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第九話 別れ
前書き
一か月更新できなくてごめんなさい。
リアルが忙しかったのと、なかなか筆が進まなかったのでものすごく遅れました。
あれから俺は黒猫団が泊っていた宿がある主街区へ何とか到着した。
ランサーは気を失ったサチを担ぎ俺の後ろを歩いている。
セイバーはランサーを警戒しつつ最後尾を歩いている。
「…………」
俺は声を発する事も出来ず、ただ無言のまま宿へと足を運ぶ。
正直、あそこでサチがランサーを召喚してくれなければ俺達は全滅していただろう。
だが、ギルドメンバーを一気に三人も無くした。
この状況では明るくふるまう事も出来ない。
むしろ明るくふるまえる奴がいたのなら、俺はそいつの正気を疑う。
やがて宿へと辿り着き、俺は無言のまま扉を開いた。
新しいギルドハウスの鍵をテーブルに載せ、俺達の帰りを待っていたケイタは、俺の後ろから入ってきたランサーを見ると、少し驚いたような顔をした。
「悪りぃな、嬢ちゃん気を失っているようだから先に寝かせておくぜ」
ランサーは、俺に部屋の場所を聞くと、そのまま二階へと上がって行った。
ここで、ケイタは俺にどういう事かを聞いてくる。
何故三人が死に、俺とサチとセイバーが生き残れた理由を、俺はケイタに話すことにした。
ケイタがギルドホームを買いに行っている間に少しでもコルを稼ごうと、迷宮区へと足を運んだ事。
そこはトラップ多発地域で俺やセイバーは知っていた事。
あの部屋でモンスタートラップに掛かり全員がピンチに陥った事。
セイバーのおかげでトラップを看破できたが、直後に現れたアサシンによって三人が殺された事。
俺達も殺されかけたが、ランサーのおかげで殺されず生き残れた事。
聖杯戦争の事については、セイバーが話すべきでは無いと判断し、ランサーはたまたま通りがかったソロプレイヤーという事にした。
ケイタはそのすべてを聞き、あらゆる表情を失い、黙って立ちあがった。
おぼつかない足取りでケイタは扉の前に立つ。
「……ビーターのお前が、僕達に関わる資格なんて無かったんだ」
ケイタはそう言うと、宿から飛び出した。
俺は急いで彼を追いかけるが、結局追いついた時には転移門から別の階層に跳ぶ直前だった。
急いでフレンドリストを確認し、行き先を確認するが、
フレンドリストには彼の名前はなかった。
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眼を覚ました私は、ランサーさんの後に続いて下の階へと続く階段を下りていた。
服は、あの時着ていたままで眠っていたが、今は楽な部屋着を纏っている。
階段下りている最中、疲れがたまっていたのか少しふらつく。
「大丈夫か嬢ちゃん。疲れてんのならまだ寝てたっていいんだぜ」
前を歩くランサーさんは、ふらつく私を見てそう言ってくれるけど、
「平気。私はもう大丈夫ですから」
今はキリト達の所に行ってあの後、何が起こったのかを聞きたい。
そして、今私の前を歩いているこの人、
ランサーさんが何故なにも無い所から現われたのかも気になる。
私がそんな風に物思いにふけっていると、一階に着いたようで椅子にキリトが座っていた。
奥の壁際には、セイバーさんが鎧姿で立っている。
「あ…サチ起きたのか」
私が部屋に入ると、キリトが力無く声を掛けてくる。
「あ…うん。ついさっきね」
「……そっか」
「…ケイタは?」
「っ……」
キリトがふと息を詰まらせた。
ケイタも既にこの宿へ帰ってきてるはずだ。
何があったのだろう。
いつもキリトはあまり多く話す方ではなかったが、ここまで憔悴しきっているのは初めて見る。
「んじゃ、そろそろ始めっか」
カラッとした声が部屋に響くと、声の主であるランサーさんはキリトの座っているテーブルの椅子にドカッと座った。
「坊主、お前が言いだしたんだからな。嬢ちゃんにちゃーんと説明するってよ」
「……」
そんなランサーさんとは対照的に、キリトは俯いたまま動かない。
「…キリト、よろしければ私から話しますが」
壁際で無言を貫いていたセイバーさんが、キリトに声を掛けるが、
「……いや、俺から話すよセイバー」
キリトはそう言うと、顔を上げ私の顔をまっすぐ見つめた。
「……サチ――今から話す事は全部本当の事だし、俺が今まで君に隠してきた事。そして、これから君が実際に関わる事だ」
いつになく真剣な顔をしてくるキリト。
キリトの前に座るランサーさんは腕を組みながら私の顔を見つめ、セイバーさんは眼を閉じながら壁に背を預けたまま。
私はその顔を見つめ、これからキリトが話す事を戸惑いながらも聞く事にした。
例えそれが、私の運命を動かす事になっても。
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俺はサチにすべてを話した。
俺がレベルを隠して黒猫団に入っていた事はもちろん、俺が聖杯戦争という殺し合いに参加している事や、サーヴァントについても全て包み隠さずに。
サチは俺の話を黙って聞いていたが、彼女の顔はどんどん青ざめていくのが分かる。
俺は一通りの事を話し終えると、再び顔を俯かせてしまう。
彼女の顔を直視するのが辛い。
「……これが、俺が今まで関わってきた事。そしてこれからサチが関わる事だ」
顔を俯かせたまま、最後に彼女に言う。
俺の目の前に座っている彼女の顔は見えない。
「……ちょ…ちょっと待ってキリト――殺し合い…って――そんなの嘘だよね。だってこのゲームで死んじゃったら――本当に死んじゃうんだよ」
サチは俺の前で必死に問いかける。
声質から泣きそうになっている事もわかる。
「嘘なんかじゃないぜ嬢ちゃん。坊主が言った事は大体あってる」
「……っ」
ランサーが追い打ちをかけるようにサチに言葉を投げ掛ける。
「嬢ちゃんは殺し合いに巻き込まれ、そして俺を召喚した。それは嬢ちゃんが巻き込まれただけの一般人から殺し殺される参加者に変わっちまったって事さ」
ランサーはサチに続けて言う。
サチは既に言葉を失っている。
それもそうだろう。
急に、『貴方は殺し合いに参加することになりました』と言われても実感なんてわかないし、信じたくもない。
「……でも――なんで、私が……なんで―――皆が殺されなきゃいけなかったの?」
「っ…」
「……」
サチは絞り出すような声で問いかけてくる。
俺は思わず唇を噛み、体を硬直させる。
見えないが、セイバーも反応を見せた。
彼女も皆を守り切れなかった事に悔いを感じているのだろう。
「……」
俺には何も言えない。
言っても全て言い訳になってしまう気がした。
ただ、沈黙する。
それしか今の俺には出来なかった。
「嬢ちゃん、アサシンの奴が何を考えて嬢ちゃんの仲間を殺したのかは分からねぇし、嘆く気持ちもわかる。だがな嬢ちゃん、今は自分が置かれている立場を理解しろ」
「…え?」
「嬢ちゃんは意識的にしろ、無意識的にしろ、俺という存在を呼び出し、聖杯戦争に参加しなきゃならねぇ立場になった。嬢ちゃんの意思に関係無くな」
「そ…そんな、私――」
「今はくよくよしていてもいい。だが、ここから先はマジな殺し合いの世界だ。覚悟を決めろ。じゃねぇと」
ランサーは一呼吸置き溜めると、
「死ぬぞ」
「……っ!!」
ビクリッとサチが体を震わした。
ランサーの一言は俺の心にも深々と突き刺さる。
俺は今まで舐めていた。
サーヴァントという存在、そして聖杯戦争を。
俺は最前線でずっとソロで戦ってきた。
他のプレイヤー達より頭一つ抜けた存在である事を俺は理解し、そしていつも俺の隣にいるセイバーの事を絶対的な存在だと考えていた。
だから、無意識にこのゲーム、そして聖杯戦争に舐めてかかっていたのだ。
だが、今回の一件でそれがすべて崩れ去った。
俺という存在はサーヴァント相手では無力でしかなく、セイバーも絶対的な存在ではない。
結果、俺は三人を殺してしまった。
俺が彼らにちゃんと本当の事を話していればこの悲劇は止められたのかもしれない。
今となっては悔やんでも悔やみきれない事だ。
「ランサー」
と、今まで沈黙していたセイバーが口を開いた。
「彼女もいきなり殺し合いに巻き込まれたと言われても、まだ混乱しているはずです。いきなり捲くし立てるのは得策ではない」
セイバーはそう言いながらランサーを見つめた。
ランサーは怪訝そうな顔をしながらもセイバーを見つめ返す。
「まぁ、そうだがよ、どうせ後から話すんだったら今話しても変わんねぇ気がするぜ」
「彼女はまだ自分が置かれている立場に、理解しきれていない。ならば、一度監督役の所へ出向き、聖杯戦争への参戦の意思を確認するのが先では」
セイバーはそう言い、サチへと視線を向けた。
監督役…。
つまりはあの教会にいる男、言峰綺礼だ。
最初に訪ねてから俺はあそこへ足を運んでいない。
何というか、なるべくあそこには近づきたくなかった。
いや、正確に言うと言峰綺礼と会いたくないのだ。
あの不気味な雰囲気、泥水の濁ったような眼、そして全てを見透かしたようなあの表情は、もう二度と見たくはなかった。
「監督役ねぇ…。まあとりあえずは、一度取り仕切ってるやつの顔も見てぇしな、行ってみるか」
そう言うとランサーは椅子から立ち上がり、グッと体を伸ばした。
「セイバー、監督役って…言峰綺礼の所へ行くのか?」
思わずセイバーに問いかける。
サチにあの男を合わせるのはなんだかマズイ気がした。
「ええ、一応聖杯戦争を取り仕切っているのはあの男です。何やら不穏な空気を出していますが、所詮監督役。危害を加えることは無いと思います」
セイバーは俺の考えていた事を察してくれたのか、そう答えた。
確かにあそこは圏内で、殺し合いが起きることはまず無い。
「ま、行くのは俺らだけだ。万が一何かあっても俺が付いてるからな。坊主達が気にするこたねぇよ」
ランサーは槍を肩にかけながら俺にそんな言葉を投げ掛ける。
そして、ランサーは俺から目をそらし
「で、嬢ちゃん。お前さんはいつまでそうしてるつもりだい」
自らのマスター、サチへと視線を移した。
「……」
サチは未だに黙ったまま視線を床へと落としている。
ランサーは、ハァーと息を吐くと俺に向き直った。
「セイバーに坊主、悪ぃんだが少し席を外しちゃくんねぇか。嬢ちゃんと二人で話したくてよ」
ランサーはそう言い、俺とセイバーを交互に見た。
「……そうですか。なら私達は宿の外で待つ事にします。よろしいですかキリト?」
「あ、ああ。そう言う事なら、その方が良いかもな」
俺とセイバーはランサーの提案に乗る事にした。
あくまであの二人は主従関係。
ならば二人にして色々話し合ったほうがいいだろう。
そう考えた俺はセイバーと共に宿の外で待機する事にした。
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30分くらいたったであろうか。
外で待機している俺とセイバーは何を話すわけでもなく、ただじっとサチとランサーが出てくるのを待っていた。
その間も、俺は自分がしてしまった愚かな選択にただひたすら後悔していた。
もしかしたら、自分が本当の事を事前に言っていれば三人は死なずに、サチも聖杯戦争に巻き込まれずに済んだのかもしれない。
そんな事をずっと頭の中でグルグル考え続けていた。
と、急に宿の扉が開いた。
そこには、真剣な表情をしたランサーと、まだ顔色が悪いが先程よりは心なしか血色がよくなっているサチが立っていた。
「サチ、もう大丈夫なのか」
「…うん、とりあえずね」
思わず問いかけてしまった。
今まで、いくつもの嘘を重ねてきた俺にそんな事を問いかける資格なんて無いのに。
「とりあえず、嬢ちゃんが動けるようになったからよ、教会に言ってくるぜ。セイバーに坊主、留守番頼む」
ランサーはそう言うとサチの隣に付いた。
「……じゃあ、キリト……行ってくるね」
「あ、ああ。行ってらっしゃい」
サチはそう言うとランサーと共に転移門へとゆっくりと歩き出す。
俺はその背が見えなくなるまで見送り、その後宿でサチとランサーの帰りを待つ事にした。
だが、その日サチとランサーは宿に帰ってくる事は無かった。
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あれから、何時間経っただろう。
俺はサチとランサーが帰ってくるのをひたすら待ち続けた。
あの教会は第一層にあり、転移門からは約30分とかからない場所に立地している。
神父と話しをするにしてもこんな時間まで帰って来ないのはさすがにおかしい。
「キリト、あまりにも遅すぎます。フレンドリストにはまだ彼女の名前は残っていますか?」
セイバーもこの事態に異常を感じたのだろう。
俺は急いでフレンドリストにサチの名前があるか確認する。
『Sachi』
俺はその名前がまだフレンドリストに表記されており、それに安堵する。
一度連絡を入れようか。
そう思い、名前にタップしようとした瞬間、メッセージを受信した。
送信者名には、
From Sachi
と表記されていた。
「セイバー、サチからメッセージだ!」
俺は慌てて、セイバーへとサチからメッセージが届いた事を報告する。
「何と書かれているのですか?」
そう聞かれ、俺は急ぎ内容を確認した。
そこには、
「そんな…」
思わず言葉が漏れた。
『キリトへ。
君にメッセージを送るのは初めてですね。
本当は口で言うべきなんだろうけど、キリトを前にすると、どうしても言えなくなってしまうでしょうからメッセージで送らせてもらいます。
私は、あの教会で色んな事を知りました。
聖杯戦争の事も、サーヴァントの事も。
キリトから説明もしてもらったけどあんまり深い所までは聞けなかったので、ちょうど良かったと思います。
あの後色々考えた結果、聖杯戦争に参加する事に決めました。
臆病な私が参加するなんておかしいとは思うけど、これでも一生懸命考えました。
だから、これから私とキリトは敵同士という事になるかな。
本当は、一度宿に戻ろうと思ったんだけど、キリトの顔を見たらきっと決心が鈍ってしまうだろうと思い、宿には戻りませんでした。
ほんとは、私キリトがどれだけ強いか知ってたんだ。
何でキリトが私達と一緒に居るのかは分からなかったけど……。
私、君がすっごく強いんだって知った時、とっても嬉しかった。
それを知ってから、君の隣でなら、怖がらずに眠ることができたよ。
それに、もしかしたら私と一緒に居る事がキリトにとって必要なことかもしれないって思えたことも、すごく嬉しかった。
なら、私みたいな怖がりが、ムリして上の層に登ってきた意味も合ったことになるよね。
でも、もうキリトと私は隣同士並ぶ事が出来ない。
だって、敵同士の二人が並びあうなんておかしいから。
これから私は、ランサーと二人でこの世界を生きていく事にします。
次あった時はお互いに戦い合う事になるかもね。
正直、そんな事にならないことを祈っていたいです。
あと、さっき“はじまりの街”の黒鉄宮の間でケイタがまだ生きている事を確認する事が出来ました。
もうギルドは解散みたいだけど、ケイタが生きているだけで少しホッとしました。
最後になるけど、フレンドリストですがもう敵同士なんだし、解除した方がいいかもね。
フレンド解除の設定を一応キリトに送っておきます。
受諾するか拒否するかはキリトに任せます。
それじゃあ、そろそろ終わるね。
キリト、今までありがとう。
君に会えて、一緒にいられて、ほんとによかった。
さようなら』
後書き
ちょいと無理矢理な感じがしますが、一応これで黒猫団編は終了。
次話は来週には更新できると思います。
次回はアスナに視点を置いた話です。
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