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八条学園怪異譚

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第二十話 プールの妖怪その十三

「はじめましてだよね」
「あんたがシャワールームにいるその垢舐めね」
「そうなのね」
「うん、そうだよ」
 垢舐めは明るく二人に返す。身振り手振りも交えている。
「僕がその垢舐めだよ」
「あんたシャワールームの汚れを舐め取ってるの?」
「いや、実はいるだけなんだ」
「けれどシャワールームにいるからには」
「ここのシャワールーム奇麗だからね」
 こう答える妖怪だった。
「ただいるだけなんだ」
「ああ、奇麗だったら舐め取る必要はないのね」
「奇麗にすることもないから」
「そうなんだ。最近の水泳部の人達は奇麗好きだからね」
 シャワールームも奇麗に掃除しているというのだ。
「いいことにね」
「じゃあどうしているの?」
 愛実は垢舐めに尋ねた。
「シャワールームに」
「うん、居心地がいいからね」
「居心地がいいの?シャワールームが」
「確かに身体や髪の毛は洗えるけれど」
 二人は垢舐めの言葉に首を捻った。
「居心地がいいのかしら」
「そうなの」
「僕にとってはね」
 垢舐めは自分の主観から二人に答える。
「風呂場にいる妖怪だからね」
「ああ、だからシャワールームもなのね」
「居心地がいいのね」
「そういうことだよ」
 垢舐めは陽気に笑って二人に話す。
「まあ汚れがないのは寂しいけれどね」
「というか今洗剤としっかりしたスポンジがあるからね」
「モップもあるから」
 家の仕事柄二人は掃除には非常に五月蝿い。
「シャワールームも奇麗に出来るから」
「あくまで掃除をする人のやる気次第だけれどね」
「そうなんだよね。確かに奇麗なのはいいけれど」
 垢舐めは少し寂しい感じも見せる。
「奇麗にすることが好きな僕としてはそこが寂しいね」
「おトイレは行かないの?」
「そこは花子さんや頑張り入道さんの場所じゃないからね」
 垢舐めの場所ではないというのだ。
「そこは違うよ」
「ううん、妖怪さんってテリトリーしっかりしてるからね」
「それでそうなるのね」
「そういうこと。まあ楽しくはやってるよ」
 寂しいが満足はしているというのだ。
「ここには皆もいるからね」
「だといいけれどね」
「寂しくないんなら」
「妖怪は寂しいのが苦手なんだよね」
 意外なことにそうらしい、垢舐めが言うにはそうなのだ。
「物陰から誰かを驚かせるのもね」
「寂しさの裏返し」
「そういうことなの」
「そう、妖怪がさ寂しがりなのは二人共わかってくれてると思うけれどね」
「まあそれはね」
「一緒に遊んでいるとわかるから」
 二人もこう返す。
「妖怪さんって寂しいの苦手よね」
「寂しいと死ぬっていう感じで」
「そうそう、一人でいる様で実は違うんだよ」 
 この辺りは人間世界と同じである、妖怪もまた一人では生きられないのだ。だからこの学園にも大勢いるのだ。
「僕も寂しがりでね」
「私は常に誰かが傍にいた」
 ここで日下部も言う。
「軍、自衛隊、家族にな」
「それで今もですよね」
「こうして皆といて」
「そういうことだ。人間も幽霊も妖怪も同じだ」
 一人では生きられない社会的存在であるということはというのだ。
「誰かがいないと駄目なのだ」
「ううん、垢舐めさんも然りで」
「それでここで皆と楽しく」
「垢舐め君はいい人だよ」
「そうそう、奇麗好きで親切なんだよ」
 河童やキジムナー達もここで話す。 
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