ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode3 『攻略組』の実力2
俺も、もう一年このゲームをプレイしていることになるが、まったくやればやるほどにその設定とゲームバランスの絶妙さに感服させられる。製作者たる茅場晶彦はまぎれもない狂人だが、同時にまぎれもない天才であることを認めざるを得ないほどには。
そしてそれは当然、ボス攻略においても例外ではない。ボス攻略が始まって間もない頃はさまざまな裏技…いわゆる「ハメ技」が考案されたものの、そのすべてが巧妙に不可能にされていた。
その機構の一つで、ボス部屋の前で長時間待機していると、異常にレベルの高い(おそらく普通の迷宮区のモンスターより十は高いだろう)Mobが後ろからわんさかポップするというものがある。恐らくはボス部屋の前での『投擲』スキルでのハメ殺しや、交代要員を大量に待機させての物量作戦を防止するための調節機械の考えなのだろう。
ついでに言えば、例えそんな姑息な手段をする気が無いとしても機械はそんなことを加味してはくれない。結果、俺達はここでそこまで長いこと休憩をとることはできない。……のだが、今回の面々の精神力はこんな程度の探索で参る様な貧弱なものではないようで、全員が支給されたポーションを飲んだ後は、数人が武装を変えただけで座り込むようなものはいなかった。
そう、俺達はもう、ボス部屋の前まで来ていた。いくらマップがあるとはいえ、とんでもない速さだ。それに、クリスタルはおろかポーション類すら碌に減っていない。俺ここにいていいのかと本気で心配になる洗練度の高さだ。
「皆さん、準備は出来ましたか? ……では、行きます」
びびっている俺をよそに、アスナが皆の準備を確認する。扉に張り付くように布陣していた皆が、緊張した表情で頷き、指定されていた位置…扉の前に密集する。
ほぼ全員が扉の前で張り付くようにスタンバイしているのは、今回のボスが部屋の中央から動かないタイプのボスであることと、部屋が開く前からポップしているタイプだからだ。こうしておくことで少しでもファーストアタックとベストの足場を確保するためらしい。
そして、「ほぼ全員」に含まれない男が、二人。
「キリト。数えとけよ? 勝負だからな?」
「余裕があったらな。お前こそ、そんなのに気を取られてヘマすんなよ?」
俺。と、キリトだ。
今回俺達は、前線でのボス攻撃とは別行動を任されている。いや、その別行動を任せるために俺が呼ばれた、ということだ。キリトは、まあ、保険みたいなものなのだろう。俺としては、こいつさえいれば俺はいらないとも思うのだが。
最後の無駄口のあと、キリトが顔を引き締めて前を向く。
俺も、なけなしの緊張感をかき集める。
その視線の先で、アスナが触れたドアが、ゆっくりと開いていく。
前衛の面々が鬨の声をあげ、一気に部屋へと突っ込んでいく。その先に鎮座する、巨大な……、とてつもなく巨大な、頂点に紫のバラの花を冠した、異形の植物。カーソルを合わせた先の、「The Bio-ret Rose」…ボスの証たる定冠詞付きの文字。
紫と毒の名を持つ巨大な薔薇の戦士が、
先陣を切った前衛の攻撃を受け、
ゆっくりと起きあがり。
「!!!!!!!!!!!」
声とも機械音ともつかない奇声で吠え。
その体から生えた四本の茨の鞭を、前線のプレイヤーたちへと叩きつけた。
同時に、俺とキリトが部屋の中に突入していく。
こうして俺の…俺たちの、四十七層ボス攻略戦が始まった。
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