久遠の神話
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第三十八話 神父その五
「わからないわね」
「だからこそ私が戦うことを選ぶというのね」
「そうでないのかしら」
怪物はにこりともせず大石の顔を見て問うていく。
「違うのなら答えてくれるかしら」
「答えさせてもらいましょう」
これが大石の怪物への返答だった。
「確かにそれはカトリックの歴史です」
「血の歴史ね」
「そうです。それは事実です」
「しかし貴方は違うのね」
「違います」
それはだ。断じてだというのだ。
「一連の戦いは神の本来の御教えから離れたものです」
「ではどういったものが本来の教えなのかしら」
「よく言われている言葉ですが」
こう前置きしての言葉だった。
「愛なのです」
「愛、ね」
「そうです。あらゆる存在に対する愛がです」
「キリスト教の考えだというのね」
「そしてカトリックのです」
まさにそうだというのだ。そしてだった。
大石は全てを見てそのうえで達している、その顔での言葉だった。
そのうえでの言葉はだ。こうしたものだった。
「人を倒すことが神の御教えではなく」
「宗派を超えて」
「宗派。小さいものです」
偏狭は他の宗教を認めないというだ。そうした思想も超えたものだった。
「所詮は」
「だからだというのね」
「神は人を超えて」
そしてだというのだ。
「そして全てに愛を注がれているのですから」
「では剣士の戦いは」
「間違っています。それ故に」
「貴方も戦いを止めるというのね」
「その通りです。そうした意味において」
上城を見た。かつての彼の教え子を。
そのうえでだ。スフィンクスに顔を戻して言ったのである。
「上城君と同じです」
「僕と」
「そうです」
上城に顔を向けてまた言った。
「私は戦いを止め、終わらせる為に」
「戦われるんですね」
「そうします。最初からそのことを決めていました」
今度はスフィンクスも見ていた。上城と怪物を同時にだ。
「神に仕える者として」
「そこね。どうしてもわからないのよ」
「キリスト教は戦ってきた宗教だからですね」
「酷い時になると引き起こしてきたわね」
血生臭い戦い、それをだというのだ。
「そうしてきたわね」
「歴史にある通りです」
「十字軍。あの街に向かった時だけでなく」
十字軍は他の場所にも差し向けられている。東欧や南フランスにだ。特に南フランスに送られたアルビジョワ十字軍の行動は酸鼻を極めた。
「他にもあったわね」
「それはその通りです」
「新大陸でもあれば」
まだあった。キリスト教が引き起こしてきた血生臭い戦い、時として単なる殺戮のそれは。
「異端審問もあったわね」
「そしてプロテスタントとのことですね」
「キリスト教はどれだけの血を流させてきたのかしら」
淡々とだが厳格にだ。スフィンクスは神父である大石に問う。
「わからない位ね」
「そうです。多くの血を出させてきました」
「中には信仰ではなく」
それすらもない場合もあった。
「政治ならまだよく利己によるものもあったわね」
「否定することは絶対にしません」
「その神の僕である貴方がだというのね」
「そうです。戦いを止めます」
そうするとだ。大石はあくまで言うのだった。
「神の僕として」
「それが神の正しい教えなのね」
「聖書を正しく読めばそうなります」
「聖書ね」
「そして信仰を正しく理解すれば」
「では流血は何だったのかしら」
「過ちでした」
それに他ならないというのだ。これまでの戦いは。
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