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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  その名は

 その時になって、漸く鈴蘭にも敵を感知することが出来た。体が熱くなり、集中力が極端に増した。敵を倒すという意志が、心の底から湧き上がってくる。神が近くに居る事の証であった(ミーコ達も神ではあるが、四六時中一緒に居るので、この戦闘状態に入ることにも慣れてしまっている。戦闘意欲は湧いてきても、殺意が湧くというわけでは無いので一緒にいることが出来る)。

「早すぎる!?コッチは隔離世に潜っているんだよ!?」

 隔離世は、謂わばビルのような物である。幾つも階層が存在するため、目標がどの階層に入ったかが見つけにくいのだ。それは、例え『まつろわぬ神』といえども変わらない。陸地に着くまでは見つからないと思っていたのに、何故こうも早く見つかったのか?

「・・・嘘、三柱の神が、同時に・・・!?」

 彼女の視線の先には、浮かび上がる三柱の神があった。浅黒い肌と、逆だった真っ赤な頭髪。なんと、全員が同じ顔をしているのだ。そして、その鋭い視線は、全て沙穂を射殺さんばかりに睨みつけている。

「お~!!!大漁であります!!!」

 ・・・その睨まれている本人は、とても楽しそうではあったが。

『我が名は阿修羅!我が宿敵インドラを討った神殺し(愚か者)が居ると聞いてやって来た!!!・・・見るに、そこの小娘がそうなのだな?』

「阿修羅・・・!?」

 アリスが声を上げた。阿修羅とは、インド神話、イラン神話、更にはゾロアスター教や仏教に至るまで、様々な物語に登場する有名な神格である。起源は定かではないのだが、インド神話が最初ではないかとも言われている。

 インド神話において、初期の阿修羅は、『正義の神』とされていた。彼には舎脂(シャーチー)という、それは美しい娘が居たそうだ。阿修羅は、娘を『力の神』であるインドラに嫁がせたいと思っていたそうなのだが、ある時、インドラはその娘を誘拐し、犯し、自分の物にしてしまった。

 当然怒り狂った阿修羅は、インドラに戦いを挑むも、『正義の神』と『力の神』では勝てるはずもない。四天王や神々の軍にすらも出撃させて迎え撃つインドラに、成すすべもなく敗退する阿修羅。しかし彼の怒りは凄まじく、何度敗れてもまた戦いを挑み、そして負け続けた―――因みに、この【争いの絶えない状況】から生まれたのが、『修羅場』という言葉である―――。

 しかし、彼の不幸はここで終わらない。何と、いい加減相手をするのが面倒になったインドラによって、阿修羅は神々の国を追われたばかりか、『善神』という立場から『悪神』という、真逆の立場へ落とされてしまうのだ。どう考えてもインドラの行動が悪なのだが、力のない者が正義など語るなということなのだろうか?

 更に仏教でも、『過去の出来事をいつまでも根に持って、みずからの正義にこだわりつづけている阿修羅の心の狭さの方がもっとよくない』という理由で悪神に落とされ、踏んだり蹴ったりの阿修羅。

 一方、善悪二元論しかないゾロアスター教では、インドラを魔王とし、阿修羅を、正法を守る護法の神として名誉挽回。ゾロアスター教の最高神、アフラ・マズダと同一であるとさえ言われている。そして、アフラ・マズダが阿弥陀如来と同じであるとする考えもあるので、阿修羅は阿弥陀如来とすら同じと考えられるのだ。

 このように、様々な物語で戦い続け、競い合ってきた神々なのである。

 ・・・という事を、短く鈴蘭に説明したアリス。鈴蘭は、短時間で一気に詰め込まれた知識に、少しクラクラしている。元々、勉強はそこまで得意ではないのだ。基本的にはカンピオーネは魔術を打ち消してしまうため、魔術で教えることも出来ない(経口摂取なら魔術もかかるが、二人ともソッチの趣味はないためする気がない)。

「ええと・・・つまり、どういうこと?」

「私は、インドラと阿修羅の間には、何か特別な繋がりがあるんだと思います。だから、沙穂さんは誰よりも早く阿修羅の接近を感知出来た。・・・というより、多分沙穂さんに惹かれて阿修羅がやって来たんだと思います。」

 その言葉に、アチャ~と呟く鈴蘭。

「成程。それなら隔離世でも速攻で見つかる訳だ・・・。仕方がない!」

 彼女は、突然拡声器を権能で作り出し、上空の阿修羅に向けて叫んだ。

「ちょっといい~!?」

『・・・なんだ?神殺しよ。』

 流石に神殺しは無視出来ないらしい。実際、先程から何度か沙穂に攻撃しようとしていたのだが、何時の間にかやってきた翔希や睡蓮からの圧力によって、未然に防がれていた。何故か三柱いるとはいえ、四人の神殺しを同時に相手するのは危険だと判断したのだろう。

「今ここで戦うのは止めてくれないかな~?もう直ぐ無人島に上陸するから、そこでやろうよ~!」

『下らん。何故そんな提案を受けなければならない?』

 嘲笑された。しかし、こめかみに血管を浮かせながらも耐える鈴蘭。

「そうしてくれたら、私たちは手を出さないよ~?幾らなんでも、全員を一度に相手するのは厳しいでしょ~?宿敵とは、真剣勝負したいよね~?」

『・・・・・・むぅ。』

(ヨッシャ!手応えあり!)

 この提案が通ると、沙穂が三対一になってしまうのだが、鈴蘭は気にしていなかった。・・・というより、戦闘モードに入った沙穂の放つ殺気は、例え味方だろうと、邪魔をすれば斬られるような気がして近づきたくないのだ。

 味方に攻撃するはずがないのは分かっているつもりだが、カンピオーネとなった後の沙穂は、戦闘になると容赦が無くなる。カンピオーネの特徴と、元々の彼女の特徴が、嫌な感じで混ざり合った結果である。

(ま、沙穂ちゃんも嬉しそうだし・・・)

 今一番避けなければいけないのは、船への攻撃。『耐神構造』とは言っても、あくまで保険なのだから。アリスも乗っている船の上で戦われるのは、正直避けたい。

『・・・いいだろう。その提案を受けようではないか。この先の島で待っている。・・・・・・逃げるなよ?』

「逃げても追っかけてくるんでしょ?逃げないよ。」

 その言葉を聞くと、満足そうに消えた阿修羅。ホッと溜息を吐くと、沙穂に尋ねる。

「勝手に約束しちゃったけど、大丈夫?」

 その言葉に、彼女はとてもいい笑顔を向けて・・・

「楽しみであります!!!」

 と叫んだのだった。
 
 

 
後書き
鈴蘭×アリス・・・・・・・・・(・∀・) 
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