Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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ネクスト
前書き
会話と言う名の説明回
ヴァルキリー紹介も会話が多めになります
「交渉は成立。それでいいんだな?」
「ええ、そう捕らえてくれて構わないわ。あれに用いられた技術、捨てるわけにはいかないもの」
場所は格納庫から移り、香月の特務室へと変わる。
「で、大まかな説明を聞いておきたいんだけど?ある程度の知識があるのとないのじゃ全然違うから」
「…そうだな。と言っても俺もそこまで詳しい訳じゃない。戦術機の方に詳しくない以上、厳密な比較も出来ない。それでも構わないか?」
「ええ、それで問題ないわ。明細な情報は此方で解析するわよ」
「そうして貰えると助かる。それじゃあ早速説明に入るが、あの機体の正式名称はネクスト。新型ACの総称だ。ネクストの最大たる力の源はコジマ粒子にアレゴリーマニュピレイトシステムと呼ばれる二つの存在が大きい。他にも先程お前達に見せたあの機動力。見ただけでは分からないがコジマ粒子を用いたプライマル・アーマーと呼ばれる衝撃を大きく緩和させる防御装置も備えられている。既に分かっていると思うが、ネクストは単体の戦力が高く、俺の世界ではたった26機で国家の解体にすら成功している」
「26機で国家の解体…!?…とんでもないわね」
国家解体戦争に俺参加していない為、その当時の詳しい情報などは分からないが、26機のネクストが国家を落としたと聞いている。
事実、それだけの力がネクストには秘められている。ネクストの最大の防御であるPAに関しては同じPAを用いた兵器を使用しなければPAの壁を越える事すら困難だ。もしかしたら此方の世界のライフル程度ならば利かないかもしれない。最もPAはPAを用いなくても貫通力の高い兵器を使えば案外呆気なく貫通してしまう。例を挙げるならスナイパーライフルやレーザー兵器など。
「それだけネクスト単機の力が大きいと言う事だ。次にコジマ粒子についてだが、これに関しては俺も詳しく分からない。只お前達も見ていると思うが、ネクストの周りにまとわり付いていた粒子、あれがコジマ粒子だ。コジマ粒子の使用方法は幾つかあり、俺が装備している武装も叱り、先程言ったQBやPAにも使われている。つまりネクストの火力、機動力、防御力は全てコジマ粒子の存在が大きく影響していると言う事だ。此処まで聞けばコジマ粒子は機体の性能を上げるだけの存在に思えるが、当然メリットにはデメリットがくっついてくる。このコジマ粒子にもデメリットは存在する。まぁ有体に言えば環境汚染、だな。どのような環境汚染が広がるかは知らないが、広範囲かつ長期に環境を汚染する性質がある。俺の世界はコジマ粒子によるコジマ汚染が広がり、地上には人間がまともに住めなくなってしまった。結果人間は空に逃げたが」
コジマ汚染により地上を捨て、空へと逃げた人間。
そしてそんな世界の態勢を崩すために現れたORCA旅団。俺もORCAに誘われたが、その誘いを蹴り、ORCAと真正面から戦い、クレイドルを落とし宇宙へと上がると言う目的を阻止した。今となってはその判断が正しかったのか分からない。
ORCAの考えは決して間違ってはいなかったと思う。只そのやり方を間違えただけだ。あのタイミングでクレイドルを落とし宇宙へ逃げようとしても恐らくは間に合わない。急ぎすぎたのだ。もう少し時間を掛ければ…俺もORCA側に居たかもしれない。…今となっては過去の話だ。
「…そのコジマ粒子ってのはどうやったら生成されんの?環境汚染云々については置いておいて、そこが分からないと私もなんとも言えないわ」
「コジマ粒子は、コジマ粒子発生機構を用いてコジマ物質に定量で安定した電気エネルギーを加えることで、コジマ粒子が発生させられる。そのコジマ粒子発生機構はストレイドの中にあるジェネレーター内部に入っている。…残念ながらコジマ粒子の元であるコジマ物質がこの世界にあるかどうかまでは俺にも分からない。今コジマ発生機構の中に入っているコジマ物質を発見か生産できれば…少なくとも俺のストレイドは動く。ただし、コジマ粒子を普及させるのは俺は賛成できない」
「ま、そうよね。BETAを駆逐する事を優先しすぎて自分達が住む地上を汚したんじゃ意味がないわ。…それこそG弾の使用となんら変わりない。…でもコジマ粒子を放って置くのももったいなさすぎる。どうにかできないものかしらね…」
「そこら辺は俺にも分からない。只俺が居た世界の地表が汚れたのは世界規模でコジマ粒子を使用したからだ。ストレイド単機で使用してもそこまで影響はでないかもしれない」
「ま、それもそうね。コジマ粒子に関しては私が後で調べておくわ。それでもう一つのアレゴリーマニュピレイトシステムだっけ?それはなんなの?」
「AMSはネクストを操縦するに当たって一番重要な機構だ。脊髄や延髄を経て脳とACの統合制御体が直接データをやりとりをする機構。生体制御システム。それがAMS。この機構の存在によって従来存在していたACに比べかなり精密な機体制御が可能になった。だが脳と統合制御体との間でやり取りするデータを情報として認識するのは才能による所が大きく、誰しもがネクストに乗れる訳でもない。このAMSの存在があってこそあの機動が実証されるのだが、同時に使える人間も大きく限られてしまうのも事実だ。まぁ本来は体の一部が機能しない人間の為に作られたものだったんだがな…先程も言ったが一部の人間しか使えないために軍用技術に転移されてしまった」
「へぇ…さっきのコジマ粒子とは違ってこっちのAMSはかなり私にとって有効な物かもしれないわ。どうにか脳と統合制御体でやり取りされるデータの認識を旨く改良できれば…体の一部を失った衛士も前線復帰できるかもしれない。更には機体制御の上昇効果。ふふ、これは胸が躍るわね!」
確かにこのAMSを改良する事ができれば大きく世界は変わるだろう。それもコジマ粒子とは違い、ほぼデメリットなしにだ。残念ながら技術者ではない俺にそれは不可能だが、この目の前の女性ならできるかもしれない。確証は何処にもないが。
「とまぁネクスト―ACの情報に関してはこんな所だろう。他にも武装やジェネレーター、ブーストに関してもあるが…説明した方がいいか?」
「コジマ粒子とAMSだけ分かってればどうにかなりそうよ。私を誰だと思ってるの?天才よ天才」
…自分で天才と言う人間は信用できないが、先程から隣で黙って俺の話を聞いている白銀に目配せしてみると大丈夫だと言われた。…白銀が言っているのだからこの女性は本当に天才なのだろう。
「と言っても武装やあの機動に関しての情報は後でまとめて出して頂戴。あんたの部屋は既に割り振ってるから、適当にそっちで纏めて頂戴。この部屋に入れるカードキーも渡しておくから」
そう言いながら手渡された一枚のカードキー。取り敢えずそれは胸ポケットに入れておいた。
「あんたは取り敢えず自室の方に向かって着替えた後ヴァルキリーのメンバーと顔合わせしておきなさい。早いに越した事はないでしょ?」
「了解した」
「よろしい。それじゃあちょっと待ってなさい」
香月はそう言うと机の横に置かれてある電話を使い誰かに連絡を取り始める。恐らくは俺の部屋に案内してくれる人間を呼び出しているのだろう。
そしてその数分後、特務室の扉を誰かが叩いた。
「あーそっちに向かわせるから外で待っておいて頂戴!」
香月はそう声に出した後、俺に目で行け、と命令してきた。此処で話す事は話したので、今は香月の命令に従い、部屋を出ることにする。
…最も、俺が何故この世界に来てしまったのか。その根本的問題の原因を聞いていないが。俺の目標は前の世界に帰る事ではあるが、もし変えれなかった場合は既に此方で生きる覚悟はしてある。どうせ向こうの世界で俺が消えようが困る人間はいない。…恐らくはあいつが怒るぐらいだろう。
思わずその場面が脳裏に浮かんでしまい、苦笑がこぼれそうになるが、どうにか堪え、席を立ち上がる。最後に香月に頭を下げてから部屋を出た。
部屋を出た扉の前に立っていたのは一人の女性。赤い髪の毛の美しい女性だ。
「伊隅みちる!階級は大尉です!」
と部屋を出て向かい合った瞬間、敬礼されながらそう言われた。
今いちこういった挨拶に慣れていない俺は一瞬戸惑うが、直ぐに表情を引き締め、此方も慣れないぎこちない動作で敬礼を返す。
「シルバ・アルザークだ。階級は一応少佐だが、別にお前達の上官って訳じゃないんだ。もっと気軽に接して欲しい」
よくもまあ初対面の人間にこんな事が言えたと驚いている。だが最初の印象は重要だ。既にヴァルキリーメンバーの一人である速瀬との出会いは微妙なものだったが、他の人間にはなるべく好印象を受けてもらえるよう動いていきたい。此処は違う世界なのだから前の俺じゃ駄目だ。ゆっくりでもいいから変わらないといけない。
「は、はぁ…分かりました」
「敬語も要らない。それに俺達は同い年ぐらいだろう?」
伊隅の年齢は分からないが、そこまで年は食ってないだろう。処かまだまだ若い筈だ。
「…分かった。まぁ此方としても助かる。自分よりも階級が高い人間と会話する時は神経が磨り減るからな」
此処でようやく態度を崩してくれた伊隅に思わず笑みを浮かべてしまう。こうして人を何の探りあいもなく話したのは久しぶりだ。先程の香月との話し合いは俺も気が気じゃなかったからな。ようやく落ち着ける。
…と言いたいが、この後、ヴァルキリー隊のメンバーと顔を合わせるんだよな?と言う事は間違いなく速瀬が居る事になる。…これは旨く避けれるように言い訳を考えておいた方がいいかもしれないな。ACに関しては…機密と言えばそれでいい。寧ろ答えられない質問には機密と言えばいいんじゃないか?俺は一応少佐なのだから権力で黙らせる事も可能なんだ。最も、先程も言ったとおり最初の印象はよくしたのでそれは最終手段として取って置きたいが。
「そうだろうな。…それじゃあ部屋の方に案内してくれるか?」
「ああ。コッチだ付いて来てくれ」
――――――――――
「此処がシルバの部屋になる。私の部屋はこの部屋の三つ程隣だ。他のヴァルキリー隊のメンバーの部屋もここら周辺に集まっている」
「そうか、何かあったら直ぐ頼ることが出来そうだな」
俺の言葉に苦笑いを浮かべる伊隅を見てから渡されたカードキーを使い部屋に入る。
部屋の中に置かれているのは質素なベッドに机と椅子。そして俺の服であろう軍服。恐らくはこれに着替えろ、と言う事か。
「すまない。着替えるから少し外で待っていてくれ」
「ああ、分かった」
伊隅の返事を貰ってから今来ている服を脱ぎ、壁に立てかけてあった軍服の裾に腕を通す。サイズは最初から俺のサイズを測っていたのではないかと思うぐらいにジャストフィットしていた。その事に少し気持ち悪さを感じるが…別段困る事ではないので忘れることにする。
脱いだパイロットスーツは軍服が掛けられてあったハンガーに掛けておき、そのまま壁に掛けなおす。最後におかしな所がないか確認してから伊隅が待ってるであろう外に足を運ぶ。
「可笑しな所はないだろうか?」
「いや、中々似合ってると思う。お世辞ではないぞ?」
「有難う」
伊隅とそんな会話を交えながらもヴァルキリーのメンバーがいると言うPXの方に向かう。PXとは簡単に言うと食事を取る場所らしく、今の時刻は昼頃なので、丁度休憩しているメンバーが全員いるとの事。
ヴァルキリー隊のメンバーは伊隅と俺含め全部で12人となっている。今まで一人で戦場を掛けてきた俺からすれば12人と言う中隊規模の部隊に入ることは中々緊張する。
香月は基本、俺は単独任務が多いと言っていたが、いつかは伊隅達と共に任務に当たる日が来るだろう。そうなった場合も含め一刻も早く皆との親睦を深めないといけない。
「そんなに緊張する事はない。皆直ぐに受け入れてくれるさ」
「…そうだといいがな」
そして辿り着いてしまったPX。
何故人と会うだけでこんなにも緊張しないといけないのか、と自分の心境に疑問を抱きながらも、伊隅の後に続きPXの中へと入る。
PX内部は食事の受け渡しをするであろうカウンターに食事を取るであろう机が多数。本当にそれだけの部屋だった。
そのPX内の中を迷うことなく、ある一団に向けて歩いていく伊隅と俺。数を数えてみると10人。恐らくこのメンバーが他のヴァルキリー隊のメンバーなのだろう。確かに速瀬の顔も見える。当然速瀬は俺のと伊隅の方に気づくなり目を大きく開き、大きな音を立てながら席を立ち上がった。
「ああああ!あんた!本当にヴァルキリーに入るの!?」
と俺の方を指差しながら叫ぶが、その直後、伊隅が速瀬に近づき、その脳天に拳を落とした。
「ったあ!!」
「お前のその態度はどうにかならんのか!すまないシルバ。内のメンバーが早速無礼を」
そんな二人の様子を何時もの事のように見届けている他のメンバー。…速瀬は何時もあんな感じなのだろう。俺もヴァルキリーに入る以上、早く慣れないといけない。
「そういうのは止めてくれっていっただろう?俺は気にしてないからメンバーを紹介してくれないか?」
「そう言ってくれると助かる。との事だお前ら!各自自己紹介していけ!」
俺に対する態度は崩しても、部下に対する態度は厳しく。…と言うか伊隅がこの部隊のリーダーなのか。何となく予想はしていたが…納得だな。
最初に自己紹介を始めたのは以外な事に伊隅に頭を殴られた速瀬。少しばかり涙目になり、頭を擦っているが、俺の方を強く睨んだ後、姿勢を但し自己紹介を始めてくれた。
「速瀬 水月。階級は中尉。ポジションは突撃前衛長。ふん!」
そんな速瀬に続き、他のメンバーも次々と口を開く。
「涼宮 遙。階級は中尉。ポジションはCP将校。これから宜しくお願いしますね」
「宗像 美冴。階級は中尉。ポジションは迎撃後衛。中々に男前だな」
「風間 祷子。階級は少尉。ポジションは制圧支援。美冴さんったら…」
「涼宮 茜。階級は少尉。ポジションは強襲掃討。足引っ張んないでよね!」
「柏木 晴子。階級は少尉。ポジションは砲撃支援。腕前の方は期待してもいいよねー?」
「築地 多恵。階級は少尉。ポジションは迎撃後衛。今度新型見せて!」
「高原 奈美。階級は少尉。ポジションは強襲掃討。宜しく!」
「麻倉 沙希。階級は少尉。ポジションは制圧支援。よ、宜しくお願いします…!!」
「上村 由梨。階級は少尉。ポジションは打撃支援。死なない程度に頑張ってこー!」
これで全員の自己紹介が終わった。中々に個性的なメンバーだと思う。
「俺はシルバ・アルザーク。階級は少佐だが、皆の上官として入るわけじゃないから敬語とかなしで接してくれて構わない。宜しく頼む」
俺が少佐だと言う事に皆の表情が一瞬だけ引きつったが、その後の言葉で皆安堵の息をこぼしていた。やはり自分より階級が高い人間と言うのは神経が磨り減るのだろう。俺にはわからない感情だが。
取り敢えず俺の居場所は出来た。まだ右も左も分からない世界だが…この部隊で俺は生きていこうと思う。その為にも先ずは力を付けなければならない。俺本人叱り、このメンバーもそうだ。此処で知り合った以上、このメンバーを死なせたくない。所詮俺のエゴかもしれないが、そう思われても構わない。
ま、結局今何を思おうが、俺がどうなるか、全てACの技術を使えるかどうか調べている香月の手に委ねられている。今は取り敢えず…このメンバーと親睦を深めよう。
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