久遠の神話
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第三十八話 神父その十四
「だからここはこうして」
「その雹を氷にするのね」
「あともう少しだよ」
雹を氷に変える、そうしてだというのだ。
「こうしてね」
剣を手首だけで捻った。するとだった。
蠍を包んでいる雹が氷に変わった。蠍は完全にその中に閉じ込められてしまった。
その怪物を見てだ。上城は言った。
「これで終わったよ」
「怪物を倒したのね」
「うん、閉じ込められて動けないだけでなく」
それだけでなく、というのだ。
「後はね」
「このままよね」
「怪物は窒息して終わりだよ」
こう言うとだ。その瞬間にだった。
蠍は氷の中で消えていき後には黄金が残った。氷はその黄金を出す形で四散して消えた。その氷が溶けてなった水に濡れた黄金を見ながらだ。上城は言った。
「水ってね。一見すると弱いけれど」
「こうして雹にも氷にもなるわよね」
「うん、だからね」
「強いと思うよ」
「そうよね。実はね」
「その水を使いこなしてみせるよ」
黄金に近付きながらだ。上城は樹里に言う。
「じゃあ。この黄金はね」
「どうするの?」
「こんなに持っていても仕方ないからね」
微笑になってだ。彼は黄金についてはこう言った。
「寄付をしようかな」
「あっ、そうした団体とかになのね」
「うん。無駄遣いとかするよりそっちの方がずっといいよね」
「そうね。困っている人達に回した方がいいわよね」
「だからね。こうしたお金はね」
寄付をするというのだ。今回は。
「その方がずっといいからね」
「じゃあそうしましょう。私もそれに賛成よ」
「それじゃあね」
こうしてだ。黄金の使い道も決まった。良心的な使い道と言えるだろう。
「この黄金は寄付ってことで」
「そうしようね」
「けれど問題は」
ここでだ。樹里は上城にこうも言った。その言うこととは。
「何処に寄付するかよね」
「どの団体になんだ」
「結構。そうした団体でもね」
「あっ、何か詐欺団体とかあるらしいね」
「そう聞くから」
少し顔を曇らせてだ。樹里は上城にこの話をしたのである。
「だから何処に寄付するかはよく考えないと」
「本当に困っている人達のところにいかないんだね」
「それどころか人を騙す悪い人のところに行くから」
寄付は善意で行われる。しかしその善意を逆手に取って自分の懐に入れるという行為が邪悪と言わずして何と言うか。それが問題だった。
「だからね」
「気をつけないと駄目だね」
「そう。本当に何処に寄付するかはね」
「よく考えましょう」
「そうしようか。じゃあ」
上城はここでその黄金達を手にした。それからだった。
彼等はその場を後にした。上城はまた力を手に入れた。そのうえで戦いを止めようと決意したのである。手に入れたその力を以てして。
第三十八話 完
2012・6・28
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