戦国異伝
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第百十五話 大谷吉継その二
「牛助、そして新五郎」
「そこにそれがしも入ると」
「これで四人じゃ」
この顔ぶれが織田家四宿老だというのだ。そしてさらにだった。
「武の二枚看板は御主と牛助じゃ」
「またそれがしと牛助ですか」
「そうじゃ。そして四天王は」
最後のこれはというと。
「やはり御主で久助、五郎左に」
「最後の一人は一体」
「一つ言っておくが牛助でも新五郎でもない」
「平手殿でもですか」
「誰だと思うかのう」
楽しげに笑って問う信長だった。
「それは」
「少しわかりませぬ」
「新しく入ったものじゃ」
信長はいぶかしむ柴田に一つ問いに答えられるきっかけを与えた。
「当家にな。禄を出しているという意味で入ったのじゃ」
「新しくですか」
「そうじゃ。誰だと思うか」
「織田家の禄を貰っていますな」
「その通りじゃ」
「ううむ、しかしそれでは」
柴田はいぶかしみながら述べた。
「四天王というとかなりの禄になり」
「まあ禄は結構なものじゃな」
「ですな。では猿でしょうか」
柴田は顔に感情がかなり出る方だ。それで今もしきりにいぶかしむ様子になりそれで信長に答えたのだった。
「あ奴も十万石です」
「確かにあ奴は足軽から十万石にまでなった」
これを破格と言わずして何というかである。
「確かに四天王でも不思議ではない」
「では」
「うむ、あ奴は四天王ではない」
「又左や内蔵助はそこまでいっておりませんし」
この二人もかなり引き立てられたが羽柴程ではなかったのだ。
「では一体」
「わしは織田家の者だけに評定をしておらんぞ」
「となると」
ここで柴田も気付いた。それで言うのだった。
「幕臣の」
「わかった様じゃな」
(明智殿でございますか」
「あの者が四天王の最後の一人となっておる」
「ううむ、幕臣も最早ですか」
「織田家の家臣と思われておる」
全ての幕臣が信長から禄を貰っている。幕府からのそれは微々たるものであるが織田家からは違うのだ。
それで世間も言うのである。
「あの者もな」
「明智殿もまた」
「左様、織田家の家臣と思われておるのじゃ」
「それで四天王でございますか」
「そして青い服も渡した」
織田家を表すその青のだというのだ。
「幕臣全てにな。幕府の足軽達にも青い具足や陣笠を渡した」
「旗は」
「それだけは違う」
陣笠の家紋も足利家のものだ。家紋を描く旗だけはどうしてもだというのだ。
「旗は幕府のものじゃ」
「しかしその他のものは全て」
「青のものを渡した」
「つまり最早幕府も」
「うむ、織田家の家臣達ばかりじゃな」
信長は満足している笑みで述べた。
「それであの者もこれからは織田家四天王の一人よ」
「わかりました。そうですか」
柴田も応えて頷く。そうして。
彼は信長にあらためてこう告げた。
「ではそれがしは今から」
「政か」
「岩村に向かい城の普請に取り掛かります」
「頼むぞ、あの城は信濃のすぐ傍にあるからな」
「堅固にしておかねばなりませんな」
「あの城が敵の手に陥ちればそこから敵が入って来る」
美濃、織田家のお膝元であるこの国にだというのだ。
「だから出来る限り堅固にしておけ。それでじゃが」
「それでとは」
「虎之助と与右衛門も連れて行け」
加藤と藤堂もだというのだ。
「あの二人もな」
「あの二人はこの前清洲城の普請を行っていましたが」
「かなりよかったからのう」
「虎之助は石垣、与右衛門は堀ですな」
「その二つがよい」
だからだというのだ。
「岩村の城は難攻不落にせよ。よいな」
「畏まりました。では殿の仰る通りに」
「御主は政も出来る」
武一辺倒ではないのだ。柴田はそちらの際もあるからこそ四宿老、そして四天王の一人になっているのだ。
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