カンピオーネ!5人”の”神殺し
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一部
阿修羅との戦い Ⅱ
「埓があかないであります・・・。」
沙穂が詰まらなそうに呟いた。今も、上空からは雨のように攻撃が降り注いでいる。それを彼女は、驚異的な勘と身体能力で避けていく。更に、太陽が日食によって完全に隠れようとしていた。このタイミングで偶然日食が起きたなどと考えられる訳もない。これは、疑うまでもなく敵の権能による効果である。
そして、ただ単に日食を起こすだけの権能である訳がないのだ。まず間違いなく、太陽が完全に隠れてしまったとき、何かが起こるだろう。沙穂としては、それを悠長に待っている必要もない・・・のだが、
「跳んでも撃ち落とされるであります・・・。」
最初の不意打ちで数を減らせなかったのは痛かった。沙穂は、自由に空を飛ぶ事が出来ない。軽功や、飛翔の魔術など全く使えないのだ。自身の体に隠してある数々の装備の中にも、神の攻撃を避けながら近づく事が可能な装備など存在しない。ただのロケットブースターならあるが、それを使って神と空中戦を繰り広げるなんて愚行である。
「あの位置まで届く攻撃も、アレしかないであります・・・。」
彼女の切り札。切り札故に軽々と使える代物ではない。アレは、彼女にも多大な負担を要求する諸刃の剣である。必殺を確信した瞬間でないと使う事は出来ないのだ。―――以前の彼女ならば、後先考えずに使用して自滅していたかもしれない。だが、カンピオーネとなった彼女には、『勝利の為に全力を尽くす』という思考が植えつけられている。自分の命は、戦いに勝利するための大事なチップである。必要な時には躊躇わずBETするが、少なくとも今はその時ではないとカンピオーネの直感が囁いていた。
「こうなったら・・・。」
彼女は、攻撃を避けながらも周りを観察する。
「自分から行けないのなら、引きずり下ろすであります!!!」
幸い、そのための弾丸は、大量に散らばっているのだから。
☆☆☆
「え!?」
この戦いが始まってから何度目か分からない、アリスの驚いた声が響いた。
「何アレ・・・!?」
だが、仕方がないと言えるだろう。間違いなく、沙穂の戦いは歴史上初なのだから。彼女じゃなくても、この光景を見たならば叫び声くらい上げるはずだ。
「何かする気だね・・・。」
鈴蘭たちが見守る沙穂の肩口から、服を破って二本の腕が現れたのだ。それは機械の腕。銀色に光るその腕は、長さ二m程。沙穂は、その腕を利用して近くに落ちていた阿修羅の武具を掴んだ。・・・そう、先程から阿修羅が投擲武器として使用していたその武具を持ち、敵に向かって投げ返したのである!
パーン!!!
空気の壁を突破した強烈な音と共に、一直線に進んでいく阿修羅の武具。今彼女が投げたのは、長さ5m以上はあろうかという、巨大な槍であった。阿修羅が持つのに相応しく、豪奢な意匠が施されたそれは、間違いなく神代の武器である。重金属で出来ていると思われるそれは、総重量がどの位になるのか想像も付かない。
それを、途轍もない速度で投げ返された阿修羅たちの驚きは凄まじいものであった。何せ、飛んでくるのはその一本だけではない。機械の腕を最大稼働させて、地面に散らばっている様々な武器を投げ返されているのだ。アシュラがやっていた事を、ソックリそのままやり返された。
ヴァルナの傷はまだ治りきっておらず、ラーフは太陽を隠す権能を行使しているため動けない。アシュラとヴァルナが必死に打ち落とすも、沙穂の攻撃は衰えるどころか、益々苛烈さを増していった。
「どんな権能を持っているのだ!?何故、人間の癖に腕が増える!?」
戦いは、阿修羅たちが押されていた。それは何故かと言えば、簡単な話だ。そもそも、『アシュラ』が創り出した武具たちは、ちょっとやそっとの事では破壊されない。そして、沙穂が投げたその武具を打ち落とす為に、また新たに武具を作り出して投擲している。お互いの威力を相殺し合った武具は、重力に従ってまた地面に落ちる。それを沙穂が拾いまた投げる。その繰り返しである。そして、沙穂は四本の腕をフルに使って武器を投擲している。怪我を負ったヴァルナと、本来は三面六臂であるのだが、神格を三つに分けたが故に二本の腕しか使用できないアシュラでは、手が追いつかなくなるのは当然であった。
「機械の腕が生えてくる権能なんて・・・聞いた事がない・・・。」
「アハハ!当然だよ権能じゃないもん。」
沙穂の、カンピオーネとしても異常、規格外の戦いぶりを見て呆然と呟いたアリスに、軽く笑いかける鈴蘭。
「権能じゃ・・・ない?」
「そうだよ。沙穂ちゃんは、機械人間のカンピオーネだからね。」
「機械人間・・・!?」
驚くアリス。それも当然である。それが事実なら、彼女は、機械と神秘が融合した、初めての事例となるのだから。
「・・・あの戦いの前に、彼女は一度死んでいるんだよ。それを、ドクターが生き返らせたの。」
「・・・・・・っ!」
死者蘇生。遥かな昔から人類究極の夢とされてきたその奇跡を、既に完成させていると鈴蘭は言ったのだ。驚かない訳がない。
「その代わり、彼女の体は機械になっちゃったけど・・・ね。」
ホンの少し。それはアリスの見間違いだったのかもしれないが、ホンの少しだけ、鈴蘭の顔に陰りが生まれたような気がした。
「カンピオーネに新生した時に、機械とカンピオーネの新生術式がうまい具合に融合しちゃったみたいでね。彼女は、純粋な身体能力と身体性能において、全てのカンピオーネの頂点に立つ存在。人類の英知と神秘の混血種。・・・まぁ、見てなよ。」
「は、はい・・・。」
戦いは、まだ続いている。
ページ上へ戻る