戦国異伝
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第百十五話 大谷吉継その十一
「それもかなり」
「うむ、この国がはじまって以来な」
「参ったのう」
日本が豊かになることが困るというのだ。彼等は闇の服、明らかに織田家のものではないその服を着てそのうえで松永の前で話していく。
「この国は乱れてもらわねばな」
「全くじゃ。我等が付け入る隙がなくなる」
「戦国の世こそその好機というのに」
「織田信長、余計なことをする」
「まるで日輪ではないか」
信長を日輪だと評する者さえいた。
「日輪程忌々しいものはないが」
「闇の中にいる我等を何処までも消そうとする」
「あの日輪と同じなら」
「織田信長、決して放ってはおけぬ」
「このままでは」
「だからこそ殿」
松永に対しても言う彼等だった。
「我等は織田家に入りそのうえで内部から仕掛けるのが務め」
「十二家の一つ松永家の主ですから」
「織田信長を何としても消しましょう」
「頃合を見て」
「わかっておる。長老にも言われておる」
松永も急かす感じの彼等にこうも返した。
「織田家を中から食い荒らせとな」
「ではそのお考えは」
「どうされるおつもりですか」
「そうじゃな。まずはじゃ」
「はい、まずは」
「まずは何をするのでしょうか」
「酒はあるか」
ここで不意にだった、松永は笑って自身の家臣達に対して笑ってこう言ってきたのである。
「夜じゃ。皆で飲もうぞ」
「酒ですか」
「それですか」
「丁度よい肴を殿から頂いた」
松永は笑ったまま家臣達にこうも言った。
「梅じゃがな」
「織田信長からですか」
「梅をですか」
「梅で飲む酒は実によい」
松永は謀を聞くと思って身構えていたが酒と言われてきょとんとした彼等に対してさらに言ったのである。
「だからどうじゃ」
「あの、酒ですか」
「それを今ですか」
「今我等と共にですか」
「飲まれるのですか」
「酒は山城の酒じゃ」
松永は酒の話もする。
「これも殿から頂いたものじゃ」
「ですから殿」
家臣達はいぶかしむ顔になって松永に返した。
「今はです」
「酒を飲まぬのか」
「酒なぞ飲んでいる時ではなかと」
「左様です、織田家をこれからどう食い荒らすのか」
「そのことをお話して頂けるのではないのですか?」
「そうではないのですか?」
「その話は後でもよいではないか」
松永は怪訝な顔の彼等に相変わらずの調子だった。
「時は幾らでもあるではないか」
「確かに。織田信長は領地を急激に広げましたし」
信長の性格ではそうしてからどうするかということはもう彼等も知っていた、それでこう話すのだった。
「暫く、数年はその領地の政に専念する」
「そうしますな、間違いなく」
「足場を固めにかかりますな」
「うむ、焦ることはない」
また言う松永だった。
「今はゆっくりと飲んでよいではないか」
「余裕を持てということですか」
「つまりは」
「焦っても仕方がない。ではよいな」
松永の調子は変わらない。手を叩いてその酒と梅を持って来させる、見れば酒は一斗樽である。
その樽も見て松永は言うのだ。
「たんと飲もうぞ」
「これはまた多いですな」
「樽とは」
「昼は茶、夜は酒を飲むものじゃ」
松永の考えである。彼は茶の道でも知られているが酒も好きなのだ。
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