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戦国異伝

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第百十三話 評定その六

「それでよいか」
「いいですな。あの国の酒は美味うございますから」
「ではな」
 彼等は笑ってその場を後にした。こうして評定は家臣達にとって非常に満足のいく結果になっていた。そしてそれは信長も同じだった。
 彼は帰蝶に対して茶を飲みながらこんなことを言っていた。
「これでよしじゃ」
「満足されていますね」
「かなりのう。ただじゃ」
「ただとは」
「うむ、飛騨者達への評定じゃがな」
 信長に仕える飛騨出身の忍達のことである。
「あの者達については万石どころかじゃ」
「千石もですね」
「百石止まりじゃ」 
 それだけだったというのだ。
「あの者達もそれで満足しておるがのう」
「百石ですか」
「その功は表に出ぬ。慶次や才蔵には万石を出せるがな」
 この二人は何とかそれができた。だが飛騨者達はどうかというのだ。
「忍の者達は難しい」
「だから百石ですか」
「千石はまず出せぬ」
 千石といっても相当な格だ。織田家においても旗本であり陣羽織を羽織ることも出来る。
 だがあの者達はどうかというのだ。
「同じ忍でも久助には出せる」
「滝川殿は十五万石でしたね」
「あ奴は戦でも政でも働いてくれておる」
 表の功がかなり大きなものだというのだ。
「だから将として扱えるがじゃ」
「忍のままですと」
「そうはいかぬ。だから百石じゃ」
「ですがあの方々もその功は」
「観音寺の城もこともある」
 この城の戦はまさに彼等の忍の技があってことだった。
「だから凄いことは凄いのじゃ」
「そうですね」
「しかしそれは表に出せる功ではない」
「ですがそれでも」
「わかっておる。石高はそれだけじゃ」
 百石、それでだというのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「石高以外のものですね」
「茶器や宝を渡した」
「そしてそれを褒美にされましたか」
「やるものは色々じゃ」
 領地だけではないのだ。実際にこの度の評定において信長は家臣達に多くの銭や宝、感謝の意を書いた文も渡している。官位もありとかく色々出しているのだ。
 そして忍達もまた、というのだ。
「宝をふんだんに渡したぞ」
「それはいいことです」
「あの者達もまたわしの家臣じゃ」
 このことは間違いなかった。信長はあくまで優れた者を求めそうした者は誰であろうが重く用いる考えなのだ。
 それで彼等もだというのだ。
「だからこそじゃ」
「多くの宝を渡されたのですね」
「そうした。それであの者達のことじゃが」
 ここで話が変わった。
「どの者も身寄りがなく飛騨の奥に集められて育てられた」
「忍として」
「うむ。そしてあの者達を育てたのは」
「誰でしょうか」
「果心居士というらしい」
「果心居士ですか」
「近頃たまに聞く名じゃが」
 信長の耳はかなり広く遠くまで聞こえる、だからこの名ももう聞いて知っているのである。
「何でも仙人という」
「仙人ですか」
「ある者は忍の者という」
 互いに矛盾する噂だった。
「妖術使いだの陰陽道を使うだのな」
「一体何者でしょうか」
「わしもよくわからぬし飛騨者達に聞いてもじゃ」
「やはりですか」
「わからぬと答える」
 当の彼等もまたそうだというのだ。 
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