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マノン=レスコー

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第三幕その二


第三幕その二

「行って来る。すぐに戻るから」
「うん」
 デ=グリューはそれに頷く。こうしてレスコーは去り二人だけとなったのであった。
 デ=グリューはあらためてマノンと向かい合う。マノンは彼に対して言う。
「大丈夫かしら」
「君の兄さんじゃないか。絶対に大丈夫だよ」
 そう言って不安にかられる彼女を宥める。しかしそれは効果がなかった。
「けれど」
「大丈夫だ、君は助かる」
 そんな彼女にまた言った。
「そして今度こそ僕と」
「貴方と」
「うん、一緒に暮らそう」
「そうね、私やっとわかったわ」
 マノンは力ない笑顔で述べてきた。
「本当に大切なものが。それは宝石でもお屋敷でもなく」
「それは」
 デ=グリューがそれを聞こうとする。しかしここで突如として銃声が聞こえてきた。
「!?」
「何っ、一体」
 デ=グリューは思わず腰の剣を抜いた。マノンもぎょっとする。驚く彼等にのところにレスコーが駆けてきた。彼もその手に剣を持っている。
「済まない、失敗した」
「失敗したって!?」
「仲間達が見つかったんだ。それで今追い散らされた」
「じゃあ今の銃声は」
「そうだ」
 レスコーは答える。
「それじゃあ」
「もう無理だ」
 首を虚しく横に振ってデ=グリューに答える。
「何もかもが」
「そんな、マノン・・・・・・」
「いいわ、それでも」
 マノンは悲しい微笑みを浮かべてそれに頷いた。
「それが運命なら。デ=グリュー」
 彼に声をかけた。
「私なんかの為に有り難う。だから逃げて」
「しかしマノン」
「もういいの。このままだと貴方まで」
「そうだ」
 レスコーも言う。
「皆逃げてしまった。だから僕達も」
「いや」
 しかし彼は首を横に振る。そして言うのだ。
「僕は残る。何があっても君を救い出すんだ」
「無理よ、もう」
 マノンはそれを否定する。牢の中で。
「だから早く」
「いや、それでも僕は諦めない」
 彼も引き下がらない。何としてもマノンを救い出すつもりであった。
「だから君を」
「いいんだな」
 レスコーが彼に問うてきた。
「それで」
「ああ、構わないさ」
 彼は言った。
「決めたから」
「わかった」
 レスコーはその言葉に頷いた。
「じゃあ僕も最後まで残ろう、いいな」
「レスコー」
「お兄様」
「元はと言えば僕が余計なことをしてしまったせいだ」
 マノンをジェロントのところへやったことである。それを今悔いているのだ。
「だからこうなったら」
「済まない」
「いや、いい」
 デ=グリューにそう返す。
「だから」
「うん」
 二人は頷き合う。それからマノンに二人で顔を向けた。
「最後まで諦めないから」
「きっと」
「有り難う・・・・・・」
 彼女は牢の中で泣き崩れた。今になってようやく二人の心がわかったのであった。そのことが何よりも有り難いということを。今になって知ったのであった。
 船の周りに市民達が集まって来る。そろそろ時間であった。デ=グリューとレスコーはその中に入って紛れ込む。マノンは牢から出され引き立てられて行った。
「静粛に」
 船の前には普段レスコーが着ている軍服と同じものを身に纏った男がいた。それを見ると彼が下士官、それも軍曹であることがわかる。
「もうすぐ船長が来られるからな」
 すると右手から水夫達を引き連れた立派な服の男が現われた。その服から彼が船長であることがわかる。いよいよであった。
「よし、いいぞ」
 将校が一人軍曹のところに来て声をかけた。
「囚人を読み上げてくれ」
「わかりました」
 軍曹はそれに頷く。そうして点呼をはじめた
 デ=グリューとレスコーは群集の中に紛れ込んでいる。その中でまだ機会を窺っていた。
「きっと」
 デ=グリューは決死の顔でマノンを見ている。
「助け出す」
「君はどうなってもいいのか?」
 横からレスコーが囁いてきた。
「どうなっても」
「構わない」
 彼の決意は変わりはしない。それは声の強さにはっきりと現われていた。
 市民達は興味本位で囚人達を見ているその中には当然マノンもいる。
「色々いるな」
「そうだな」
 彼等は完全に他人事だ。その顔でマノンも見ている。マノン相変わらず打ちひしがれた顔をしている。
 
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