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ヒダン×ノ×アリア

作者:くま吉
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第8話 地下と敵



 地下に侵入したクルトとアリアは、ひたすら奥に進んでいた。
 地下通路は逃走用に作られていた為か、ひたすら一本道だった。故に二人は最大速力で駆け抜ける事が出来る。
 既に人間が出せる速度の限界を遥に超えて走る二人。
 レズリー達の距離は着々と無くなりつつあった。
 だが、二人の表情は次第に曇ってゆく。

「…クルト」

 アリアが小さく呟く。

「ああ、感じてる。奥に進めば進むほどとんでもない殺気が漂ってくるな…」

 これは間違いなくレズリーが発する殺気だった。そして同時に二人は思う。

 ―――これがヨーロッパ最強か、と。

(親父の殺気と同等レベルか。こりゃとんでもない化物を追っかけてるんじゃないのか?)

 と、僅かな後悔が頭を占めるが、それを即座に振り払う。
 もちろん恐怖はある。しかし、だからといって逃げるという選択肢はない。
 最大限やる事を、思いつく事はやった。
 だから後は野となれ山と慣れである。

「―――っ!クルトッ!!」

 アリアの声で、クルトは即座に意識を前方にやる。
 少し奥には2つの分かれ道があった。
 二人は分かれ道の直前で停止する。

「これって…罠よね?」

「そうだな。2つの通路、両方から気配…いや、殺気を感じる。おそらく待ち伏せだろうな」

「そう。で、どうするの?」

 アリアの問いかけにクルトは即答する。

「もちろん二人で同じ道を行く。わざわざ戦力を分散させる意味はない。二体一に持ち込んでの即撃破だな」

 それは至って合理的な選択。
 しかし、アリアがそれに異議を唱えた。

「でもクルト、この先に待ってるのって大抵は下っ端よね?」

「ん?まあ、重要な人物を足止めには使わないだろうな」

「ならそんな奴等を簡単に倒せなきゃレズリーを捕まえるなんて絶対に不可能よね?」

 その言葉に、クルトは一瞬だけ言葉に詰まる。
 もちろん効率的にも、合理的にもクルトの案の方が正しい。マンガやアニメではないのだから一対一に拘る必要はどこにもない。
 しかしクルトは少し、ほんの少しだけ…納得してしまった。なる程、と。
 そうなればクルトの決断は早い。

「…分かった。なら一対一でこの先の足止めを倒す」

「ふふん。そうこなくちゃね」

 クルトからの承認が取れた事に、アリアは喜び、そして好戦的な笑みを浮かべる。

「油断するなよ。おそらく待ち受けてるのは念能力者の可能性が高い」

 クルトは半ばそう確信していた。
 レズリーが言っていた敵陣にいる念能力者というのは恐らく足止めに使われた者達だろう、そう考えていた。

(まあ、足止めに使われるくらいだから大した使い手ではないだろうがな)

 そう判断したクルトは特に脅威にもならないと判断した。
 もちろん油断などは絶対にしないが。

「ならアリア、お前は右に行ってくれ。俺は左に行く」

「分かったわ」

「―――勝てよ、相棒」

「あんたもね。―――相棒」

 そして二人は別々の道に向かって走り出す。
 この時点を以って、頼れるのは己の力と才覚のみとなった。



* * *



 アリアはクルトと共に走っていた以上の速度で通路を移動していた。
 元から身体が小さく、身軽であったアリアは、自身の強化系の念を使い力を大幅に高めた事によって、凄まじい速度を実現していた。
 つまり、クルトと共に移動していた時は自身の力をある程度抑えていたという事になる。

(あと少しね)

 四年間の血の滲む修行の成果で、気配というものを鋭敏に感じ取れるようになったアリアは、敵との距離をある程度正確に掴んでいた。
 もちろんまだまだ修行の身で、未熟な所もあるので、あくまで「ある程度」だが。

 瞬間、アリアは真横に跳ぶ。

 その直後、ズバンッ!!と、通路に一文字の傷跡が出来る。
 横に跳んでいたアリアは空中で器用に体勢を整え、着地する。

「随分なお出迎えね」

 挑発的な声を出しながらアリアはそう言い放つ。
 アリアの視線の先には一人の男の姿が。見た目は三十代半ば程、そして右手には一本の刀が握られている。
 そしてもう一つ特徴的なものは、その男から滲み出る強烈な殺気。
 完全に男はアリアを殺すつもりだ。

「貴様が獲物か?」

「ええ。でも狩られるのはあたしじゃなくてあんただけどね」

 アリアのその勝気な言葉に男は歪で好戦的な笑みを浮かべる。

「ほう。強気な女は嫌いではないな。だが、女は従順に限る」

 そう呟き刀を正面に構える。
 それと同時に男のオーラが膨れ上がる。完全なる臨戦態勢だ。

「―――本郷忠文、参る」

 瞬間、本郷と言う男は駆け出す。
 一瞬でトップスピードに乗った本郷は、アリアの間合いに入る直前に刀を振る。その直後、刀から斬撃が放たれ、アリアを襲う。

「ッッ!!」

 アリアは持前のスピードを活かし、それを難なく躱すと、すぐさま反撃に移る。
 足を曲げ、一瞬だけ力を溜めると、それを即解放。先程の本郷が出した速度を遥かに上回る速さで本郷に肉薄する。

「なっ―――!?」

 その速さに、本郷は驚きの声を上げる。
 アリアはその隙を逃さず、本郷の顔面目掛けて拳を放つ。

「はあッ!!」

 申し分ない速度と威力を持ったパンチ。
 だが、本郷はそれを後方に下がる事で回避する。アリアの小柄な身体のせいか、腕のリーチが短いというのがアダになったようだ。
 アリアの攻撃を回避した本郷は、下がりながら刀を三度高速で振るう。振るうと同時に放たれる鋭利な斬撃。

「―――こ、のッ!」

 先程のパンチを回避された事で出来た僅かな隙を突いてくるかのような斬撃の連発。しかも最大限回避出来ないように計算された攻撃。
 だが、アリアは身体を捻り、その攻撃を回避した。
 まさに驚異的な動きである。
 しかし、完璧に回避できた訳ではなく、その白く綺麗な細腕に一本の切り傷が刻まれていた。

「素晴らしいな。今の攻撃をそれだけのダメージで切り抜けるとは」

「それはどうも。あんたに褒められても全然嬉しくないけど」

「クク、それは今流行りの〈つんでれ〉というやつか?」

「…なによ、そのつんでれ?ってやつ」

「俺も意味は良く知らん」

「あっそ。まあ、どうでもいいけど。とりあえずあんたをさっさと倒して先に進まなきゃならないのよ、あたしは」

「くははは!!出来るかな…お前にッ!!」

 残虐で、楽しそうな笑みを浮かべながら突貫してくる本郷。
 身体から醸し出される濃密な闘気は、彼が只者ではない事を嫌が応にも理解させられる。しかし、アリアは怯まない。

「―――あんたじゃあたしには勝てないわよ」

「ほざけッ!!」

 再びの連続斬撃。しかも今度は三発ではなく十発以上を放ってきた。
 しかしアリアはそれは容易く躱していく。それだけではなく、躱しながら距離を詰める。
 それを察した本郷は再び後ろに下がりながら斬撃を先程よりも多く放つが、それもアリアは悉く回避する。既に掠りすらしない完璧な回避であった。
 そんな攻防を数度続けるうちに、本郷の表情はみるみる困惑に彩られていく。

「ば、馬鹿なッ!?な、何故一発も当たらん!?」

「わかんないの?」

 斬撃を躱しながら、アリアは詰まらなそうに言う。

「あんたの攻撃には致命的な欠点があんのよ」

「なに…?」

「それはね、放つ斬撃の速度が、あんたの剣速よりも遅いってことよ。それプラス飛んでくる斬撃は直線軌道のみ。そうなれば斬撃を読む時間は腐る程あるの。だから回避もし易の」

 アリアは一つあえて言わなかったが、アリア自身非常に素早いという事も要因の一つではある。
 欠点を指摘された本郷は、屈辱に顔を歪める。
 今まで本郷はこの能力で数多の戦いを制してきた。そんな自負を持った能力を、自分の半分程度の歳の娘に簡単に否定されたのだ。

「き、貴様…ッ」

「ちなみにあんたさっきからあたしに直接斬り込んでこないけど、それって自分の近接戦闘能力が低いって自ら言ってるようなものよ?」

 アリアの言葉は完全に当たっていた。
 本郷の刀術の実力は、Cランク武偵程度のものでしかない。その腕前では、アリアの懐に入った瞬間、負けが決まってしまう。

「く、くそがッ!!!」

 目の前の少女に完全に自分の非力を痛感させられた本郷は、怒りに任せ突っ込んできた。
 そして、間合いに入った瞬間刀を振り下ろすが、そんなものが当たる筈もなく、アリアは躱す。と、同時に即座に背後に回り込み、飛び上がる。
 そして、本郷の後頭部に蹴りを叩き込んだ。

「がっ―――!!?」

 その威力に本郷は吹き飛び、二、三度バウンドし、そして動かなくなった。

「ふう、あたしの勝ちね」

 そう一人言うと同時に、アリアは本郷に近づき、両手両足を手錠で繋いだ。そのついでに、本郷の刀も折っておいた。

「さて。先に進まなくちゃ」

 特に苦戦もせず、オーラも無駄に消費していないアリアは、既に勝負が着いているだろうクルトの事を考えながら、先に進むのだった。

 
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