八条学園怪異譚
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第十九話 口裂け女その十二
「あたしに会えたってことはあれ持ってるんだよね」
「ああ、ベッコウ飴ね」
「それね」
「それ持ってるよね」
口裂け女の好物であるそれをだというのだ。
「くれるかな、それ」
「はい、どうぞ」
それは今は聖花が持っていた、それですぐに口裂け女に袋ごと差し出した。
「食べてね」
「悪いね、じゃあ頂くわね」
「甘いの好きなのね」
「基本甘党だけれどお酒も好きだよ」
口裂け女は喜色満面の顔で聖花に話しながらベッコウ飴を受け取った。
「そっちもね」
「そうなのね」
「甘いものの中じゃ飴が一番好きでね」
そしてその中でも特にだというのだ。
「これが一番好きなんだよ、有り難うね」
「うん、じゃあ遠慮lなく食べてね」
「後でゆっくりと舐めるよ。それでだけれどね」
口裂け女はベッコウ飴の袋を自分のコートのポケットに入れてから二人にこう言った。顔は博物館の前にやっていた。
「あれだけれどね」
「あの電話ボックスね」
「そこね」
「そう、あれね」
ライトグリーンのボタンとカード、コインを入れる形式の古いタイプの電話があるこれまた古典的なガラスの電話ボックスだった。
その電話ボックスを見ながらそのうえで二人に言うのだ。
「あの箱だけれど」
「あそこがまさか、よね」
「私達が探してる」
「そう、入ってみる?」
口裂け女は目を微笑みにさせて二人に言った。
「泉かも知れないわよ、あんた達が探してるね」
「ええ、それじゃあね」
「今からね」
二人で言う、そしてだった。
二人は顔を見合わせて頷き合いそのうえで電話ボックスに向かいその中に入ってみた。だがこのボックスもだった。
何も変わりはなかった、それですぐに出て口裂け女達にこう言った。
「ううん、ここもね」
「泉じゃなかったわ」
「残念だったね。次だね」
「ええ、次の何処に行くわ」
「そうするわ」
「そういうことだね。じゃああんた達のやることは終わったし」
口裂け女はそれでだと二人に言う。
「博物館の中に入るかい?紅茶を飲みに」
「じゃあお誘いを受けてね」
「お邪魔させてもらうわね」
「遠慮はしなくていいよ。あたしも勝手に住んでる身だしね」
「だからいいの?遠慮しなくて」
「そうはならないんじゃないかしら」
「真面目だね」
口裂け女は今の二人の言葉にはこう返した。
「そこで二人共そう言うなんて」
「だってねえ。礼儀作法はちゃんとしないと」
「お店をやっていけないし」
「骨の髄までのお店の娘ってことだね」
こうした意味で愛実と聖花は一緒だった、食堂とパン屋の違いがあるがそれでも二人は生粋の店の娘なのだ。
それで口裂け女もこう言った。
「今度あんた達のお店に行きたいね」
「あっ、うちのお店変質者と見たらすぐに通報するから」
「うちもだから」
二人は口裂け女の今の言葉には速攻でこう返した。
「その外見で来たら一発よ」
「マスクを外しても駄目だからね」
その耳まで裂けた顔は論外だった。
「普通の格好ならいいけれど」
「マスク位はまだいいから」
「だからね、あんたのファッションって怪しいのよ」
花子さんも口裂け女に顔を向けて言う。
「このこと前から言ってるじゃない」
「これがあたしのファッションなんだけれどね」
「もっと今風の格好にしたら?ボディコンとかコンサバとか」
「それも古いから」
聖花は花子さんが出したバブル期のファッションにも駄目出しをした。
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