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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode4 とある祭りの全員集合3

 「んじゃあ、森の方の準備は整ったな?」
 「ああ。ちゃんと知り合いの『攻略組』の奴らが張り込んでMobを排除してくれてる。駆け抜けて大丈夫だ」
 「シド、おまえのギルドの方は?」
 「こっちも大丈夫だ。『黒き果実の森』までは、あいつらがMobも人もどかしてくれてる」
 「じゃ、俺は外で待ってる野次馬の交通整理をしてくるぜ」

 エギルがそう言って立ち上がり、俺とキリトが座るテーブルを後にする。

 俺達二人が座っているのは、極々普通のNPCショップの、喫茶店だ。ここでしか飲めない特製ブレンドのコーヒーはなかなかに美味で、持ち帰り不可のために常連が何人かいるのだが、その内の一人によってとあるクエストが発見されたのだ。

 その名称は、『秘伝のコーヒー豆』。

 もう最前線から十層近く下の層のクエストであるにも関わらずに、未だ(俺の知る限りでは)達成者の居ない難関クエストだ。そして、俺にはこのクエストの報酬となるだろうアイテムも見当がついている。

 「確かに、あれだろうな」
 「そっか、キリトも『索敵(サーチング)』上げてたな。だったら見たろ? あのカウンターの後ろ」

 『索敵』によって見える、NPCマスターの後ろの棚に並んだ大きな酒瓶の内の一本が、カーソルによって示される。そこに浮かぶ文字は。

 「《ルビー・イコール》。しかもあの大きさ、十四、五杯分はあるんじゃないか?」
 「おうよ。今まで出てきた中でも最大級。アイテムの効果から考えて、多分初回攻略プレイヤーだけしか貰えないだろうし、勝利の景品にはもってこいだろ?」
 「……勝負、だな」
 「もともとそう言ったろ?」

 ステータス上昇アイテム、《ルビー・イコール》。カップ一杯で敏捷値を1上げるこのアイテムは、レベル、ひいては数値的ステータスの存在するこのSAOでは最も重宝されるアイテムの一つといっても過言ではないだろう。そして、この手のアイテムは無数に取れてはゲームバランスが壊れかねないため、基本的に一度しか手に入らない。

 つまり、先に攻略したもん勝ち、ってことだ。
 そして、そのクエストの開始は。

 「あああっ!? しまったっ! 秘伝のコーヒー豆を切らしてしまった!!! どうしよう、このままでは常連客に出すコーヒーが作れないっ!」

 時計が五時を指した瞬間に、カウンターでカップを磨いていたNPCが悲鳴を上げた。その頭には、クエスト回始点であることを示す「!」が表示されている。

 「あああっ! あと三十分で常連さんが来る時間だあっ! それに、一時間もすれば夕食を食べにくるお客さんたちも来てしまうっ! どうすれば、どうすればっ!」

 ゲーム的に意訳すれば、このクエストは二段階の報酬があるタイプで、クリアの制限時間は一時間、そして三十分を切った場合はさらに豪華なアイテム……今回なら恐らく《ルビー・イコール》……がある、ということだ。

 「も、もし、そこの旅のお方! お時間がおありでしたら、街をでて真っ直ぐ南に行った先にある、『黒き果実の森』で、《ダークライトビーン》というこのくらいの果実をとってきてくださいませんか? お礼は致します! 一時間に間に合わないと、店が、店がっ!」
 「任せろ!」
 「りょーかい!」

 言うが早いか、俺達は店の外へと全力で走り出す。その視界の端にあるのは、クエスト受注が完了したことを示すシステムメッセージ。前回『冒険合奏団』で挑戦した際は、五十分近くかかって報酬はコーヒー一杯だったが、今回はそれで終わる気はない。

 「負けねえぜ、キリト!」
 「こっちこそ、シド!」

 一瞬だけ視線を交わしてお互いににやりと笑い、そのままドアを吹き飛ばさんばかりの勢いでキリトが蹴り空ける。破壊可能オブジェクトだったなら蝶番が吹っ飛んでいただろう勢いだが、俺もそれには突っ込まずにキリトに続く。

 俺の一極化で鍛えた敏捷補正の走りと、キリトの筋力と敏捷を組み合わせた驚異的速度。
 スピード自慢対決の幕は、こうして切って落とされた。


 
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