久遠の神話
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第三十八話 神父その六
「それ以外の何でもありません」
「言うわね。しかも詭弁ではなく」
「私も最初は迷いました」
「戦うかどうか」
「神の僕は。人を殺めるものを持ってはならないのです」
具体的には剣を。それをだというのだ。
「そして戦いも」
「それが貴方の信仰というのね」
「その通りです。そう考えています」
「信仰はそれぞれということね」
「少なくとも私はそう考えているのです」
神父は戦うものではない、そしてキリスト教の教えも。
だからこそだった。彼も悩んでいるのだった。
しかし答えは出したのだ。その答えこそは。
「戦いを止めます」
「戦わないが故に」
「無益な戦いを止め。そして」
「そのうえでというのね」
「誰も殺めることはしません」
それもだ。決してしないというのだ。
このことを話したのである。スフィンクスに対して。
「例え何があろうとも」
「成程ね。戦いをしないが故に」
「無益な戦いを止めたいと思いまして」
「矛盾しているわね」
「確かに。私は矛盾しています」
戦わないのがキリスト教徒だが無益な戦いを止めるが為にあえて戦う。それは確かに矛盾だった。しかしその矛盾を受け入れてだ。あえてだというのだ。
「そうしますので」
「わかったわ。ではね」
「私は戦います」
「彼と。確かに同じね」
大石の話を受けてからだ。スフィンクスは上城を見た。やはり戦いを止める為に戦うことを選んだ彼を見たのだ。そうしたのである。
そのうえでだ。スフィンクスは二人に言った。
「なら。頑張ることね」
「戦いを止める為に」
「戦うことをですね」
「そう。そうするといいわ」
こう言ったのである。
「是非共ね」
「あの。若しかして」
上城はスフィンクスの顔を見てだ。そして怪物に問うた。
「貴女は戦いを」
「嫌っているかというのね」
「僕達とも戦おうとしませんね」
上城はこのことも問うた。
「そうですよね。そうしたことも考えますと」
「そうね。それはね」
否定の言葉ではなかった。怪物もまた言う。
「私は確かに怪物だけれど戦わないわ」
「やはりそうですか」
「私もこの戦いは無益だと思うわ」
「だから僕達に今こうしてですか」
「助言になるかしら。それを言うのよ」
「そうだったんですか」
「私はスフィンクス」
自ら言った。己が何なのか。
「智恵の怪物なのだから」
「だからですか」
「考え。この戦いは無益だと結論に至ったわ」
「ならどうしてこの戦いが行われているんですか」
「それはわからないわ」
何故戦いが行われているかはだ。スフィンクスにもわからなかった。
「私にも。私は」
「レプリカですね」
「今の言葉ではそうなるわね」
こう大石にも答える。
「私は所詮はそれよ。オリジナルではないわ」
「この戦いの中で生み出されたものですね」
「誰かにね」
それがこのスフィンクスだというのだ。
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