Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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AC―ストレイド
前書き
ACの名前は初期設定の名前であるストレイドで行くことにしました。
何か考えた方が良いとは思いますが、ご了承下さい。
白銀に案内された基地から足を外し、俺は今最初に訪れた場所に来ている。
俺の周りに広がるのは何処までも続く瓦礫の山のみ。人が住んでいたと思われる形跡も、全て無へと帰している。
この景色を作り出したBETAとはいったい何なのか。白銀から説明を受けた時俺はそう思っていたが、それはまさしく地獄そのもの。俺が居た世界の方がまだ希望があったかもしれない。そう思わずにはいられない映像だった。
そしてそんなBETAが作り出した景色の真ん中に一機、この景色に似合わない黒一色の機体。俺のACであるストレイド。共に幾多もの戦場を駆け抜け、そして幾多もの命を奪ってきた最悪の兵器だ。
「俺は…この世界で生き延びることが出来るのだろうか」
その場に居るのは俺一人。その事もあり、思わず弱音を吐き出してしまう。
そのまま瓦礫の町に佇むACの側に近寄り、硬い材質で覆われたフレームに手を置く。俺の記憶が正しければストレイドのフレームはボロボロだったはずだったのだが、視界に移るフレームは新品同様だ。触れている手に広がるフレームの感触は冷たく、中々に心地の良いものだった。
確かにこのストレイドはこの世界で最強と呼んで良い程の戦力を約束してくれるだろう。恐らくこのストレイドでなくとも、他のACでも同様、この世界では活躍出来るだろう。当然俺のストレイドはチューン出来る所は全てチューンしてあるため、機体の性能はほぼ限界に近い。だからこその最高戦力だ。
しかし、そんなストレイドが俺の手元にあろうが、体の中にじわじわと広がる不安は拭い切れない。前の世界では一人でも生きていける世界だった。だがこの世界は違う。間違いなく一人では死ぬ。仲間と呼べる存在が必要不可欠だ。
あのBETAの巣であるHIVE突入にしても、仲間同士の連携がなければ、十中八九落とされる。人間は誰しも完璧ではない。どんなに強い人間だろうが、それには限界があり、一人出来る事など限られている。実際俺も前の世界では最強と呼ばれていたが、それはあくまでも戦力に関してだけだ。ある程度の情報戦や指揮も出来るとは思うが、それは俺の本職ではない以上、本職の人間には勝てない。
つまり、綿密に練られた策に嵌まった場合、最強と呼ばれた俺でも簡単に死ぬ。事実、俺は企業側の策に嵌められ、殺されそうになった。最も、俺は死ぬ前にこの世界に来てしまったのだが。今ではむこうの世界がどうなったのかも分からない。…いや、もう俺には関係のない話か。
結果何が言いたいのかと言えば、俺はこの世界で信頼出来る人間を先ずは作らなければならない。自分が生き残る為にもこれは最優先事項だろう。恐らく俺の衣食住の保障はあの女性がしてくれる筈。ACの技術には食いつくはずだからな…。
まぁ…ACの技術が認められなかった場合は…また考えればいい。俺の戦力を必要としてくれる場所は幾らでもあるさ。
「あ、いましたよ」
「やっと!?どんだけ私を歩かせるつもりよ!!もうかれこれ数十分は歩いてるわよ!?もうクタクタだわ!」
と、俺の後ろの方から男女の声が聞こえたので振り返ると、向こうの方から白銀の例の女性の姿が見えた。
白銀は俺の事を見つけると駆け足で寄ってきた。その隣に居た女性は白銀がいきなり走り出した事に声を荒げたが、俺の後ろに佇むACを見た瞬間、白銀を抜く速度で此方へと駆け寄ってきた。
「これが…あんたが言ってた機体ね?」
「ああ。ACと呼ばれる俺の世界では戦力の基本として用いられていた機体だ」
俺の言葉に女性は小さく、ふーん、とだけ相槌を返すと、機体のありとあらゆる箇所を見始める。
その際色んな奇声を発していたが、技術者が本職ではない俺に手伝う事は出来ない。一人である程度のメンテナンスが出来ると言っても、それは緊急用のメンテナンスのみであり、本職に敵う訳ではない。…つまり技術を提供するにしても、この女性に全てを理解してもらわなければならない必要がある。ACに用いられている技術の全てを。当然そこにはコジマ粒子も含まれている。
間違いなくこの世界ではコジマ粒子は発見されていないだろう。何故なら、もしコジマ粒子が発見されていたのならば、少なからず戦術機と呼ばれるあの機械は限りなくACに近づく筈だからだ。例えACに近い機体が存在しなくても、コジマ粒子を用いたビーム兵器が存在している筈だ。だが、白銀が行ったシミュレーターの中でビーム兵器を思わせる存在は現れなかった。つまりこの世界でコジマ粒子、又はコジマ粒子に近い存在のものは発見されていない事になる。
コジマ粒子を使い続けた結果の世界をしっている為、俺はなんとも複雑な気分になるが、この世界で生き残るためにはコジマ粒子の存在は必要不可欠だ。俺が戦術機に乗る、と言う事も考えられるが、今更機動概念の違う機体に乗れるとも思えない。
「ねえ!この機体今すぐ動かせる?」
「ああ、問題ない。起動させるか?」
「今すぐ起動させて頂戴!早く!今すぐよ!」
「あ、あぁ」
女性の目の奥で光るものはまさしく研究者のそれだ。
「なら離れておいてくれ。風圧で吹き飛ぶぞ」
「「…?」」
俺の言葉に二人は首を傾げ、疑問の表情を表に出すが、それに答える事はせず、素早くストレイドに乗り込む。
ストレイドに乗り込み次第ジェネレーターを起動し、コジマ粒子を生成。その際生まれた余剰電力が他の部位に回り、ACが起動する。視界も網膜投影に切り替え、機体に問題がないか、細部のデータまでチェックを入れる。
オールクリア…問題はないな。
動かすに辺り問題はないと判断し、まだ近くに二人がいないか確認するが、二人は既にかなり離れた距離に居た。どうやら白銀が女性を無理やり離したらしく、白銀は女性の腕を使み、無理やり高速しているように見えた。
さて…ACを見せるからにはその全てを見せる。…流石にAAは使わないが、少なくともQB、OBは見せたい所だ。
取り敢えず機体のブースタを噴出させ、機体を宙に浮かせる。
早速だがQBを使う。正直こんな見晴らしの良い場所でACを起動させるのは不味い気がしてならない。周りに二人以外の人間がいないことは既に確認済みだが、それでも多少の警戒は怠らない。だからこそ素早くACの全てを見せる。
そう判断した俺は素早くフットペダルを踏み込み、バックブースタの出力を一気に最大まで上げ、QBを使う。すると途端に視界が切り替わり、先程まで視界に写っていた景色は後ろに置き去りになる。
次は連続QB。二次元的な動きだけではなく、連続QBを用いた三次元高速機動を見せる。
急激に減ってゆくエネルギーに気を配りながらも断続的にQBを使用し、目にも留まらぬ速さで辺りを飛び回る。時にはビルの隙間を潜り抜けるような事をしながら。只でさえボロボロだったビル郡はQBの余波で完全に吹き飛んで行く。
数分後、これくらいで十分だろうと判断した俺はOBを起動。バックブーストとは別の特殊なブーストが起動し、AC内に溜められたコジマ粒子が急激に減る。そして次の瞬間、時速2000KMを超える速さの領域にストレイドは達する。
OBを使いきり、機体が停止した所でクイックリターンを使いある程度エネルギーか回復した所で再びOBを使い元の場所に戻る。
元の場所に戻り次第、機体を地に着け、ジェネレーターを停止し、コジマ粒子の生成を中止する。網膜投影も切り替えた所で機体の外に出る。外に出た瞬間白銀達が駆け寄ってきた事は言うまでもない。
「何あの起動!?早いなんてレベルじゃないわよ!?」
「すっげぇ!何だよあれ!見たこともないぞ!」
「取り敢えず落ち着け。まともに話が出来ん」
興奮が頂点に達している二人をどうにかなだめ、肝心の女性に認めて貰えたかどうかを確認する。
「…あんたは怪しい点ばかりだけど…このACの技術はそれ以上のものがあるわ。手放すなんて出来る訳がないじゃない」
その言葉を聞いて一先ず安心した。これでこの世界での俺の衣食住は確保されたと言う訳だ。
「それにしても物凄い起動ね…一体何で動いてんのよ?」
「それを調べるのがあんたの仕事じゃないのか?」
「ふん、言ってくれるわね。でもその通りだわ。この機体の隅々まで見てやるわよ」
その言葉にどうも嫌な予感がぬぐいきれないが、この女性なら安心して任せていいだろう。…あわよくばコジマ粒子、又はそれに近いエネルギーを見つけてくれると嬉しいのだが。まぁコジマ粒子はジェネレーターから生成されているので、見つける必要もないのか。肝心なジェネレーターの技術さえ理解してくれたら問題ない。
「そうしてくれ。こいつの技術が使える事を願うよ。…それで、こいつはどうすればいい?今すぐにでも基地に運べるのか?」
「そうね…私の関係上新型で通るとは思うけど…まぁそこら辺は私に任せなさい。あんたはこの機体を格納庫の方に運んでくれるだけでいいわ」
「了解した」
――――――――――
基地内にいる人々の視線に晒されながらもストレイドを格納庫へと無事運ぶことが出来た。しかし、ストレイドから降りた後の視線が気になって仕方がなかった。当たり前と言えばそれは終わりなのだが…やはり新型の機体、といわれれば誰しも興味が沸くだろう。それにおれ自身の格好にも問題がある。この世界で戦術機に乗るに辺り先程白銀が来ていた強化装備、と言われる物を着るらしいのだが、俺はその強化装備を着ていない。一応それに近い装備は来ているのだが、見た目が全然違うのだ。となれば、当然俺は機体と共に視線を集めてしまう訳だ。
どうにか人目の居ない所に行くか…と思った矢先、一人の少女と目が合ってしまう。水色の髪の毛を後ろで束ねた気が強そうな女性。その女性は強化装備を着ている為、出る所がかなり強調されているため、俺も少しばかり目のやり場に困る。
「ねえ、あの機体何?」
何か言われる前にこの場を去ろう、と思ったのだが、それを実行に移す前に目の前に現れた女性に声を掛けられてしまう。
…返事をしていいものなのだろうか?
俺の身分がはっきりしていない以上、他人との接触は極力控えなければならないと思うのだが…当たり障りのない返事ならば問題ないだろう。
自分でそう判断した俺は適当に返事を返す。
「あれは見ての通り新型だ。俺はそのパイロット」
短く簡潔に返事を返した俺は女性と目を合わせる事はせず、その横を通り過ぎようとするが、そんな俺に回り込むかのように先回りされてしまう。…なんなんだこの女は。そう思わずにはいられない状況である。
「そんな話聞いた事もないんだけど!あんた所属は何処よ?」
段々と不味い雰囲気になってきた。
目の前の女性は気が短いのか、イラついているのが目に見て分かる。それに声量が大きいために、周りに居る人間の視線も更に集めてくれている。迷惑極まりない。
だがこの状況は俺にとってかなり苦しい。あの女性からは格納庫に運んでとしか言われてない為に、ストレイドの事に関しての設定は何も作っていないのだ。…こうなる事は分かっていただろうに。まさかわざとこうしたのか?
「黙ってないで答えな「速瀬」香月副指令!?」
状況が悪化して来た所で丁度現れた女性。…名前は香月と言うのか。香月夕呼。副指令と言う事はかなり偉い人間だったのか…ある程度予想はしていたが。
それにしても組んでいたようなタイミングだな。本当にこうなる事を予想していたとしてか思えない。
「あー堅苦しいのはいらないわ。それで、こいつだけど…こいつは今日からあんた達の仲間よ。つまり今日からこいつはヴァルキリー部隊の人間よ」
「え、ええ!?」
香月の言葉に速瀬と呼ばれた女性は声をあげる。ヴァルキリー部隊…か。まさかいきなり部隊の中に入れられるとは思ってなかった。今まで一人での行動しかなかった為に不安しかない。連携に関しても人間関係に関しても、だ。何よりこの目の前の速瀬と言う女性は少し苦手かもしれない。
「階級は少佐。階級はあんた達より上だからね?言動には気を付けなさい。…まぁ仲間と言ってもこいつは特別だから単独での特殊な任務に付くことが多いけどね。一応形ではヴァルキリー部隊の一員だから、仲良くやんなさいよ」
「し、少佐…」
…俺はいまいち少佐と言う階級がどれほど高いのか理解出来ないが、速瀬の反応を見る限りそれなりに高い地位なのだろう。香月も嬉しい事をしてくれる。地位が低いと何も出来ないからな。ある程度の地位は欲しかった。
「ま、簡単な自己紹介はここまで。また後で他のメンバーにも紹介するから、その時詳しく話してあげるわ。こいつは借りてくわよ~」
香月はそう言うと速瀬の返事を聞くことなく、来た道を引き返していく。
俺も最後に速瀬の方に視線を送り、何を言う訳でもなく、香月の後を付いていく。
あれが俺の仲間、か。うまくやってけるだろうか…。…今考えても仕方がない。なるようになるか。
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