ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode3 薔薇の王との戦い2
(いけるっ!)
細剣の十八番である手数の多い連続技を放ちながら、アスナは確信していた。
戦線は、思った以上に押していた。
確かにこちらの攻撃の威力ではボスを仰け反らせるには至らないが、ボスの辺り判定の部位が大きいために、いつもなら難しい「多人数で取り囲んでのソードスキル攻撃」が可能で、既に相手のHPゲージの八割近くが削れている。集まった攻撃特化型(ダメージディーラ―)達は、流石の火力で敵のHPをがりがりと削り取っていく速度は、賞賛に値する。
(……でも…)
しかし、それを加味したとしても、今回のMVPは背後の二人に間違いないだろう。
不定期にポップするモンスターの群れをかき集めて、殲滅する。
言葉にすれば簡単だが、実行するのは…特にこの場所でそれをするのは、言うよりもはるかに難しい。まず第一に、足場が悪い。大蜂のタゲを取るにはキリトのように『投剣』スキルなどの遠距離攻撃で惹き付けるか、シドのように疾走して引っかけるようにタゲを取るしかない。飛行型のモンスターに、この悪い足場では、どちらも容易なことではない。
しかしあの二人は、それを完璧に成し遂げている。なんと、ここまでに前線を構成していたメンバーが大蜂から攻撃を受けた回数は、まだ片手の指に数えるほどなのだ。前に偵察隊が同じ作戦をとったときには、遊撃部隊は倍の四人もいたにも関わらずにうまくタゲを取れず、あっさりと作戦失敗に追いこまれていたのに。
(…シャクだけど、言うだけのことは、あるわね…)
走り回る眠たげで不健康な痩身の男をちらりと見やりながら、最後の一撃をしっかりとクリティカルポイントへと叩き付ける。と同時に、その威力を確認するために目線をボスのHPゲージへと走らせる。先程の一撃によって、とうとうボスモンスターのHPは残り二割、レッドゾーンに入った。
(……いける)
鞭のように振り回される蔦の動きを見て、それが自分に向かっていないことを確認。硬直が解けると同時に、続けてもう一セットの連続技を放つために腕を引き絞る。Mob召喚の体制に入って体を揺するボスに、その最初の一撃を加えるべく狙いを定め、
「アスナ!!!耐毒ポーションを飲め!!!来るぞっ!!!」
他の面々の放つソードスキルの轟音の中に、キリトの声が聞こえた気がした。
◆
「シドっ、もう一五分だっ! 耐毒ポーション飲めっ!」
「おうっ!」
Mobの波を捌いたインターバルの間に、キリトの指示でポーチから耐毒ポーションを取り出して煽る。既に戦闘開始から十四分が経過しており、このままでは戦闘終了まで耐毒効果が持たないだろう。確かにボスのHPも、もうレッドゾーンに入る。
と。
「シドっ、気をつけろ!!! なんかくるぞ!!!」
キリトがさっきよりも大きな声で怒鳴った。
一拍遅れて、俺もそれを感じた。別にそれは『超感覚』でも何でもない。
床だ。
さっきまでは定期的に動いていた床が、ボスのHPバーが二割を切った瞬間にそれまでより激しく動き出したのだ。何かが来る。キリトが前線のメンバーに呼びかけているが、絶え間ないエフェクトフラッシュと轟音で聞こえていないのか、呼びかけに答えた奴はいない。
と。
「!!!!!!!」
植物の発する奇声が、ボス部屋全体を震わせた。中央では無い、部屋の四隅からの、だ。
「おいっ!」
四隅から地面を突き破って現れたのは、ボスよりも若干小さい、だがボスと同じ形状をした、ちょうど人間大の植物型モンスター。名前は「バイオローズスウェル」。外見でボスと異なるのは、頭上にあるのが美しい花ではなく、膨らんだ蕾であるところだ。
その蕾は、花を開く以上に大きく、まるで…そう、まるで。
「っ!みんな、毒液が来るぞ!!!伏せろっ!!!」
まるでスプリンクラーのように、部屋の四隅から一斉に毒液を噴き出し。
中央に向かって扇状に放たれる、霧のように広範囲を覆う攻撃が、耐毒ポーションの効果の切れたアスナ達前衛の面々へと降り注いだ。
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