ソードアートオンライン VIRUS
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昨日の休みはやばかった。めッちゃ寝てた。
天辺に向かってるエレベータの中、ゲツガはリーファに頭を下げる。
「本当にゴメン!あそこまで大きくするつもりはなかったんだ!」
「そうだぞ、ゲツガ。あれはやりすぎだ」
「でも、お兄ちゃんだから仕方ないです」
そう言ってユイはゲツガの頭に飛び乗って手を這わせる。ゲツガは苦笑いする。
「私はいいよ。いいきっかけになったし……その、かっこよかった……」
リーファは最後のほうはボソッと顔を赤くしながら言った。それを聞いたゲツガはユイに当たらないように頭を掻いた。
「ありがとうな。そろそろ天辺に着くぞ」
そしてエレベータが止まりドアが開く。そしてエレベータから降りると景色に見入った。
「すごい綺麗な場所だな」
「ああ。空に手が届きそうだ」
「そうですね」
そう言って、三人とも手を上に上げ、掴むような仕草をする。リーファも同じように手をかざして言った。
「でしょ。この空を見ていると、ちっちゃく思えるよね、いろんなことがさ」
リーファを見る。リーファはゲツガに笑顔を向けて言葉を続ける。
「ゲツガ君のおかげで決心がついたんだと思う。一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったけど……」
そう言われるとゲツガは苦笑する。
「いや、なんか本当に悪い。リーファの立場を悪くしちゃったし、喧嘩別れみたいにさせちゃったしさ」
「まあ、あの様子じゃどっちにしろ穏便には抜けられなかったよ。なんで」
そう言ってリーファは独り言のように呟く。
「なんで、ああやって、縛ったり縛らたりしたがるのかな……。せっかく翅があるのに……」
その言葉にどう答えるか考えているとゲツガの頭にいたユイが答えた。
「フクザツですね、人間は」
キラランと音を立ててゲツガの頭からキリトの肩に移動すると腕を組んで考え始める。
「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
リーファはユイに聞き返す。
「求める……?」
「他者の心を求める衝動が人間の行動原理だとわたしは理解してます。ゆえにそれは私のベースメントでもあるのですが、わたしなら……」
そう言ってユイはキリトの頬にキスをします。それに苦笑する。
「こうします。とてもシンプルで明確です」
キリトは苦笑いしながらユイの頭をつつく。
「人間界はもうちょっとややこしい場所なんだよ。気安くそんなことしたらハラスメントでバンされちゃうよ」
「手順と様式ってやつですね」
「……頼むから妙なことを覚えないでくれよ」
リーファは呆然としていたが、口を動かして聞いてくる。
「す、すごいAIね。プライベートピクシーってみんなそうなの?」
「ユイは特別なんだよ」
ゲツガはユイの頭を指で撫でた後、キリトはユイをつまみあげて胸ポケットに放り込んだ。
「そ、そうなんだ。……人を求める心、かあ……」
そしてリーファはかがめていた腰を伸ばした。若干顔が赤いのは気のせいだろうか?
「まさかね……」
「なんか言った?」
キリトがそう聞くとリーファは首を振ってなんでもないと答える。真ん中にあるロケーターストーンという石碑を使い戻り位置をセーブすると全員四枚の翅を出す。
「準備はいい?」
「OK」
「ああ」
ユイもキリトの胸ポケットから顔を出してこくりと頷くのを確認したリーファは離陸しようとする。
「リーファちゃん!」
エレベータのほうからどこか頼りなさげな男の声がリーファを呼んだ。振り返ると、昨日あったレコンというプレイヤーだった。
「あ……レコン」
「ひ、ひどいよ、一声かけてから出発してもいいんじゃない」
「ごめーん、忘れてた」
リーファがそう言うとがくりとレコンは肩を落とした。気をとりなおしたように顔を上げるとあわてた顔で言った。
「そ、そんなことよりリーファちゃん!!パーティー抜けて、ケットシーと駆け落ちするんだって!」
「な、何でそんな話しになってんの!?」
「下で相当な騒ぎになってたよ!リーファちゃんがケットシーの男と上に行くのを見た人たちが言ってたよ!本当なの!?」
「ち、違うわよ!あれはシグルドのせいで、ゲツガ君とは何の関係もないって!!」
そう言うとレコンはホッとした表情になり安堵した。
「そうだよねー……よかった……」
「それで、あんたはそれだけ伝えに来たの?それともついてくるの?」
「きまってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」
「えー、別にいらない」
リーファの言葉に再びレコンはよろけるが、メゲずに話す。
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついていくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」
「……何?」
「まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ。キリトさんにゲツガさん」
レコンはキリトとゲツガのほうを向き、まじめな表情で言った。
「彼女、トラブルに飛び込んでくクセがあるんで、気をつけてくださいね」
「ああ。わかった」
キリトとゲツガはにやりと笑いながら頷く。
「それからゲツガさん。言っときますけど彼女は僕のンギャッ!」
リーファに足を踏みつけられたことにより悲鳴を上げた。そのせいで何が言いたかったのかはわからなかった。
「余計なこと言わなくていいのよ!しばらく中立域にいると思うから、何かあったらメールでね!」
そう言ってリーファは翅を広げふわりと浮かび上がった。そして、レコンに向けて手を振りながら言った。
「……あたしがいなくても、ちゃんと随意飛行の練習するのよ。あと、あんまりサラマンダー領に近づいちゃだめだよ!じゃね!」
「り……リーファちゃんも元気でね!すぐに追いかけるからねー!」
レコンは空にいるリーファに手を振った。ゲツガもリーファの後を追うように空を飛び、追いつくと並行飛行する。キリトは追いつくとリーファに言った。
「彼、リアルでも友達なんだって?」
「まあ、一応ね」
「ふうん」
「何よ、そのふうんていうのは」
「いや、やっぱりリアルでも友達はやっぱりいいと思ってな。そうだろ?ゲツガ?」
「まあそうだな。そのほうが色々と分かり合えることもあるって言うか、安心感があるって言うか、そんな感じ」
そう言うとキリトの胸ポケットからユイが言った。
「あの人の感情は理解できます。好きなんですね、リーファさんのこと。リーファさんはどうなんですか?」
「し、知らないわよ!」
そう叫んでリーファはスピードを上げた。ゲツガはやれやれと言った風にキリトを見た後リーファに追いつくためスピードを上げた。
だいぶ、飛んだ辺りで街ではなく森の風景になった。その時、リーファは体を半回転させて、飛び立った塔の方をみていた。
「帰るならまだ間に合うぞ」
ゲツガはそう言うが、リーファは首を横に振って言った。
「君達をあそこまで案内するまでは、帰んないよ。それに今帰ったとこで、君のせいで色々と居づらいんだからね!」
そう言われたゲツガは苦笑する。そして、体を進行方向に戻すと叫んだ。
「さ、急ごう!一回の飛行であの湖まで行くよ!」
そしてゲツガ達は世界樹に向かって飛行を開始した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、世界樹の円形の一室の椅子に一人の少女が腰掛けていた。その少女は、祈るように手を合わせていた。彼女は今はどこにいるか分からない彼のことを思いながら。すると、突然扉が開く。入ってきたのはオベイロンといわれるこの世界の王の須郷とアルフという高位種族の玖珂だ。
「やあ、雪乃ちゃん。どうだい?この世界の住み心地は?」
須郷は大きく手を広げながら自分の作り出した世界をアピールする。
「最悪です。早くここから出してください」
そう言って、キッと睨むと須郷はわざとらしい怖がるふりをして笑いながら玖珂に言った。
「おいおい、なかなか彼女に似てるじゃないか。この子も僕のものにしたいな」
「やめてくださいよ陛下。この子は僕のものですよ。あなたには妃のティターニアがいるじゃないですか?浮気は駄目ですよ」
「確かにな。いやー、でも彼女が駄目になったらこの子が欲しいものだよ」
その時ちょうどメッセージが飛ん出来たみたいで須郷はメッセージを読む。読み終えるとちょっと用事が入ったから、頼んだぞといって外に出て行った。今まで、笑顔だった久我は須郷がいなくなると顔をすごく不機嫌なものにした。
「はあ、あの野郎に頭をぺこぺこ下げるのには疲れるな。こっちが下手に出てりゃ調子こきやがるし」
そしてユキのいるテーブルの向かいの椅子にドカッと腰を降ろす。
「おい、いい加減に諦めろよ、雪乃。あいつのこと考えてんだろ?絶対に来ない。何度言ったらわかるんだ」
「ゲツガ君は絶対あなたの悪事を暴いて警察に突き出すわ」
「無駄なんだよ、そんなこと」
そう言ってため息をついた玖珂がウィンドウを開く。何かメッセージが飛んできていたらしく立ち上がり、扉の方に歩いていく。
「ったく、プログラムの不具合ぐらい下の技術者に任せればいいだろう。何で俺にやらせるんだ、あの屑は。雪乃、また来るからな」
そう言って、玖珂は出て行った。その後も祈り続けていると不意に誰かに見られてる感じがした、あたりを見渡しても誰も見えないし気配も感じない。しばらくすると、どこからか機械的な声が聞こえてきた。
「よう、お前がユキって言う奴か?」
「誰!?」
辺りには人の影すら見当たらない。
「俺はその場所にいねえよ。俺は声だけを送ってる」
「……あなたは誰なの?もしかして、レクトプログレスの人?」
「いいや、俺はそんな変な会社の社員じゃねえよ」
声だけの存在は機械的なけらけらという笑い声を響かせた。
「じゃああなたは誰なの?何でこんなとこに声だけ届けられるの?」
そう聞くと声は言った。
「そんなことは置いといて、ゲツガのことを知りたくないか?」
そういわれたので口を閉じた、しかし、なぜこの声はゲツガ君のことを知っているんだという疑問が浮かぶ。
「あいつはお前を助けにこの世界に来たぞ」
「ほ、本当!?」
ゲツガが自分を助けに来てくれたことがうれしかった。しかし、この声は誰か聞かなければならない。
「あなたは誰なの?どうして私の名前を知ってて、ゲツガ君の情報も知っているの?」
「それは言えないな。俺はお前にこれだけを言いに来たんだからな」
声はそう言う。どうやら、質問には答えてくれないらしい。仕方ないので声に別の質問をする。
「じゃあ、わたしを出すことも出来るの?」
「出来るけどしないぞ?そんなことしたら物語が面白くなくなる。俺はな、つまらないことが嫌いな人間なんだ。予想できる結末よりも誰もわからない結末がみたいんだ」
「……」
正直、この声が言ってることはわからない。しかも、この声がどんな人物かも掴めない。声は用がなくなったのか言った。
「じゃあ、俺はもう用がなくなったから帰るぜ」
「待って!」
ユキは声の人物を呼び止める。声は何だ、と言ってこの場所に止まっている、気がする。なのでお礼を言った。
「ありがとう。誰だかわからないけど、教えてくれて……」
「まあ、俺はそれを言われるような人間じゃないがその言葉は素直に受け取っておくよ」
そう言って声はこの場所から姿を消した。そしてユキは再び祈るように手を合わせた。
『必ず、必ず助けに来てください……ゲツガ君』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とある暗い部屋でパソコンの画面に向かっていた男はマイク付きヘッドホンを外して大きく息を吐いた。
「あのSAOの中に出ていた優の裏の野郎を探してたらたまたま、優の彼女らしき野郎を見つけたから話したけど、まあ、暇つぶしにはなったな」
そう言って机に置かれた水の入ったペットボトルのふたを開け、飲む。
「早く辿り着けよ、優。お前が辿り着かなきゃあいつらが出てこないかもしれないからな」
そう言って男は部屋から出て行った。パソコンの画面にはたくさんのウィンドウの中に一つの写真が開かれていた。その中に、獣のような目をしたゲツガと紅衣の騎士が戦っている写真があった。
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