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ヒダン×ノ×アリア

作者:くま吉
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第6話 作戦開始

 
前書き
今回はいつもより少ないです。

申し訳ありません(汗) 

 


 作戦当日。
 クルトやアリアを含めた武偵達は、各々の配置につき、作戦開始時刻まで気配を殺し待機していた。
 クルトは、犯罪組織のアジトと言われる建物を見る。

(前もって知っていたが、やっぱデカいな…)

 緊張はないが、それでも驚きが、クルトの胸中を支配する。
 犯罪組織のアジトは、3階建ての巨大な豪邸だった。陳腐な表現だが、まるで大富豪が住んでいるかのような巨大な豪邸。一見すればこの家が、犯罪組織のアジトだとは誰も思わないだろう。

『―――突入二分前じゃ。皆、準備は良いかの?』

 耳に付けた小型の通信装置から、レズリーの声が聞こえてくる。
 それと同時に、仲間である他の武偵達の「了解です」という声も。クルトとアリアも同様に、「了解」と短く返事をする。

『そうか。なら各々、決して気を抜かず、やるべきことを全力でやり通すのじゃ』

 それは極当たり前な事。
 少なくとも、クルトやアリアのような新人でも、頭の奥底に根付いている事だ。しかし、それを指摘するものはいない。
 ヨーロッパ最強の武偵の言葉は、それ程までに重く、気を引き締めさせるものであった。
 通信が切れた後、クルトは隣にいるアリアに声を掛ける。

「まさか俺とお前がコンビを組まされるとはな」

「そ、そうね…」

 クルトのその言葉に、アリアは僅かに頬を赤らめ答える。
 現在、この場所にはクルトとアリアしかいない。他の武偵は別の場所で作戦開始まで待機しているのだ。
 今回の作戦内容は、まず圧倒的戦闘能力を持つレズリーが先行し、陽動を行いながら最大限犯罪者を無力化していく。そしてレズリーが突入した二分後にアリアと、クルトを除いた武偵達がそれぞれの場所から侵入。そしてその十分後にアリアとクルトが突入するといったものだ。
 普通なら一度に突入するのだが、武偵は普通の警察の特殊部隊と比較しても、かなり高い戦闘能力を持っている。それに今回参加する武偵は全部で十二人。Bランクが二人、Aランクが六人、Sランクが二人、そしてアリアとクルトである。
 それ故に取れる作戦。

 だが、クルトの疑念は未だ晴れない。

(確かに個々の戦闘力はかなり高い。俺とアリアも最低ランクだが、それでも戦闘能力はAランク武偵と同じか、それ以上なのは間違いない。けどやはりおかしい…)

 それが何かと問われれば、クルト自身も答えに窮すのだが。

 そんな事を考えている内に、作戦開始時刻に至った。

『よし、今から作戦を開始するぞ。各人、自分の仕事を完璧にこなすのじゃ。―――決して死ぬことは許さんからの』

 そう言い放つと同時に、レズリーの通信は終わった。
 そして、通信が終わった僅か十秒後、凄まじい轟音が響き渡る。

「おいおい、いくらなんでも派手過ぎだろ…」

「そ、そうね…」

 十中八九レズリーの仕業であるその轟音、そしてその後も断続的に続く凄まじい音を聞きながらクルトとアリアは引き攣った声を漏らす。
 そして二分が経過。他の武偵達も突入していく。

「あたし達はそれから十分後ね」

「ああ、十分後だな…」

 十分。それは余りのも長い時間だった。

(いくら俺達がド新人だとしても、十分も待機させるか普通?これなら最初から作戦に参加させない方が良かった気がするんだが…)

 そんな事をクルトは思う。
 そもそも最初からクルトはこの仕事に関して乗り気ではなかった。
 嫌な胸騒ぎがし過ぎていたからだ。それでも請け負ったのは、アリアという大切な友人がいたからに他ならない。

「それにしても十分って長いわね」

 ふとアリアが漏らす。
 その言葉を聞いて、クルトも、内心で同意する。十人の高ランク武偵が暴れ回っているのだ。並の犯罪者が太刀打ち出来るとは思えない。

(敵に念能力者がいる事が唯一の懸念だが、レズリーのジジイがいる限り最悪は起きないだろうしな)

 そう考えると、クルトは、自分とアリアは今回の作戦には不必要ではなかったのか。という思いが生まれる。

「ねえクルト。今回の作戦ってあたし達必要あったのかしら?」

 クルトの心を読んだかのようなタイミングで、アリアがぽつりと漏らす。
 そして、その言葉が引き鉄になり、クルトの脳内で何かがあてはまる。

(そうだ。最初からあった違和感。それは俺とアリアの不必要過ぎるという事だ。そもそも俺達以外の武偵が突入してから十分後ってのがそもそもおかしい。いくらなんでも長すぎる。それに―――)

 そう考えると、疑問は数多く生まれ、それは疑惑へと変化していく。
 そうなれば、クルトの考えは高速で纏まる。

「アリア」

「ん?なによ?」

「命令を無視して突入するぞ」

 アリアが目を見開く。

「は!?な、何言ってるのよ!?命令無視は組織に属する者としては絶対にやっ―――」

「それは分かってる。けど、この作戦は最初からおかしかった。だからその疑問の正体を見に行きたいんだよ」

「クルト…」

 アリアは言葉を詰まらせる。
 それは、アリア自身もこの作戦に疑問があったからだ。その疑問とは、「適当っぽい」という所だった。
 レズリーは、名実ともにイギリス最高最強の武偵に相応しい実力を持っている。戦闘力のみを見れば、武偵の原点にもなったシャーロック=ホームズにも迫るのではないかと、アリアですら思う程だ。
 だが、アリアがレズリーを真に尊敬するのはそこではない。
 レズリーの素晴らしさは、仲間を常に危険から守るという事を徹底しながらも、任務を完璧に全うする所にある。と、アリアは思っている。それは、過去三十年を遡っても、レズリーは、自分が請け負った仕事を失敗した事が一度もなく、且つ、仕事の最中に仲間内で死者はおろか、重症者すら出した事がない。
 まさに生きる伝説である。

 ―――しかし今回の作戦はどこか杜撰だ。

 アリアはそう考える。
 元々推理力が皆無のアリアだが、「直感」に関しては素晴らしいものを持っている。そしてその直感が告げていた。
 クルトと共に行け、と。

「―――わかったわよ。あんたと一緒に始末書書いてあげるわ」

「そりゃありがたい。後三十年経ったら結婚してくれよ」

 そんなバカな冗談にも。

「なっ!?ば、ばばばばバカじゃないの…ッ!?」

 と、顔を真っ赤にして真剣に照れているアリアは色んな意味でもうダメかもしれなかった。

 
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