万華鏡
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第十九話 ビーチその十七
「それが出来るからね」
「いいっていうんだな」
「そう。だから後片付けの後で行ってみる?」
「皆どうする?」
美優は里香の言葉を聞いてから他の三人に尋ねた。
「後片付けの後でプールの方に行くかい?」
「うん、最初からのお話だったしね」
琴乃は笑顔で乗った。
「それならね」
「そうね。どうせだしね」
「それならね」
景子と彩夏も続く、そしてだった。
五人の考えは一致してそのうえでだった。
五人でプールに向かったそうしてそこで実際にプールサイドの安楽椅子に寝そべる、そうしながら琴乃は少し残念そうに四人に言った。
「ここでトロピカルドリンクが飲めればね」
「あるけれど」
里香も琴乃の言いたいことを察して言う。
「それでもね」
「ちょっとね。もうね」
「何も入らないわよね」
「食べて飲んだから」
そのせいだった。
「もうジュースもね」
「飲めないわよね」
「ええ、もう満腹」
琴乃は満足しているがそこに残念なものも入れた口調で言った。
「何も入らないわ」
「私も」
「私もよ」
景子と彩夏もだった。そして美優も。
「あたしもだよ。飲み過ぎたし食べたしね」
「ビールは凄い勢いで抜けていってるけれどね」
夏の暑い日差しで汗をかく、天然のサウナだった。
「それでもね」
「ああ、暫くは何も入らないよ」
「じゃあ暫くはここにいて」
「三時位になったらさ」
それでだというのだ。
「帰る?」
「うん、それ位でいいんじゃないかな」
琴乃は美優のその考えに賛成した。
「それまではここでゆっくりしてね」
「そうしてだよな」
「着替えてそして」
そうしてだというのだ。
「帰ってね」
「後は電車の中でゆっくりとだよな」
「あっ、ゆっくりはいいけれど」
ここでふと気付いて言う琴乃だった。
「酔ったせいで電車を寝過ごさない様にしないとね」
「ああ、それだよな」
「ちょっと恥ずかしいからね」
「だよな、お家までは起きてないとな」
「今は大丈夫だけれど」
五人共だ、日差しにじりじりと攻められてそれで寝るどころではなかった。
「それでもね」
「電車の中ってついつい寝てしまうのよね」
このことは景子も言う。
「特に何処からか帰る時は」
「でしょ?だからね」
それでだった。
「今日はお家までは寝ないで」
「家に帰ってからね」
「ゆっくり寝ればいいわね」
「景子ちゃんのお家だとお布団敷いてよね」
「神社だからね」
それはどうしてもそうなることだった。
「やっぱりね」
「お布団もいいわよね」
「あと蚊帳もあるわよ」
随分と古風でしかも風情のあるものが出て来た。
「あの中で寝るのもいいものよ」
「へえ、蚊帳もあるの」
「いつも夏はそれ使ってね」
その中で寝ているというのだ。
「そうしてるの」
「ううん、何か蚊帳って」
「一回見てみる?」
「うん、お願い出来る?」
お互い安楽椅子に寝そべったまま話をしていく。
「それならね」
「いいわよ。そろそろ出そうって思ってたし」
景子は琴乃二顔を向けてにこりとして言う。
「それじゃあね」
「また景子ちゃんの神社に行って」
「それでね」
「うん、見せてね」
「蚊帳も珍しいものになったわよね」
景子の口調がしみじみとしたものになった。
「もう殆どないっていうか」
「和風のお部屋じゃないと似合わないしね、蚊帳って」
「それに吊るさないといけないし」
この手間もあった。
「面倒なこともあるわね、確かに」
「そうなのね」
「それでも独特の風情があってしかも蚊は避けられて」
そしてだった。
「中で扇風機も使えていいのよ」
「そんなにいいのね」
「そうなの。凄くいいから」
そうした話をして今度は景子の家に行くことになった、そうした話をしてプールでも五人の時間を過ごした。
それが終わって家に帰るとだった、母が琴乃にこう言ってきた。
「ああ、朗報よ」
「朗報って?」
「梅雨明けよ」
笑顔での言葉だった。
「よかったわね」
「あっ、梅雨明けなの」
「今年は随分降ったけれどね」
「例年より多かったのよね」
「例年より結構ね」
多かったというのだ、実際。
「けれど今日で終わりよ」
「よかったわ、本当に降る時は凄かったからね」
「そうよね。土砂崩れとか不安になる位に」
「堤防とかもひょっとしてって思う位に」
そこまで激しい雨だった、だがそれもだったのだ。
「それも終わりなのね」
「夏は夏で夕立ちがあるけれどね」
「今年の夏ゲリラ豪雨とか多いかしら」
「みたいよ。けれどね」
「梅雨はもう終わりね」
「だからそれは安心してね」
「よかったわ。後は」
琴乃は母の話を聞きながら笑顔で言う。
「ペープマットとか出して」
「それか蚊取り線香ね」
「どっちがいいかしら」
「ペープマットもいいけれど」
「いつも通り蚊取り線香にするのね」
「あっちの方が好きなのよ、お母さんは」
母は何故蚊取り線香が好きかも話す。
「風情があるじゃない」
「煙が漂って」
「ペープマットの匂いってきつくて人にも悪い影響与えそうだけれど蚊取り線香は違うわよね」
「何かね。そんな感じがするわね」
「だから好きなの。あの煙が夏ってイメージだしね」
煙もそのイメージを形成するものだった。
「いいのよ。じゃあ今年も蚊取り線香にするわね」
「わかったわ、それじゃあね」
「梅雨が明けたらいよいよだから」
夏、それになるというのだ。
「明日買って来るわね」
「うん、じゃあね」
家に帰ると梅雨が終わっていた、そして夏がはじまろうとしていた。新しい季節が扉を叩きもうすぐそこまで来ていた。
第十九話 完
2012・1・2
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