ソードアートオンライン VIRUS
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世界樹について
前書き
ストックがなくなった……
リーファのあとについて行き、小ぢんまりした酒場兼宿屋が見える。
「あそこか?」
「うん。このすずらん亭って言う店、すっごく美味しいんだよ!」
そう言って、スイングドアを開け放つとなかなかいい雰囲気の店内が見える。しかも、今は客が一組もいなかったのでありがたかった。
「おお、結構いい内装じゃん。しかも、他の人がいないから見られる心配もないし」
そう言って奥まった窓際の席のほうに行き座る。その後にキリトもリーファも席に着く。
「さあ、ここは私が持つから何でも自由に頼んでね」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらって」
「あ、でもあんまり食べ過ぎるとログアウトしてからもつらいよ」
ゲツガは美味しそうと思うものを探した。キリトもメニューに食い入るように眺めながらユイとともに選んでいる。リーファも唸りながら見ていた。リーファはフルーツババロア、キリトは木の実のタルト、ゲツガはイチゴとミルフィーユのパフェ、ユイはチーズクッキーをオーダーし、飲み物には香草ワインとイエローエールというものを一本とることにした。すぐさまNPCのウェイトレスが注文の品を持ってくる。
「それじゃ、改めて、助けてくれてありがと。乾杯」
そしてグラスを打ち付けるとゲツガは少しイエローエールを口に含んだ。どんな味かよくわからなかったので頼んでみたが、ジンジャエールによく似た味だった。
「まあ、成り行きというか、喧嘩を買ったというか……まあ、どうでもいいけど。それにしてもサラマンダーはこんなところまで来るなんてな……集団PKでもしてんのか?」
「うーん。まあ、サラマンダーとシルフは仲が悪いのは確かだしね。中立域で出くわすとほとんど戦闘になちゃってりするし、最近ではシルフ狩りとか言ってPKをするようになったのは最近なんだ。きっと、世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな?」
リーファがそう言うと、キリトとゲツガは顔を見合わせた。ゲツガ達の目的地の名前が出てきたからだ。互いに頷いて、ゲツガがリーファに聞く。
「その世界樹について知ってることを教えて欲しいんだ」
「え、ああ、そういえば世界樹のことを知りたいって言ってたね。でも、何で、知りたいの?サイトとかで調べたんじゃなかったの?」
「そこだけは調べてなかったんだ。でも、行かなきゃならないんだ。あの上に……」
リーファはあきれながらゲツガを見るが、ゲツガの真剣な表情に少し驚いていた。
「……それは、多分全プレイヤーがそう思ってるよきっと。っていうか、それがこのALOっていうゲームのグランド・クエストなのよ」
「グランド・クエスト、か……というと?」
少し前にいた浮遊城のことを思い出す。リーファはそう聞かれたので説明を始める。
「滞空時間があるのは知ってるでしょ?どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい十分が限界なの。でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、妖精王オベイロンに謁見した種族は全員、アルフっていう高位種族に生まれ変われる。そうなれば、滞空時間はなくなっていつまでも空を飛ぶことが出来るようになれる……」
「……なるほど……」
そう言って、パフェを一口ほおばる。口いっぱいにイチゴの味が広がる。
「それは確かに夢のような話だな。で、世界樹の上に行く方法っていうのは判ってるのか?」
「世界樹の内側、根元のところが大きなドームになってるの。その頂上に入り口があって、そこから内部を登るんだけど、そのドームを守っているガーディアン軍団がすごい強さなのよ。今までたくさんの人が何度も挑戦したけどみんなあっけなく全滅。サラマンダーは今最大勢力だからね、なりふり構わずお金ためて、装備とアイテムを整えて、次こそはって思ってるんじゃないかな」
「そのガーディアンってのは……そんなに強いの?」
キリトがリーファに訊ねる。
「もう無茶苦茶よ。だって考えてみてよ、ALOってオープンしてから一年経つのよ。一年かけてクリアできないクエストなんてありだと思う?」
「それは確かに……」
キリトは納得したように頷くがゲツガは苦笑するしか出来なかった。なぜなら二年以上かけてもかけて突破してきた浮遊城は裏ワザに近いことを使ってクリアしたため、正確にはグランドクエストである最上層までクリアできていなかったからである。
「実はね、去年の秋ごろ、大手のALO情報サイトが署名を集めて、レクトプログレスにバランス改善を要求したんだ」
「へえ、それで……」
「お決まりっぽい回答よ。『当ゲームは適切なゲームバランスのもとに運営されており』なんたらかんたら。最近じゃあね、今のやり方じゃあ、世界樹攻略はできないっていう意見も多いわ」
「……何かキークエストを見落としてる、もしくは……単一種族だけじゃ絶対クリアできない?」
キリトがリーファにそう聞く。リーファは口許に運んでいた手を止めて、キリトの顔を見た。
「へえ、いいカンしてじゃない。クエストの見落としのほうは、今躍起になって検証してるけどね。後のほうは絶対にないと思う」
「何で?」
キリトが分からないと言ったように首を傾げたのでリーファの変わりに説明する。
「よーく考えてみろ、キリト。単一の種族がアルフになれるって言ったんだ。合同だと矛盾ができるだろ」
そう言って口に最後の一口のミルフィーユを食べる。キリトはそれを聞くと更に考える。
「じゃあ、事実上世界樹を登るのは……不可能ってことなのか……?」
「……あたしはそう思う。そりゃ、クエストは他にもいっぱいあるし、生産スキルを上げるとかの楽しみ方も色々あるけど……でも、諦めきれないよね、いったん飛ぶ楽しさを知っちゃうとね……。たとえ何年かかっても、きっと……」
「それじゃ遅すぎるんだ!」
キリトが急に押し殺した声で叫んだ。
「落ち着け、キリト」
「落ち着いてられるか!早く、早くしないといけないんだ!じゃないと……」
「今ここで叫んだって変わることは何もないだろう」
ゲツガはただ静かに言った。しかし、ゲツガもその気持ちは分かる。だが耐えるしかない。手を強く握って耐える。それに気づいたキリトは、すまないと言って落ち着く。ユイはチーズクッキーを食べるのをやめて、キリトの肩に乗って小さな手を這わせる。
「驚かせてゴメンな。ちょっと俺達は理由あってあの上に早く行かなきゃならないんだ。どうしても」
そう言ってゲツガはリーファの目をまっすぐと見る。リーファはワインを一口飲んでから口を開いた。
「なんで、そこまで……」
「人を……探してるんだ」
「ど、どういうこと?」
「……簡単には説明できない……」
キリトはそう言って微笑むが、目は黒く曇ったように見える。ゲツガはリーファのほうを向いて礼を言う。
「ありがとうリーファ。色々教えてもらって助かったよ。ご馳走様。このゲームをして、初めて会ったのがリーファでよかった。キリト行くぞ」
「ああ」
そう言ってキリトにそう言って立ち上がろうとする。その時、横に座っていたリーファがゲツガの腕を掴んでいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。世界樹に……行く気なの?」
「ああ。あの上に在るものをこの目で確かめなきゃならないから」
「無茶だよ、そんな……。ものすごく遠いし、途中で強いモンスターもいっぱい出るんだよ」
「叩き潰してでも行く。世界樹に辿り着けるまで」
「ああーもう!!そんなことよりも、行き方とかわからないでしょ!あたしが連れてってあげる」
「え……」
「は?」
キリトは眼を丸くし、ゲツガは口をぽかんと開けた間抜けな表情になる。
「いや、会ったばっかの人にそこまでさせるのはさすがに気が引けるというか何と言うか……」
「いいの、もう決めたの!!」
そう言ってしばらくすると顔を赤らめてそっぽを向いた。しばらくしてから顔をこちらに向けて言った。
「あの、明日も入れる?」
「え、あ、ああ」
ゲツガは返事を返す。
「じゃあ、明日三時にここでね。あたし、もう落ちなきゃなんないから、あの、ログアウトには上の宿を使ってね。じゃあ、また明日ね!」
リーファは早口でそう言った後、素早くウインドウを操作し始める。
「少し、待ってくれ」
ゲツガはリーファを呼び止める。リーファは不思議そうにこちらを見る。ゲツガは微笑んで言った。
「ありがとう。初めて会った俺らにここまでしてくれて」
そう言うとリーファはにこりと微笑んで消えていった。リーファが消えた後、キリトは呆気を取られていた。
「どうしたんだろう彼女」
呟く肩の上にいるユイはかわいらしく首を傾げた。
「さあ……。今の私にはメンタルモニター機能がありませんから……」
「まあ、いいじゃねえか。道案内してくれるって言ったんだし」
「マップは私にも分かりますが、戦力は多いほうがいいですしね。でも……」
ユイはキリトの肩で立ち上がると言った。
「浮気をしちゃ駄目ですからね。パパ、お兄ちゃん」
「するわけないだろ。俺はユキ一筋だ」
「しない、しないよ!!」
キリトは首をぶんぶんと振って否定する。ユイはキリトの肩から飛んで言った。
「パパもお兄ちゃんみたいにズバッと言って欲しいです」
ユイはテーブルの上に着陸して食べかけのチーズクッキーを抱え上げる。
「ゲツガは鈍感すぎて恥ずかしいことがの判別がまだ微妙なだけだよ」
そう言ってキリトはグラスに入ったワインを一気に飲み干す。たしかに、今回は意識しておいたほうがいい。リーファはゲーム内だけの存在で使っている別人格の見知らぬプレイヤーがいるということを。
「難しいな……VRMMOって……」
キリトがそう呟き、苦笑した。ゲツガもその言葉を聞いて苦笑する。ゲツガたちはとりあえず今日は落ちることに決めて、宿にチェックインした。部屋はとりあえず、同じ部屋にした。部屋に着くとベットに寝転ぶ。持ってきたチーズクッキーとの格闘を終えたユイはピクシーの姿から元の姿に戻って、床に着地する。ユイはわずかに俯きながら言った。
「……明日まで、お別れですね、パパ、お兄ちゃん」
「……そうか。ゴメンな。せっかく会えたのにな……またすぐに戻ってくるよ、ユイに会いに」
「ああ。今日はもう無理かもしれないが明日も会える」
ゲツガは自分の寝転んでいるベットで体を起こしてユイに言った。
「……あの……」
眼を伏せたユイは頬を赤くして頼む。
「パパ達がログアウトするまで、一緒に寝ていいですか」
「え」
急に言われたキリトぽかんと口を開けた。その状態をニヤニヤ見ながら自分もログアウトするかなと思いウィンドウを開く。その時に自分のステータスを見て驚く。
「何だこれ!?」
急に叫んだことでキリトとユイがこっちを向く。
「どうしたんだ?」
「俺のステータスが初めからチートみたいなんだが……」
「お前……今頃気づいたのかよ……」
呆れ顔でため息をついたキリトはユイに説明するように言った。
「わかりました。お兄ちゃん、この世界はSAOのサーバーのコピーなんです」
「つまり、この世界はSAOであってSAOじゃない?SAOの中だったらもっと体力とか高いし」
「まあ、そのようなものです。そのせいでお兄ちゃんのステータスもそのままになっています。ですが、HPは別系統のものなので引き継がれなかったんです」
「ふーん」
そう言って、ウィンドウをスクロールしてスキルを見る。スキルレベルのMAXなのが両手剣、料理、体術、索敵、隠蔽とあちらの世界で使っていたものがあった。それと見覚えのないスキルもあった。
「弓?何でこんな物まであるんだ?」
「わかりません。ですが、あちらの世界で使っていた弓を何度も使用していたことによりこっちのシステムが勝手に入れたんだと思います」
「まあ俺は、そこら辺のことはよくわからん。て言うことは色々なアイテムも」
「それは管轄というよりプログラムが違うので、私のようなAIプログラム以外は全部使用不可になっています」
「そうか。あっちの色々な思い出が詰まってんのにな……もったいない」
そう言ってアイテム欄で使えるアイテムを探すが何もなかったため全て捨てた。
「でも、こんな最初からチート状態、GMが見たらなんというか」
「大丈夫です。直接お兄ちゃんのデータを確認しない限りばれません」
ゲツガは苦笑しながら寝転ぶ。しかし、自分のスキルをみてあいつらがいない事を確認してホッとした。もう、この世界ではあのような死ぬほどの痛みを味わうことがないのだから。ユイはキリトがいなくなっていたのでゲツガの横に寝転ぶ。
「お兄ちゃん、絶対にママたちを助けましょう」
「何言ってんだ。俺たちはそのためにここに来たんだからな。絶対に見つけ出す」
ユイの頭をなでる。ユイは目をつぶって恥ずかしそうに頬を赤くする。ゲツガはログアウトボタンを押してからユイに言った。
「今日はもうお別れだな。だけど、明日も来るから心配しないで待っとくんだぞ?」
「はい」
「よし、いい子だ」
ゲツガはまた、ユイの頭をなでる。そしてゲツガの視界はブラックアウトし現実世界へと戻った。
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