戦国異伝
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第百十四話 幕臣への俸禄その十
「確かに犠牲は出たがな」
「我が家は足軽に至るまで織田家と同じです」
「そうした扱いになっておりますな」
「やはり」
「そこにまで至っています」
足軽達にしても扱いは織田家の足軽である。そこには一切の侮りや虐げもない、衣も認められていのだ。旗も。
それで彼等もこう言うのだった。
「ここまでいい扱いとは」
「信じられぬ位です」
まさにそれだけのものがあるというのだ。
「いや、信長様は凄い方ですが」
「殿はその信長様にあえて向かわれて、ですか」
「我等も耐えて下さいましたか」
「足軽に至るまで」
「わしが天下を目指していればできんかった」
あそこであえて織田軍に突っ込むこともだというのだ。
「到底な」
「それが出来たのは天下を目指しておらぬが故」
「それ故なのですか」
「四国を制したいとは考えておった」
実はそれは考えていたのだ。土佐一国だけでなく讃岐に阿波、伊予といった国々まで制するつもりだったのだ。
だが天下はというのだ。
「天下には興味がない」
「そもそもでございますか」
「そこまでは」
「天下はわしに過ぎたものよ。他に治めるべき御仁がおる」
「そしてその御仁がですか」
「やはり」
「信長公じゃな」
他ならぬその彼だというのだ。
「やはりな」
「そして我等は信長様の下で土佐一国を治める」
「それがよいのですな」
「見よ、今の土佐を」
長宗我部家が治めているが織田家のものとなった今の土佐をだというのだ。
見れば海には商いの船も行き来している。これまで見たこともない数の船が左右にある、元親はそれも見て言うのだ。
「ここまで見事になっておるのじゃ」
「道や橋、堤も出来ていますし」
「田畑は開墾され町は整っています」
「そして海はあの様です」
漁船も商船も多く行き来している。それはかなりのものだ。
そうしたものを見てまた言う彼等だった。
「これが織田家の政ですな」
「まさにそれですな」
「わしは織田家の家臣となり生きる」
元親ははっきりと言い切った。
「このままな」
「それがよいですな」
元親の弟、彼に似た顔だが兄に比べて温和な感じの顔の吉良親貞が兄の言葉に応える。もう一人の弟である香宗我部親泰、島親益もいる。
吉良はここでこう長兄に言ったのである。
「我等は天下を望んではいませぬ故」
「天下を目指さぬならな」
「程々のところでよいですから」
「織田家の家臣となってもな」
「家門は傷付いておりませぬ」
武門の誇り、それも大丈夫だというのだ。
「むしろ兄上があそこで果敢に戦われましたから」
「かえって武門の誇りもじゃな」
「それで確かなものとなりましたので」
「そうじゃな。わしは正直誇りを傷付けられたとは思っておらぬ」
元親はむしろ逆のことを感じ取っていた。
「織田家の下におってもな」
「はい、それでは」
「これでよい。土佐の民達も幸せに過ごしておる」
土佐は今織田家の領地となっている。この前まで多くの豪族に分かれ争ってきたがそれも終わってだというのだ。
それで彼はこうも言った。
「これでよい。天下は織田家のものとなるべきじゃ」
「その通りですな」
「四国はそのうちの三国が織田家のものとなりました」
島が長兄に言ってきた。
「残るは伊予だけです」
「そうじゃな。伊予だけじゃな」
「はい、伊予だけです」
「あの国もややこしいですな」
今度は香宗我部だ。
「この前までの土佐と同じで多くの家に分かれて争っております」
「毛利につく者もいれば大友につく者もいますな」
また島が言う。
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