IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第7話
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では…、」
にこやかに挨拶をするシャルルとやらを一瞥し、視線でゼロに意思を伝える。
『ゼロ、どう思う?』
『敵なら潰すし、味方なら仲良くするかもな。それより、のぞみ達とイチャつきたい…』
駄目だ。色ボケしたゼロに聞こうとするのが間違いだった。
件の転校生、シャルルは、人なつっこそうな顔をした、中性的な顔立ちの、濃い金髪を首の後ろに束ねた、華奢だが優雅な佇まいで正に貴公子と言った感じ。
その隣の女子も育ちの良さそうなお嬢様な雰囲気だ。
しかし、転校生が何を考えているか分からない以上、警戒しておくべきだろう。
「きゃ……、」
きゃ?
「「「きゃあああああああーっ!!」」」
ギィイヤァアア!!耳が!耳が痛い!!
我が耳を存分に痛め付けた女子諸君の歓声は、瞬く間にクラス中に広まっていく。
「男子!新しい男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~!!」
あまりにも五月蝿く煩わしいので両手で耳を塞ぎたくなる。男が少なくてやって来たのが男、しかも美形とあれば受かれるのも理解できなくはない。
但し、俺が居ない時、場所でやっていただきたい。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
注意するのも億劫そうな織斑先生。お疲れ様です。
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
そうだね、山田先生。まだ二人残ってるね。
片方は外見からシャルルの身内と見て取れるが、もう一人が異彩を放っている。
ろくに手入れしていないだろう腰近くまである白に近い銀髪。左目の眼帯。どこまでも冷たい赤い右目。シャルルより小柄な筈だが同程度に感じさせる気配。
『軍人』の名がよく似合う少女は、黙したまま腕組をしたまま教室の俺達を冷たくみていた。
「『シエル・デュノア』です。兄共々、皆さんと仲良く出来れば、と思います」
シャルルの妹とやらは無難に自己紹介を終わらせた。
周囲の女子の反応を見るに、シャルルにお近づきになりたい女子達がどう妹と仲良くなるか検討していた。
…女って、怖いなぁ…。
と、女子の強かさに絶句していたが、いつまで経っても最後の女子は自己紹介をしようとしない。
入ってきてから少しも体勢を変えず、冷たく俺達を見ていたソイツは、おもむろに織斑先生の方を向いた。
「……挨拶をしろ、『ラウラ』」
「はい、教官」
百八十度態度を変えたラウラと呼ばれたソイツから、急速に興味が薄れていった。
協調性を持たない者と下手に関われば、痛い目を見るのは確実である。
だから、ホームルームが終わるまで、我関せずをひたすら貫いた。
一夏が理不尽に叩かれた時は、流石に叩き潰してやろうかと思ったが。
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「一夏、平気か?」
「何ともない、それより、速く移動しないと!」
元々女子だけの世界だったこの学校、こう言う着替えが必要な時はとても面倒なのだ。
「第二アリーナの更衣室が空いてる筈だ。行こう」
「織斑、丹下、グランツ。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子としてな」
そうなるよな。一人で行けるわけ無いし。
「あ、グランツ君は私と来てください」
「?分かりました、山田先生」
デュノアを連れてアリーナに向かおうとしたら、山田先生にゼロだけ連れていかれた。何かあったのだろうか?
「えっと…、織斑君に丹下君、だっけ?僕は…、」
「挨拶は後にしてくれ」
「そゆこと、女子が着替え始めるからな」
一夏がデュノアの手を取り、俺が先行する。
「う、うん…」
いきなり落ち着かないデュノア。
「トイレか?」
「トイ……っ違うよ!」
「いくら男同士だからってそれは失礼だぞ一夏」
急に手を掴まれて恥ずかしいんだろ、きっと。
だからと言って今は手を離したりしている暇はない。速度を落とすわけにはいかないのだ。
「ああっ!転校生君!」
「しかも織斑君と一緒!」
速度を落とせない理由、それは、ホームルームが終わった各学年の生徒達が情報先取の為に立ちはだかるからだ。
捕まれば間違いなく遅刻し、織斑先生特別カリキュラムが待っている。
それだけは避けなければならない。
「急げ!追い付かれたら終わりだぞ!」
「いたっ!こっちよ!」
「者共出会え出会えい!」
この迫力、牛追い祭りに参加している気分になる。
但し、追ってくるのは女子達だが。
「な、何?何でみんな騒いでるの?」
この騒ぎの原因が分からないのか、困惑しているシャルル。騒ぎの種は、目の前に居るんだがね。
「飢えてるんだよ!美少年に!」
「男が俺達だけだしな!」
「………?」
何だ、意味わからんって顔しやがって。これはあれか、ボクは何処にでも居る普通の男の子ですってか。上等だ、いずれ一夏共々裁きを下してくれる!!
「この学園、女子と男子の接触が極端に少ないからな、一種の珍獣扱いだ」
「ふうん」
置かれた状況をかいつまんで話す一夏と府に落ちなさそうなシャルル。しかし、今は生徒を振り切るのが先だ。
「しかし、なあ、一夏。ありがたいよなあ?」
「同感だ」
「何が?」
シャルルの人となりは隅に追いやって、一夏と喜びを分かち合っていると、シャルルが怪訝そうな顔をした。
「?ここは男少ないだろ?加えてコイツとゼロは仲が悪い」
「それに何かと気を使うしな。一人でも男が増えるのは心強いもんだ。」
「そうなの?」
コイツ…、この学園の俺達の肩身の狭さ、分かってんのか?
「ま、何にせよこれからよろしくな。俺は織斑一夏。こっちが丹下智春。俺は一夏って呼んでくれ」
「うん。よろしく一夏。僕の事もシャルルでいいよ。…丹下君、はどう呼べば良い、かな?」
好きに呼べば良い。俺を呼んでいると分かるものなら、大方大丈夫だ。だが、強いて言うなら…、
「俺の事は『トモハルさん』と呼びなさい」
ここで重要なのは必ずさんを付けることだ。親しき仲にも礼儀あり、さんを付けない時は怒りのままに、一夏に悲劇が襲うことであろう。
「シャルル、トモ流のジョークだから、好きに呼んで大丈夫だ」
待て一夏、シャルルにちゃんとトモハルさんと呼ばせるようにだな、
「そう?じゃあ一夏と同じ呼び方にする。よろしくトモ」
シャルルからの呼び方が決まった時点で、校舎を脱出、無事逃げ切ることが出来た。
そのまま第二アリーナ更衣室に到着、しかし、時間に余裕はない。
「うわ、時間がない!さっさと着替えないと!」
「だな」
言いながら速やかに服を脱いでいく。
「わあっ!?」
「「?」」
「どうした、シャルル…、」
一夏が対応しているので、こっちはこっちで着替えを済ませてしまう。
一夏達と違い、俺のISスーツは服だ。故に、脱ぐ数も着替えにかかる時間も少ない。
ズボンを履き、上着の袖に腕を通す。
「こっちは終わったぞって、何て格好してんだ一夏…」
手早く着替えを終わらせ、一夏を見てみれば、奴はISスーツを腰まで通した所で止まっている。つまり、腰から上は素っ裸だ。
「トモ、先に行っててくれ、これ、引っ掛かって着づらい」
「ひ、引っ掛かって?」
「おう」
シャルルが顔を赤らめている。まあ、恥ずかしいわな、下ネタに耐久性なさそうだし。
「シャルルは?」
「一夏一人だと不安だから、着いているよ」
「そうか、なら任せた」
着替えに時間をとられている一夏とシャルルを残し、先にグラウンドへ向かう。
…大丈夫かな、時間?
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「遅い!」
やはりと言うか、一夏達はかなりギリギリにグラウンドへ来た。
「くだらんことを考えている暇があったらとっとと列に並べ!」
ああ、またしばかれたね、一夏君。
こうして、一夏とシャルルは俺の隣、一組整列の一番端に加わった。
「遅かったな、お二人さん」
「うん、一夏と話してたら、遅くなっちゃった」
重役出勤の一人、シャルルと言葉を交わす。
一夏はオルコットに捕まっているので、今は話しかけにくい。
しかし、改めて見渡してみると、俺の浮きっぷりが露になるな。
基本的に女性専用のISスーツはワンピース水着やレオタードに近い。動きやすさ重視の露出の多さは、シールドバリアーが解決するため問題がないそうだ。
一夏やゼロ、シャルルのスーツはウエットスーツの様な形状だ。 データ取得のためだとか。
対して俺のは服。誰がどこからどう見ようが服。 スーツと言って良いのかも疑問だ。
「トモのは特殊なスーツだね?見たこと無いよ」
「俺の事はトモハルさんと呼びなさい。まあ…、特注品だしな」
嘘は言っていない。ただ、金を出したわけではないだけである。
「え~?もうトモで定着したし…、良いでしょ?」
「…仕方無いな」
ここで争っても意味はない。ならば折れた方が良い。何故なら、
「――安心しろ。馬鹿は私の目の前にも二人居る」
今オルコットと凰が餌食となった、我等が担任の出席簿攻撃から逃れるためだ。
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