ソードアートオンライン VIRUS
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
いらだち
前書き
なんか、須郷的なキャラを出そうと書いてみたら、なんか須郷になってるような気がする
「はあ、はあ、はあ」
朝の早い時間に優は町内を走り回っていた。早く起きたことと体がなまるのがあまり好きではないため身体を動かしている。
一時間もの間走り続け、帰ってくると直葉が素振りをしていた。直葉をを見て熱心だなと思い、一度玄関から上がり、タオルと水を持って縁側に座る。汗をタオルで拭きながら、直葉の素振りを見て、昔の自分もこんなんだったなーとか思いながら眺めているとスウェット姿の和人も起きてきて縁側に座る。和人も直葉が素振りをするのを見ていた。和人は今も続けてんだな、と呟く。そして、素振りをようやく終えた直葉はこちらを向きびっくりする。
「「おはよう」」
和人とはもりながら直葉に挨拶する。そう言って、優は直葉にミネラルウォーターを放り投げる。それを危なげに直葉はペットボトルを取る。
「お、おはよ。……やだな、見てたんなら声かけてよ。二人とも」
「いやあ、あんまり一生懸命にやってたからな」
「そうそう。邪魔しちゃ悪いと思ってな」
「そんなことないよ。もう習慣になっちゃってるから……」
そして、直葉はそう言って優の少し横に腰を降ろす。直葉はキャップを捻り、水を飲む。直葉の横にある竹刀を持って軽くふる。
「軽いな……。カズ、お前も振ってみ」
そう言って和人に渡し、和人も同じように竹刀を振る。
「確かに……軽いな……」
直葉はボトルから口を離すと和人を見やる。
「え、優君ならともかく、お兄ちゃんじゃ少し重いと思うよ。それ真竹だからカーボンのやつと比べて五十グラムくらい重いから」
「あ、うん。その……イメージというか……比較の問題というか……」
和人はそう言って再び竹刀を振る。優は自分も喉が渇いていたので直葉からペットボトルをヒョイととってから残ってた水を一気に飲み干した。
「あ……」
直葉は急に顔を赤らめてそっぽを向いた。
「何と比べてるのよ」
それに答えなかった和人は竹刀を直葉に返すと立ち上がった。
「なあ、ちょっとやってみないか」
直葉は和人の顔を唖然と見上げる」
「やるって……試合を」
「おう」
「じゃあ、俺が審判するわ」
直葉は驚いた顔をしていた。まあ、無理もない。剣道に興味のなかった兄が自分から剣道の試合をやろうと言ったのだ。
「ちゃんと防具をつけて?」
「うーん、すん止めでもいいけど……スグに怪我させちゃ悪いからな。じいさんの防具があるだろ?道場でやろうぜ」
「おいおい、カズ。いくらなんでも言いすぎだぜ?こっちの身体を考えようぜ」
「大丈夫だって」
和人がそう言うと、直葉にやりとした。
「ほーお、ずいぶんブランクがあるんじゃございませんか?優君ならともかくお兄ちゃんが全中ベストエイトのあたし相手に勝負になるのかな?それに……」
直葉は心配そうな表情をした。
「体のほう、大丈夫なの……?無茶しないほうが……」
「ふふん、毎日ジムでリハビリしまくってる成果をみせてやるさ」
和人はそう言って優から空のペットボトルを奪い取り、クシャと潰す。そして、和人は家の裏手にある道場に向かって歩き始めた。
「行こうぜ。スグ」
そう言って直葉と優も和人の後を追って道場に行った。桐ケ谷家には小さいが立派な道場がある。そこは、直葉と優が稽古に使っていた場所だ。直葉は今も使ってるようでそれなりにちゃんと整備がされている。
素足で道場に上がった三人は軽く一礼をする。そして直葉と和人は各々の準備を始めた。それぞれ防具をつけ道場の中央で向き合う。蹲踞をして、立ち上がると直葉は竹刀を中段に構える。和人はSAOで片手剣の構えだった。それを見た直葉は吹き出した。
「そ、それなあに、お兄ちゃん」
まあ、この構えははたから見れば珍妙な構えかもしれないが、和人の構えは自分なりに試行錯誤して一番しっくりくる形を選んだ結果だ。
「審判が優君じゃなかったら無茶苦茶起こられるよ、そんな構え」
「いいんだよ、俺流剣術だ」
「じゃあ、そろそろ始めるぞ」
優はそう言った。そして、初めと開始の合図した。
直葉は顔面に一発入れようと足に力を込めていたが急に力が緩んだ。どうやら直葉は気付いたようだ。あの構えに隙が少ないことに。そして直葉の迷いを見透かしたように和人が直葉に突っ込んだ。右下段から竹刀を跳ね上げる。直葉はそれに対応して避けると左五手に竹刀を打ち下ろす。しかし、その竹刀は和人が腕を自分のほうに引いて避けた。少しは身体はついていけているようだな。そう思いながら剣士キリトの像を重ねる。
案外、現実でも動きが様になってるなと思いながら見ていると、直葉が鍔迫り合いに持ち込んだ。さすがに直葉の圧力に耐えられなかった和人はぐらりとよろめく。
「めぇぇぇぇぇん!!」
そこに手加減のない一撃が和人の面金に炸裂しバシーンと大きな音を立てた。
「一本。直葉の勝ち」
そう言って直葉の勝利を宣言した後、和人の近くによる。直葉もしまったと言う表情を面の下で浮かべ和人に駆け寄る。
「だ、大丈夫、お兄ちゃん!?」
和人は直葉に大丈夫と軽く手を上げる。
「……いやぁ、参った。スグは強いな、ヒースクリフなんか目じゃないぜ」
「……ほんとに大丈夫……?」
「おい、スグに言ったってそれはわからないだろ。それより終わるぞ」
和人はそうだなと言って数歩下がり竹刀をひゅんひゅんと左右に振って背中まで持っていく。直後に硬直して右手でぽりぽりと面越しに頭を掻いた。直葉はその行動を心配にそうに見ていた。
「あ、頭打ったんじゃ……」
「ち、ちがう!!長年の習慣が……」
「じゃあ、俺は飯の準備しとくから、早く汗流して来いよ」
そう言って優は道場を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
優はシャワーを浴び、朝食を素早く作る。手っ取り早くトーストと目玉焼き、ベーコンとサラダとシンプルな朝食を作る。作り終えたときにちょうど直葉と和人が居間に入ってくる。直葉と和人の表情はどちらも暗かった。和人の理由は、少しはわかるが直葉はわからない。
「優。飯を食べ終えたら、病院にいくぞ」
「……ああ」
優は短く答える。そして、少し暗い食卓になったしまわぬように優は話しながら朝食を取る。直葉も少しは笑ってくれたし和人は少しは元気になった。片づけを終えると優は着替えて外に出る。和人は外でマウンテンバイクにまたがって待っていた。
「早く行こうぜ」
「ああ、少し待ってろ」
そう言って優は和人のおばさんから借りているママチャリにまたがり、和人とともに所沢の郊外にに建つ最新鋭の総合病院に向かった。この病院は、優もいた場所だった。最初は、和人と同じ病院だったがナーヴギアのウィルス感染によって、ペインアブソーバがなくなったため、今まで入院していた病院では機材がなく仕方なくこっちに移動させられたのだ。ゆっくりとしたペースでペダルを踏み続け、ようやく巨大な病院の前に着く。
何回も訪れている和人は顔見知りの守衛に手を上げて門を通過する。優もこっちに来て毎日のように見舞いには来ているが和人ほどではない。巨大な駐車場の隅に自転車を止める。高級ホテルめいた一階の受付で通行パスを発行してもらい、それを和人は胸にクリップで止め、優は手に持ってエレベータに乗る。数秒で最上階に到達する。
「ユキの病室はあっちだからまた後でな」
「ああ」
そう言って優と和人は互いの大事な人の病室に向かった。ユキの病室はちょうど北側に歩き、突き当りの手前の部屋で足を止める。そこのネームプレートには《本庄 雪乃 様》、彼女の名前が書かれたスリットが走っている。一度深呼吸をして彼女がおきていることを願いながらパスをスリットに滑らせる。かすかな電子音とともにドアのロックが解除されスライドして開いていく。一歩踏み込むと花のにおいがした。
真冬にも関わらず、多くの花が飾られている。病室の奥はカーテンで仕切られていて優はその近くに寄り、彼女がおきていますようにと願いながら手を掛ける。布を引くと最先端の介護ベットで眠っている彼女が目に入る。そして、奥歯を噛み締める。その後すぐに笑顔をつくった。
「今日も来たぜ、ユキ」
優は彼女の手をそっと握り呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ベッドサイドで座る優は、携帯で時刻を確認するともうすでに正午を過ぎていた。優はユキの手を少し強く握って言った。
「そろそろ帰るな。またすぐに来るから」
返事が返ってこないことがわかっていても、こうやって声をかけ続けたら目を覚ますかもしれないという希望を持っている。しかし、彼女はやはり言葉を返してこない。苦笑してから立ち上がろうとするとき小さな電子音がした。振り返ると、二人の女性と二人の男性が病室に入ってきたところだった。
「おお、来ていたのか。如月君」
スーツが似合う少しダンディーなおじさんが本庄竜太氏。ユキのお父さんで大手の化粧品メーカーの社長。その横にいる、少し控えめな化粧で見ただけで高いものとわかる服を着ているのは、ユキのお母さんの本庄恵子さん。元は結城家の人間らしい。そしてその隣にいるユキ似ているが三、四歳年上のお姉さん、本庄春香さん。それともう一人は三十はいっていないが二十の後半だろう。この男は初めてみる。
「こんにちは、お邪魔しています。本庄夫妻に春香さん」
「いいのよ。如月君。この子も友達に来てもらえて喜んでるでしょうから」
本庄夫妻はユキの元に行き、長い髪をゆっくりと手ぐしでとかした。春香さんは俺の近くに来て頭を下げる。
「ありがとう。雪乃はね、ママやパパが厳しすぎるせいであまり友達が出来なかったの。だから、あなたみたいな友達が出来て雪乃も喜んでるわ」
そう言って恵子もユキに近づいて行った。その時、小声で男に話しかけられる。
「やあ、君があのSAOの二人の英雄のうちの一人らしいね」
そのほうに目を向けると男はユキの方を見ながら話しかけていた。
「俺は英雄じゃないですよ。ただのプレイヤーです」
「ふっ」
そう言うと男は鼻で笑った。それにムカつくが顔には出さないでおく。そして、ようやくユキから離れた竜太氏は男のことを紹介した。
「そういえば、君達が会うのは初めてだろう。彼は玖珂宗氏君だ。彰三さんのところの研究主任をしている須郷君の部下だ。彼と私は長い付き合いでね、家族同然なんだ」
ぺこりとお辞儀をする。そして顔を上げると俺だけに見えるように口を吊り上げて笑った。
「叔父様、あの件なんですが」
玖珂は口を元に戻して竜太氏に向き直る。
「来月にでも。正式にお話を決めさせていただきたい」
「そうか。だが、いいのか。君はまだ若いんだ、新しい人生だって選べるんだぞ?」
「いいんです。私は昔からもう決めてますから。雪乃が、今の美しい姿でいる間に……ドレスを着せてあげたいんです」
「……そうか。私もそろそろ覚悟を決めないとならないかもな」
「竜太さん、まだ早いんじゃありませんか?雪乃はまだ十六ですし」
「そうだよ、パパ。雪乃にはまだ早い気が……」
「いや、今決めといたほうがいい。雪乃がこの状態でいられるかわからないんだ」
威厳のある声に女性人二人は黙ってしまう。
「じゃあ、私たちはそろそろ明日奈君のところに行こう。如月君、また今度会おう。恵子、春香、行くぞ」
そう言って本庄夫妻と春香は病室を出て行った。それを見送りもう一度ユキを見る。突然玖珂がユキの近くに行き、ベッドに座る。
「君、須郷さんから聞いたんだけど、雪乃と一緒に暮らしてたんだって?」
急にさっきとは違う話し方。こっちが本性のようだ。
「ええ、暮らしてましたよ。しかし、さっきの話しの文脈からしてあなたがユキと結婚すると言うことですよね?」
「ああ。そうだ」
普通に言った。自分の心の中で嘘であって欲しいと思っていたがそんなことはなかったようだ。手を爪が食い込むくらい握る。
「そんなことは出来ない。彼女の意思確認がない限り法的に不可能なはずだ」
「たしかにね。今の状態だったら僕が本庄家の養子になることになる。実際、雪乃は昔から俺のことをそうとう嫌ってたからこの状態が何かと都合がいいんだ。当分眠ってて欲しいね」
そう言って、ユキの腹の辺りに手を置きどんどん上に手を這わせていく。それに激怒した優は玖珂の腕を掴んでユキから引き離す。
「お前……今の状態を利用する気か!!」
玖珂は口元を吊り上げて腕を払い、言った。
「利用する?なに言ってんだ。これは正当な権利だ。なあ、如月君よぉ。いまや須郷さんのいる部署、つまり俺のところが雪乃や結城明日奈、他三百人の命を保障してるんだ。これくらいの対価を要求したっていいじゃん」
この男、今の現状どころか命までも自分の目的に利用する気なのだ。玖珂はベットから立ち、横に来ると、はっきりとした声で言い放った。
「お前が雪乃とゲームの中でなにを約束したか知らないが、今後一切来ないで欲しいね。てか、来んな。それと、本庄、結城家との接触もするな。これはお願いじゃない。命令だ」
玖珂は身体を離すと笑いを堪えるように身体を振るわせながら言った。
「式は来月この病院の一室で二人同時に行われる。お前も呼んでやるよ。じゃあな、せいぜい最後の別れを楽しむことだ。もう一人の英雄君」
そう言って肩にポンと手を置いた後、身を翻して病室から出て行った。その時にはすでに優の手は爪が食い込んで血まみれになっていた。
「チクショウ……」
優はそう呟く。そしてユキのほうを見やる。
『お前を絶対あんな奴に渡さない』
そう思って病院を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
手が血まみれだったため、看護士にとめられ手当てを受けたあと、病院を出ると二つメールがあった。一つは和人からでもう一つは知らないアドレス。まず、和人のメールを確認する。
《今日は、先に帰っておく》
たったそれだけの文だった。和人も同じことでもあったのかと思い、また手を強く握る。もう一つの差出人不明のメールを開く。それを見た瞬間、優は驚く。そして、不快な感情がこみ上げてくる。そこにあったのは、
《よう、久しぶりだな。如月。元気か。お前と二人で話したいから桐ケ谷家の近くの公園に来い》
優は、そのメールを見て、すぐにその場所に向かった。
ページ上へ戻る