戦国異伝
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第百十四話 幕臣への俸禄その十一
「独自の勢力の者達もいますし」
「その通りじゃ。伊予はややこしい」
三つ巴どころではない、より混沌としているのだ。
その混沌故になのだ。織田家も今は伊予には進出していない、信長は伊予進出よりも先に他の三国の政を優先させたのだ。
それで彼等も今は土佐に留まっているのだ。
元親はその伊予の豪族達の中でまずはこの家の名を挙げた。
「来島じゃが」
「あの海賊あがりで今は毛利についている」
「あの家ですか」
「そうじゃ。あの家じゃ」
香宗我部と島にもそうだと答える。
「毛利についておるがな」
「毛利水軍の柱ですな」
吉良も言う。
「あの水軍がついたからこそ毛利は厳島の戦にも勝てましたし」
「その通りじゃ。あの家は伊予の中でも特に気になる」
「ですな。ただ水軍というと」
「うむ、あの家じゃ」
元親はこの家の名前も出した。
「三島家じゃが」
「確かあの家は伊予守護の河野家の分家でしたな」
「そうだったと思いますが」
「その通りじゃ」
元親は家臣達の言葉に答えた。
「今ではあの国の守護も大した意味はないがのう」
「むしろ大祝神社の宮司でもあるあの家ですな」
「そちらの方が重要ですな」
「あの家も水軍を持っておる」
それ故に伊予、壇ノ浦にも面し瀬戸内の西の要地であるこの国において重要となるのである。伊予は海の国なのだ。
そしてその三島家もなのだ。
「だから重要な家じゃが」
「そういえばあの家には姫がおりましたな」
「鶴姫じゃな」
「はい、まだ幼いですが」
それでもだと吉良は兄に言う。
「大層利発なよい姫だとか」
「わしも聞いておる。北条の方にもまだ幼いながらよい姫がおるそうじゃな」
「甲斐姫ですな」
吉良はこの姫の名前も出した。
「そういいましたな」
「知っておるのか」
「名だけは」
一応だというのだ。
「聞いております」
「忍城の成田氏の姫じゃ」
言うまでもなく北条家の家臣である。
「あの家は子はその姫しかおらぬとのことじゃが」
「そしてその姫がですな」
「やはり大層利発らしい」
ただ奇麗なだけではないというのだ。
「一度会ってみたいものじゃな」
「どちらの姫にもですな」
「そうされたいですか」
「まあ妾にするつもりはない」
元親はこのことは笑って否定して香宗我部と島に答えた。
「そうしたことはせぬ」
「おや、ではどうして会われたいと」
「妾ではないとすると」
「ただ純粋に会いたいのじゃ」
つまり本当に美しく利発なのか見たいというのだ。
「それだけじゃ」
「ですか。妾ではなく」
「ただお会いしたいだけでありましたか」
「ははは、大友宗麟とは違うわ」
大友家の主はその好色ぶりで評判が悪い。そちらではとかく悪い話が多い者であるのだ。
「そうしたことはせぬ。しかしどちらの姫も」
「興味があるのですな」
「お会いしたいまでに」
「まことにどういった者じゃろうな」
元親は楽しげに述べる。
「西の姫と東の姫はな」
「お会いするにしても数年後ですな」
吉良は期待している笑みの兄に自分も笑みになって告げた。
「それは」
「まだ先か」
「はい、そして今は」
話がここで戻る。
「政に精を出しましょう」
「そうじゃな。それではな」
「やることは多いです」
織田家において政は休む暇がないものだ。とにかく様々なことをしなければならない。しかもそれは土佐に止まらないのだ。
「讃岐や阿波にも行かねばなりません」
「信長公も言っておられるな」8
「どの国に豊かにせねばならない」
そして民も安んじる、信長の政治とはそういうものなのだ。
「それ故に」
「そうじゃな。それではじゃ」
「はい、政に励みましょう」
吉良は兄に告げた。兄もまたその言葉に頷き政に励む、鬼若子は今はその槍を置き政に熱心に励んでいた。
第百十四話 完
2012・11・13
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