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第八十三話
甲冑を着込んだ騎士、まつろわぬ神と対峙するソラとなのは。
『レストリクトロック』
相手は暴走しているために言葉の通じないまつろわぬ神だ。ソラとなのはは目の前の神を殺す以外の選択肢を切り捨てる。
どうやったら暴走を止められるのか、正気に戻るのか。その手立てをソラ達は持っていないし、そんな事を考えていてはいつまでも戦闘は終わらない。さらに余裕は時として最悪の結末を呼び寄せるからだ。
「Gaaaa!?」
ソラの行使したバインドで四肢を拘束される騎士。
殺すとなったら一番成果を上げている捕縛後の転移魔法によるコンボで片をつけようと転移魔法を起動しようとして…
「Aaaaaaa!」
「すり抜けた!?」
戸惑いの声を上げたなのは。その言葉通りに騎士はバインドをするりとまるで透過する光のように通り抜けたのだった。
「Raaaaaaa」
地面を蹴ってソラとなのはの方へと騎士は駆ける。
途中、幾度もバインドに掛かるが、その度にすり抜け、最終的には捕まる事も無く全てをすり抜けて駆けて行く。
「Aaaaaaaa!」
「ふっ」
振り下ろされる直剣をソラは写輪眼を発動させつつ、斧剣の形をしているルナで迎撃する。
ギィン
金属がぶつかり合い火花が散る。
「やっ!…ととっ!?」
横からなのはがレイジングハートを振るい騎士を攻撃しようとするが、その攻撃はすり抜けてしまった。
鍔迫り合いをしていたソラも対象が突然すり抜けた事でつんのめるが、直ぐに地面を蹴り、騎士から距離を取ると素早く印を組んだ。
『火遁・豪火滅却』
ボウッと火柱が立ち上がるほどの熱量。だが…やはりダメージも無くすり抜けてソラへと迫る騎士。
その直剣は既に振りかぶられていた。
ソラはすぐさま右手にルナを掴むと左手を突き出して魔力を込める。
『ラウンドシールド』
前方に現れるバリアに弾かれ、騎士の攻撃は届かない。
「えいっ!」
そしてやはり横合いからなのはが攻撃するが、これは素通りしてしまう。
それを見てソラは分析する。
物体を透過出来るなら、ソラのバリアをすり抜けて攻撃できたはずだ。…もちろんソラは右手に持ったルナでいつでも迎撃できるように構えてはいたのだが。
それでも透過しなかったと言う事は一部分だけを透過する事は不可能なのでは無いか?とソラはあたりを付ける。
もしくは攻撃の最中は実体化しなければ現実に干渉できないのかもしれない。
そしてソラのバリアを透過しなかったと言う事は実体が現れる時にその空間に何か有ると戻れないのかもしれないとも。
とは言え、攻撃が通じないと言う点を取ってみても中々打開策が思いつかないのも事実なのだが…
1対2の剣戟が続く。
ソラとなのはが連携しながら騎士と打ち合っているが、ソラ達の攻撃が通る事は無いし、相手が攻撃を入れようとする瞬間にはシューターでけん制しているのでこのこう着状態がしばらく続いている。
打開策のない戦いを上空から3対の目が見下ろしていた。
「攻撃が当たらないのは厄介ね」
「そうだね。相手の攻撃手段は手に持った剣のみのようだけれど、こっちも攻撃の手段がない…これはマズイよね。持久戦に持ち込まれたらどちらかのオーラが尽きた瞬間が勝負の分かれ目だろうけれど…」
ソラの言葉になのはがそう分析して返した。
そう、あの火遁で相手の視界を奪った瞬間にソラとなのはは影分身を行使。それを残して本体は空へと上がって距離を取ったのだ。
大規模な攻撃が多い火遁の術は相手の視界を遮るのにも有効なのだ。
「流石はブリテンの赤き竜。アーサー王だな。その身に竜の属性を持ちつつも鋼の英雄であり、その不死性の象徴があのすり抜ける能力であろうよ」
と、アーシェラが洩らした言葉。
その言葉にソラとなのはが微妙な表情を浮かべている。
「………」
「………」
「何だ?どうかしたのか?」
「ねぇ、アーシェラ。アーシェラはあの騎士の正体に気がついていたの?」
「まあな。噂でグィネヴィアがまつろわぬアーサーの招来に成功したと聞いた事があったし、目の前でかの神気を感じれば魔女の始祖たる妾には分かろうものだ。だが、それがどうかしたのか?」
「正体が分かっているなら早く言ってくださいっ!」
なのはが憤慨した。
「む?どうしてだ。奴の能力は見切っているではないか。アーサー王は不老不死であり、その身を傷つける物は無かったと言う。確かに透過されれば傷の付けられようも無いな」
「そうね、確かにアーサー王は不老不死だったと言われているわね」
アーシェラの言葉にため息を付いてからソラが言葉を発した。
「でも、アーサー王は死んだのよ」
「そのような事は知っている。『アーサー王の死』であろう」
アーシェラが思い出したように答えた。
「そうだよ。それが分かっていればこんなに悩まなくても済んだかもしれないのに」
と、なのは。
「どういう事だ?」
「不老不死であるアーサー王は死んだわね。どうしてかしら?」
ソラがアーシェラに問う。
「……鞘を盗まれたからだろう」
ソラの問いかけにアーシェラが答えた。
「正解」
「つまり、アーサー王に不死を与えていたのは聖剣の鞘であったと言う事だね」
ソラがアーシェラに頷き、なのはがアーサー王の死の原因を取り上げた。
「やっと攻略の糸口が見えてきたわ」
「どうやってアーサー王の鞘を奪うかだよね」
「そう。でも、透過されてしまっては鞘をつかむ事も出来ない」
「チャンスは攻撃のインパクトの瞬間だけと言う事だね」
「だけど、攻撃を受け止めた瞬間にアーサー王は透過しているわ。狙うチャンスは中々無い…けれど、その刹那の瞬間は確かに実体化しているわね」
「う、うーん…影分身が切裂かれた瞬間を狙うとか?」
「…仕方ない。イザナギを使うわ」
「大丈夫なの?」
ソラの提案になのはが心配そうに問いかける。
「片目くらいなら問題ないわ。ただ、私はアオほどこの術と相性がいいわけじゃないからね」
「確か一分だっけ?」
「そう。私の無敵時間は一分。その間に鞘を奪わなければ片目を失った状態での第二ラウンドね。それも一分しかないから合計二分。これが限界」
「失敗したら私がソラちゃんを担いで直ぐにここを離れる。これは譲れないよ?」
と、なのは。
「トリックスターが決まるのは一回のみよ。最初の一回で決められなければ…第二ラウンドなんて成功はしないでしょうね」
だから初撃に全力をかけるとソラが言う。
「行きましょうか。私が一人で先行するから、なのはは影分身を回収して控えていて」
「う、うん…」
ソラは空中から降り立つと、影分身を入れ替わるように回収。そのまままつろわぬアーサーとの戦闘に入った。
イザナギの制限時間は一分。
キィンキィンと剣と斧がぶつかり合う。ソラも必死さをアピールしつつ、、怪しまれないようにアーサーの剣でルナを跳ね上げられるように誘導、その威力に硬直したように装う。
「OooooooOOOOoo!」
勝負ありっ!とアーサーは直剣を振り下ろす。
ザンッ!肉を切る感覚はアーサーに確かに伝わった。…が、しかし。ソラの体がグニャリと歪むとアーサーの側面に突如として現われ、既にルナを振り下ろしていた。
「ハッ!」
キィンっ!
ソラが狙ったのはもちろんエクスカリバーの鞘。
ソラは寸分たがわず鞘を射抜き、鞘はアーサーの腰元を離れ、地面に転がった。
「GAaaaaaa!」
キレたようにアーサーは剣を振り回すがそれをソラは受け流し、隙を突いてアーサーへとルナを振り下ろす。
先ほどまではすり抜けていた攻撃が嘘のようにしっかりとアーサーにヒットした。しかし、アーサーは痛みなど感じぬとばかりにめり込んだルナを無視してソラを斬り付けた。が、しかし、またしてもソラの体が歪み、転がった鞘の元へと現れるとそれを拾い上げた。
ここまでで丁度一分。イザナギの効果が切れ、ソラの右目が閉眼する。
「ソラちゃんっ!」
隻眼になったソラの前に、なのはが庇うように降り立った。
「透過の無効化には成功したみたい…後は頼んでいいかな?なのは」
「うんっ!大丈夫。攻撃が当たるのならば負ける要素は全く無いものっ!」
「油断は禁物だよ」
それも分かっているとなのはは言うと、レイジングハートの穂先をアーサーに向けた。
「それに、わたし達の命を狙ったんだから、それ相応の物を貰わないとね」
なのははまつろわぬアーサーの権能を奪う気のようだ。
「Grrrrrrr…」
ザッ
なのはが先に地面を蹴ると、触発されるようにアーサーも地面を蹴った。
「はっ!」
「Guraaaaaa!」
斬り結ぶ両者。
しかし、槍と片手用直剣。リーチの差、点と線の攻撃の差、後は暴走しているのか言葉さえ発する事の無いアーサーとの思考能力の差でジリジリとなのはが押していく。
荒れ狂う野獣の如きアーサーの剣戟を最小の動きでいなし、隙を突いてアーサーにダメージを与えてくなのは。
何とか防戦するアーサーだが、それも終わる。なのはのバインドに捕まってしまったからだ。
『レストリクトロック』
「Grrrrrruu」
「はぁっ!」
四肢を拘束したなのははもがくアーサーを離すまいと何重にも捕縛。その隙に『練』で体内のオーラを爆発させる。それを『硬』でレイジングハートの穂先に集約させると地面を蹴ってアーサーの四肢を切り落とし、止めとばかりにその胸を穿った。
ザシュ…ザーーーーーーッ
レイジングハートの刀身はアーサーの心臓を突き破り、引き抜いた拍子に血の雨が降る。しかし、それもなのはに掛かる前に光の粒子と成りなのはへと吸収されていった。
「終わったようね」
「うん。…狂化してなかったらもっと強かったんだろうけどね」
「さて、こっちは終わったし、アオさんかフェイトちゃん達のどちらかへ援護に向かわないとだね」
とは言え少し残念そうな表情ではあった。
「そうだね…とは言え、今の私は隻眼だから、戦闘行為は厳しいかもしれないけれど」
「じゃあわたしとアーシェラがフェイトちゃん達を追うから、ソラちゃんはアオさんと合流でいいかな?」
「それじゃそれで」
戦闘が終わり、これからの検討も終わると封時結界を解き、ソラ達はそれぞれ飛び立った。
◇
『それでははじめようぞ』
と、開戦の合図のように、メルカルトは手に持っていた一対の棍棒、ヤグルシとアイムールを地面に打ちつけた。
「おわっ!」
「きゃっ!?」
「護堂っ!」
「草薙護堂っ!?」
悲鳴を上げる護堂、祐理、エリカ、リリアナ。
爆音を撒き散らしながら衝撃波があたりを襲い、護堂達だけでなく、フェイト、シリカも吹き飛ばされるように宙に舞ったため、両者とも直ぐに飛行魔法を行使する。
一瞬で現れる妖精の翅。
【シリカっ!大丈夫!?】
姿勢を制御したフェイトは土煙で姿が見えなくなってしまったシリカへと念話を繋ぎ無事を確かめる。
【大丈夫では有るんですけど……】
【何!?】
【分断されちゃいましたね。槍の騎士があたしの前に居ます】
【今すぐに私もそっちに…】
と言いかけたフェイトだが、何かが飛翔してくる気配を感じて飛び退いた。
「くっ…」
今までフェイトが居た所を大きな棍棒が回転しながら飛翔していった。
その棍棒はブーメランのように持ち主へと返っていく。
粉塵が晴れると現れたのは巨体のまつろわぬ神。メルカルトだ。
「…あなたが私の相手って訳ですか」
『他二人もすでに見合っておるからの』
【何が有ったんですか?】
と、言葉が中断した為にシリカが心配そうに念話を繋いだ。
【どうやら合流は無理みたい】
【一人一柱って事ですね…】
【草薙さんも離されたんだね。これは困った事になったかな?】
【いえ、どちらかが目の前の敵を倒して駆けつければ良いだけですよ】
シリカが言う。
【ふふっ…そうだね。確かにそうだ。だったら、どちらが先に倒すか勝負と行こうか】
【いいですね。負けませんよ】
まつろわぬ神と言う強大な存在を前にして不安を払拭するように冗談を言い合って念話を切る。
フェイトは手に持ったバルディッシュを握りこみ、全力で目の前のメルカルトを打ち滅ぼしシリカの援護に向かうと心に誓う。
バインドの後の転移魔法での一撃死コンボは相手が巨体なのと、嵐に乗って現れた事を考慮すると速須佐之男命同様に雷、暴風を操る能力でバインドを破壊できるだろうと考え実行順位を下げる。さらにメルカルトの巨体には、小技を幾ら撃っても効果は薄いと思い、フェイトは最初からギアをアップした。
「バルディッシュ。最初からフルドライブで行くよ」
『ザンバーフォーム』
ガシャンと斧から大剣へのグリップへと形を変え、魔力で形成された大き目の刃が現れる。
相手の呪力耐性を考えると念法よりも魔法の方だ効果的だ。
『ヤグルシ、アイムールよ。空を駆け、敵を打ち砕けっ!』
真言を紡ぎ、両手に持った棍棒を投げつけるメルカルト。
ヤグルシは風を纏い曲線の軌道で、アイムールは雷を纏って直線でフェイトに向かい、左右からフェイトを襲う。
「はっ!」
最初の振りかぶってからの一振りで放った衝撃波でヤグルシを吹き飛ばし、下から上方へ打ち上げるように斬り上げた二撃目はその巨大化させた剣身で打ち返す。
が、しかし。弾いたはずのヤグルシとアイムールは途中で再度フェイトを追尾に戻る。
左右から襲いかかるそれにフェイトはタイミングを見計りメルカルトの方へと飛び出す事で回避。本体に斬り付けんと迫るが、後ろからフェイトを追う二本の棍棒が迫る。
『わはははは。それでヤグルシとアイムールをかわしたつもりか?甘いわっ!』
「くっ…」
フェイトの飛行速度よりも二本の棍棒の方が速度が上だ。フェイトはメルカルトへの攻撃は中止し、インメルマンターン。メルカルトから距離を取ると同時にヤグルシとアイムールの追尾を外そうとするが、やはり急旋回。二本の棍棒は付かず離れずフェイトを追う。
迫る二本の棍棒をフェイトは二度ほどバルディッシュで打ち払うがやはり効果は薄い。
『このまま逃げ続けられるのもちと面白くないのう。ならば…』
そう言ったメルカルトはその神力を開放する。
『我メルカルトの本地たるバアル・ハダドの名において呼ぶっ!嵐よ、雲に乗る者の召し出しに応じ疾く来たれっ!』
ドドーーンッ
空から雷光が幾条もフェイト目掛けて落ちてくる。
嵐と暴風の神でもあるメルカルトが天候を操り雷を落としているのだ。
『ロードカートリッジ・オーバルプロテクション』
バルディッシュが球形にフェイトの周りをバリアで覆い、落下してくる雷からフェイトを守る。
「ちょっとまずいね……」
メルカルトに制御されているそれは呪力を伴い、自然現象を逸脱している威力で降り注いでいるのである。現状はまだバリアを抜かれるまでの威力では無いのだが、ヤグルシとアイムールはいまだフェイトを追尾しているのである。いつまでも雷をバリアで凌げる事は難しい。
フェイトは練でオーラを練り上げるとバリアを解除。右手の先に黄色の球体を作り出してそれを天高く放り投げる。
その後すぐに迫るヤグルシとアイムールをバルディッシュで打ち返し、メルカルトへと反転した。
バリバリバリッと轟音を立てて落下する雷は、すべてフェイトが打ち上げた黄色の珠に吸い寄せられるように集まり、蓄積されてどんどん大きくなっていく。
フェイトがまつろわぬフェイトを倒して手に入れた権能で強化されたマグネットフォース。それはフェイトが設定した物を吸い寄せる能力へと変化していた。
フェイトは進化したマグネットフォースを使い、雷雲から打ち出される雷を吸着させているのだ。この場合は一種のデコイのような扱いだろう。同様に鋼色の珠を二つ自身の左右に投げ出し、ヤグルシとアイムールを吸着させて遠ざける。
しかし、流石に神の武器。吸い寄せる事は出来るが、フェイトのマグネットフォースに当たると、それを切裂き、フェイトへと迫るのでその都度フェイトはデコイをばら撒いて凌ぐ。
『おおっ!雷だけでなく、ヤグルシ、アイムールも遠ざけるかっ!だがっ!まだまだだっ!…ヤグルシ、アイムールよ我が手に戻れ』
メルカルトは真言を紡ぎ、ヤグルシ、アイムールを呼び戻すと、フェイトのマグネットフォースの吸引より勝る強さでメルカルトの手元まで戻る。
「撃ちぬけ!雷神っ!」
『ジェットザンバー』
このまま押し切ると!と巨大化した大剣でフェイトが切りかかる。
『なんのっ!』
手に戻したヤグルシとアイムールをクロスさせフェイトの大剣を受け止めたメルカルト。
「くっ…」
フェイトの一撃は魔力での強化やブーストで鋼鉄すら容易く切裂くほどに強烈だった。しかし、空を駆けていたフェイトにはしっかりした足場は無く、受けたメルカルトの方が踏ん張れる。
『はぁぁっ!』
「……っ!」
宙に浮く者と地面に足を着いているものの差が出てきてフェイトが押し負けるように吹き飛ばされた。
『ぬんっ!』
フェイトは弾き飛ばされた勢いを利用し、そのまま一度離脱しようと飛ぶが、その巨体に似合わない速さでメルカルトは手に持ったヤグルシを打ち下ろす。
「うぐっ…」
『マルチディフェンサー』
フェイトはその攻撃を体を捻り、正面を棍棒に向け、その眼前にバルディッシュを盾の様に突き出した上で何重にもバリアを展開する…が、しかし。
その巨体から振り下ろされた一撃は、神力での強化もされていたのか簡単にバリアを破壊し、フェイトを襲った。
「きゃぁっ……」
棍棒の直撃を受け、フェイトは地面に背中から打ち付けられる。
「…うっ……」
『堅』で防御力を上げた上にバリアジャケットの頑丈さでダメージは大方防げたが、それでも強烈だったのか、フェイトは立ち上がるまでに数秒を要した。
『次をいくぞ』
ようやく立ち上がったフェイトにメルカルトの棍棒が再び迫る。
ドドーーーンッ
打ち下ろされた棍棒はアスファルトを打ち砕き、粉塵を撒き散らす。
フェイトは間一髪その攻撃を翅をはためかせて地面を擦るように低空で飛びのいて避け、覆われた粉塵をチャンスと素早く印を組んだ。
『影分身の術』
ボワンと現れるフェイトの影分身。
『ぬ?』
煙から離脱したときには二体のフェイトがメルカルトと『V』の字に飛び出ていたために、メルカルトは一瞬虚を付かれ逡巡したように動きを止めた。
その一瞬をフェイトは見逃さない。
『ライトニングバインド』
影分身がメルカルトを縛り上げ、魔力とバルディッシュのスペックをいっぱいに使ってメルカルトを締め上げる。
『ぬおっ!?動けぬか?だがっ…!』
無言で神力を高めるメルカルト。しかし、そんなもので無効化できるものではない。
さらに別のフェイトが最大級の魔法の行使を始める。
『プラズマザンバーブレイカー』
高速の儀式魔法で雷を発生させる事は、上空のマグネットフォースが自身が呼んだ雷すら吸引してしまうのでやり辛い。そこでフェイトはプラズマスフィアを形成し、それを発射台として打つつもりのようだ。
『ぬっ…!マズイかっ!ヤグルシ、アイムールよっ!疾く駆け、我が敵を討てっ!』
メルカルトは真言を紡ぎ、拘束された両手からヤグルシ、アイムールを集束に入ったフェイトに向けて撃ち放った。
「雷光一閃っ!プラズマザンバーーーーーーっ!」
バルディッシュを振り下ろし、その剣先から黄色い閃光がメルカルトに向かって襲い掛かる。
『竜殺しの真髄を見よっ!』
メルカルトはさらに自身の力をヤグルシ、アイムールに注ぎ込み、フェイトが放った閃光を切裂かんと全力を傾けた。
襲い掛かるフェイトのプラズマザンバー。それを切裂くように飛翔する二本の棍棒。
拮抗していた閃光と棍棒は、徐々に棍棒が閃光を切裂き、終にはフェイトへと迫りフェイトを打ちのめす。が、しかし…
ポワンッ
フェイトを捕らえたヤグルシとアイムールだが、それは影分身を消し去っただけに過ぎない。
『虚像かっ!?なればっ』
と、ヤグルシとアイムールを操ってバインドを行使している方のフェイトへと向かわせる。
…しかし、これも影分身。煙を残して消え去っただけだ。
『これも虚像だとっ!?』
ヤグルシとアイムールをその手に引き戻し、ならば本体は何処だと首をふるメルカルト。
その時雷雲轟く空から一筋の光だ差し込んできた。
『何だ…?』
それは強烈な閃光を放つ太陽のようであった。しかし、その実体はフェイトのマグネットフォースによって吸着され、蓄え続けられていた雷が照らし出す光だった。
見上げたメルカルトの視線の先に逆行で黒くしか見えない人影が写る。
フェイトだ。
あの砂塵が舞った瞬間。フェイトは影分身を二体作り出した後、本体は短距離転移で上空へと移動し、マグネットフォースで先ほどから蓄え続けられていた雷に手を加えていたのだ。
バチバチバチと帯電する右手を空へと掲げるフェイト。
「雷遁…麒麟っ!」
フェイトは振り上げた右手をメルカルト目掛けて打ち下ろした。
次の瞬間、莫大な量の雷は一瞬獣のような姿を取ったかと思うと、音すら置き去りにしてメルカルトへ向かって落とされた。
その速度にメルカルトは防御すら間に合わない。
凄まじい衝撃がメルカルトを襲い、辺りの建物を衝撃波がなぎ倒す。
『ぬおおおおおおおっ!?まさかっ!まさかぁ……っ!』
雷に蓄積されたエネルギーは、メルカルトを焼きつくしそうな勢いでその巨体を火達磨に変えた。
ドドーン
重いものが倒れる音が響く。
雷の照射が終わるとクレーターの真ん中にその巨体を倒したメルカルトが仰向けで上空を見つめている。
『よもや暴風と嵐の神でもあるわしを雷で打ち滅ぼすとは…』
メルカルトの視線は自身を打ち倒したフェイトの姿を探していた。
フェイトがメルカルトへと向けて放った雷撃。あれは周りの雷を集めて誘導し、敵に落下させる技だ。言うなればメルカルトは自身が発した雷に撃たれた事になる。
だが、蓄え続けられたそれは、いかに神と言えど無事ではすまない威力を秘めていた。
何故なら、あたり一面はクレーターで陥没し、大小のビルは粉々に吹き飛ばされている。その落下の爆音だけで常人ならショック死しそうな程だった。
そんな威力の雷をその身に受けたメルカルトは、その体を構成する物質の全て、また霊核を全て焼かれてしまい、今言葉を発するのも難しい状況なのだが、やはりそこは神の矜持か。
『いいだろう。わしの力をくれてやろう。だが心せよ…再び合い間見えた時はわしが貴様を屠ってやろうぞ』
と、祝福と呪いを吐き出すと、メルカルトの体は光の粒子になりフェイトの体へと吸収されていった。
上空で莫大な量の雷を操る為に全神経を費やしていたフェイトは、実際はこれ以上の戦闘の継続は難しかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
『大丈夫ですか?サー』
「なっ…何とか…」
彼女にしてみても今の攻撃が勝負を決める物だったのだ。
あの攻撃を防がれたならば一気に彼女の勝機は無くなる。なぜならブレイカークラスの魔法すら切裂いた相手なのだから。
だが、フェイトはこの勝負に勝った。
「はぁ…かみ…さまっ…て…こんなに強いんだ…」
以前のまつろわぬフェイトと比べるとメルカルトの強さは比べるまでも無く強大だった。
「どれだけ自分の偶像が弱かったんだろうね…」
と愚痴ってしまうほどに。
メルカルトが完全に消えた事を確認し、フェイトは少し気を緩めるとやっと辺りの状況が目に入る。
「あっ!シリカっ!大丈夫だったかな?」
この爆風だ。近辺に居たのならどうなったか分からない。
「さ、探さないとっ!」
と、少々しまらない最後になったがこうしてフェイトの戦いは終わった。
…
…
…
一方、シリカはと言うと。
メルカルトの一撃で分断されたシリカの前には軍馬に乗った甲冑の騎士が現れ、その槍の穂先をに向けられていた。
「では、存分に死合おうではないか」
騎士らしく勝負は面と向かい、宣言の合図で持って始めようとシリカの準備を待っていたランスロット。
しかし、シリカは正面突破での戦いは最初から考慮していない。
そもそも彼女の能力が初見殺しの上にアオ達をしても破る事が難しい能力なのだ。
「ごめんなさい。あたしを倒したかったら距離を詰めるべきではありませんでした」
「な、なにを…?」
言っていると言う言葉を発する前にランスロットの甲冑の中の首筋にチョーカーのような物が現れる。そして灰色だった景色が歪むとそこは岩のドームへと変化した。
「え?ちょっとっ!これは…っ!?」
「ここはどこです?」
「何だこれはっ!」
ランスロットの他に近くから慌てたような声が聞こえてくる。
「あっ…エリカさんたちも近くにいたんですね」
「聞くまでも無くあなたの権能よね」
ペルセウスの正面に護堂がけん制するように立ちはだかり、エリカが少しその場を離れ、シリカに近寄り問いかけた。
「ええ。権能で強化されたあたしの能力です」
「強化…?」
「あ、草薙さんもこちらに来たほうが良いですよ?でないと死にます」
「お…おう…行くぞ、万里谷、リリアナ」
「は、はい…」
「分かりました」
それぞれシリカの言葉から何かを感じたのか素直に従いシリカへと近づいた。
「待ちたまえっ!…む?」
呼び止めるペルセウスだが、何かを感じ取ってその動きを止めた。
護堂たちが来た事を確認してシリカはランスロット達に向き直ると言葉を紡ぐ。
「理不尽な世界へようこそ。ここで起きる事柄はすべて理不尽に満ちています。あなた達はこの世界で生き残る事が出来ますか?」
「良く分からないが、ここが貴方の舞台なのだなっ!ならば尋常に…」
「いえ、あなた達の相手は既に用意してあります。もしもそれを打倒できたのなら…その時はあたし自ら出て行くことにしましょう」
そう言うとシリカは魔法陣を形成。それをそのまま上昇させる踏み台を形成し、護堂達を乗せ上空へと退避する。
「わっ!?」
「浮遊術か!?」
「いいえ、こんな魔術はありませんよっ!」
「そもそも魔術でも権能でもないのでしょうね…」
驚く護堂、リリアナ、祐理に、ユカリ達に護堂達より見識が深いエリカがそう答えた。
「用意している…だと?」
そう言ってシリカを追って見上げたランスロットの視線に紅い二つの光点が映る。
「な…なんだアレはっ!?」
護堂の視界も捉えたようだ。
「なかなか恐怖心を煽るフォルムの怪物ね」
エリカがそう評するその怪物は、上半身は人のガイコツのようで下半身は骨のムカデのよう。さらに両腕には切れ味の鋭さそうな鎌が付いていて、そのムカデの足で天井の岩に張り付き、獲物を見下ろしていた。
ザ・スカルリーパー
GRAAAAAAA
威圧するように鳴くと、スカルリーパーはそのムカデのような足で支えていたその巨体を落下させる。
「なっ!?…っ」
落下地点に居たペルセウスは跨ったペガサスごと踏み潰され、さらにその鎌で両断され光と散った。
「え?」「はっ?」「ええっ!?」「………」
神たるペルセウスがほぼ一撃で打ち倒されたのだ。護堂たちの放心も当然だろう。
スカルリーパーはその足をガチャガチャ動かすと、その巨体には似合わない速度で反転するとランスロットへと向かう。
「愛馬よっ空を駆けよっ!」
パカラッパカラッ
地面を蹴りその飛行能力で空中へと逃げようとしたランスロットだが、この空間内では呪力、神力を基にした能力の行使はシリカによって禁止されている。
幾ら駆けようが、ランスロットの愛馬は空へと駆け上がれなかった。
今回シリカが禁止したのは呪力、神力と不死性。
この空間に居る限りシリカ(ゲームマスター)の絶対優位は揺るぎようが無かった。
一応、この能力もオーラ、呪力に由来する。その為、命令を送信し、相手の脳波をキャンセルさせるチョーカーは自身が持つ呪力耐性で少しずつレジストされるまでおよそ10分程度。しかし、普段は呪力を高め、一瞬で破棄させるような能力なのだが、しかし呪力を高める行為も思考に由来するために不可能だった。
つまり、命令が伝達しなければ呪力の高めようが無い。そして10分もあればスカルリーパーの絶対的な暴力で倒されてしまうだろう。
これが巨体のまま現れたメルカルトなら、もしかしたら良い戦いが出来たかもしれない。…しかし、人間サイズのランスロットでは神力の開放なくして立ち向かえないだろう。
ランスロット達は、シリカのこの能力を発動させた時点ですでに決着は付いていたのだ。
スカルリーパーの鎌が逃げ回るランスロットの馬を切裂く。
「…くっ」
間一髪で馬から飛び降り、その鎌をかわしたランスロットだが、手に持ったエクスカリバーも、神力を操れなければ切れ味の良いだけの槍だ。
ゴロゴロと地面を転がり、その反動で起き上がるだけでも、神力を封じられているランスロットには普段のようには行かずてこずり一拍ズレてしまう。
その間にスカルリーパーは反転し、その鎌でランスロットを切裂かんと振り下ろす。
「ぐぅっ……」
その鎌を手に持った槍でどうにか受けるが、その威力に吹き飛ばされてまた転がるランスロット。
ここまで来ればもはや勝負は決した。
そもそもこのスカルリーパーに高々二人で倒せるようなも相手は無いのだ。
50人ほどが剣と盾、そして甲冑で武装し、それでもその二割の死を引き換えにようやく打倒出来るような化物なのだ。
スカルリーパーの落下からおよそ3分。一人で良く持ち堪えた方だろう。
しかし、やはりスカルリーパーの前になす術無く両断され、その身を光の粒子となってシリカに吸収されていった。
悪態も、断末魔も上げなかったのは流石に騎士と言う事だったのだろうか。
「終わったの?」
「みたいです」
エリカの声にシリカが答える。
「あなたは神殺し…カンピオーネでいらっしゃるのか?」
ここに来てシリカの異常さに理由を求めるリリアナ。
「リリィ。それは問うてはいけないわ。わたし達は何も見なかったし、何も知らないの」
「エリカ……」
詮索無用とエリカがリリアナに釘を刺す。問わなくても分かる事だが、知らなくても良い事だからだ。
さて、とシリカはようやく少し気を抜いて理不尽な世界《ゲームマスター》を閉じた。
岩のようなドームが取り払われ、スカルリーパーが光の粒子となって消えていくと周りの景色も元に戻る。
魔法陣を下降させ、護堂たちを下ろし、フェイトの援護へ向かわないとと身構えた瞬間、当たり一体を閃光が包んだ。
そして爆音と衝撃がシリカ達を襲う。
『オーバルプロテクション』
いち早く異常に気がついたマリンブロッサムがシリカの了承を得る前に防御魔法を行使、シリカだけではなく護堂たちも包み込んで衝撃波から守った。
「…………!」
「…………!??」
その爆音に声はかき消され、エリカ達が何を言っているのか分からない。
しばらくして衝撃波が通り過ぎたのを確認してマリンブロッサムはバリアを解除した。
「ありがとう。マリンブロッサム」
『当然の事をしたまでですよ、マスター』
シリカがその手に持ったマリンブロッサムにお礼を言うが、主人を守るのは当然と答えたマリンブロッサム。デバイスの人工知能はこの認識を持つ物が多い。
「それでもありがとうね」
今度は照れたようにコアクリスタルがピコピコ光っていた。
その後シリカは護堂達に向き、手短に別れを告げる。
「ちょっとフェイトちゃんの方が心配だから行くね。この結界は向こうが解決したら解くからちょっと待ってて。それと道の真ん中に居ると危ないよ。車に引かれちゃうかもしれないから」
それじゃ、と言ってシリカは飛び立つ。
「ちょっとまっ…」
何か言おうとしていた護堂の静止の声には耳を傾けずシリカは駆けて行った。
【フェイトちゃん、無事ですか?】
【うん、大丈夫だよ】
飛行魔法で空を飛ぶと直ぐにシリカは念話でフェイトを呼び出した。
【すごい爆音と衝撃波が来ましたけど】
【う、うん…相手が強くてね…大技をかましてようやく倒せた感じだよ】
【そうですか…よかった】
【そっちはどう?】
【大丈夫です。二人いたんですが、問題なく倒しました】
【そ、そう?…それじゃ、封時結界を解除してユカリお母さんの所へ向かわないとね】
【そうですね】
その後フェイトと合流し、封時結界を解除すると二人連れ立って夜の空をユカリを追って駆けて行った。
◇
「行っちまいやがった…」
シリカに取り残された護堂達。
「なあ、エリカ…」
「何?リリィ」
リリアナがエリカに寄って声を掛けた。
「もし…もしもだ。もし、草薙護堂と先ほどの彼女が戦ったら…いや、なんでもない」
信じたくない結末を否定し切れなかったリリアナは質問を取りやめる事で不安を拭い去り、忘れようとした。が、エリカはその質問の続きを察し、答える。
「勝てないわよ。気付いてたかしら?あの空間内では魔術の一切が使えなかった事に」
「ああ。あの首もとのチョーカーが現れた後だな」
シリカの能力範囲に居た護堂達ももちろんシリカの能力下に置かれていた。
「ええ。そしてペルセウスが反撃も出来ずに一方的にやられたのはそれが原因でしょうね。呪力や神力による強化がなければ素の力なんて神とは言え人間より少し上程度でしかないのだわ」
「と言う事はジャミング系と召喚系の二系統の複合技だったのか…」
「いえ、あれはああ言う能力なんじゃないかしら?彼女、理不尽な世界って言っていたわよね?つまりそう言う風に世界の常識を書き換える能力なのではなくて?…つまり、あの空間に引きずりこまれた時点で負けは確実ね」
「そうか…」
「世界がそう言う風に作りかえられていたとしたら、おそらく彼女自身もそのルールを背負っていたはず…しかし、彼女は問題なく魔術…かどうかは分からないけれど術の発動をこなしていた。…これはつまり呪力とは関係ない力なのでしょうね。わたしにはどう言った物なのか分からないけれど」
どんな力なのか見当も付かないとエリカが言う。
「まぁ、救いが有るのは彼女達が基本的に支配欲を持っていないところね。それと、過干渉を嫌う所があるわ。これはデメリットでも有るわね、今回の場合もここまで近くで異変が起こらなければ出張ってまでは解決しなかったんじゃないかしら?基本的にあの人達は此方から喧嘩を吹っかけなければ大丈夫よ。彼らの事はすべて忘れるか、絶対に口に出さないように気をつけなさいね。彼らがそれを望み、わたしもそれが良いと思うから」
「わかった…」
と言う会話をしていると突然に世界が色を取り戻す。
「戻ったか…」
「どうやら元凶は叩けたみたいね」
エリカが踊る事をやめ、疲れ果てて倒れている人々を見て言う。
「そのようだな」
「全く…本当に化物みたいな人達なのよね…彼ら。
彼らを知るとまつろわぬ神や神獣が可愛く見えるわ」
シリカの飛んで行った方を見ながらエリカは呟いたのだった。
◇
「小父様が…負けた?」
ビルの屋上で信じられないと言う感じの表情で放心している金髪の少女が呟いた。
この騒動の仕掛け人、グィネヴィアである。
「これだけの戦力を投入して相手にはかすり傷ほどのダメージしか無いというの…?」
封時結界に取り込まれ、魔女の目による遠視が外れた後、数分経って表れたのはカンピオーネの3人のみ。
その場に居合わせたメルカルト、ペルセウスを合わせて3柱ものまつろわぬ神が居たというのに相手の被害の軽度に恐れおののいている。
「いえ…これは何かの間違い…」
そう思って何度も確認し、その度に絶望する。
確認すればまつろわぬアーサー、そしてサルバトーレ卿も敗退しているようだった。
自軍の駒は全て倒され、相手の被害は殆ど無く、目的の物の入手もまま成らない。
そして何より、今まで自分を支えてきてくれたランスロットが打ち倒された事実が一番に堪えた。
「あ…ああっ…」
最強の鋼の英雄の配下にして、グィネヴィアが知っている限り現状では最強だと思っていたランスロットが討たれたのだ。
もはやこの日本で事を構えるようとしてもおそらく目的は叶わない。それが確認できた事がさらにグィネヴィアの絶望を高める。
「ああああああああっ!?」
ここで身を引いて事の推移を見守る等と言う事が出来るほど、妄執とも言える最強の鋼の英雄の復活のみを願っていたグィネヴィアの精神は成熟していなかった。
そして、現実のあらゆる物から目をそむけ、精神が崩壊する。
絶望に染まり、その呪力が暴走した事でグィネヴィアのその祖たる神性を取り戻していった。
ボコリとその体が歪み、膨張する。
その膨張が終わるとそこには白き竜が現れた。
グィネヴィアがその不死性を捨てて竜蛇の姿へと変じたのだ。
通常、竜蛇の姿になってもその思考は通常の物である。しかし、今のグィネヴィアの瞳には理性の色は窺えなかった。
「GURAAAAAAAAAA!」
大爆音で鳴くと、グィネヴィアは飛翔し、そして所構わず建物をなぎ倒し始める。
それはまるで駄々をこねる子供のようであった。
後書き
この作品内で、特殊能力系の最強は間違いなくシリカです。幼い頃の理不尽な世界に囚われた為に出来た彼女の能力は権能を得て完成していくのです…ランスロットの分身能力はきっとNPC創造能力に変換されて、いつかはあの世界が現実にっ!
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