァ!!!」
「く…あ…!」
“カオスヴォルフ”は私にその鋭い爪で襲いかかってきた。
私は辛うじてその攻撃を受けるが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされてしまう。
そしてそのままエリア内の木に叩きつけられた。
「ゴホッゴホッ……!」
思わず大きく咳込む。だが黒き狼は攻撃の手を緩めない。
「ヴォルゥゥゥゥゥゥゥアァァァァァァァァ!!!!!」
「グ…グゥゥゥゥ!」
私は爪で切り裂かれ、前脚で殴られ、ふき飛ばされる。
切り裂かれた場所からは血のようなエフェクトが出て、着ていた“Kob”の制服もボロボロになっている。
私の体はもう限界だ。勝機がないのは明らか。
だからと言って私に諦めるつもりなど毛頭ない。
私はよろよろ起き上がると“カオスヴォルフ”にレイピアの切っ先を向けた。
黒き狼は私が起き上がるのを待っていたかのように飛びかかってきた。
そしてまたその鋭い爪で切りつけてきた。
私はそれを最小限の力で受け流す。
だが狼の武器は爪だけではない。
爪が受け流され私が反撃しようとした瞬間…
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
黒き狼はその鋭い牙で私に噛みついてきた。
私は咄嗟にレイピアを前に突き出す。
「ひぐ……く…ぎ……!」
ガキン!!!
甲高い音が響いた。
バリボリガリゴリボリガリバリボリボリボリボリボリ……
私の突き出したレイピアは狼の口の中に吸い込まれる。
だがその瞬間、黒き狼はその牙で私のレイピアをかみ砕いた………。
「あ……あぁぁぁぁぁぁ……」
この瞬間、私の中で何かが壊れた。
敵わない…。
この獣に私は殺される。
私はその場にへたり込んでしまう。
黒き獣は私のレイピアを噛み砕くと、勝利を確信したのか、私にゆっくりと近づいてくる。
私が、私でいるため。
最初の街の宿屋に閉じこもって腐っていくくらいなら、最後の瞬間まで自分のままでいたい。
たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界にだけは負けたくない・・・。
そう思って私はここまで戦ってきた。
自分が自分であるために、この世界にだけは負けたくないと思って。
だがそれもここまでのようだ。
私はこの獣に殺される。
そして現実からも永久にログアウトする。
私はその場に倒れ込んだ。
全てを時の流れに任せるように。
きっとあの獣はあの鋭い牙で私を噛み殺すであろう。
私はこの世界で起こった事を走馬灯のように思い出していた。
始まりの街で茅場晶彦からデスゲーム宣言を受けた時のこと。
第一層攻略戦で一人のプレイヤーと共に協力してボスを倒したこと。
ヒースクリフに声をかけられ“血盟騎士団”に入団したこと。
功績が認められて副団長に昇進したこと。
そして攻略会議でいつも意見がぶつかる第一層攻略の時、共に戦った剣士のこと。
様々なことが頭をよぎる。けれどなぜあの剣士の事を考えてしまうのだろう?
やはり意見が対立してばかりなのだから印象に残りやすいのだろうか?
そんな場違いなことを考えながら私は瞼を閉じてその時が来るのを静かに待つことにした。
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“君はそれでいいのかね?”
そんな声が聞こえた。
“君は自分の人生を終わりにしてもいいのかね?”
しょうがないじゃない。こんな状態じゃあの獣には勝てっこない。
“君は勝つ可能性が無いのなら諦めるのか?”
なら――――どうすればいいのよ―――
“では問おう。君は生を望むかな?”
え?
“生きる事、それを君は望むのかと私は尋ねている”
……
“それとも、諦めて自らの死を選ぶのか?”
……
“…君は死にたいのか?”
……
“抗いたくはないか?この世の不条理から、自らの運命から”
……
“このまま死を受け入れるか?”
…たくない…。
“…何?”
死にたくない!!
私はもっと生きたい!!
負けたくない!!!
この世界にだけは負けたくない!!!!
こんなところで…こんな終わり方は嫌だ!!
諦めるわけにはいかない。
私はこの世界にだけは負けたくない。
私は痛む体に鞭を打ち、辛うじて起き上がると強く叫んだ。
“ふむ、君は絶望的な状況にいながら自らの死を受け入れたくないのだな”
そう――私はまだ、生きたい。
“よろしい。その心の在り方に期待しよう”
え?
“君のような人間にふさわしいサーヴァントが残っている”
何を…
“さあ…健闘を期待する”
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硝子の砕けるような音がして、辺りが強い光に包まれた。
その光により獣は一瞬怯む。
痛む体をどうにか立ち上がらそうとするが体が言う事を聞かない。
座り込んだまま辺りを見回すと、地面には魔方陣のようなものが描かれていた。
光が収まり始めると、魔方陣の中央にいつの間にか何かが浮かび上がりつつあった。
その姿は、
外見はほとんど普通の人間と変わらない。
だが違う、明らかに。
ここへ来るまでに出会ったプレイヤーや敵などとは比べ物にならぬほどの、人間を超越した力。
触れただけでも蒸発しそうな、圧倒的なまでの力の滾り。
それが体の内に渦巻くのが嫌でも感じ取れる。
この感覚を私は体験したことがあった。
そう、それは第一層攻略戦で自らを“ビーター”と名乗ったプレイヤーが、銀の女騎士を召喚した時にも私は同じような感覚を体験した。
そして現在は、私が彼と同じ“サーヴァント”と言われる従者を召喚したのだった。
後書き
以上、次回は彼女が誰を召喚したのか、明かします。
Fate/EXTRA CCC 買いました。
いやー、ギルは相変わらず暴君でした。
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