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万華鏡

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第十八話 プールその十二

「それはね。琴乃ちゃん達と出会えてね」
「それ言ったら私もよ」
「琴乃ちゃんもなの」
「高校に入った時凄く不安だったのよ」
 その時のことを思い出しながらの言葉だった。実際に琴乃はその時のことを思い出しながらそのうえで暗い顔で言ったのだった。
「本当にね」
「そんなに?」
「うん、周りは知らない人ばかりでしかもね」
 それに加えてだったというのだ。
「知らない道を通って知らない場所に一人でいて」
「琴乃ちゃんはそう思ってたのね」
 彼女は道や場所も見ていた、里香はこのことに気付いた。
「そうだったのね」
「そうだったのよ。けれど里香ちゃんがいて」
 そしてだった。
「景子ちゃん、美優ちゃん、彩夏ちゃんもいて」
「皆ね、プラネッツの」
「そう思うよ。それでね」
「それでって?」
「今度はプール行かない?」
 琴乃は穏やかな笑顔で里香に提案する。
「いつも通り五人でね」
「プールなの」
「そうね、ここは面白いプールにしようかな」
 にこにことして言う場所は。
「ホテルのプールとかね」
「ホテルのプールって」
「八条ホテルのプール、海沿いのね」
「あっ、あそこね」
「あそこのプールってあれじゃない」
 琴乃達が通っている八条学園を運営している八条グループが経営しているホテルで世界規模のホテルである。この神戸にもあるのだ。
「海沿いに奇麗な大きいプールがあって」
「そこに行くのね」
「ホテルにそのまま入ったら高いけれど」 
 とても高校生が入られるものではない、こうしたホテルは。
 だがそれでもだというのだ。
「あそこの海水浴場、もう開いてるけれど」
「そこから入るの?」
「海水浴場からホテルに入られるのよ、プールとその周り限定だけれど」
「ホテルのプールでも泳ぐのね」
「そうしない?今度」
「いいわね。何かホテルのプールって」
 どうかとだ、里香は腕を組み期待する顔で言った。
「私はじめてなのよ」
「そうなの」
「家族で泊まったことはあるわ」
「八条ホテルに?」
「そう、あそこにもね」
「それでプール使わなかったの」
「クリスマスだから」
 季節が違う、屋外プールは夏だ。
「だからなの」
「じゃあその日は家族皆でクリスマスパーティーだったのね」
「何年も前のことだけれどお父さんもお母さんも時間が取れてしかもね」
「しかも?」
「八条ホテルのチケットも割安で取れて」
 いい条件が揃ったというのだ。
「あと阪神が優勝してお父さんもお母さんも上機嫌だったのよ」
「ってそれ多分二〇〇五年の話だと思うけれど」
「うん、その年よ」
「あのシリーズは酷かったけれど」
 ロッテに四連敗だった、しかもこちらは点を取れずロッテは面白い様に得点が入り最後には甲子園で胴上げを許した、考えられる限り最悪のシリーズだった。
 それで琴乃も顔を曇らせて里香に言うのだ。
「あれでよかったの?」
「シリーズの前にホテルの予約取ったの」
 既にそうだったというのだ。
「もうね」
「それでシリーズを観てどうなったの?」
「もう一家全員で荒れたわ」
 つまり里香の家族も全員阪神ファンだったというのだ。
「それでクリスマスもね」
「まだ荒れてたの?シリーズから時間あったけれど」
「お父さんもお母さんも来年こそはって言って乾杯してたわ」
「それで今に至るのね」
「そう、今に」
 あれから優勝しないままである。 
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