ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode4 RUN!RUN!RUN!2
『圏外』まで広がっていたお祭りの露天商や野次馬の列を一瞬で駆け抜け、そのまま荒れ地のフィールドへと突っ込んでいく。所々に転がる岩や背の高い草を交わしての疾走。俺だって身のこなしには自信があるが、なにぶん上り坂だ。恐らくキリトが距離を詰めてくるはず。
そして、荒れ地を抜けて、森の目の前まで来れば。
「おーっ!!! 勝ってる勝ってる!!! シドっ、がんばれーっ!!!」
「ちょっ、ギルマス、今手離したらMobがそっちに行くッスよ!?」
「えっ!? わっ、ととっ!!!」
「……不注意」
ここには、俺の仲間である、『冒険合奏団』の面々が控えている。まだフィールド圏であるためにそこまでMobのポップは多くないが、今は運悪く相手をしている最中だったらしい。助けてやりたいとは思うが、今は男と男の真剣勝負中だ。心を鬼にして駆け抜ける。
いや、助けたいとは思ってるんだよ?
ほんとだよ?
「すまんっ! がんばれっ!」
とりあえず、手は貸せないが声だけはかけていく。Mobも一匹だけのようだし、そもそもこのくらいのレベルの層ならばレベル的には十分以上に安全圏だ。凄まじい速さをキープしたままで『黒き果実の森』へとそのまま突入する。
「おっけーっ! シドもがんばってねっ! ほらっ、後ろっ、もうキリくん来てるよっ!」
「帰りは任せてッス!!!」
「……ごーごー」
三人の、三者三様の声援を聞いて走る。
ん? もう後ろ来てる?
「げっ」
思わず振り返れば、キリトが凄まじいスピードで駆けあがってくるところだった。その差は恐らくもう数秒もないだろう。やばい、思った以上に差を詰められた! 森の中央に位置する、クエストを受けた者だけが取れる森中央の《ダークライトビーン》の実っている木までは、勝っていないとこの先が辛い。
森の中は道自体は平坦だから、まだ俺だって取り返しが、
「おいついたあああああっ!!!」
「くっ!!!」
つくが、もうそんなこと言ってる場合じゃないか!
こうなってしまえば、ここはもう反射神経の勝負だ。行く手を塞ぐ茨をキリトが突進しながら切り裂き、茂った背の低いを俺が飛び越えて先を目指す。ここで問題になってくるのは、ここがフィールドでは無く、ダンジョン扱いの場所だということ。
はっきり言えば、フィールドよりはるかにMobのポップが多いのだ。
「っ! オイ前っ!!!」
キリトが素早く反応したのは、前方に出現した植物型モンスターだ。確か名前は『ブラックイーター』。真っ黒な全身が特徴的な、足の生えた草が歩いている典型的な植物型で、顔と両手は花をイメージした巨大な口。反射的にキリトが背中の剣に手をやって、
「どおりゃああああああ!!!」
聞こえた大声にその手を止めた。
声の主である特徴的なバンダナを巻いた髭面の男は、そのまま一直線にモンスターへと突進して腰に構えた刀で横薙ぎの一閃を加える。エクストラスキル、『カタナ』スキルのエフェクトフラッシュが迸って敵を両断し、爆散するポリゴン片へと変えた。
「おうおうキリト! 雑魚は任してお前ェは先に向かいな!!!」
「く、クライン!? おま、なんで、」
「詳しくは後だ! 俺はお前ェが勝つ方に賭けてんだよ! さっさと行けっ! ああっ、もう一人が先に行っちまったじゃねェかっ!?」
キリトが素っ頓狂な声を上げる。どうやら知り合いだったらしい。
断っておくが、これは別に妨害するためにやったわけではない。
俺がエギルに手を打ってもらっておいたのだ。
『攻略組』で時間のありそうなメンツをそろえて貰って、ここのモンスターを前もって殲滅して貰っておいたのだ。後から聞いた話ではどうやらエギルはギルド一つにまとめて頼んだらしく、あのカタナ使いの男がリーダーらしい。
ラッキーなことに、驚いたキリトが一瞬体を止めたおかげでまた差がついた。
『索敵』を発動してさっと視線を走らせると、所々に散らばった、ギルド『風林火山』の面々が周りのMobを上手く抑え込んでいるのが分かった。流石は『攻略組』の一角、その名に恥じない働きぶりだ。お代は弾むぜ、キリトの足止めしてくれた分も含めてな。
そんな事を考えて心の中で笑う俺の前に現れる、開けた空間。
目的となる、《ダークライトビーン》が実っている木のある広場だ。
「見えたっ!!!」
俺はそのまま足を止めずに木に向かって突進する。体術スキル《ウォーアタック》。単純な肩からの体当たりの一撃が、太い木の幹に炸裂して派手にその枝を揺らす。当然だが、枝になっている身を落とすためだ。以前と同様に落ちてきたのは黒い鬼灯のような形状をした実。
二つ落ちたそれのうち一つを拾い上げて、
「サンキュー、シド! 先行くぜ!」
アイテム名称を確認する前にキリトがもう一つを拾い上げて、走り出した。
しまった、硬直時間の僅かな隙に追いつかれたか!?
俺も慌ててそれをストレージにしまって追いかける。くっ、速いっ!
敏捷値自体はレベル差があるとはいえ俺の方が上だろうが、なんというか、道を見出すその勘が俺よりも数段上だ。森を抜ける道が、奴の方だけ草木が避けているようにすら感じてしまう。なおも援護を続けてくれる『風林火山』の面々に見送られながら森を出る。
ここからが、終盤戦だ。
数秒向こうが先行だが、下り坂なら俺にも勝ち目はある。
先を行くキリトの背中を追って、俺が隠し玉『軽業』のスキルの一つ『フラッシュ・ステップ』を発動する。敏捷値を保ちつつ硬い足場を飛び移り加速する技。なんらかの気配を感じたのか、振り返ったキリトの顔に驚きの表情が映る。もう勝ったと思っていたのだろう。
まだまだ勝負は、これからだ!
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