セビーリアの理髪師
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7部分:第一幕その七
第一幕その七
「私は気立てもいいし行儀もよく素直で優しくて可愛らしい。きっと望むものは手に入るわ」
若い娘らしく朗らかな言葉であった。
「そんな私の弱みに付け込むなた蛇になってやり返すから。そうして幾らでも計略を巡らせてあの方を手に入れてみせる。そう、どんな計略でも」
不敵な笑みだった。それは今までの朗らかな笑みとはまた違ったものだった。
「手紙を書いてそれをあの方に渡して。気持ちはお互いわかったけれど手紙も」
この時代手紙は絶対的なものだったのだ。ラブレターの威力は絶大なものだった。
「フィガロさんにお渡しして。本当にあの方がいてよかったわ」
「ロジーナさん」
そんなことを言っているところだった。バルコニーの下からフィガロの声がした。
「あら、もう戻って来たの」
ロジーナは朗らかな笑顔に戻って声の方に顔を向けた。
「随分早いわね」
「おられますか?」
「はい、ここに」
バルコニーから顔を出して応える。
「早いのね、随分」
「足を飛ばしてきました」
フィガロは笑顔でロジーナを見上げて言った。
「おかげでへとへとですよ」
「あら。じゃあチップを弾まないといけないわね」
「その通りで」
今度はおどけて言葉を返す。
「ではこれからは」
「もう墓場から出てもいい頃よね」
ロジーナはふと笑ってこう言うのだった。
「そうは思わないかしら」
「それは何によってですか?」
「顔と頭で」
くすりと笑って述べる。
「できたらいいかしら」
「では私はこれまで以上に協力させて頂きましょう」
「御願いするわ。おや」
だがここで玄関の方を見て声をあげた。
「そうして欲しいけれど今は待って」
「どう為されました?」
「おじ様よ」
「バルトロ先生が」
フィガロはおじ様と聞いて顔を顰めさせた。
「もう戻って来たのですか」
「隠れて」
そうフィガロに告げる。
「また後でね」
「わかりました。それじゃあ」
「あの方も来られるのよね」
最後に伯爵について尋ねる。
「ここにまた」
「当然です」
フィガロは穏やかな笑顔になってロジーナに答える。
「今着替えを終えられてこちらに向かわれています」
「そう。だったらいいわ」
ロジーナはそれを聞いてまた笑顔になった。
「じゃあまたね」
「はい」
二人は別れる。そうしてロジーナは家の一階に向かう。そこは大広間があり大きなスペイン調の家具が置かれている。カーテンや装飾は華美でフランスっぽさが漂っている。これはこの時のスペイン王家がブルボン家だったせいであろうか。僅かに置物等にオーストリアの空気が残っているのが目に入る。
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