100年後の管理局
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第八話 六課、誕生
前書き
機動六課ではありませんが、○○六課の誕生の回です。○○については本編を参照
時空管理局本局、カフェテリア。
そこでは三人の男女が座って談笑していた。
「グレイル君がわたしらを呼び出すなんて珍しいこともあったもんやなぁ。」
「そうね。誰かさんが後処理のためにグレイルを呼び出すことは多々あるけどね。」
「ぐぅ………。」
問題行動の多い誠也は、そのたびに事後処理の手伝いとしてグレイルを呼び出すことが多々あった。
しかし、ここでは強く反論する。
「だが、今回は違うはずだぞ。大事な話だって言ってたし、何より俺は最近問題行動をしていない。」
「ま、誠也の言うとおり、おそらく別件でしょうね。」
「誠也君だけに用事ならわたしら呼び出す必要あらへんし。」
「おまえら、分かってるなら心臓に悪いこと言うなよ……。」
「あきらめなさいよ。それこそ自業自得よ。」
アリスの言葉にがっくりと肩を落としてしまう誠也。
自分の問題行動を自覚している分だけ、こういった形で呼び出しをされると心臓がバクバクしてしまうのだ。
なら問題行動をやめればいいという至極まっとうな意見もあるが、戦いの中で己のテンションを高めることは誠也にとって重要な位置づけなのである。間違った方向であるかもしれないことは否めないが。
「にしても遅いなぁ、グレイル君。」
「そうね。約束の時間から30分くらい遅れてるわ。ね、グレイル。」
「すまん。遅くなった。」
グレイルはひさめの後ろから現れた。
「遅かったやん。」
「遅いぞ。」
「悪かった。資料まとめてたらこんな時間になってしまった。」
「まあそれについてはパフェの奢りで許してあげるわ。それで、早速本題だけど、大事な話って何?」
余った四つ目の席に座るグレイルにアリスは問いかける。
「わかった。なら先に聞いておくが、最近違法時間遡航未遂事件の急激な増加が起こっているのは知っているか?」
「ああ。俺がこの前逮捕した人も、それの一件だろ?」
「その通りだ。だが、あの事件のように未遂のまま終わった事件ならまだましな方。そんな事態に今発展しかけている。」
「まさか……。」
「ああ。実際に渡航を許してしまったケースが出始めているんだ。」
グレイルは自身のデバイスからディスプレイを投影する。
そこには一番右端にとびぬけた値を持つグラフが載せられていた。
「この資料のとおりだが、ここ数カ月で違法時間遡航者の数が激増している。」
「これは数倍じゃきかへんな。少なく見積もって十数倍はあるで。」
「こちら側の情報秘匿がしっかりしていたおかげか、例年であれば年間数件程度だったはずの未遂事件が、今年に入ってすでに百数十件にも及んでいる。しかも今までは全て未遂だけで済んでいたものが、今年は実際に渡航を許してしまうケースも十数件あった。」
「たしかに異常事態ともいえる状態ね。だけどこの件と私たちを呼び出すのに一体どんな関係があるの?」
アリスは首をかしげ、グレイルに問う。
時間遡航に関する案件はほぼ全て正史管理課という部署が一括にそれらの事件を担っていると言っていい状況にある。
急増した事件に対応するのが目的ならそもそも正史管理課に直接言うのが筋であり、わざわざアリスたちを集めてそれを話す必要がない。
ならば、一体何故なのか。
「もちろんある。今度俺たち四人を中心とした新部隊、正史管理第六課を設立するからだ。」
「「ええ!?」」
「………。」
誠也とひさめは驚きをあらわにするが、アリスは特に驚きを表せるわけではなく、眉根を寄せ、少々険しい顔でグレイルの話の続きを聞こうとしていた。
「急激に増加した事件に対処するには現状の一課から五課では対応が無理になり始めてきたらしい。それで上の方から俺に新部隊設立の提案があったんだ。」
「さすがだな!グレイル!」
「出世やな~。」
「……。」
誠也とひさめはグレイルの言葉に疑うことなく喜びを露わにしているが、アリスは違った。その瞳には疑いの光がありありとみて取れ、誠也はそれを見て疑問に思う。
「なんだよ、アリス。嬉しくないのか?」
「そんなことないわ。ただ喜ぶ気持ちよりも疑いが強いだけ。」
アリスはグレイルの方へと自身の体の向きをただし、強い語調で問いかけた。
「グレイル。ウソをつくのは良くないと思うわ。」
そんな問いかけにグレイルはわずかにぴくっと眉を動かす。
「何のことだ。」
しかし、そんなことは無かったかのようにふるまう。
けれどもそれが逆にアリスの猜疑心をあおる。
「いえ、おそらく嘘は言ってないでしょうね。だけど、いくつか隠している内容があるはずよ。」
「そう考える根拠は何だ。」
「新部隊設立の理由と私たち三人を集める理由よ。まず、上層部はたかだか事件の急増ごときで新部隊を作ったりしないわ。それよりも既存の部隊に増員を行った方が低いコストで同じだけの効果を得られるもの。」
新部隊を作るには、隊舎やその設備、さらには大量のスタッフなど様々なものを新しく用意しなければならない。それに対して既存の部隊に新しい人員を増員するだけなら、その増員人数に対応したある程度の設備費とスタッフの人件費のみなので新部隊設立よりも低コストで済んでしまう。本当に急増した事件に対処するだけならば、人員を単純に増加させるのが最も有効な策なのだから。
「それに私たち三人を一部隊に集めておいて、その理由が急増した事件の対処だけだなんて事があり得るかしら。」
高町誠也、アリス・T・ハラオウン、八神ひさめ。
この三人は管理局の中でも非常に高い能力を持った武装局員として有名である。
挙げた戦果は小さなものから大きなものまで多数にわたり、管理局内外にはそれぞれ『管理局の白い最終兵器』、『管理局の黒い稲妻』、『万能ロストロギア』として非常に有名になっているほどである。
そんな戦力を一点に集中しておいて、理由がたかが急増事件の対処だけでは理由が弱い。
グレイルとアリスはわずかににらみ合うが、ほどなくしてグレイルが先に根を上げた。
「はぁ………。やっぱりアリスには隠し事ができんな。」
両手を挙げ、降参のポーズをとるグレイル。
「さて、それじゃあ語ってもらおうかしら。本当の理由を。」
「ああ。ただ、割と機密情報も入ってるからこのことは他言無用な。」
そう前置きしてグレイルは語り出した。
「結論から言ってしまえば、現在次元世界全体はその存続の危機に立たされていると言っていい状態にあるからだ。」
「「へ?」」
「もう少し詳しく言ってもらえないかしら。」
あまりに事が大きくなってしまいあっけにとられる誠也とひさめ。それとは対照的にアリスは冷静にグレイルに要求する。
「ならまずは新部隊を設立する理由だな。」
グレイルはアリスの要求にこたえ、さらに指を一本立てて語り出す。
「一つ目は単純に手が足りないんだ。現在も一課から五課までの人員を総動員して事態の解決にあたっているけれど、まだ人手が足りない。ただ、これは人員の増加をした方が有効的だし、新しい部隊を作る理由としては弱い。」
グレイルは二本目の指を立てる。
「二つ目、ロストロギアが狙われていることだ。これが新部隊を設立する主な理由だな。ひさめも先日ロストロギアが狙われただろう?」
「うん。なんか急に黒ずくめの人達に渡せって言われて。」
「おそらくそいつらも同一組織だろうが、最近黒ずくめの人間がロストロギアを強奪しようとする事件も時間遡航未遂に平行して増えているんだ。」
「ちょっと待て、グレイル。なんでここでロストロギアが関わってくるんだ?黒ずくめの人間がロストロギアを狙っているからって、それが時間遡航と一体どんな関係があるっていうんだ?」
誠也が疑問を口にする。正史管理課は時間遡航を可能にするようなロストロギアが発見された場合にのみロストロギアに関与するはずで、基本的にはロストロギアに干渉したりはしない。なのになぜここでロストロギアが出てくるのか。
しかしその答えはグレイルではなく、アリスから発せられた。
「時間遡航を援助している組織と同一の組織がロストロギアを狙っている。そしてそれが最近判明した。そんなところでしょ?」
「アリスの言う通りだ。確かに黒ずくめの奴らが時間遡航に直接関与しているという証拠はどこにもないんだが、ただすでにロストロギアを狙った時間遡航が何件か確認されているんだ。」
「なんやて!?」
ひさめが驚きの声を上げる。
ただでさえ時間遡航は多くの危険を孕んでいて、実行されてしまうとその対処は非常に慎重にならざるを得ない代物なのに、そこに未知の塊であるロストロギアが関わってくるとなると、歴史が大幅に変わる可能性すら出てくる。
「そこから考えればロストロギア強奪事件と時間遡航未遂について関与が全くないとは考えられないだろう。」
ここまでの話で何故正史管理第六課が設立されるにいたったのかが、分かったのだろう。アリスは半ば答えを口にする。
「つまりは正史管理課と遺失物管理課の融合部隊。」
グレイルはアリスのその言葉に頷く。
「それが正史管理第六課になるんだ。」
「で、正史六課を設立する理由は分かったわ。けれど私たちという戦力を一点に集中する理由は何?」
アリスたち三人は正史管理第六課の設立する理由についてははっきりと理解できていた。
ただ、アリスたち三人を一部隊に結集させ、たかが一部隊とはいえないほどの強大な戦力を集める理由はいまだに分かっていなかった。
これを聞いたグレイルはしかし、ためらうことなくあっさりと答えた。
「それは簡単だ。相手が非常に強いのが理由だ。」
「随分とあっさり言ったわね。」
「もう隠してもしょうがない。三人には納得して参加してもらわないと困るからな。」
あきらめたように嘆息し、さらっと白状するグレイル。
「今まで起きた百数十件の時間遡航未遂の中で実際に遡航を許してしまったのは十数件だ。その十数件も本当は阻止できていたはずなんだ。」
「でも実際は阻止できてないんだろ?」
「そう、それがお前たちを一つの部隊に集める理由だ。」
「どういうことだ?」
誠也は首をかしげグレイルに問う。
「遡航の現場には全て到着できていたんだ。ただ、どれも近くにいたと思われる敵に攻撃されてな。全員敗北して、結果時間遡航を許してしまったんだ。」
「なるほどな。それで俺達三人の力が必要なのか。」
「ああ。できるだけ少数精鋭に足るだけの戦力を集めたかったんだ。」
その第一候補がお前らだったんだ。そう言って締めるグレイル。
正史管理課も保有する戦力が決して少ないわけではない。
だが、その保有戦力は合計であり、一人あたりの戦力はそこまで大きなものではなかった。
そして、それが今回の時間遡航事件において大きな欠点として現れてしまった。
その欠点を補うために新たに設立されるのが一人あたりの戦力が大きく、またロストロギアに対する専門性も有した正史管理第六課である。
「大体わかったわ。上層部は相当今回の事態を重く見ているみたいね。」
「ああ。」
「ちょっ、ちょう待って!」
グレイルの説明にアリスは納得した表情を見せたものの、ひさめがそれを制止する。
「どうしたのよ、ひさめ。」
「わたしには何が何だから分からへん。部隊の設立の理由も分かった。私たちが一つの部隊に集められる理由も分かった。けど、それと次元世界の危機にどうつながるん?」
「ああ、そこか。確かに説明してなかったな。」
ひさめの疑問に満ちた表情に、なるほどとグレイルは納得した。
そしてグレイルはひさめに説明を始める。
「ひさめはタイムパラドックスを知っているか?」
「そんくらいはまぁ………。」
「で、そのタイムパラドックスは次元世界にどれだけの影響を与えるのかが、いまだ分かっていないんだ。」
「しかも相手はかなり強力なロストロギアも狙ってるから、それを使われると一体何が起こるのかさっぱりわからないのよ。」
時間遡航の技術が時空管理局内部のみで外部に決して公開されなかった一番の理由が、そのタイムパラドックスにある。
タイムパラドックスは未来を知る者が過去を改変することで未来との矛盾が発生してしまうことである。
今現在、タイムパラドックスが発生した時に一体次元世界に何が起こるのか一切分かっていない。そのため時空管理局はこのライムパラドックスを何よりも警戒し、それを阻止するために新部隊の設立に至ったのである。
「だからその危険を排除するために、俺たち三人を新部隊に集めたんだな。」
「ほほー、なるほどなぁ。」、
今度こそ納得したと言えるような表情を見せるひさめ。
「それでひさめと誠也は新部隊の設立に賛成でいいのか?」
こうして正史管理第六課の設立が決定した。
「あ、パフェ奢るの忘れんといてや。」
「頼んだわよー。」
「よろしく。」
「だが、誠也!てめーはだめだ!」
後書き
タイムパラドックスはタイムトラベルに伴って発生する矛盾です。
知らない方は少ないかと思いますが、知らなければタイムトラベルのwikiにあるので参照してください。
グレイル君はいつも迷惑をかけてくる誠也君にパフェを奢ることはありませんw
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