ソードアートオンライン VIRUS
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妨害
前書き
タイトル浮かばねぇー
「それにしても、モンスターを見かけないなあ?」
「確かに……サラマンダーたちのほうに全部行ったのか?」
雲の塊を切り裂きながら、キリトとゲツガは頭に疑問符を浮かべた。
「あ、このアルン高原フィールド型モンスターはいないの。だから会談をわざわざこっち側でするんじゃないかな」
「なるほど、大事な話しの最中にモンスターが沸いちゃ興ざめだしな……。でも、この場合は有り難くないな」
「どういうこと?」
リーファはキリトに聞く。
「モンスターとエンカウントしては、追ってくるギリギリの距離を保ちながら引っ張っていって、サラマンダー隊にぶつけてやろうと思ってたんだけどな」
「おい、キリト。それはさすがに駄目だろ。いや、でも、こういう緊急事態の時には仕方がないか」
「……よくそんなこと考え付くわね、二人とも。サラマンダーは洞窟で襲ってきた時以上の大部隊らしいから、警告が間に合って全員でケットシー領に逃げ込めるか、もしくは揃って討ち死にか、どっちかと思うよ」
リーファがそう言うとキリトは黙ってしまう。
「いや、でもモンスターさえ引っ付いてくれば少しは混戦になって領主だけは何とか逃がすことはできるかもしれないだろ?」
「まあ、そうだけど……」
その時、ユイが叫んだ。
「プレイヤーの反応です!前方に大集団……数は六十八人、これがおそらくサラマンダーの強襲部隊です。さらにその向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会議出席者と予想します。双方が接触するまで後五十秒です」
雲を抜けたゲツガの目にはサラマンダー強襲部隊が目に入る。五人ずつにパーティーを組み、その中心には指揮官らしき男と側近の男達二人が見える。少し、奥のほうには話をしてサラマンダーの接近に気付いていない集団が見える。
「間に合わなかったね」
リーファはもう無理と思ったのかゲツガたちに言った。
「ありがとう、キリト君、ゲツガ君。ここまででいいよ。君たちは世界樹に行って……短い間だったけど楽しかった」
そう言ってリーファはゲツガとキリトの手を握る。その手を握り返してキリトとゲツガは言った。
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
「そういうわけ、それに自分の種族の主が殺されそうになってるのに逃げるわけにはいかない」
ゲツガとキリトは手を離す。キリトはユイをつまんでポケットに放り込むと翅を思いっきり震わせて猛烈な加速を開始する。そして、その後に続くようにゲツガも加速を開始した。そして、そのままケットシー、シルフとサラマンダーの強襲部隊の間にドーンと大きな音を立てて着陸する。砂埃が立ち上り、周りがよく見えなくなるがすぐに視界が開ける。
そして、
「双方、剣を引け!!」
キリトが馬鹿でかい声を上げた。いきなり叫ばれたことでゲツガも頭にある耳を抑えてうるさそうにしていた。
「キリト、叫ぶんなら言ってくれよ。耳と心臓に悪いぞ」
「すまんすまん」
キリトは軽く謝ってから真剣な表情に戻してサラマンダーの方を見る。
「指揮官に話がある!!」
キリトがそう叫ぶとランス隊の輪が割れて二人の男が出てくる。一人は大柄な戦士。もう一人はこの中で唯一鉄の防具ではなく革の防具を着ている少年戦士。その二人が出てくるとゲツガと、キリトは翅を広げてその男たちの前まで飛ぶ。
「スプリガンがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すがな」
「まあまあ、ジンさん。落ち着いてこいつらの話を聞いてみようよ」
少年はにししと笑いながら言う。そう言うとキリトはゲツガは互いの顔を見合わせた後、キリトが代表して話す。
「俺の名はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。こいつは俺が傭兵として雇ったケットシーのゲツガ。この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」
うわー、そんな馬鹿でかくした嘘かよ……。
そう思うがこれぐらいじゃないと、サラマンダーたちは怯まないだろうと考え、頷いた。それを聞いたジンと呼ばれていた男と少年は少し驚く。しかしすぐに表情を戻した。
「ウンディーネとスプリガンが同盟だと……?」
「聞いたこともないけど、ホントなの?」
キリトとゲツガは頷く。
「護衛が弓兵一人しかいない貴様が大使というのか?」
「ああ、そうだ。この場にはシルフ、ケットシーとの貿易交渉に来ただけだからな。だが会談が襲われたとなればそれだけじゃ済まないぞ。四種族で同盟を結んでサラマンダーに対抗することになるだろう」
しばしの沈黙が蝶の谷を覆う。
そして
「たった二人、たいした装備を持たないスプリガンとじゃじゃ馬と呼ばれる弓を持つケットシーの貴様らの言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな。バルダ」
「あいよ、ジンさん」
二人のサラマンダーはそれぞれ武器を取り出す。大柄なジンと言われる男はキリトやゲツガの身の丈もある両手剣を抜き放ち、もう片方の少年のサラマンダーは少し大きめの短剣を取り出した。
「俺(僕)の攻撃を三十秒耐え切ったら、貴様ら(君達)を大使と信じてやろう(もいいよ)」
「ずいぶんと気前がいいね」
「ああ、わかりやすくて実に俺好みだ」
そう言ってキリトは剣を、ゲツガは弓を構える。
「ジンさん。僕は何時も通り、弓使いをあいてさせてもらうよ。こっちの方が得意分野だし」
「いいだろう。だが、遊ぶんじゃないぞ、バルダ」
「わかってるって。じゃあ、弓のお兄さんは俺と一緒にちょっと遠くまで行こうか」
バルダと呼ばれる少年が森の方に飛んでいく。
「じゃあ、キリト。こっちは俺に任せとけ。相手も俺が望みだったらしいし……絶対に負けるなよ?」
「あたりまえだ、お前こそ逃げ帰って来るんじないぞ」
互いにそう言うとゲツガとキリトはにやりと笑ってから、それぞれの相手の方に向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
キリト君が大きな声で介入した後、私は急いでサクヤのところに行った。
「サクヤ」
声をかけたシルフの女性は呆然とした表情で振り向き、さらに目を丸くする。
「リーファ!?どうしてここに!?い、いや、そもそもこれは一体!?」
サクヤでも取り乱すことがあるんだなー、と思いながら今の状況を急いで知らせる。
「簡単には説明できないから後でゆっくり説明する。一つだけ言えるのは、あたしたちの運命はあの二人次第、ってことだわ」
「……何がなんやら……」
そう言って再び、黒衣の剣士と白衣の弓兵の人影に眼をやる。二人ともあんな大人数を前にしても一向に怯んでいなかった。そして、何かを互いに話した後、再びキリトが叫んだ。
「指揮官に話がある」
キリトの大きな叫び声が響き、それに圧倒されたのかサラマンダーのランス隊が割れて二人の男がその間を通って降りてきた。それとともに、ゲツガとキリトも飛翔する。
「スプリガンがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すがな」
「まあまあ、ジンさん。落ち着いてこいつらの話を聞いてみようよ」
圧倒的な威圧感を放つ二人に臆することなくキリトは大声で言った。
「俺の名はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。こいつは俺が傭兵として雇ったケットシーのゲツガ。この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」
その言葉に思わず絶句する。ものすごいハッタリをかますにもほどがある。横のシルフの領主、サクヤとケットシーの領主、アリーシャ・ルーには手を振って何も知らないとアピールする。
「ウンディーネとスプリガンが同盟だと……?」
「聞いたこともないけど、ホントなの?」
ホラ、早速疑われてる。さすがに無理だよ
と思って二人の背中を見やると、二人は堂々と首を縦に振った。
「護衛が弓兵一人しかいない貴様が大使というのか?」
「ああ、そうだ。この場にはシルフ、ケットシーとの貿易交渉に来ただけだからな。だが会談が襲われたとなればそれだけじゃ済まないぞ。四種族で同盟を結んでサラマンダーに対抗することになるだろう」
その言葉によって、さっきまでうるさかった蝶の谷が沈黙に包まれた。やがて
「たった二人、たいした装備を持たないスプリガンとじゃじゃ馬と呼ばれる弓を持つケットシーの貴様らの言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな。バルダ」
「あいよ、ジンさん」
サラマンダー二人は片方は背中に、もう片方は腰に手を回すと剣を抜いた。
「俺(僕)の攻撃を三十秒耐え切ったら、貴様ら(君達)を大使と信じてやろう(もいいよ)」
「ずいぶんと気前がいいね」
「ああ、わかりやすくて実に俺好みだ」
二人も自身の武器を構える。
三十秒……それが、この会談の運命を動かす時間となった。二人の強さからすると問題ない時間だがあの二人のサラマンダーが放つ殺気は尋常ではなかった。
緊迫した空気の中、リーファの耳元でサクヤが低く囁く。
「まずいな……」
「え……?」
「あのサラマンダーの両手剣、レジェンダリーウェポンの紹介サイトで見たことある。魔剣グラム……ということはあの男がユージーン将軍だろう。それともう一人の少年の風貌をしたプレイヤー、それとあの軽装備、ユージーン将軍とともに行動しているから間違いなく遠距離殺しの、神速のバルダだ。知ってるか?」
「一応、名前だけなら……」
息を呑むリーファに向かって軽く頷いたサクヤは言葉を続ける。
「サラマンダー領主、モーティマーの弟……リアルでも兄弟らしいがな。知の兄に対して武の弟、純粋な戦闘力ではユージーンのほうが上だと言われている。それと、もう一人、バルダは攻撃はそこまでないらしいが一撃一撃の速さと正確さはピカイチであのユージーン将軍と引き分けたほどの男だ。しかも、その速さを活かし、遠距離武器の相手やメイジに攻撃を食らわず接近し、確実に仕留めるから遠距離殺しと呼ばれている。つまり、この二人は……」
「全プレイヤー中、一位か二位を争う最強のプレイヤーたち……」
「……ってことになるかな……。まったく、とんでもないものを寄越してくれたな、サラマンダーは……」
「……ゲツガ君……キリト君……」
リーファは祈るように手を合わせて彼らを見た。
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