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マノン=レスコー

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第三幕その三


第三幕その三

「あの娘なんかまだ若いのにな」
「一体何をしたのか」
「愚かなだけたった」
 レスコーは彼等の話を聞いて一人俯いた。そのうえで述べた。
「それだけだったのだが」
「それは罪になるのか」
「時と場合によってはな」
 答えるレスコーの言葉には無慈悲とさえ言える現実味があった。それはデ=グリューの耳にもはっきりと入った。
「そしてあの時がそうだった」
「そのせいでマノンは」
 囚人達は今も次々と名前を呼ばれていく。強気でいる者が大抵だ。マノンだけが打ちひしがれていると言って過言ではない。マノンは罪を被せられ今己の愚かさを後悔している。しかし他の者達は実際に何かの罪を犯しておりそれへの覚悟もしている。そうしたことがマノンと彼女達を分けていた。
「ああなったんだ」
「なあ若い人」
 デ=グリューの辛い声を聞いた老人が彼に顔を向けてきた。
「あんた、何があったんだ?さっきから泣きそうな声で」
「そうだな。あの囚人達に誰か知り合いでもいるのかい?」
「それは」
「それについては僕がお話しましょう」
 レスコーが彼等に応えてきた。そっとデ=グリューを庇う。
「あそこにいる白い髪の少女」
「彼女か」
「はい」
 マノンを指差したうえで答える。
「彼は彼女の恋人でした。しかし年老いた老人に彼女を奪われ」
「何と」
「悪い奴がいるものだ」
 市民達はレスコーの話を聞いて怒りの声をあげる。ここでレスコーは話を粉飾しているがそのことには気付かせない。あくまで真剣に事実であると自分にも言い聞かせて語っていた。
「彼は彼女を取り戻そうとしましたが老人は彼女に罪を着せ」
「ああなってしまったと」
「そうなのです。酷いと思われますか」
「実に酷い」
「そんなことが本当にあったとは」
 皆レスコーの真剣さを装った演技に引っ掛かった。レスコーは心の中でそれを喜びながら話を通d蹴る。このまま行かなければと思いながら。
「そう思われますね。ですから」
 彼は言う。
「是非彼にお力を」
「わかった。若いの」
 老人がまずデ=グリューに声をかけた。
「何かしてみろ」
「わし等がついているぞ」
 他の市民達も声をかける。
「何かを」
「そうだ。彼女が好きなんだろう?」
 顔を向けてきたデ=グリューに声をかける。
「それならだ」
「勇気を出してな」
「勇気を」
「君の思うことをしてみるんだ」
 レスコーがここで彼に声をかける。
「人生最大の勝負だ。いいか」
「勝負なのか。そうだね」
 デ=グリューはその言葉に頷く。
「それなら」
 彼は顔を上げた。そして市民達から離れて軍曹とその後ろに並ぶ囚人達のところに向かった。そこには言うまでもなくマノンもいた。
「デ=グリュー」
「マノン、僕は決めたよ」
 彼はマノンに対して言った。毅然とした声で。
「僕は君を失わない。だから」
「待て」
 軍曹が前に出て来た彼に声をかけてきた。さっと彼の前に移った。
「何をするつもりだ」
「彼女と一緒に」
 マノンを見据えて言う。
「彼女と一緒にいる。それだけです」
「馬鹿を言うんじゃない」
 軍曹はそう述べて彼を止める。
「この女はこれから流刑地に送られるんだぞ。それでどうして」
「構いません」
 彼はそれでも迷わなかった。
「僕はどうなってもいいです。ですから彼女と一緒に」
 軍曹はそれでも彼を行かせようとしない。しかし腰の剣に気付いた。
「待て」
「何か」
「失礼ですが貴方は貴族ですか?」
「一応は騎士です」
 そう返した。
「レナート=デ=グリューです」
「騎士殿ですか。ではあらためてお話します」
 態度をあらためて来た。貴族は軍では皆将校である。だから軍曹は姿勢をあらためて彼に接してきたのである。しかしその言葉は変わりはしなかった。
「諦めて下さい。宜しいですね」
「どうしてもですか」
「そうです」
 彼は毅然として述べる。
「何があっても」
「そこを何とか」
 デ=グリューも引かない。一歩前に踏み出してきた。
「お願いします」
「無理です」
 それでも軍曹は引かない。
「おわかり下さい」
「おい軍曹さんよ」
 軍曹の態度を頑固だと受け取った市民の中の一人が彼に対して言ってきた。
「けちけちするなよ」
「そうだよ、彼は恋人と一緒にいたいんだろ」
「じゃあ許してやれよ」
「しかし」
 それでも彼は引かない。軍人としての心が彼にはあった。
 
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