八条学園怪異譚
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第十九話 口裂け女その十一
「味が違うっていうから」
「お風呂に入ってもなのね」
「そう、それでイギリスの紅茶もね」
「成程ね。じゃあティーセットも」
「日本で食べた方が美味しいかもね」
「そうなのね」
「ああ、イギリスはねえ」
口裂け女がまた話に入って来た。その細い奇麗な眉を顰めさせて言うのだった。
「酷いよ、あそこの料理もお茶もお酒も」
「ってイギリス行ったことあるの」
「あの国に」
「あるよ。飛行機の中に潜って行ったけれどね」
この辺りは実に妖怪的である。
「旅行はいつもそうして行ってるよ」
「飛行機の何処に潜ってるのよ」
「貨物のところね」
「寒くない?あそこ暖房ないでしょ」
しかもかなりの上空だ、空の寒さは格別である。
「それでも大丈夫jなの?」
「大丈夫だよ」
口裂け女は目を細めさせて愛実に答える。
「コートの下にも着てるからね」
「だから大丈夫なのね」
「マフラーにセーターにタイツにね」
防寒もしっかりと考えているらしい。
「あと使い捨てカイロも」
「そのカイロ必須よね」
「OLハワイで風邪ひかんってね」
「?何それ」
愛実は口裂け女が今言ったジョークには目をしばたかせ怪訝な顔になって返した。
「昔の言葉?」
「使い捨てカイロのCMで昔言ってたのよ。相撲取りすっぽんぽんで風邪ひかんってね」
「そうだったの」
「古いCMだから知らなかったのね」
「ううん、ちょっとね」
「私も今のは」
愛実だけでなく聖花もそれはないだろうという顔を相手に見せる、十代の二人が知る筈もないネタであった。
そうした話をしているうちにだった。二人は遂に鉄道博物館、口裂け女が住んでいるそこの前に来たのだった。
そこには花子さんもいる。そして。
「あれっ、日下部さんもですか」
「来られてたんですか」
「花子さんから連絡を受けた」
それで来たというのだ。影はないがその姿はそのまま海軍軍人だ。
「それで来たのだがな」
「わざわざ水産科からですか」
「ここまで」
「距離はどうということはない」
水産科の校舎からここまで結構歩く距離だがそれはというのだ。
「霊はその気になれば東京から大阪まで一気に行くことが出来る」
「そうして大阪まで一気に来た幽霊の話もあるのよ」
花子さんが二人にこの話をはじめた。夕暮れの校舎の中にいる花子さんは服装も髪型も古いが普通の小学生に見える。花子さんには妖怪らしく影もある。
「お寺に来て足跡も残してるからね」
「そうなのね」
愛実も花子さんの話を聞いて納得した。
「幽霊ってその辺りは便利なのね」
「それなりの力は使うがな」
だがそれでもだと言う日下部だった。
「行こうと思えば行ける」
「そうなんですか」
「それでだ、君達は口裂け女氏とも知り合いになったか」
「はい、そうです」
愛実はこのことを認める。
「噂を聞いて夕暮れの正門のところに行って」
「いやあ、もうわかってたのよこの娘」
口裂け女は日下部にもマスクの顔を笑みにさせて言った。
「これがね」
「君が口裂け女であることはか」
「そう、まあそれで知り合いになってね」
「もう親しくしている様だな」
「いい娘だね、ああそうそう」
ここで口裂け女はあることを思い出してそのうえで日下部から愛実と聖花に顔を向けてそしてこう言ってきた。
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