Monster Hunter ―残影の竜騎士―
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2 「★『アオアシラの侵食』」
前書き
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依頼主:渓流に畑を持つ主婦
依頼内容:作物を収穫しに渓流に行ったんだけど、
なんとアオアシラと鉢合わせしちまったんだよ。
あのあたりは比較的安全なはずなのに…、恐ろしくて渓流に行けやしない。
アイツを倒しておくれ!
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タイトルの「★」は、クエストのランクを表しています。MHP3の星1つで本当にあるクエストです。
渓流のエリア6というと、あそこです。滝が落ちてる場所。池で魚釣りとか、滝の裏のフィールドにつながってます。ドスジャギィの寝床のすぐ隣ですね。
「くっ! きゃああっ」
「ご主人!」
アオアシラの振り向きざまの回転ひっかきに、後方に吹き飛ばされる。なんとか太刀を間に入れて爪が直接防具を傷つけることはまぬがれたものの、衝撃を直に受けた両腕はジンジンとしびれていた。暫くまともに動きそうにない。太刀を取り落とさないようにするので精一杯だ。泣きそうな顔でハーヴェストが足元に走り寄ってきた。
一回転して地を滑り威力を軽減しようとするが、間髪いれずにアオアシラが突進してくる。咄嗟に横に飛び込み前転をして回避。だが、完全にバランスを崩したリーゼロッテはあたりを取り巻いていたジャギィのタックルを躱すことができなかった。
「あぅ!」
ジャギィは鳥竜種の小型モンスターで、新米ハンターが最初に相手にする肉食竜である。“小型”というくらいだから体躯は大きくなく、ちょうど大人の腰丈と同じくらいだ。また鳥竜種という特徴から細身の体をしているのだが、うちに秘める肉食竜としての荒々しさとびっしり並んだ小さいながらも役割をしっかり果たす牙は、人間の肉など易易と噛み千切る力をもつ。
何より恐ろしいのはその連携である。人間にとっては脅威でも、多くの肉食竜の中では最弱に位置するといっても過言ではないジャギィは、4~5頭のグループで常に行動し、獲物を取り囲み、数で倒す。ともすれば中型の草食竜にすら踏み潰されかねないほど小さなジャギィは、そうやって生き延びていく。
そんなジャギィが、今、アオアシラとリーゼの周りに3頭いた。それだけではない。なんとも運の悪いことに、ジャギィノスまで1頭いるのだ。
ジャギィのメスであるジャギィノスは、ジャギィよりも大きな体を持ち、必然的に力も強い。
ただでさえ狩猟経験の少ないアオアシラで苦戦しているというのに、周りにこれだけ敵の応援がいれば、リーゼロッテにとって不利以外の何者でもない。アシラが狙いをリーゼ1人に定めているのもある。
おまけにここは渓流のエリア6。足場が水に浸っている上、川底の小石をひっくり返して足を掬われかねない。候補生を卒業してハンターになって1年経ったとは言え、まだまだ駆け出しの新人の域を出ないリーゼにとっては、危険なフィールドなのだ。
「ハーヴェスト、一旦引いて、ジャギィ達が去ったらまた行こう!」
「は、はいニャ!」
隙を縫ってジャギィ達の包囲を突破すると、太刀を背に戻し一目散にベースキャンプへ駆け出す。エリア移動をし、ガーグァ達の後ろを駆け抜けてベースキャンプへとたどり着く頃には、息も上がってへとへとになっていた。命をかけた緊張感から解き放たれたという安心もある。
「はぁ……」
簡易ベッドに腰掛けると、思わずため息が漏れた。空を見上げると、そろそろ日が沈む。遠くに鳶が旋回しているのが見えた。昼過ぎに渓流についたから、そろそろ5時間、渓流にいたということになる。といっても、半分以上はアオアシラを探すことに費やしたのだが。
「狩猟を初めてまだ5時間しか経ってないのに、もう諦めちゃいそう。やっぱり1人は無理だったのかな……。……シャンテ達、心配してるかな」
ボコッと音がすると、地面からハーヴェストが出てきた。アイルーやメラルーといった種族は、体力回復の為やエリア移動を高速で行う為に、地面に潜ることができるのだ。ハーヴェストは申し訳なさそうな顔をしてとぼとぼとリーゼロッテの前に立った。
「どうしたの?」
「ご主人、申し訳ないニャ。逃げるのに一生懸命で、ペイントボールを投げるのを忘れちゃったニャ……」
「あっ」
リーゼも忘れていた。とにかく一刻も早くアオアシラから逃げることを優先していたせいで、腰のポーチのなかのペイントボールのことなど、頭からすっとんでいた。
リーゼロッテの声で更に萎縮したハーヴヴェストは、今にも泣きそうな顔をしている。リーゼは慌てて言い募った。
「落ちこむことないよ。わたしだって忘れてたんだから、ハーヴェストのせいじゃない。むしろ、ハンターになって1年も経つのに、まだ基礎すら忘れるわたしが悪いんだから…」
言ってて自分もだんだん泣きたくなってきた。ハーヴェストはそんなリーゼの言葉に再び謝ると、彼女の足元に腰掛けた。
「……ボクは、いつも臆病ニャ。それはオトモ育成所でも言われていたことニャ…」
「ハーヴェスト…」
「ご主人はボクたちオトモアイルーより背が大きいから、大型モンスターに狙われやすいニャ。それをボクたちオトモが挑発して標的をボクたちに変更させることが一人前のオトモアイルーと言えるニャ。
あるいは笛やスキルを駆使してご主人の狩りをサポートするのがオトモの役割ニャ。小型モンスターの相手をして、ご主人が大型だけに専念できるようにするのもニャ」
「……」
「ボクは逃げる途中、ペイントボールをアオアシラにつけていないことに気づいたニャ。まだ奴は同じエリアにいたから、すぐ戻れば間に合った筈だニャ。
……それでも、ボクは怖くて1匹で戻れなかったニャ。こんなの、オトモ失格だニャ。他のハンターさんに雇われているオトモたちに馬鹿にされるのも、当然だニャ……」
周りを静けさが包んだ。遠くでトンビがいい声で鳴いている。リーゼロッテは、不意打ち気味に落ち込むハーヴェストの脇を抱えて持ち上げた。
「うニャッ!!?」
「だからさ、ハーヴェスト」
こちらを向かせて膝に乗せると、うニャうニャいいながら降りようとするアイルーを押さえつけた。ジャギィ装備の帽子の下から、青く丸い目がこちらをのぞく。
「ふたりとも半人前だから、一緒に頑張ろうよ。2人いても1人前にはならないかもしれないけど、頑張ればいつか、ひょっとしたら上級ハンターになれるかもしれないよ」
「じょ、上級!?」
目を白黒させるハーヴェストにくすくす笑いながら答えた。
「もちろん。ハンターやるからには、目標はHR6! ……まだ星3つまでしか受けられないHR1の若輩だけど」
「うニャア!?」
「でも、目指すのは自由だもん。頑張ろうね!」
「……ボクよりもっと強いオトモを雇えば、ご主人の夢も現実的になるニャ」
「まぁたそんなこと言って。2人で頑張らないと意味ないんだよ」
そんな会話をしているうちに日は完全に沈み、2人は腹ごしらえをするために焚き火をした。丸鳥と呼ばれる鳥竜種ガーグァの肉を、香ばしい匂いが漂うまで焼く。
ガーグァは鳥竜種だが性格がおとなしくまた他の草食竜アプトノスやケルビと同じくらい臆病でなため、広く家畜としてユクモ近隣では飼われている。丸っこい体と飛ぶには適していない小さな羽が特徴である。
ほかには装飾として言い値で取引される【丸鳥の羽】がわりと有名だろうか。驚いた拍子に卵を落とすこともあるので、後ろからそうっと近づきお尻を蹴り飛ばした。上手くガーグァの卵をゲットしたので、夕飯に追加する。
そんなことをしていると、なんだか自分も一端のハンターになってきたような気がした。
食事もとってスタミナも回復。ついでに寝心地の悪いベッドで仮眠も取る。
「……さて。第2ラウンドと行きますか!」
「頑張るニャ!」
渓流のエリア1にはもうガーグァの姿はなく、代わりに月光を反射する緑がかったシカのような動物、ケルビが水を飲んでいた。小型草食獣であるケルビの角は万病に効く薬となるが、生きたまま剥ぎ取った方が効能としては優れている為、太刀使いであるリーゼロッテは今回手を出せなかった。
ちなみに、角を生きたまま取るというのは残酷に聞こえるかもしれないが、角をとったことで彼らが死ぬということはなく、また時が経てば立派な角が生えてくるため、何ら問題はない。
「待ってなさいよ、アオアシラ! ハーヴェストと一緒に、2人で1人前だって証明してやるんだから!」
「ニャー!」
渓流を駆けずり回り始めた。
一方その頃、ようやくエリザを乗せた竜車は渓流ベースキャンプに到着した。車にはガーグァがつながれている。一般的な竜車では力持ちなアプトノスが荷台を引くのだが、ガーグァの方が足が速いという特徴があるのだ。気を利かせたシャンテが用意させたものだった。
「これは、焚き火跡! ……まだ熱を持ってるわね。じゃあついさっきまではあいつここで呑気に肉焼いてたってことか」
まだベースキャンプには肉の美味しそうな匂いが立ち込めており、ついゴクリと喉がなってしまうエリザであった。
「……まったく、人の気も知らずに。村のみんながどれだけ心配していると…!」
「お仕置きだニャ」
エリザの後ろから覗くのはハッカ色の毛並みのアイルー族。装備はエリザとお揃いのアシラ装備、背にはアシラネコトゲ棍棒をかついでいる。エリザのオトモアイルー、チェルシーだ。小さな目を爛々と輝かせて、肉の残りを見つめていた。
「……チェルシー、あたし達がここに居るのは、あの馬鹿を村に安全に連れ戻すことよ。今日は携帯食料で我慢なさい」
「ええええ!? あれ美味しくないニャ。ウチどうせ食べるなら美味しいもの食べたいニャ!」
「あたしだって一緒よ! でも今回の任務はあいつを見つけることなの! ほら、食べたらさっさと探しに行くわよ。ついでに作戦会議!」
「ニャフー!」
再びベースキャンプに喧騒が戻ってきたようだった。
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