スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百六十六話 荒ぶる剣
第百六十六話 荒ぶる剣
「アーチボルトも死んだ」
「うむ」
ラミアはアクセルの言葉に頷いていた。今彼等はキールの酒場にいる。そこで飲みながら話をしているのであった。
「あの男は好きではなかった」
「そうだったのか」
「邪なものを感じていた」
こう述べるエリスだった。
「まるで破壊や殺戮を楽しむような」
「そうだな。あの男はその為に戦っていた」
それはアクセルも見抜いていることだった。
「己の欲望の為にな」
「あれもまた人間なのか」
ラミアはアーチボルトを見ての言葉を出した。
「あれもまた」
「そうだ」
そしてアクセルもそれを否定しなかった。
「あの男も人間だった。それは紛れもない事実だ」
「そうか」
「しかしだ」
だがここで。アクセルはこうも言うのだった。
「ゼンガー=ゾンボルトもまた人間だ」
「少佐もまた」
「あの男はどう思う」
アクセルはラミアに対して問うた。
「あの男は。どうなのだ」
「素晴らしい方だ」
彼について思っていることをそのまま述べたラミアだった。
「その心、確かに見た」
「それが答えなのだろうな」
「答えか、少佐が」
「そしてアーチボルトもだ」
彼等双方が答えだというのである。
「答えなのだ」180
「両者がなのか」
「アーチボルトは下劣な男だった」
アクセルははっきりと言い切った。
「表面は慇懃だったがな」
「それはその下劣さを隠す為のものだったのだな」
「醜い男だった」
こうも言うアクセルだった。
「そしてその醜さが一つの答えだ」
「そして少佐は」
「あのままだ」
アクセルは今度は多くを語らなかった。
「あのまま見ればわかるな」
「うむ、高潔な人だ」
「そして美しいな」
「確かに」
「それもまた答えなのだ」
アクセルはグラスを置いて語っていた。
「人間というものはだ」
「醜くもありそして美しい」
ラミアは言った。
「それがか」
「どちらも答えだ。間違いではない」
「そういうものなのか」
「アーチボルトの様な奴もいればゼンガーの様な者もいる」
「それが人間なのだな」
「そうだ。そしてだ」
さらに言うアクセルだった。
「それは誰の中にもあるものだ」
「誰の中にも!?」
「当然御前の中にもある」
ラミアを見て告げたのであった。
「俺の中にもだ」
「私の中にもそれが」
「御前は人間だ」
アクセルは言った。
「そして俺もだ」
「そう言ってくれるのね」
「事実を言っただけだ」
こう言えるようになったアクセルだった。
「だからだ。御前の中にも俺の中にもあるのだ」
「そうなるのね」
「アーチボルトにもなれれば少佐にもなれる」
「どちらにもなのね」
「そうだ、どちらにもだ」
「嬉しいわ」
それを聞いたラミアの顔が微笑んだ。
「そう言ってくれたら」
「嬉しいと思うことはない」
ここでもアクセルは表情を変えない。
「事実だからな」
「私は人間なのね」
「ではそれ以外の何だというのだ?」
「機械」
今度は一言だった。
「そうされてきたけれど」
「最初はそうだとしても今は違う」
「今はなのね」
「人間以外の何者でもない」
そう言っていくのである。
「それが御前であり俺だ」
「それじゃあ人間として」
「どうなるかは御前次第だ」
ラミアに告げるのはそういうことであった。
「いいな、御前次第だ」
「そうなのね」
ラミアはまた彼の言葉を聞いて述べた。
「全ては私次第」
「少佐になりたいか」
「ええ」
こう問われるとすぐに頷くことができた。
「そうね。なりたいわ」
「では目指すことだな」
「それで貴方はどうするの?」
「俺か」
「ええ。貴方はどうするのかしら」
今度はラミアがアクセルに問うのだった。
「貴方は一体」
「俺はまだ考えている」
カクテルが入っているグラスを片手にしての言葉だった。
「これからどうするかはな」
「そうなのね。考えているのね」
「その通りだ」
また言うアクセルだった。
「これからどうするかは。だが」
「だが?」
「アーチボルトにはならん」
彼には、というのである。
「ああはなるまいとは思っている」
「ならそうするといい」
ラミアは微笑んで今の彼の言葉に応えた。
「貴方がそう思うのなら」
「そう言ってくれるのだな」
「何度でも言うわ」
ラミアの言葉は続く。
「貴方がそう思っている限りは」
「ではそうさせてもらおう」
アクセルも言った。
「これからはな」
「ええ。そういうことね」
二人で言い合いながら飲んでいく。今彼等は人間としてそれぞれを確かめ合い感じていた。戦いの中で次第にわかってきていたのだ。
その頃であった。キールのレストランでいつもの顔触れが集まり。賑やかに馬鹿騒ぎをしていた。
「まだ俺を河童と言うか!」
「言うわよ銀河童!」
アスカがイザークに言っていた。
「それ以外の何だってのよ!」
「許さん!」
流石に怒るイザークだった。
「今日という今日はだ!」
「どうするっていうのよ!」
「酔い潰す!」
こんなことを言い出してきた。
「この黒ビールにかけてだ!」
「言ったわね。ここはドイツよ」
アスカは不敵な笑みで今のイザークの言葉に応えた。
「それがどういう意味かわかるわよね」
「貴様の祖国だな」
「そうよ。まず地の利があるわ」
「んっ!?そういうものか?」
「違うんじゃないの?」
光と海は今のアスカの言葉に首を捻った。
「お酒のことには」
「地の利はちょっとね」
「何かお話が噛み合っていませんわ」
風もそれを感じていた。
「アスカさんもイザークさんもお顔が真っ赤ですけれど」
「ああなったらですね」
「もうどうしようもないのよね」
フィリスとエルフィが三人に言う。
「もう御二人共」
「ぐでんぐでんになるまで」
「いつものことだけれどな」
「そうなんですよね」
ジャックとシホは呆れていた。
「毎日こんな調子だけれど」
「今回もなんですね」
「そしてよ」
皆が呆れる中でさらに言うアスカであった。
「あたしはドイツ人よ」
「だからビールは強いのか」
「子供の頃から飲んでるわよ」
「いや、俺達まだ十代だろ」
「それを言ってもちょっと」
ディアッカとニコルがイザークの左右から突っ込みを入れる。
「それで子供の頃からって」
「言ってもあまり説得力が」
「いいのよ」
しかし今のアスカに論理は意味のないものだった。
「あたしがそうだって言ったらそれが正義なのよ」
「そうか。それではだ」
「潰してあげるわよ」
イザークを見据えて宣言するアスカであった。
「この黒ビールの中でね!」
「面白い!潰れるのは貴様だ!」
イザークも叫ぶ。
「そのまま死ね!」
「地獄に送ってあげるわよ!」
こうして両者は飲み比べに入った。ついでにそれぞれソーセージやハムやベーコンを多量に詰め込んでいく。まさに馬か鹿の様であった。
「何かアスカも」
「無茶苦茶になってきたわね」
ケイスケとヒカリがそれを見て言う。
「ロンド=ベルで性格変わったよね」
「そうよね」
「ところでだけれど」
プリメーラがここでヒカリに声をかけてきた。
「ねえヒカリ」
「どうしたの?」
「貴女の声ってマクロス7のサリーさんに似ているのだけれど」
「ええ、それ言われるわよ」
実は心当たりのある彼女だった。
「それはね」
「わかるわ」
「そうよね」
レイとクリスが今のヒカリの言葉に頷く。
「私とレイちゃんもよく言われるし」
「他人だとは思えないわ」
「私はこれとなのよ」
「ぷう、ぷう」
忌々しげにモコナを見るがモコナはいつもの調子である。
「何で同じ雰囲気なのよ」
「そういえばプリメーラって」
「アクアさんと声そっくりじゃない?」
「だよなあ」
皆ここでこのことに気付いた。
「何か他人じゃないみたいな」
「クローン?みたいな」
「私も何かアクアさん好きよ」
自分でもそれを認めるプリメーラだった。
「あとお猿さんとか豚さんも好きよ」
「あっ、そういえば」
「何かそっちにも」
「あとはね」
プリメーラの言葉はさらに続く。
「シロにはお姉ちゃんみたいに思う時があるわね」
「げっ、桃色だニャ」
何故かこんなことを言い出したシロだった。
「そういえばおいらカトルと」
「そうそう」
「何かそっくり」
皆そのシロに対しても言う。
「妙に声が色っぽい時あるし」
「そうよね」
「私の声は可愛いって言われるけれど」
「つまり私の声も可愛いってことになるの?」
ここでそのアクアが出て来た。
「プリメーラの声が可愛いってことは」
「実際に声可愛いよな」
「二十代には思えない位に」
「この声で驚かれることあるのよ」
自分で話すアクアだった。
「スタイルはこれで声と合ってないって」
「ギャップがあり過ぎるのもですか」
「問題なんですね」
「あと。ジュンコさんだけれど」
アクアは彼女の名前を出してきた。
「博士とそっくりの声でびっくりしたわよ」
「エルデ=ミッテ博士よね」
「はい、そうです」
そのジュンコの言葉に頷くアクアだった。
「何か髪の毛の色も似てますし」
「実際にあれだな」
ノインも参戦してきた。
「ジュンコさんの声には私も驚いたことがある」
「そうなのよね」
何故か今度はキーンが出て来た。
「何処かで聞いたみたいな声で」
「キーンさんもだニャ」
またシロが言ってきた。
「何かおいら達どっかで大喧嘩していなかったかニャ?」
「あっ、そんな気が確かにするわ」
何と思い当たるふしのあるキーンだった。
「天地がどうとかで」
「それでケーンやイーノに声が似た奴を巡って」
「私はそこでミニスカートを着て魔法を使っていた気がする」
何故かそうだったノインであった。
「他にも銀河でシーラ姫や結城少尉やセシリーさんと一緒に戦っていた記憶もだ」
「あとあれですよね」
「袴を着て」
「そうだ」
彼女も思い当たるふしが多いのだった。
「その時はエルがいたしフィジカさんもいたな」
「何か世界ってどうにも」
「無茶苦茶それぞれの世界が入り組んでない?」
「もう滅茶苦茶に」
「俺なんかどうなるんだ?」
ここで言ったのはコウであった。
「最近外道になってる気がするんだが」
「あれっ、前は野菜じゃなかったんですか?」
「皇帝だったんじゃ」
「それが変わったみたいなんだ」
自分でも自覚のある彼だった。
「最近はどうも悪役になったらしくて」
「悪役って俺もそうだけれどよ」
ジュドーも言う。
「竜になって大暴れしていた気がするぜ」
「何か滅茶苦茶になってるな、マジで」
かく言うビーチャは。
「俺もラムサスさんと他人の気がしねえしな」
「私は何かどっかでミネバさんと姉妹だったわね」
ルーはそれだった。
「それでお兄さんがザビーネさんで」
「うむ、そうだ」
「獣神だったわね」
ここでそのザビーネとミネバが言う。
「確かギャブレーもいたな」
「間違いなく」
「うむ、私もだ」
「心当たりがある」
バーンまでそこにいた。
「私もどうも聖闘士の世界にいた記憶がある」
「海だったな」
「心当たり大過ぎだよね、皆」
「そういうイーノも俺も」
モンドがイーノに突っ込みを入れる。
「俺はあの凱さんが戦った相手で」
「それで僕はキーンさんやノインさんとだよね」
「私なんかあれよ」
エルも言う。
「アムロ中佐ダーリンって言ってた記憶あるんだから」
「最早何が何かわからないね」
バーニィがぼやく。
「俺何でレインさんとミサトさんとバーンさん達に親近感あるんだろう」
「そよかぜね」
ミサトが謎の言葉を出した。
「それよ、多分」
「何か話がカオスになってきて訳がわからなくなってきたな」
リュウセイがここでぼやいた。
「俺なんか王子になった気がする時があるしな」
「もう滅茶苦茶ね」
カナンがその彼の言葉に頷く。
「私なんか土偶だし」
「そうだよな、何か最近」
「妙に土臭くなってきてるし」
「本当に俺達ってどうなってるんだ?」
今言ったのはエイジである。
「ここまであれこれ訳のわからない記憶やそっくりさんがいるってのはよ」
「気にしない方がいいわ」
今彼に言ったのはアヤカだった。
「もう考えても仕方ないことだから」
「そう言う姉ちゃんも色々とあるんだな」
「有り過ぎてわからない位よ」
彼女もそうなのだった。
「ジークと同じ声の人だって何人もいるし」
「だよなあ。もう何が何だか」
「それにフィルに至っては」
「何人いるのだ?本当に」
ナタルが困った顔になっていた。
「私もそれが知りたいのだが」
「あと一矢さんと雰囲気が似てる人とか」
「クェスちゃんとかクロちゃんとか」
「そういう人確かに多いし、この舞台って」
「私考えたらそっくりさん多いニャ」
クロ自身も言う。
「本当に何か凄いことになってるニャ」
「俺もだよな」
主のマサキもなのだった。
「今とりあえず四人か、俺も含めて」
「四人でも充分凄いニャ」
「そうだニャ」
「全く。おかしなことだぜ」
こう言うしかないマサキだった。
「世の中どうも狭いみたいだな」
「狭いっていうか世界同士が結構重なってないかニャ?」
「前から思ったいたことニャ」
「それもそうか」
そう言われるとそう思うマサキだった。
「まあそれで御前等も似た相手を会えるんだな」
「それはいいことニャが」
「驚いてばかりニャぞ」
「そうだな。それが敵にいたりもするからな」
「俺も最初はそうだったしな」
今度言ったのはジェリドだった。
「今じゃここにいるけれどな」
「そうだな。俺にしてもな」
カクリコンも参加してきた。
「まさかゴットン=ゴーに会うとは思っていなかった」
「奇遇だよ、本当に」
ゴットンにしろそう思うことだった。
「全く。しかもエクスカリバーがどうとかって」
「最近私がそれを言われるが」
何故かドレルが出て来た。
「どうしなのだ?これは」
「あまり深く考えない方がいいみたいね」
マウアーはハマーンをちらりと見た。
「どうもね」
「それにしてもあれだね」
ライラは黒ビールを飲んでいた。
「このビール、本当にいいね」
「確かに」
「この味は」
皆そのビールを飲みながら納得する。
「流石本場」
「ドイツだけはあるわね」
「ソーセージもいいね」
ライラは今度はソーセージも食べていた。シャクッ、と皮が破れる音がする。
その音と共に肉汁も出る。実にいい感じだ。
「この美味さがね」
「これもドイツだからか」
「確かに」
「やはりドイツはこれだ」
ライは静かに言った。
「ここに来ればこれを食べなくてはな」
「あんたにとって祖国だったな」
「そうよね」
「私もよ」
レオナもここで皆に言う。
「私もドイツ人だから」
「そう言うとドイツ人も多いね」
「そうね」
皆レオナも見て言う。
「世界は違うけれどエルリッヒもそうだし」
「あっちの世界のドイツも同じかしら」
「同じだ」
こう答えるエルリッヒだった。
「やはりソーセージとビールが美味い」
「成程」
「それはいいわね」
皆それを聞いて笑顔になる。
「やっぱりドイツなのね」
「いいことね」
「ハンバーグもいいよな」
タスクはそれを食べていた。
「しかもでかいしな」
「確かに」
「五百グラムはあるよな」
多くのメンバーがそれも前にしていた。
「上に載せている目玉焼きがまた」
「絶品っていうか」
「ジャガイモだって」
それも忘れていなかった。
「凄く美味しい」
「ザワークラフトも」
「質素だけれどいいのね」
こんなことを言うメンバーもいた。
「味が凄く」
「ただしだ」
ここで言ったのはアーウィンだった。
「一つ注意しなければならないな」
「注意って?」
「何に?」
「痛風だ」
怖い病気が話に出て来た。
「それには注意しないとな」
「うっ、それは」
「まさかと思うけれど」
「肉にビールだ」
アーウィンが指摘したのはやはりこの二つだった。
「あからさまに乳酸が溜まりやすい」
「コレステロールも」
「見ているだけで」
「となると」
「実際にドイツ人には痛風が多いですよ」
グリースは呑気に最も怖い言葉を口にしてきた。
「それもかなり」
「でしょうね」
「これはね」
皆怖いと思いながらも納得することであった。
「やっぱりビールはね」
「飲み過ぎはってことよね」
「それしかないし」
若くとも怖い話であった。
「まあ明日からワインに切り替えるか」
「そうするか」
「そうだな」
こんな話をしながらも飲み続ける。その日はビールを心置きなく堪能した。そしてその次の日。二日酔いとトレーニングとサウナで収めた彼等の下に届いた報告は。
「フィンランド!?」
「今度はそこですか」
「そうだ」
カティが皆に告げる。
「そこになる」
「大佐の生まれ故郷ですね」
「そこにですか」
「世界は違うがな」
こう言いはしても反応したのは確かだった。
「そこになる」
「わかりました。それじゃあ」
「すぐにフィンランドに行きましょう」
「それで大佐」
パトリックがカティに問うた。
「敵は何なんですか?今度は」
「二つ出て来ている」
「二つですか」
「ゲストとシャドウミラーだ」
彼等だというのである。
「それぞれ南北から来ている」
「わかりました。じゃあ」
それを聞いてすぐに微笑になったパトリックであった。
「すぐに奴等を叩き潰しに行きますか」
「随分と簡単に言うものだな」
そのパトリックに対してきつい目を向けるカティだった。
「それ程余裕だというのか?」
「いえね、世界は違いましてもね」
ここでいつもの調子で言葉を返してきた。
「いとしの大佐の祖国を守れるんですから。光栄でして」
「馬鹿を言え」
今度は言葉まできついものだった。
「そんなことを言ってもだ。何にもならないのだぞ」
「いえいえ、なりますよ」
しかしパトリックの態度は変わらない。
「ちゃんとね。大佐が喜んでくれますから」
「まだそんなことを言えるのか」
「ええ、何度でも」
「では先に貴官に行ってもらおうか」
いい加減頭にきたのかこんなことを言い出すカティだった。
「偵察にだ。いいか」
「わかりました」
すぐに敬礼で変えるパトリックだった。
「それでは今からだ」
「本気なのはわかった」
「あれっ、どういうことですか?」
「今のはなしだ。気にするな」
「偵察のことですか」
「そうだ、それだ」
まさにそのことだというのである。
「取り消す。忘れてくれ」
「わかりました。それじゃあ」
ここでまた調子に乗って言うパトリックだった。
「大佐を守る為にこの命、喜んで捧げましょう」
「いつも思うが何故そこまで馬鹿なのだ?」
こう口では言いはするカティだった。
「全く。どうなっているのだ」
「けれど大佐も」
「まんざらじゃないわよね」
「どう見てもな」
ところが皆もうわかっていた。
「無視すればいいのに」
「わざわざ自分から言って」
「可愛いところあるじゃない」
「違う、それは違うぞ」
ムキになって周りの言葉を打ち消しにかかった。
「私はだ。そもそもだ」
「はいはい、わかってますよ」
「大佐の本心は」
「うう、何故こうなった」
今度はやり場のない怒りを見せるのだった。
「私はだ。そもそもだ」
「はいはい、ですから」
「仲良くやって下さい」
「応援してますから、俺達」
「いや、そう言ってもらえると」
そしてパトリックは相変わらずだった。
「俺も余計に頑張らないとって思えるしな」
「私の何処がいいのだ」
何故かこんなことを言いはじめるカティだった。
「性格はきつければ可愛げもない。しかも愛想も何もないのだぞ」
「いえ、奇麗ですよ」
しかしパトリックはこう彼女に言う。
「大佐は充分に奇麗ですよ。それにですね」
「それに。何だ?」
「凄く可愛いですよ」
不意打ちであった。
「もうね。恥ずかしがり屋で純情なところが特に」
「ばっ・・・・・・」
今の言葉に顔を真っ赤にさせるカティだった。
「馬鹿を言え、私はだな」
「確かに大佐の性格って結構」
「可愛いよな」
「確かに」
一同もそれに気付いていた。
「普段はクールだけれどいざってなると」
「それに案外家庭的だし」
「お料理もお裁縫もできるし」
「女性の嗜みだ」
そういうことにしようとするカティだった。
「それに軍人はだ。いざという時にはそういうことができないとだ」
「大佐の手料理御馳走してくれるんならですね」
またしても調子に乗っている男がいた。
「俺全力を出しますから」
「そうだな。そこまで言うのならだ」
「はい」
「次の戦いで三十機撃墜するのだな」
こう彼に言うのだった。
「そうすれば私が何か作ってやらんわけでもない」
「たった三十機でいいんですか」
そして当然の如くそれに乗るパトリックだった。
「じゃあやっちゃいますね」
「三十機だぞ」
怪訝な顔で彼にそれを確認した。
「本当に軽くできることでは」
「いや、恋の天使の力を得たら」
すっかりその気になっている。
「百万の援軍を得た様なものですから」
「そういえば今までの戦いじゃ」
「百機二百機撃墜ってのざらだったし」
「それもあり?」
カティが迂闊であった。
「だよね、大佐ってまた」
「わざとかな、今の」
「パトリックさんに御馳走する為に」
「勝手にしろ」
遂に逃げたカティだった。
「三十機だ、とにかくだ」
「わかりました。じゃあ」
「そうすれば考えないわけでもない」
にこやかに笑って敬礼するパトリックから顔を背けての言葉である。
「その時はだ」
「やっぱりこれは」
「フラグ立ったよな」
「そうよね」
誰にでもわかることであった。
「これは間違いなく」
「確定」
「見事なまでに」
「うう、しまった・・・・・・」
言ってしまったものはもう返らない。カティは今この言葉を思い知った。
「何ということだ」
「まあとにかくだ」
ここでブライトが彼女に助け舟を出した。
「フィンランドだ。行くぞ」
「はい、それじゃあ」
「今からですね」
「そろそろシャドウミラーとも決着をつける」
こうも言うブライトだった。
「間も無くな」
「はい、それじゃあ」
「その為にも」
「フィンランドでの戦いはやらせてもらう」
こうしてロンド=ベルはフィンランドに向かった。ヘルシンキの北でそれぞれ南北に分かれてゲスト、シャドウミラーの軍勢が激突しようとしていた。
「閣下、ここで、ですね」
「そうだ」
ロフが部下の問いに答えていた。
「シャドウミラーも叩いておく必要があるからな」
「シャドウミラーも我等の敵t、ということですか」
「はっきり言ってしまえば我々以外の全ての勢力が敵だ」
これが今のゲストの置かれている状況だった。
「もっともそれは他の勢力も同じだがな」
「他の勢力もですか」
「そのシャドウミラーもインスペクターもだ」
彼等もだというのである。
「アインストもバルマー帝国もだ」
「そして地球も」
「そうだ。全ての勢力が自分達以外は敵になっている」
「混沌としていますね」
「まさに」
「その中で生き残らなければならない」
ロフの言葉は深刻だった。
「とりあえずは地球に橋頭堡を築くつもりだったが」
「向こうもそうなのでしょうか」
シャドウミラーのことである。
「彼等もまた」
「いや、シャドウミラーは少し違うようだな」
ロフはそのことを見抜いていた。
「どうやらな」
「違いますか」
「彼等は」
「別の世界から来ている」
既に見抜いているのであった。
「拠点はあちらにある」
「そこからこの世界に介入してきている」
「そういうことですか」
「そうだ」
まさにそうだというのだった。
「だから我々とはまた違う」
「わかりました。それでは」
「あの者達を倒して」
「そのうえでこの地を手に入れる」
これが戦略目標であった。
「わかったな」
「はい、わかりました」
「それでは」
こうしてシャドウミラーの軍勢に向かうゲストであった。しかしここで。
「司令、西です」
「西から来ました」
「西だと!?」
ロフがそちらを見た時だった。まさに彼等が出たのだ。
「ロンド=ベルか」
「どうされますか!?」
「ここでは」
「待て」
まずは軍を制御した。
「軽挙妄動は慎め」
「は、はい」
「それでは」
部下達も彼の言葉に応える。
「今はそれで」
「わかりました」
「まずは陣を整える」
ロフは守りに入ることにしたのだった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「その様に」
こうしてゲストの軍勢は今は守りに入る彼等だった。とりあえずは、であった。
そしてロンド=ベルはそのまま東進する。全機出撃している。
「よし、このままだ」
カティが全軍に指示を出す。
「このまままずはゲストを優先的に攻撃する」
「ゲストをですか」
「そうだ」
こうマシュマーにも返した。
「わかったな、ゲストだ」
「シャドウミラーはどうしますか?」
ゴットンが彼に問うた。
「そちらは」
「来たら叩け」
こう返すカティだった。
「わかったな」
「わかりました。じゃあ」
それに素直に頷くゴットンだった。
「やらせてもらいますね」
「混戦だけは避ける」
これがカティの考えであった。
「できるだけ両軍の間には入るな」
「わかった」
ハマーンがその言葉に頷いた。
「それではだ」
「さて、やらせてもらうよ」
キャラ既に戦いに心を切り替えていた。
「今回もね!」
「全軍攻撃開始!」
カティがまた指示を出した。
「このまま攻めよ、いいな!」
「はい!」
「それじゃあ!」
こうしてロンド=ベルはまずはゲストに攻撃を仕掛けた。その方陣に対して一直線に向かう。まさに彼等へ専念している攻撃であった。
「来たか」
「司令、ここは」
「どうされますか?」
「このままだ」
こう指示を出すロフだった。
「わかったな、このままだ」
「このままですか」
「ロンド=ベルを迎え撃つのですね」
「そうだ」
まさにその通りだというのである。
「いいな、そのまま守るのだ」
「このまま守り」
「そして機を見てですが」
「残念だが援軍は来ない」
このこともあらかじめ言うロフだった。
「今は我が軍も宇宙で忙しいからな」
「はい、バルマーに対して攻撃を仕掛けています」
「ですから」
「あちらも成功すればいいのだがな」
それはあまり期待していなかった。
「だが。数がだ」
「ええ、バルマーの数は」
「それを考えますと」
「ホワイトスターを陥落させることはできない。バルマーも兵を集めていると聞く」
「既に銀河辺境方面軍を集結させているようです」
「七個艦隊全てをです」
「七隻のヘルモーズだ」
彼等だというのである。
「彼等が展開しているからだ」
「その彼等がいれば」
「我々では」
「そうだ。今の我等では勝利を収めることは難しい」
これがロフの考えであった。
「ゼブとセティもそれがわかっている筈だ」
「では今は」
「せめて損害を抑えて」
「そうだ、機を見て反撃に移る」
これがロフの考えだった。
「いいな」
「はい、それでは」
「その様に」
「両軍が疲弊した時に反撃に出る」
また言ったのだった。
「わかったな」
「はい」
「それでは」
彼等はこのまま戦う。ロンド=ベルはそのゲストの軍勢に大規模な攻撃を仕掛けた。
「行けっ!」
「ここでまずは!」
「ゲストを!」
一気に攻撃を仕掛ける。だがゲストの守りは堅かった。
倒しても倒してもであった。彼等は何重にも敷いた防衛ラインで対するのだった。
「まだだ」
ロフも戦場にいた。
「このまま粘るのだ。いいな」
「司令、シャドウミラーですが」
「彼等ですが」
「どう動いた?」
「ロンド=ベルに向かっています」
彼等にだというのだ。
「我等には向かわずにです」
「そうか、ロンド=ベルにか」
「では司令」
「ここは」
「いや、まだだ」
ここでは動こうとはしなかった。
「まだ攻めない」
「攻めないのですか」
「そうだ、まだだ」
また言った。
「方陣を解くな、いいな」
「はい、それでは」
「その様に」
彼等もその言葉に頷いた。そうして方陣はそのままにした。
ゲストは守ったままでありシャドウミラーは側面からロンド=ベルに襲い掛かった。だがそれでもロンド=ベルは強かった。
「シャドウミラーが来ました!」
「まずは一斉射撃を浴びせよ!」
またカティが指示を出した。
「いいな、奴等にだ」
「シャドウミラーにですか」
「ここは」
「そうだ、奴等にだ」
こう言うのだった。
「わかったな、まずはだ」
「そしてシャドウミラーにですか」
「軍を向けるのでしょうか」
「いや、まだだ」
しかし今は攻撃を出すだけだというのである。
「今は攻撃を繰り出しそれで奴等の動きを止める」
「それでは攻撃は」
「このままゲストをメインにしてですか」
「そうだ、そうする」
これが彼女の考えなのだった。
「わかったな」
「は、はい」
「それでは」
皆今は彼女の言葉に頷いた。そうして実際にシャドウミラーに総攻撃を浴びせた。
「くっ、来たか!」
それを受けたレモンはこう呻いた。
「ではこちらもだ」
「どうするつもりだ?」
「守りを固める」
こうヴォータンに告げた。
「そうしてロンド=ベルの攻撃に備える」
「そうするというのだな」
「そうだ」
まさにその通りだというのである。
「そうさせてもらう、今はな」
「わかった、それではだ」
「それでいいのだな」
「貴様がそうすると言うのならだ」
あえて己の考えを言わないような今のヴォータンの言葉であった。
「そうするのだ」
「そうか」
レモンも今のヴォータンの言葉に思うところがあったが今は聞かなかった。
「わかった。それではだ」
こうしてシャドイミラーも方陣を組んだ。しかしであった。
ロンド=ベルはまたゲストに攻撃を仕掛けるのだった。これはレモンの予想外のことであった。
「何っ、これは」
こう言って驚きの声もあげる。
「どういうことだ!?」
「フェイントだ」
ここでヴォータンが言ってきた。
「それを仕掛けてきたのだ」
「フェイントだというのか」
「まずは我等に攻撃を仕掛け」6
彼は言う。
「それにより守らせてだ」
「攻めさせないようにしてか」
「そのうえでもう一方を攻める」
それだというのである。
「そうしてきたのだ」
「くっ、抜かった」
「御前が無能なのではない」
それはないという。
「相手が一枚上だったのだ」
「ロンド=ベル、やはり戦術もまた」
「すぐに陣形を組みなおす」
ヴォータンの言葉は冷静だった。
「それでいいな」
「うむ、わかった」
彼のその言葉にはすぐに頷いた。
「それではな」
「読まれていたがそれでも悲観することはない」
やはり彼の言葉は落ち着いている。
「充分に取り返せる」
「次の戦いでか」
「まずゲストは敗れる」
彼はこう読んでいたのだ。
「そしてその次だ」
「我等に向かって来るというのだな」
「その時に決着をつける」
その言葉が強いものになった。
「その時にこそだ」
「わかった。それではだ」
陣を組みなおし攻撃態勢に入る。その間にロンド=ベルはゲストにこれまで以上にさらに激しい攻撃を浴びせていたのであった。
「よし、このままだ!」
「行くぜ!」
「派手な見せ場だね」
ケーンにタップ、ライトが突っ込む。
そして三人で続けてバズーカを放ち敵を粉砕するのだった。
敵は小隊単位で吹き飛ばされる。ドラグナー得意の連携攻撃であった。
「このままだ!」
「道を開けたからよ!」
「突っ込めるのは突っ込んでくれ!」
「了解!」
それに応えたのはミンだった。
チェーンソーを縦横に振り回しながら周りの敵を切り裂いていく。そうしてゲストのマシンを次々に真っ二つにして破壊していくのだった。
「よし、乗ってるよ!」
「じゃあ俺もだ!」
「お、おでも」
そこにガナンとゴルも突入した。
彼等は激しい攻撃によりさらに穴を開ける。その中央にはジンがいて三人のフォローをしながら攻撃を放ち続けて敵を倒していた。
「いい感じだね。いけるよ」
「よし、最後はわしだ!」
今度はグン=ジェムであった。
「死にたい奴は前に出ろ!刀の錆にしてくれる!」
「う、うわああっ!」
「こ、こいつは!」
ゲストの者達は次々に切られ爆発していく。
脱出するので精一杯であった。彼の攻撃は防ぎきれなかった。
「ははははは、脱出する奴の命は取らんから安心しろ!」
「大佐も丸くなったね」
「全くだぜ」
そんな彼の言葉を聞いてミンとガナンが微笑む。
「ロンド=ベルに入って変わったね」
「俺達もだけれどな」
「た、戦うのは相変わらず好き」
ゴルも言う。
「けど。脱出した奴はどうでもいい」
「敵機だって高いんだよ」
ジンも言う。
「数撃墜していきゃ金がなくなって終わりさ」
「その通りね」
ダイアナはラー=カイラムの艦橋でその言葉を聞いていた。
「何かあの人達も本当に変わったわね」
「当たり前よ。わしは元々いい人だったのだ」
驚いたことにグン=ジェムの言葉である。
「だからだ。驚くことではないぞ」
「いや、驚くぞ」
今突っ込みを入れたのはエイジだった。
「最初におっさんを見て悪役だって思ったからな」
「だよね」
彼の今の言葉に斗牙が頷く。グラヴィオンも前線に殴り込んでいる。
「どう見てもね」
「けれど実際はな」
「違ったから」
「いや、これがよ」
「最初は凄かったんだよ」
「それこそな」
しかしここでケーンとタップ、ライトが彼等に言うのだった。
「もう大暴れでな」
「敵に回して怖いの何のって」
「世紀末の世界だったな」
「まあそれでもな」
今度は柿崎が言ってきた。
「グラドスの連中よりはましだったな」
「あんな連中と一緒にしないでもらいたいな」
グン=ジェムは彼にあからさまに不快な言葉で返した。
「わしはあそこまで外道ではなかったぞ」
「まあそれはそうですけれどね」
「あの連中はまさに外道だ」
グン=ジェムも彼等は忌み嫌っているのだった。
「ああした連中は許さん」
「俺達はまだ会ったことはないが」
「やばいんだな」
ジュリイと謙作が彼に問うた。
「話に聞いていると」
「ガルラ帝国とかと同じか」
「考えようよってはもっと腐った奴等だ」
シンは怒りを露わにさせていた。
「あの連中だけは許せねえんだよ」
「出会ったら殺した方がいいわ」
ルナマリアの言葉にも殺気がこもっている。
「あいつ等だけはね」
「わかった、その時はな」
「遠慮なくやらせてもらう」
こう応えるジュリイと謙作だった。
「その時はな」
「グラドスか」
「そうした奴もこっちの世界にいるんだな」
闘志也の言葉も忌々しげなものであった。
「何処にでもな」
「それは否定できない」
ハイネが答えた。
「どうしてもいる。そうした奴はだ」
「わかった。じゃあ出会ったらな」
「奴等のマシンは頭にコクピットがある」
ミゲルの言葉は実に率直なものであった。
「わかるな、これで」
「わかった、それじゃあな」
闘志也は頷いてだった。すぐに目の前の敵に向かう。
そしてその敵も叩き潰す。戦いは続いていた。
しかし戦いは次第にロンド=ベルに有利になってきていた。シャドウミラーが陣を組み替えている間にゲストの最後の防衛ラインまで突破していたのだ。
「司令、このままでは」
「最後のラインも」
「わかっている」
ロフは冷静に彼等の言葉に応えた。
「最早だ。勝敗は決した」
「それではここは」
「やはり」
「そうだ。撤退だ」
彼は言った。
「いいな、撤退だ」
「はい、それでは」
「これで」
「橋頭堡を築けなかったのは残念だ」
その戦略目標を果たせなかったことをである。
「だが、それでもここに残っていればだ」
「はい、より多くの損害を出してしまいます」
「ですから」
「撤退だ」
また言うのであった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「これで」
「全軍撤退する」
ロフはまた告げた。
「それでいいな」
「了解です」
「それでは」
こうしてゲストは撤退した。その撤退は素早かった。しかしそれで戦いは終わりではなく第二ラウンドが本格的に幕を開けたのであった。
「艦長、来ました」
「シャドウミラーです」
ヘンケンに対してナタルとアドレアが告げてきた。
「攻撃態勢でこちらに」
「どうしますか?」
「答えはもう出ている」
ヘンケンは冷静にこう応えた。
「ここはだ」
「ここは」
「どうされますか?」
「迎撃する」
これが返答であった。
「すぐにシャドウミラーの軍勢に向かう」
「はい、それでは」
「すぐに」
「ただしだ」
しかしここで彼は言うのだった。
「二手に分けよう」
「二手にですね」
「そうだ」
こうナタルに答えた。
「ここはだ。そうしよう」
「わかりました」
すぐに頷くナタルであった。
「それではそれで」
「防御力の高い部隊は正面だ」
ヘンケンは告げた。
「そしてだ。機動力のある部隊はだ」
「どうするのですか?」
「側面にだ」
彼は言った。
「そこを衝く。これでどうだ」
「それでいいかと」
ナタルは彼のその考えに賛成して頷いた。
「それではすぐに」
「二手に分かれる!」
彼はそれを指示として出した。
「そしてすぐに敵にあたる!」
「はい!」
「了解です!」
こうしてロンド=ベルは二手に分かれた。まずは正面の部隊が敵の攻撃を受け止める。
「よし!」
「来たわね!」
スーパーロボットが主だった。それに戦艦もいる。
彼等はその敵を次々と倒していく。それで終わりではなかった。
その側面にであった。別働隊が襲い掛かったのだ。
「いいか、今だ」
「一気に攻める」
ショウとダバが言う。
「そして敵を薙ぎ倒して」
「分断するんだ」
「ええ、わかってるわ」
「それならだ」
アムとレッシィがそれに応える。彼等はそのまま側面に向かう。
そうしてだった。まずショウのビルバインが剣を抜いた。
「はあああああああああああああああっ!」
ハイパーオーラ斬りで正面の敵をまとめて真っ二つにしたのだった。
「これで!」
「いったわね、ショウ!」
「ああ、このまま行く!」
ショウはこうチャムに応えた。
「このままだ。いいなチャム!」
「ええ、いっちゃえ!」
そしてダバもまた。
ランチャーの一条の光が敵を消し去る。そのうえでさらに突進する。
「ダバ、何か派手ね」
「派手にやってこそなんだ」
こうエリスに返すのだった。
「だから今は!」
「わかったわ、全力でね」
「エリス、俺に掴まってるんだ!」
何時になく激しい気迫だった。
「いいな、行くよ!」
「ええ、じゃあ!」
こうして彼等も敵軍に斬り込む。シャドウミラーの軍はロンド=ベルのこの攻撃を受けて忽ちのうちに総崩れになってしまった。
「くっ、ここでもか」
「案ずるな」
ヴォータンはここでもレモンに告げてきた。
「その必要はない」
「ここでも強気なのだな」
「俺は俺の戦いをする」
そしてこう言ったのであった。
「それだけだ」
「どういうことだ、それは」
「あの男を倒す」
こう言うのである。
「何としてもな」
「そうか、そうするのか」
「だからだ。行くぞ」
言いながらであった。構えた。
そのうえで正面にいるゼンガーを見据えた。そうしてであった。
「ゼンガー=ゾンボルトよ!」
「貴様か」
「そうだ、我だ」
彼に対して告げた。
「このヴォータン=ユミルが貴様を倒す!」
ロンド=ベルの攻撃が荒れ狂う中での言葉だった。
「いいな、ここでだ!」
「よかろう!」
そしてゼンガーもそれを受けた。
「ならば来るのだ!」
「参る!」
双方ここで剣を構えた。
そうしてであった。同時に前に出た。
「我が名はゼンガー=ゾンボルト」
「我が名はヴォータン=ユミル」
それぞれ名乗る。
「悪を断つ剣なり!」
「メイガスのい剣なり!」
一気に前に出た。そうしてであった。
「雲耀の太刀!」
ゼンガーが技の名を叫んだ。
「その身でしかと受け止めよ!」
「我の渾身の技」
そしてヴォータンも技を繰り出す。
「これを受けるのだ」
その技は。
「伸びよ!斬艦刀!」
「むうっ!」
「薙ぎ払え!星ごと奴を!」
「ここで斬る!」
今二人が激突した。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
「はああああああああああああっ!!」
双方の剣が激突した。その時だった。
凄まじい衝撃が辺りを覆った。光で何もかも見えなくなった。
「!?」
「少佐!」
「ヴォータン!」
双方の軍がそれを見た。
どちらが勝ったのか、誰にもわからなかった。しかしやがて光が消えそこにいたのは。
ゼンガーだった。彼はスレードスクミルと背中合わせになっていた。そしてヴォータンは。
「そうか」
「そうだ」
ゼンガーはその彼に告げた。
「言った筈だ、斬れぬものはないと」
「そうだな」
そしてヴォータンも今それを認めたのだった。
「その通りだ」
「眠れ」
また彼に告げた。
「安らかにだ」
「わかった」
ヴォータンも今は彼の言葉に頷いた。
「そうさせてもらおう」
「最後に言っておこう」
ゼンガーはまた彼に告げた。
「聞くのだ」
「何だ?」
「貴様もまた戦士だった」
こう彼に告げるのだった。
「それは言っておこう」
「俺は戦士だったのか」
「如何にも」
その通りだという。
「だからこそ我は貴様にあの技を出したのだ」
「雲耀の太刀をか」
「あの技、破れる者はない」
まさに必殺の技だというのである。
「それを出したのだ」
「わかった」
それを聞いて頷くヴォータンだった。
「それではだ」
「うむ」
「さらばだ」
彼は最後に言った。
「誇り高き戦士よ」
ヴォータンのスクールゲルミルが炎に包まれ爆発した。こうして二人の戦いも終わった。そしてその頃には戦局も決定していた。
「ヴォータンが倒れ」
レモンはその戦局を見ながら述べた。
「戦力も八割が倒された」
彼女達にとって絶望的な状況である。
「ならばだ。致し方ない」
こう決断を下して撤退した。フィンランドの戦いもこれで終わった。
ロンド=ベルはこの戦いにも勝利を収めた。これは非常に大きな意味も持っていた。
「遂にだな」
「ああ」
「あいつを倒したんだ」
皆ゼンガーを見ながら言うのだった。
「少佐は遂に」
「御自身で」
「見事な戦士だった」
ゼンガーは今もカrネイ対して言うのだった。
「その剣、確かに見た」
「そうですか」
「その剣を」
「そしてその心もだ」
それも見たというのだ。
「見せてもらった」
「では少佐」
「あの男は」
「まだ生きている」
こう言うのだった。
「俺の中でだ」
「そうですか。少佐の中で」
「生きているんですね」
「その通りだ。それではだ」
「はい」
「帰還ですね」
彼等はゼンガーが何を言いたいのか察した。
「キールへ」
「それですね」
「その通りだ。帰るぞ」
また彼等に告げるのだった。
「いいな、それではだ」
「はい、じゃあ」
「帰りましょう」
こうして彼等はキールに戻った。戦いに勝利を収めたことを感じながら。
キールに戻ると。そこはいつもと変わらなかった。
港もそこにいる連邦軍もだ。何も変わらない。
「じゃあまた」
「休むか」
「そうだな」
彼等はすぐに休息に入ることにしたのだ。
「次の戦いまでな」
「どうせすぐでしょうけれど」
「それは間違いない」
アクセルがその彼等に告げた。
「そしておそらくはだ」
「おそらくは?」
「何があるの?」
「シャドウミラーとの戦いは次で決まる」
こう言うのだった。
「次でだ」
「次でって」
「まさか」
「アーチボルトもイーグレット達も倒れた」
アクセルはいぶかしむ仲間達にその根拠を話してみせた。
「そしてだ。今」
「ヴォータン=ユミルもまた」
「それで、ですか」
「そうだ。エキドナももういない」
彼女のことは忘れていなかった。
「それならばだ。後はだ」
「レモンしかいない」
「そしてヴィンデル=マウザーと」
「決戦しかないのだ」
また言うのだった。
「向こうにしてもだ」
「そうだな」
ここまで聞いていたラミアが彼の今の話に頷いた。
「シャドウミラーも我々を放っておく筈がない」
「必ず決戦を挑む」
アクセルは確信していた。
「間違いなくな」
「それもすぐにだ」
ラミアもそう読んでいるのだった。
「向こうから来てもおかしくはない」
「向こうからって」
「このキールにも」
「用心しておくことだ」
アクセルはまた言った。
「それはな」
「まあ考えてみればな」
「それもね」
「今までしょっちゅうだったし」
皆ここで過去の戦いのことを思い出したのだった。
「こっちの基地に攻めて来るのも」
「シャドウミラーがそれをしないっていうのもな」
「考えられないしね」
「だからだ。用心しておくのだな」
アクセルはまたこう言った。
「よくな」
「ああ、わかったよ」
「よくね」
皆彼の言葉にあたらめて頷いた。
「何時何処で来てもいいように」
「警戒しておくか」
こう言ってであった。彼等は来るべきシャドウミラーとの戦いに心構えをしていた。そしてその頃シャドウミラーの二人もまた。
「ヴォータン=ユミルもか」
「はい」
二人は玄室において話をしていた。
「見事な最期でした」
「わかった」
ヴィンデルはレモンの話を聞いて頷いた。
「ならばよい」
「左様ですか」
「シャドウミラーに相応しい最期ならばだ」
いいというのであった。
「そしてだ」
「はい」
「時が来た」
今度はこう言うのだった。
「時がな」
「といいますと」
「我等の全軍で攻める」
彼は言った。
「彼等にな」
「決戦ですか」
「そうだ」
まさにそれだというのである。
「わかったな。決戦だ」
「わかりました」
「全軍で彼等の今の本拠地を攻める」
まさにアクセルの言った通りであった。
「わかったな」
「了解です。それではすぐに」
「全てはそれからだ」
ヴィンデルは呟く様にして言った。
「これからのことはだ」
「はい、それでは」
「ロンド=ベルの技術も手に入れれば」
そのことも考えているのだった。
「あらゆる世界が私の手には入るのだ」
「では」
シャドウミラーとロンド=ベルの最後の戦いがはじまろうとしていた。また一つ戦いが終わろうとしていた。そしてそれと共にまた何かがはじまろうとしていた。
第百六十六話完
2009・11・17
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