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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  新たなる敵

 例えばだ。

 もし貴方に、終生のライバル、宿敵がいたとしよう。

 顔も良くて性格も良い。勉強も運動も出来る凄い奴だ。

 自分は、どうしてもそいつに勝ちたい。友達とは認めていても、自分のプライドを守るために、どうしても勝たなくてはならない。今まで、そいつ以外には負けたことがないからだ。そいつが現れるまでは、自分は常にトップを独走していた。なのに、そいつにだけは何をしても勝てない。

 貴方は、そんな彼、または彼女に勝つために、血も滲むような努力を続けていたとしよう。

 ならば、そんなライバルが、突然現れた転校生に敗北したとしたら、貴方はどう思うだろうか?

 ザマアミロと思うだろうか?それとも、自分が倒すはずだった相手を横から奪うなんて何考えているんだと憤るだろうか?この辺りは、その人物の性格が如実に現れるだろう。

 彼は、後者であった。

 別に、ライバルの事を友人などと考えていた訳ではない。彼にとって、その相手は間違いなく『敵』であった。・・・が、それでも彼にとっては、その相手は何時の日にか必ず超えなければいけない巨大な壁であった。しかし、それがとある人物によって、何時の間にか破壊されていたのだ。

 彼は怒り狂った。

 たかが数十年しか生きることが出来ない人の子の分際で、私の数千年を無に帰すとは一体どういう了見だと。自分がどれほどの思いを込めて、今まで生きてきたと思っているのかと。奴を倒すのは、自分の役目だったのに、と・・・。

 ・・・だから彼は、現世に降臨した。

 身の程知らずの馬鹿を懲らしめる為に。

 そしてその後、何の憂いもなくもう一度ライバルに戦いを挑む為に。

 ・・・だから、そう。

 この戦いは、必然だったのだ。


☆☆☆


 船は今、沖縄の近くの海をユックリと進んでいた。このまま、既に買い取ってある近くの無人島に停泊し、そこでホテルを即席で(・・・)創って(・・・)何日も遊び倒す予定である。

 さて、あと数十分もすればその無人島が見えてくるという場所で、アリスと甲板で談笑していた鈴蘭の元へ、白井沙穂が突然現れた。どうやらかなり急いでいたようだ。

「ん?どうしたの?」

「何か、ピリピリするのです。何かが近づいて着てる気がします。」

「・・・ヤバい奴?」

「結構楽しそうなのです!!!」

 とてもいい笑顔である。

 勿論、この場合の『何か』というのは、カンピオーネの第六感を刺激する程の強力な存在・・・つまり、神か、それに類する神獣などの脅威の事である。そして、沙穂が『楽しそう』と評するからには、かなりの力量を持っていると思われる。・・・何故なら、彼女もドニやヴォバンと同じく、かなりの戦闘狂だから。というより、『斬る』という行為に悦びを感じているようである(ドニが襲来したときは、騒ぎが余計に大きくなるので鈴蘭と貴瀬に止められていた)。

 この言葉に、鈴蘭とアリスは固まった。

 鈴蘭は、自分は何も感じていないのに、何故沙穂は感じ取れるのかを考えて俯き、アリスは、もう直ぐこの場所が戦場になる可能性がある事を自覚して動きが止まる。

 アリスは、世界でも最高位の魔女である。・・・しかし、神や神獣と対峙して無事でいられる保障は何処にもない。鈴蘭たちが居るが、ここは逃げる場所がない豪華客船。鈴蘭たちの戦闘の巻き添えを喰らうだけでも、彼女のその体はバラバラに引き裂かれるかもしれない。

 ・・・しかし、

(何かドキドキしてきました!コレですよ!やっぱり鈴蘭ちゃんといると退屈しないです!!)

 退屈を何よりも嫌う女性である。不安は感じているが、それ以上に、これから始まる戦いを予想して体が熱くなる。これから始まるのは、神代の時代の再現。英雄と英雄、神と悪魔がぶつかり合う神々の大戦(ラグナロク)なのだ。

 しかし、多少の不安を感じていてもこの状況を楽しめるのは、彼女の肝が座っているからなのか、それとも鈴蘭たちを信じているからなのか・・・?

 鈴蘭は懐から小さな機械を取り出した。手のひらに収まる程度の大きさの、黒い箱型の機械である。それには、たった一つの真っ赤なボタンが着いているだけ。

「鈴蘭ちゃん?・・・それ、なんですか?・・・・・・もしかして自爆装置?」

 アリスは、退屈を嫌うが故に、幽体離脱などという荒業を利用して外の世界を眺めてきた。が、何時もそんな無茶が出来た訳ではない。いくら彼女の力が他者と隔絶していると言っても、限界はあるのだから。彼女の健康を心配するミス・エリクソンなどによって幽体離脱を禁止された期間もかなりあり、その間の彼女の暇つぶしの手段は、日本のサブカルチャーであった。

 アニメや漫画、ライトノベル。推理ものから、戦闘、恋愛ものまで、彼女が見たサブカルは多岐に及ぶ。既に立派なオタクと言えるかもしれない彼女だが、その中で、典型的な『悪の組織』が最終的にどういう事をするか、という知識も当然持っていた。

 自爆である。

 自分の魔術結社である【伊織魔殺商会】を『悪の組織』と称している鈴蘭。先程鈴蘭と話していた時も『悪の組織』の話になったのだが、彼女は『自爆はロマン』と豪語していたのだ。当然、この船にも自爆装置を仕掛けてある・・・とまで言い出した。

 「え・・・。」と絶句するアリスに、「冗談だよ。」と笑っていた鈴蘭だったが、果たしてそれは本当に冗談だったのだろうか?だって、今彼女が持っている小さな機械は、どう見ても漫画などの『自爆装置』にしか見えない。

 アリスの中の中の不安が大きくなり始めたところで、鈴蘭は躊躇いなくそのボタンを押し込んだ。

「あ・・・っ!」

 余りに呆気なく押したので、止める機会を逸してしまったアリス。だが、彼女が絶望を感じる前に、船から大音量で警告音が響き始めた。

『脅威の接近を感知しました。これより当船は防御モードに入り、隔離世に潜行後、全速力で最も近い陸地を目指します。乗客の皆様は、席にお座りになり、シートベルトをお締め下さい。』

 そのアナウンスと共に、何か薄い銀色の膜が船全体を覆っていく。それと同時に、船の剥き出しになっている甲板などの上部にも、透明な薄い何かが出てきて密閉した。

「これは・・・・・・!?」

 今まで、様々な魔術や権能を見てきたが、こんな不思議な物は初めて見たアリス。鈴蘭に、「触ってみる?」と言われ、恐る恐る、突然出現した透明な何かに触れてみる。

「・・・コレは、何ですか・・・?」

 ぷにぷにとしている癖に、何処か硬さを残している。そんな不思議な手触りの物が、船を覆っていたのだ。

「外に展開しているのはエネルギーフィールド。元々は、魔人や神殿教会の技術だね。で、内に展開しているのは、ドクターの最新作”神水銀”だよ!この船の”耐神構造”の要!ありとあらゆる衝撃を吸収して無効化するんだ。この二層のフィールドで船を守りながら、安定して戦える陸地まで行くのがこの船の基本。・・・単純な物理攻撃なら幾らでも耐えられるんだけど、ドニの”斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)”みたいに、概念付加系統の攻撃は防ぎようがないからね。万が一の事も考えて、さっさと陸地に辿り着く事を最優先にしているんだ。」

 因みに、隔離世に潜行しているのも時間稼ぎの一種である。周囲に及ぼす被害を最小限に抑えられるし、敵が此方を発見するのにも多少の時間を稼げる。

『凡そ三十分程で、近くの無人島へと到着いたします。暫くお待ちください。』

 そのアナウンスが流れたと同時に、沙穂がピクリと反応し、空を見上げた。

「・・・来ました!!!」

 そこには・・・
 
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